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その268 雪と温泉・楽しい朝ごはん

■その268 雪と温泉・楽しい朝ごはん■


 山の天気は変わりやすい


て、よく言うんですって。

でも、今朝の雪は、皆の目覚まし変わりになるぐらい酷く降っていて、ナオちゃんやミワさん達は不安みたいです。

 双子のトウリュウ君、カコ君は不安より


「凄~い」

「映画みたい」


て興味深々で、窓にペッタリしていました。


 あ、おはようございます。

ワンコのアキ君です。


 今朝は、お日様が出る前にサエキ君のお友達が竹刀を持って突撃してきたんですけど、シュウジさんがドカドカ蹴って追い出して、二度寝です。

シュウジさん、ミワサンを抱っこして、ボクのご主人様と一緒ですね。

ご主人様は、大きなウサギの縫いぐるみですけど。

そんなシュウジさんを引きずるようにして、腹ペコの双子君はお隣のお部屋、そのお隣と、朝ごはんのお誘いをして、皆で大宴会場に向かいます。

 朝ごはん、たっくさん食べなきゃです。

じゃないと、確り遊べませんからね。


でも・・・


「いだだだだ・・・」

「つら・・・」

「つ・・・つ、辛いです」

「・・・さすがに、運動不足だったか」


 オオモリさんも、タナカさんも、マツハシさんも、コンドウ先輩も、体が痛い痛い辛い辛い、て悲鳴をあげながら廊下を歩いてます。

映画のゾンビみたい。


「待って~待って~、置いてかないで~。

和君、抱っこで運んで~」

「愛しのダーリンに運んでもらえよ」

「桃華ちゃんを探しに行ったきり、戻ってきてないの~」


 ミシマ先生が、一番辛そうです。

コグレ先生、お口では嫌そうなこと言ってるのに、手を貸してあげるんですね。


「美世さん達は、大丈夫なんスか?

筋肉痛。

秋君、あんまりそいつらの足元でふらふらしてると、シッポ、踏まれちまうぞ」


 それは嫌です。

イワエさんのお隣が、一番安全ですか?


 痛い痛い言いながら、ゾンビみたいに歩く皆を、イワエさんが笑ってます。

イワエさんは、筋肉痛じゃないんですね、さすがです。


「年相応の滑りをしていたから」


 ミワさん、妖怪子なきジジイみたいに、背中なにべったりシュウジさんが貼り付いて、ちょっと歩きずらそうですね。


「若いっていいわよね~、弾けられて。

大人になると、後先考えちゃうからつまらないわよね」


 ミヨさんは、ユウイチさんとお手々を繋いで歩いてます。

仲良しさんですね。


「でも、そこそこ筋肉痛よ」

「そうね、そこそこには。

次の日に出るだけ、まだまだ若いわね」


 ミヨさんとミワさんは、お顔を見合わせて笑います。

年取ると、筋肉痛は次の日に出ないんですか?


「お母さん、梅兄ちゃん達が宿の人達と、何かお話ししてる」

「ちょっと、深刻そうだよ」


 先を行ってたトウリュウ君とカコ君が、走って戻ってきました。

2人とも、サッカーしてるから筋肉痛にはならないんですか?


「佐伯君の前のお友達と、知らないオジサンも2人、一緒だった」


 ナオちゃんが、遅れて来ました。

さてはナオちゃんも、筋肉痛ですね?


 大人は顔を見合わせて、バタバタ・・・走れないみたいで、早歩きで向かいました。



 ようやく、朝ごはんです。

あ、ご主人様の大好きな玉子焼きがありますよ。


 昨日の夜は綺麗に並んで食べたんですけど、今朝はウメヨシさんからお話しがあるからって、梅吉さんの周りに適当に集まりました。

サエキ君のお友達も、一緒なんですね。

もちろんボクは、オウメちゃんとご主人様の間ですよ。


「皆、食べながら聞いてな~。

耳はこっちね」


 頂きます。


 皆でお手々を合わせて、朝ごはんが始まりました。

ウメヨシさんがお話しを始めました。


「はい、一番気になっているのが、俺の隣のこの2人だと思いま~す」


 はい、気になってましたよ。

だって、臭いんですもん。


「あ、私ね・・・」

「黙って」


 ずんぐりむっくりしてて、頭に黄色いタオルを巻いた人が口を開いた瞬間、ウメヨシさんがその頭をパッカーンって、スリッパで叩きました。

そこそこ、痛いみたいですね。

頭、押さえて黙っちゃいましたね。


「はい、この人、チーフ助監督の加賀谷さん。

この吹雪をおこした張本人」

「え?!」


 ピタ、と皆のご飯を食べる手が止りました。

イワエさん、お口開けっ放しです。


「で、その隣が監督の澤切さん。

今度、この裏で映画の撮影をするんで、下見に来たんだけど、この宿の手前で雪で視界も悪いしスリップもして、宿の大切な大切な祠を壊しました。

で、その後に吹雪が酷くなりました」


 ウメヨシさん、ご飯を食べながら淡々とお話ししています。

ビックリしてるのは、タナカさんとコグレ先生だけです。


「壊しちゃったって・・・どうするんですか?!」

「直せばいいんじゃないの?」


 情けない顔をして聞くコグレ先生に、ミシマ先生はウメヨシの横でご機嫌に食べてます。


「直すって・・・ここの祠は、代々の当主が大切に扱っていたものなんだよ。

とりあえず、母さんに報告しないと・・・」


 深いため息をつきながら、コグレ先生はスマホを出してお電話し始めました。


「まぁ、三島先生の言う通り、直すしかないんだけどね。

旅館の女将さんには話をしてあるから、そっちからも東条の方に話が行くはずだよ。

その前に、このお怒りを治めてもらわないと、たぶん、帰れない。

なので、この2人を祠まで引っ張って行って、ごめんなさいさせます」


 ウメヨシさん、モリモリ食べますね。

食べながらのお喋り、上手です。


「この雪の中?」

「どうやって?!」

「自殺行為じゃない?」


 皆、カガヤさんとサワキリさんを見ながら、聞きます。

オウメちゃんとご主人様は、そんな中でものんびりお食事です。


「桜雨の出汁巻き玉子が食べたい」


 玉子焼き、ご主人様のお口に合わなかったみたいですね。

ご主人様、シュンとしちゃいました。


「お家に帰ったら、作るね。

あ、三鷹さん、ちょっと待っててね」


 苦笑いしたオウメちゃん、何かに気が付いたみたいで、出入り口の方に向かいました。

ボク、お供しますよ。


「おはよう。

朝ごはん、食べた?」


 オウメちゃんは、襖の影に居た女の子に声をかけました。

あ、昨日、お風呂に入る前に一緒に遊んだ女の子です。

今日も、青い毛糸のワンピースが可愛いですよ。


「わんわん」


 ボクからも、ご挨拶です。


「お姉さん、あのね。

怒ってるんじゃないのよ」

「え?」


 女の子は、オウメちゃんの浴衣の袖を引っ張って、皆の方を指さします。


「あの、頭に黄色いタオルを巻いた人。

あの人が、(ぬし)様の宝物を持って来ちゃったの。

それで、主様が悲しんでいるの」

「宝物ってなぁに?」

「か・・・」

「桜雨、どうしたの?」


 オウメちゃんの質問に、女の子が答えようとした時でした。

皆から放れたオウメちゃんに気が付いて、モモカちゃんがこっちに来たんですけど、女の子がフワッて消えちゃいました。

・・・消えちゃいました。


「あら、秋君、お目々がいつになくまん丸」


 だって、女の子が消えちゃったんですよ?!

ビックリしますよね、オウメちゃん!


「桃ちゃん、大変」

「そうね、大変よね」


 オウメちゃんはモモカちゃんの手を握りしめて、ウメヨシさんに声をかけました。

そうなんです、大変なんです!

ウメヨシさん、女の子が消えちゃいました!!


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