その257 雪と温泉・滑って滑って!
■その257雪と温泉・滑って滑って!■
そう言えば、あの女の子はお母さんを見つけられたのかな?
と、主が休憩所で出会った女の子を思い出したのは、ボーゲンになれ始めたけれど、太もものプルプルが限界を見せ始めた頃でした。
そうは言っても、滑るのを再開してから、実際の時間はそんなに長くは経っていないんですけれど。
「桜雨お姉ちゃ~ん」
「タカ兄ちゃ~ん」
麓まで転ばないで滑りきって、止まることも上手に出来て、ストックを握りしめて凄く喜んでいた時でした。
主が名前を呼ばれて頭を上げると、上手に滑ってくる、小さな3人が見えました。
双子君と和桜ちゃんですね。
「3人とも、とっても上手ね」
自分の前に、ピタッ!と止まった3人に、主はビックリです。
「ウメ兄ちゃん達、メチャクチャ上手いよ!」
夏虎君が、自分の事のように得意気に言って、上を指差しました。
釣られるように顔を向けると、TVのCMを思わせる景色が見えました。
勢いよく降りてくるものの、回りのスキーヤ-達の間を雪を切って華麗にタ-ンでよけながら・・・無事に主達の前に到着した3人。
梅吉さんと小暮先生と、スキーは初めての三島先生でした。
「三島先生、初めてって言っていたのに、とっても上手ですね」
驚く主に、三島先生は梅吉さんの腕に抱きついて答えます。
「だって、モタモタして置いていかれちゃったら、東条先生ナンパされちゃうもの!」
・・・恋が成せる技ですね。
「でも、俺たちより、転んでた」
「あら、転んで覚えるものよ。
実際、ここまで滑れるようになったでしょ~」
夏虎君に言われて、三島先生はちょっと得意気に言いました。
「三島先生、すごーい」
心の底から感心して、瞬きをした瞬間でした。
1秒も満たないその瞬きのあと、主は1人でした。
「えっ・・・」
青空が広がっていたはずのゲレンデは、強烈な吹雪きです。
前後左右、真っ白な雪が吹きすさんで方向感覚どころか平衡感覚も狂って、聴覚も荒ぶる雪の音しか聞こえず、主はただただその場に立ちすくんでいるだけです。
「なんで・・・」
握りしめたストックの感触がとてもリアルで、幻じゃないと、主は思いました。
けれど、今まで一緒だった三鷹さんも、双子君達も・・・皆、誰一人、見当たりません。
「み、三鷹さん・・・」
顔にあたる雪が、体温を奪っていきます。
皆の名前を呼ぼうと口を開けると、雪が吹き込んできます。
主は怖くなって、寒くて、顔を伏せて体を小さく丸めるようにしゃがみ込みました。
「桜雨、どうした?
お腹、痛いか?」
すると、吹雪の音が三鷹さんの声に変わりました。
「・・・え?」
「冷えたか?」
主が思わず顔を上ると、心配そうにのぞき込む三鷹さんが居ました。
大きな手で、背中をさすってくれています。
三鷹さんの後ろには、青空や、双子君達や梅吉さん、皆の姿も見えました。
「大丈夫、疲れちゃっただけ。
朝、早かったから」
ホッとして、立ち上がろうとした主を、三鷹さんが支えてくれました。
「そうだな・・・時間も時間だし、そろそろ宿に帰ろうか?
温泉に浸かって、ストレッチしないと、明日は筋肉痛で動けなくなるぞ」
「「「はーい」」」
小学生組の元気なお返事に、主はますますホッとします。
元気な3人をニコニコ見ながらスキー板を外していると、視界の隅っこに、違和感を覚えました。
何だろうと、辺りを注意深く見ていくと・・・誰かが作った大きな雪だるまの側に、ショートカットの、ノルディック柄の青いニットワンピースを着たあの女の子が立っています。
「三鷹さん、あの子・・・」
「どうした?」
歩き出そうとした三鷹さんのウエアを、主がツンツンと引っ張って呼び止めます。
三鷹さんが主の指さす方を見ると・・・
「ああ、大きな雪だるまだな。
・・・梅吉達となら、あの倍の大きさはできるかもしれない。
明日、皆で作ってみるか?」
「龍虎(・双子)と和桜ちゃんが喜びそう。
あ、そうじゃなくて、その隣に、青いニットワンピ着た女の子が・・・
居たんだけれど」
それは、瞬きした瞬間でした。
また、その女の子は居なくなってしまって・・・でも、雪だるまの後ろに回ったのかもしれないですよ。
だって、それぐらい大きい雪だるまなんですから。
「もしかしたら、桜雨と話したいんじゃないのか?
こっちが大人数だから、来づらいのかもしれないな。
それなら、さっきは悪い事をしたか」
「あ、そうか」
なるほど。
さすがは先生。
「恥ずかしがり屋さんなのかも。
今度見つけたら、私からお話ししてみるね」
「・・・俺の、目の届く範囲でな」
三鷹さんに肩をポンポンとされて、主はニッコリ微笑んで歩き始めました。
さっきの吹雪?は、きっと疲れて目の前が真っ白になっちゃったんだ。
スキー楽しくて、滑り過ぎちゃったかな?
梅吉兄さんが言うように、温泉に入ってストレッチしなくっちゃ。
でも、その前に、スケッチしたいな~
なんて思いながら、主はニコニコ楽しそうに三鷹さんと並んで、宿へと向かいました。




