その253 サンタは恋人未満2
■その253 サンタは恋人未満2■
今日はクリスマス。
だから、絶対、この人混みの5割はクリスマスのせいだと思う。
慣れない場所も手伝って歩きづらいし、油断すると三島先生とはぐれそうになる。
そんな俺を心配してか、三島先生がたまに、チラチラと俺を見る。
大丈夫、その真っ赤なコートが目印になっているから、なんとか迷子にはなってないですよ。
・・・これが、桃華や桜雨なら、迷わず手を繋いで歩くんだけどね。
そんなことを思いながら、10分ほど歩くと目的地についたらしい。
周りの雑居ビルより、ひときわ大きな雑貨ビル。
ここも、出入り口周辺からクリスマス一色だ。
後ろから来る人たちに押されるようにビルに入って、人の波に流されるようエレベーターに乗ると、同じように流された三島先生が隣にいた。
はぐれないように、三島先生がくっついてくれたのかな?
「凄い人ですね。
クリスマスだからですかね?
予想以上に混んでて、ビックリ。
ブーツ、踵の低いのにして正解だわ。
ハイヒールだったら、誰かの足踏んで、怪我させちゃうかもですもんね。
まぁ、この服に、ハイヒール合わないですけど」
あ、一応、考えてはいたんだ。
「東条さんや白川さんへのプレゼント、もう渡したんですか?」
「今年は、笠原や三鷹や、おじさん達と合同にしたんだ」
「そんな、高い物?」
3階を過ぎると、視界が開けた。
ビルの三方向の壁がガラスになって、町の様子がだんだんと見え始めた。
夜だったら、綺麗な夜景なんだろうな。
「桃華と、桜雨と、両家の母たちに。
今年のクリスマスプレゼントは、プロがしてくれる大掃除です。
大奮発して、キッチン、リビング、お風呂、トイレ」
「先生のお宅、全部2件分あるから、凄いですね」
「今年は、三鷹の姉さんの子どもを預かったり、桜雨は事故にあうし、桃華は受験生だし、年末は皆忙しいから、大掃除する手間が省ければ、少しは楽してもらえるかな?って、男衆で相談したんだよ」
ポーンと音がして、エレベーターのドアが開いた。
乗っていた人たちは、押し出されるような勢いで、エレベーターを降りていく。
「思いやりのプレゼント、素敵だな~」
そう言いながら、流れに乗ってエレベーターを降りた三島先生の表情は、とても優しかった。
「ここ、今日までのクリスマス特設会場なんです」
そうみたいね。
壁代わりのはめ殺しの窓は360度。
半球状のガラスの天井も、これでもか!って程のクリスマスの装飾が施されていて、床が真っ白なジュータンなのは、雪のイメージなんだろうな。
各店舗のブースを隔てるモノは特にないらしく、客はのびのびと買い物をしている。
「先生、これ、可愛くないですか?」
さっそく、一番手前のブースに、三島先生が飛びついた。
そこには、レースのクロスを引いたテーブルの上に、大小のガラス製のオーナメントが所狭しと飾られていた。
「これ、スワロフスキークリスタルですよ。
キラキラしてて、綺麗~」
『先生』と呼ばれていても、俺より三島先生の方が桃華達と年が近いんだよな。
やっぱり、女の子は、こういう物が好きだね。
桃華と桜雨も、いつもこんな感じに買い物してるし。
スーパーだったり、家族の物を選んでいるのがほとんどだけれど。
それを考えると、うちの妹達は、本当に家庭的だなぁ・・・。
雑貨を見ながらウキウキしている三島先生の横顔を見ながら、桃華と桜雨の事を思った。
三島先生と桃華と桜雨と・・・三人で、買い物してても違和感ないかもな。
「先生?
東条先生、これなんかどうですか?」
三島先生にポンポンと手を叩かれるまで、桃華と桜雨が、ここで品物を選んでいる幻想を見ていた。
さすがに申し訳ないと思いつつ、三島先生の方を向いたら、手にしていたのは細かい雪の結晶が散りばめられたバレッタだった。
いつの間にか、髪飾りのブースに移動してた。
目の前のテーブルには色とりどり、形も様々な髪飾りが置いてある。
・・・使い方、ほとんど分からないな。
「少し、子ども過ぎないかな?
このデザインなら、もう2年もしたら和桜ちゃんが似合いそう」
「じゃぁ・・・これは?」
今度は、真っ白なフワフワの輪っか・・・
ああ、ファーのシュシュだ。
「これ、似合うと思うんです!
赤や緑の2本使いでクリスマス感出すのもありだと思うんですけど、東条さんも白川さんも『雪』のイメージの白の方が似合うかな?」
三島先生、最初は自分が買いたいものを選んでいたはずなのに。
「先生、自分のは?
買いたい物、見つかりました?」
「なんだか、見ているだけで・・・と言いますか、東条先生が一緒に来てくれただけで満足しちゃって」
えへへへ・・・って笑いながら、三島先生はピンクのファーのシュシュも手に取った。
「東条さんと白川さんから、大切なお兄さんをお借りしちゃったから、お土産と思ったんです。
どうです、これ?」
ビックリした。
デート中に、好意的に桃華と桜雨の事を考えてくれた人は、初めてだった。
今までの歴代彼女は、デート中に勝手に桃華と桜雨に嫉妬して、汚い言葉で罵っていた。
そんな言葉が口から出た瞬間、俺はスパッと別れた。
俺がシスコンと分かっていて、妹達が一番大事だと伝えて、それでもいいと押しかけで彼女になったくせに、皆、最後は桃華や桜雨を罵った。
本当は、殴りたかったけれど、相手は女性。
・・・いやいや、性別は関係なく、暴力はいけない。
だから、三島先生には、ビックリした。
「2人とも、普段はお気に入りの簪つけているから、いつもは付けないと思うけれど・・・
すみません、白を2つと、ピンクを2つ。
1つずつ、袋に入れて貰えますか?」
「たま~にでも、付けてくれたら嬉しいです。
白とピンクで付けるのも、可愛いですね。
あ、先生、今度こそお金・・・もう」
テーブルの向こう側に居る店員さんにお願いすると、三島先生が慌ててお財布を出そうとした。
その手を止めて、俺が財布を用意している間に、シュシュは素早く袋に入れられていた。
「珈琲、奢ってください」
支払いをしながら言う俺に・・・
「でも、東条先生・・・お約束の時間」
三島先生が残念そうに腕時計を見せて来た。
『今日は16時まで』
それが、今日デートするさいの条件だった。
三島先生は、その条件を確り守ってくれるようだ。
とっても残念そうな顔をしながら。




