その273 雪と温泉・大人も子どもも神様も
■その273 雪と温泉・大人も子どもも神様も■
皆でお昼を食べたあとの『雪合戦』は、腹ごなしにはなりませんでした。
だって、全然、軽い運動なんかじゃないんですもん。
修二さんチームには、冬龍君、三島先生。
小暮先生チームには、夏虎君、佐伯君。
梅吉さんチームには、和桜ちゃん、工藤さん、近藤先輩。
祠の主様チームには、岩江さん、高橋さん。
一応、チーム分けはしたのですけれど、ハッキリ言って意味がない程の混戦模様でした。
散歩コースに入る手前のスペースでやっていたので、ギャラリーも沢山でしたし、中には乱入してくる人も居ましたけれど、あまりの激しさにすぐに逃げ戻ってしまいました。
筋肉痛で動けないメンバーと、祠に行ったメンバーは、そんなギャラリーの最前線で観戦していました。
秋君は夏虎君に誘われましたが、元気よく
「わん!」
とお返事をして、尻尾をフリフリ桃花ちゃんに抱っこされました。
賢明な判断ですね。
加賀谷さんと澤切さんは、それぞれカメラで撮影しています。
もちろん、主はクロッキー帳にザカザカ色鉛筆を走らせていました。
早々にリタイアしたのは、和桜ちゃんと三島先生です。
まぁ、あのメンバーの中でよく頑張ったと、観戦メンバーは拍手喝采です。
和桜ちゃんを庇っていた冬龍君も、和桜ちゃんがリタイアしたら戦線離脱しました。
夏虎君は疲れが見え始めた所を集中攻撃に合い、雪だるまのようにされてリタイア。
そんな夏虎君を庇っていた近藤先輩と工藤さんも、雪まみれになってリタイア。
祠の主様は大変満足して、小暮先生と梅吉さんは怪我をしたくないからと、戦線離脱しました。
修二さん、佐伯君、岩江さん、高橋さんの4人の戦いは、『死合』と呼んでも過言ではありませんでした。
雪玉を投げ合うだけの遊びのはずが、まるで命を取り合う本気の戦いの様です。
「俺達、あんな人達に勝つつもりでいたのかよ・・・」
「無理、絶対無理」
「佐伯、さらに強くなってるなぁ~」
そんな4人を見て、佐伯君の古いお友達は、ガタガタと震えていました。
そして、そんな4人を止めたのは、笠原先生が放ったバズーカーの一撃でした。
バズーカーと言っても、打つと空中で投網が開く仕掛けで、四隅に2キロ重りが付いているので、開いた瞬間バサッ!と落ちます。
これも加賀谷さんの車の中に乗っていた物でした。
海中の魚の様に投網に引っかかった4人は、三鷹さんに引っ張られてズルズルと回収されました。
これにて、『雪合戦』終了です。
■
雪合戦メンバーが温泉で一息ついている間に、他のメンバーは館内の売店でオヤツを選んで、『山茶花の間』に全員集合しました。
会議があるわけでもないんですけどね。
売店で選んだ数々のオヤツと、美和さん達が煎れてくれたお茶を飲んで、皆はホッコリしました。
そんなひと時の後は・・・
受験組は佐伯君の古いお友達も一緒になって、お部屋の真ん中でお勉強です。
もちろん、先生組と田中さんが教えてくれます。
「オイオイ、佐伯が勉強できてるよ」
佐伯君の古いお友達は、みんなビックリです。
当の佐伯君は、いつもより少し難しめの英語の文法に手間取っていました。
お父さん組と岩江さんは、小学生組と一緒にお昼寝です。
お部屋の一番奥で、グッスリです。
出入り口の手前のテーブルでは、祠の主様がお母さん組と、松橋さんと高橋さんと坂本さんと、スキンケアを楽しんでいました。
そこに、早々に本日分のお勉強を終えて、荷物を持った大森さんが来ました。
「主様、髪の前に爪やってあげる」
「爪?」
大森さん、ニコッと笑って荷物の中身を広げました。
「やだ、綺麗~!!」
色とりどりのマニキュアやジェルネイルの瓶や、シール、リボン、お花、ストーン・・・色々な飾りが出て来ました。
「私の一番の得意技でーす」
大森さんは祠の主様の手を取って、爪のお手入れから始めました。
そんなキュウキュウのお部屋の中で、僕の主はクロッキーに勤しんでいました。
お部屋全体を見渡せるように、出入り口の隅で足をキャンパスを置くイーゼルの様に三角に立てて座って、そこにクロッキー帳を立てかけて・・・瞬きもしません。
僕、たまに心配になるんですよね、主はちゃんと呼吸してるのかな?って。
描いて描いて描いて・・・
どのくらいのページを描いたんでしょう?
不意に、主の手がピタッと止まりました。
「もっと・・・奥・・・」
ジッと、大森さんにネイルをやってもらっている、祠の主様を見つめています。
描こうと見つめているうちに、祠の主様の周りがノイズの様にブレることがあることに気が付きました。
「何か・・・」
そのノイズの奥を、主は覗こうと凝視していて・・・
カロンカロン!
聞きなれた音が、足元でしました。
その音に、主の瞼は痙攣をするように瞬きをして、左右の肺は一気に酸素を取り込みました。
全身に、汗が流れます。
音は、カエルの形をした土の鈴でした。
それは、祠から帰って来て一番に、鞄にしまったはずです。
「あ、帰って来たわね。
気を付けて」
そんな主に、坂本さんが気が付きました。
主の足元の鈴を拾って・・・主の隣を少し凝視してニコッと微笑んでから、主の手元に鈴を置きました。
「これ以上、中を見ない方がいいわ。
本質を見抜くのも大切だけど、時には上っ面で満足する方が安全な時もあるわよ」
坂本さんは主にコソっと耳打ちしてから、皆の所に行こうと、主の手を引きました。




