表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/434

その242 小さな恋心

■その242 小さな恋心■


 商店街に流れる曲がクリスマスソングになった11月末、白川家側のリビングにあるローテーブルが、炬燵(こたつ)になりました。

長方形の炬燵(こたつ)を2台、繋げてあります。

籠に入ったミカンと、お盆に伏せられた6個の湯呑と、急須、茶筒、ポットと、いつでもホッコリ出来る準備は出来ています。


 学校やお仕事でバタバタしている平日とは打って変わって、日曜日の今日はお昼前から炬燵は賑わいを見せています。

賑わいと言っても、囲む人たちは無言に近くて、外から微かに聞こえているクリスマスソングや、壁時計の音、シャーペンがノートを走る音・・・そんな、いつもなら話し声や生活音に消されてしまうものが、今は良く聞こえていました。


 壁側の炬燵では、桃華ちゃん・佐伯君・近藤先輩・大森さんの受験生組が田中さんを先生に勉強に・・・

 ドア側の炬燵ではクラブサッカーがお休みの双子君達と主が、大森さんを先生に編み物に勤しんでいます。


 そんな中、スーパーのお買い物から帰って来た梅吉さん達先生組が、出来るだけ音を立てない様に、そー・・・っと入ってきて来ました。

大きな男の人3人が、なるべく音を立てない様に、静かに静かに買って来た物を仕舞っています。

お買い物に付いて行った秋君も、空気を読んでそーっと入って来ると、双子君の間で丸くなりました。


10分もすると、


「限界!!」


佐伯君の雄叫びで、その静けさは終わりました。


「そうね、ちょうどいい時間ね」


 田中さんは目の前に置いた腕時計で時間をチェックしながら、広げた参考書等をまとめます。


「頭、パンク・・・」


 大森さんは、オデコをノートの上に落とします。


「田中さん、ここなんだが・・・」


 近藤先輩は、分からなかった問題を田中さんに聞き始めました。


「さ、お昼にしましょう」


 桃華ちゃんは手早く勉強道具をお片付けして、主と一緒にキッチンに立ちました。


「お昼はカレーよ」


 桃華ちゃんが、冷蔵庫から大きなお鍋を出しながら言います。

お鍋の中身は、昨日の夜に作っておいたカレーです。

一晩おいたカレー、美味しいんですよね。


 桃華ちゃんがコンロでカレーを温めて、その横で主がカボチャとヨーグルトのサラダを作ります。

笠原先生はバナナラッシーを作って、三鷹さんはラッキョや福神漬け、ジンジャーピクルスを盛り付けます。


 皆でテーブル周りをお片付けして、皆で炬燵に運んで・・・


「いただきます!」


 皆でお手々を合わせて、お昼ご飯の始まりです。


「でも、なんで編みぐるみ作りたいの?

クリスマスパーティでプレゼント交換するなら、男の子が持っても良い物にすれば?」

「僕は、付き合い」


 大森さんの質問に、双子のお兄ちゃんの(とう)(りゅう)君は、サラダを頬張りながら答えます。


「プレゼント交換じゃないよ」


 カレーを頬張りながら答えた双子の弟の()()君が、少しだけ恥ずかしそうなのは気のせいでしょうか?


「じゃぁ、女の子にあげるんだ」

「・・・うん、貰ってくれるか分からないんだけどさ」

「どんな子?どんな子?」

「えっとね・・・」


 大森さんの追及に、夏虎君はお口をモグモグしたまま止まってしまいました。

それまで、お勉強の話題で盛り上がっていた田中さん達も、会話をピタッと止めて夏虎君に注目しています。


「受け取ってもらえたら、教える」


 夏虎君、今度は確りと恥ずかしい顔をして、カレーを頬張りました。


「照れちゃって、か~わいい」

「で、でも、夏虎君はお父さんに似て、て、手先が器用だね。

じょ、上手に、編めてる」


 茶化す大森さんに続いて、松橋さんが夏虎君を褒めてくれました。


「白川姉弟は、カエル好きなんだな」


 近藤先輩が、チラッと炬燵の端に置かれた編み物の(かご)を見ました。

篭の中には、緑や黄色のスズランテープで編まれたカエルが幾つも入っています。

どれもこれも、手のひらサイズで、とっても上手に編まれています。


「学校に、帰って来れるように。

お家に、帰って来れるように。

だから、カエルをプレゼントするんだってさ」

「病気で、入院してるんだ。

今回は、大きい手術もするから、いつもより長いんだって」


 冬龍君が答えると、夏虎君がサラッと言います。

気にしてない風でも、心配してるんですよね。


「そっか、じゃぁ、頑張って作らなきゃだね」


 桃華ちゃんの言葉に、夏虎君は得意気に笑って、カレーのお代わりを主にお願いしました。

そんな会話を聞きながら、佐伯君は何やら考えこんでいる様子で・・・


「食べながら考え込むと、消化に悪いわよ。

それとも、頭を使い過ぎて、パンクしたかしら?」

「ん?ああ、午後の配達、どこからだっけなぁ~って、思ってさ」


 田中さんに言われて、佐伯君はお皿に残ったカレーを頬張りました。


「頑張るね~、佐伯っチ。

お金、あるんでしょ?

そんなに働いて、どうするの」

「春になったら、1人暮らしするから」


 今度は佐伯君の発言に、皆の視線が集中しました。


「えっ、佐伯君、お引越ししちゃうの?」

「遊べないじゃん」

「引っ越し先、目処ついてるの?

大学の近く?」

「一人で生活できるの?」

「食事は?」


 質問攻めです。


「引っ越し先?隣の部屋。

飯?今まで通り、甘えたい」


 佐伯君、カレーのお代わりを所望です。

主は差し出されたお皿を受け取って、お代わりをよそいながら言いました。


「春にね、笠原先生のお隣さんが、お引越しするんだって。

そこに、移るんだって」

「高校が大学になって、部屋が隣になるだけ。

他は変わらないよ。

ここに来る前より、人間的にマシになったと思うからさ、笠原先生の言う『自立の階段』?それをもう一段、登ってみようと思ってさ」


 佐伯君は主からお代わりを受け取りながら、ちょっと恥ずかしそうに言いました。


「掃除や洗濯は何とかできるんだけどさ、さすがに飯はどうにも出来ないし、美味い飯に舌が慣れたから、コンビニやファミレスばっかは嫌なんだよな。

それに、よく白川や東条が言ってるだろ?

栄養バランス~って。

だから、飯は今まで通り、甘える」


 ニシシシって笑いながら、2杯目のカレーを食べる佐伯君。


「良かった~。

佐伯君、いなくなったら、僕達寂しいもんね」

「本当だよね。

一緒に遊べなくなるの、嫌だもんね」


 佐伯君、双子君達の遊び相手ですか?


「いいなぁ~、私もこっちに引っ越ししてこようかな?

楽しそうだし、美味しいご飯食べれるし、坂本さん居るしー。

このサラダ、美味しい~」


 カボチャとヨーグルトのサラダ、大森さんのお気に召したようです。


「一人暮らしする資金はあるの?

専門学校に入ったら忙しくて、アルバイトも出来ないんでしょう?」

「じゃぁさ~、田中ッチ、シェアしようよ、ルームシェア。

そうだ、もうさ、皆であのアパートに住んじゃわない?

1階の真ん中に私と田中ッチで、左端の部屋に近藤先輩と松橋ッチ。

良くない?」


 良いアイディアじゃん!って、大森さんのご機嫌な提案を、田中さんがスパッと一刀両断にしました。


「良くない。

他の人の人生計画に、口を出さない」

「えー、そんな大きなことじゃないよー。

実際さ、春になったら皆バラバラになるわけじゃん。

でもさ、同じ所に住んでれば、こうしてご飯食べたりできるじゃん。

寂しくないじゃん」

「さ、寂しいんですか?」


 松橋さんの質問に、大森さんはちょっとだけビックリして、サラダを食べる手が止りました。


「うーん・・・寂しいんだと思う。

皆と過ごした時間が楽しいから、不安なのかな?」


 大森さん、珍しく弱気です。


「正直ね」

「でしょ?

だから、ルームシェアしようよ、田中っチ」

「お断り。

私だって、大学は忙しくなるだろうから、貴女の世話まで見てられないわ。

自分の事で精一杯よ。

家事を分担しようって、思っていないでしょう?」

「定期的に、お掃除のプロに来てもらおうよ。

大丈夫!人間、埃やゴミで死なないわ!!」

「そんな汚い家には、住みたくないわ」

「大森さん、部屋は貸すけど、敷金礼金は倍にさせてね」

「東条っチ、酷くない?!」


 なんてやり取りをキッチンからニコニコ見守りながら、主はデザートの準備です。

タッパーに作ってある珈琲ゼリーを大きなスプーンで取り分けて、バニラアイスとウエハースとミントを添えました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ