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その252 サンタは恋人未満1

■その252 サンタは恋人未満1■


 まぁ、小暮先生の気持ちも分からなくはない。

恋愛感情は一番面倒な感情で、一言で片づけることが出来ない。


『幼馴染で、妹のような存在』


 と言ったところで、見た目が可愛くて、胸が大きくて、スタイルもいい女性が泣きついてくるんだ・・・話を聞いてはいても、『彼女』としてはいい気持ちではないな。


『男女の間に、友情は存在しない』


とも言うし。

 まぁ、あの二人の間柄は『友人』ではないし、かと言って『妹』でもない。

小暮先生の歴代彼女達にとって、三島先生は『彼氏の友達』とは見れなかっただろうな。



 皆さんこんにちは、梅吉です。

ナント、今日は数年ぶりのデートです。

お相手は・・・


「東条先生、早いですね」


 三島先生との待ち合わせは11時50分に、N駅の改札前にある時計台下。

今は11時40分・・・


「三島先生の方が、早いじゃないですか。

お待たせしました」


 いつも以上の賑わいだろうから、待ち合わせをしてもすぐには会えないだろうと思っていたのだけれど、三島先生は真っ赤なコートを着ていたので、すぐに見つかった。

 仕事の時よりも少しだけ華やかなメイクに、ハーフアップにしている髪の巻きもいつもよりしっかりしている。

サーモンピンクのニットに、ハイウエストの白いロングスカートと、同色の白いブーツ。

思っていたより・・・


「これなら、大丈夫ですよね?」


 心を読まれた。

顔に出ていたかな?


「東条先生は、露出の高い恰好は好きじゃないみたいですから。

この格好だったら、一緒に歩いてもいいですよね?」


 俺の好みに合わせてきたわけか。

そう言えば、最近の三島先生はおとなし目の格好が多い・・・かな?


 ニコニコしながら、三島先生はそっと俺の隣に立った。


「三島先生は、3歩後ろを歩くタイプじゃないでしょう?」

「デートで、それは嫌ですね。

タイプとしては、手を繋いで欲しいタイプです」


 俺に向かってニコニコしたまま、ヒラヒラ手を振って見せるけれど・・・


「じゃあ、お昼食べましょうか」


 俺はそのまま歩き出した。


「はーい。

予約したお店、こっちです」


 三島先生は、行き場を失った手で行き先を示して、俺に並んで歩き出した。


 分かっているさ。

手を繋いで欲しいっていうサインだって。

でも、気持ちに答えられないなら、あやふやな態度はとらない。


・・・このデートも、あやふやな態度だな。



 三島先生の予約していた店は、近くのホテルのレストランだった。

40階とかの高い所じゃなく、ロビーラウンジ。

ライトアップされた大きなツリーを見ながら、優雅な音楽を聴きながら食べたランチは、アルコール類も無く、予想外にリーズナブルで美味しかった。

 三島先生との会話も、7割が仕事の内容。

まぁ、話していたのは、ほとんど三島先生だったけど。


「・・・それで私、先生になったばかりの時は、生徒と楽しくお勉強したいな、って思っていたんですよね。

怒るのとか慣れてないし・・・

怒って生徒に嫌われるのは嫌だし、そもそも、私が起こっても効果ないし。

皆のお姉さん的な先生になりたいなぁ~って、思っていたんですよね。

でも・・・

笠原先生、言い方はキツイから、たまに泣いちゃたんですけど、今でも泣いちゃう時があるんですけど、間違ってないじゃないですか」


 デザートのケーキを食べる表情と、口調があっていない。

苺がタップリ入ったケーキが美味しいのは、その表情でよくわかる。

けれど、仕事の事を語る口調は苦々しい。


「最初は、怒られたり嫌味言われるのが嫌で逃げていたんですけど、そのままの自分じゃぁ、私がダメになるだけじゃないんだって、気が付いたんです。

まぁ、それも笠原先生にネチネチ言われたからなんですけれど。

何回も、ネチネチ言われたからなんですけれどね。

あと、東条先生達が、佐伯君を引き取ったのを見て、実感しました。

・・・先生って生徒の将来に大なり小なり影響を及ぼすんだなって。

ニコニコ笑って生徒に『ダメだぞー』って言ってる私が一番ダメだし、こんな私に教えられてる生徒が可哀そうだなって。

だから、笠原先生にネチネチ言われた事、少しずつやってみたんです」


 なるほどね。

だから先生方の、特に古株からの評価が上がったのか。

三島先生なりに頑張ったわけだ。


 そんなこんなで、この2年で教師としての成長が見て取れて、感心したりもした。

まぁ、劇的変化とまではいかないけれど。

 しかし、笠原からそんなにネチネチ言われてたのか?

それは少し、同情する。


 そんな頑張っていた三島先生に、お疲れ様の意味でランチ代は俺が出した。

レストランでは揉めることはなかったのに、ホテルを出たらスッとお札が出て来た。


「私が誘ったんですから」

「俺、先輩ですよ?」

「でもぉ・・・」

「レストランの雰囲気も良かったし、食事も美味しかったし、場所の割には高くないし。

探すの、大変だったんじゃないですか?

そのお礼です」


 お札を出したまま、不服そうな三島先生の手を押し返しながら言うと、それでも少しためらってから、ようやくしまってくれた。

で、深々とお辞儀をされた。


「ご馳走様です」


・・・悪い子じゃないんだよね、本当に。


「先生、時間がもったいないので、行きましょう!」


 気持ちの切り替えも、早い。

ニコニコ笑って、こっちこっちと人込みの中を歩き始めた。




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