表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/434

その24 大人の事情と本音

■その24 大人の事情と本音■


東条(とうじょう)(うめ)(よし)、25歳、体育教師やっています。

体育のペーパーテストは、期末しかないから楽でいい。


幼馴染で同僚の三鷹(みたか)は、2年の世界史を担当している。

毎回テスト採点の後、正解率の低い問題を集めて『確認テスト』なるものを作っている。

テストを返して解説した一週間後に、『確認テスト』をやって、その点数も含めて、補習をする生徒を決めているらしい。

生徒達の間では『救済措置』と呼ばれている。


もう一人の同僚の笠原は、中間も期末もテストは一発勝負。

そのかわり、赤点をとれば補習で確り、みっちり教えている。

この補習には、赤点を取った生徒は当たり前だけれど、不安がある生徒も自由に参加している。


そんな二人と、夕飯のカレーを食べながら、久しぶりにダラダラしています。

3LDKの三鷹の家で。

テスト採点という、大きな仕事を終えた解放感に包まれながら。


「で、梅吉の従姉妹どのは、確りと恋心を拗らせているようだが?」


ダイニングにはソファーなんて洒落たものはなく、4畳のゴザが引かれて、ちゃぶ台がデン!と置かれている。

ちゃぶ台の上には、可愛い妹達が作ってくれた今夜の夕飯、カレーとグリーンサラダの残骸があるだけだ。


「意識、させ過ぎじゃないの?」


冷蔵庫から、勝手に3人分のビールを取り出して、三鷹と笠原に手渡した。


「先日の飲み会では、立派な倫理観を語っていましたが、あそこまで拗らせさせてしまうのは、いかがなものだか・・・」

「あの発言させたら、アウトじゃん?

修二叔父さんに聞かれたら、ボコボコにされちゃうよ。

三鷹と俺」


ビールのプルタブを開けた瞬間、炭酸の小さな音と独特の匂いが飛び出し、渇きを思い出して、一気に半分ほど流し込んだ。


「監督不行き届き」

「それな」


笠原の一言につきる。

笠原は、ビールのツマミに、残していたサラダを、チビチビ食べている。


「まぁ、おおかた、3年の近藤の存在に焦ったというのが本音でしょう?

側から見ていて今更感もありますし、良い大人なのに余裕がないっというのも、みっともない」

「三鷹も、拗らせてるもんなぁ~」


残りの半分を一気に煽って、三鷹を見た。

350mlじゃぁ足りないのか、一気に飲み干した三鷹は、冷蔵庫に向かった。


「まぁ、明日は休みだから、呑め呑め」


出してきたのは、日本酒の一升瓶。

未開封。

大きな湯呑と一緒に、ちゃぶ台に乗せて、手酌で呑み始めた。


「近藤は、素直に応援してあげたくなりますけどね。」


今度は笠原が冷蔵庫に向かう。

3人分の空いたカレー皿を、ついでに流し台に下げながら。


「馬鹿正直と言うか、純粋というか・・・まぁ、一教師として、純粋な子は応援してあげたくなるよな。

想い人が、うちの桃華と、桜雨じゃなければね」


笠原が冷蔵庫から出してきたのは、500mlの缶酎ハイ。

4本中の1本を受け取って、呑み始める。


「白川はともかく、妹が恋人を連れてきたら?」

「まず、俺より弱かったらダメ。

頭も、力も、俺より下は認めない。

次に、桃華を本当に大事にしていること」

「容姿は?」

「容姿?

俺より上の容姿を求めるのは、酷じゃない?」

「自己採点がお高い」


俺と笠原が缶酎ハイを1本開ける間に、三鷹は一升瓶の4分の.3を開けている。

水じゃないんだから・・・。

ペースが滅茶苦茶速いのは、さっきの桜雨のせいだな。


「まぁ、あの様子だと、まだ桜雨放れは出来そうにないから、恋人なんてしばらくないさ」


お兄ちゃんは、そう願いたい。


「たかが、8歳の差だ・・・

ここまで我慢したんだ・・・

あと・・・

2年もない・・・」


そう呟いて、三鷹は湯呑を持ったまま、ちゃぶ台に頭を沈めた。


「・・・三鷹君?」


そ~っと、三鷹の手から湯呑を取った。


「傷つけて・・・

泣かしたくないんだ・・・」


そっと、アルコールで熱くなった体を横に押すと、何の抵抗もなくゴザの上に仰向けになった。


「でも、誰にも渡さない・・・」


それだけ言って、三鷹は静かに寝入った。


「・・・これ、卒業まで持つと思う?」


マイペースで呑んでいる笠原に聞いてみる。


「新聞の三面や、週刊誌に『淫行教師』と乗せたくなかったら、頑張って監視。

こちらに、要らぬ火の粉が飛んでくるのは御免です」

「そうね。

そんなことになったら、修二叔父様、大暴れしちゃうしね。

ま、今夜は呑みましょ」


言いながら、スマホの目覚ましを6時にセット。

せっかく、桃華と桜雨が朝食を作ってくれるんだもんね。


「そんな梅吉は?」

「俺?」


お互いに、2本目を開けた。


「そう。

お前さんの、恋愛事情」

「あら、聞きたい?」

「正直、これだけ妹と従姉妹にべったりだと、友人としては色々と心配ではある」


俺を心配するなんて、珍しい。


「まぁ、今まで彼女が居なかったわけじゃないからね。

そこらへんは、知ってるだろ?」

「知っていますとも。

毎回、妹と従姉妹を最優先してフラれている事は」

「桃華と桜雨を守ってくれる人が出来たら、ゆっくり探すさ」


まぁ、そんな存在が出来るかどうかを、笠原は心配しているんだろうけど。

こればっかりは、そうなってみなければ分からない。


「難儀な『兄さん』ですね」


そう言って、笠原は残りの日本酒を吞み始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ