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その186 『ありがとう』を形にして・サプライズウエディング

■その186 『ありがとう』を形にして・サプライズウエディング■


ドアを開けて飛び込んできたのは 『(あお)

どこまでも高い真っ青な空と泳ぐ白い雲・・・

美世さんは、自分が白い鳥になって空を飛んでいると思いました。




 純白のハイネックドレスは、キラキラ輝くビーズが刺繍されたフレンチスリーブのトップ。

スリットの入ったたっぷりのチュールの下、うっすらと見えるマーメイドドレス。

焦げ茶色の長い髪は、癖を生かしながらフェイスラインをスッキリ見せたクラシカルな結い上げ。

形の良い唇にさしたのは、真新しいローズレッド色。


 美世さんのウエディングドレス姿は、勇一さんの心臓を簡単に止めてしまいました。

ブラウンのタキシードを着て、片膝をついた勇一さんの背中を


「もう、勇一さんたら、大げさなんだから」


と笑いながら美世さんが叩くと、勇一さんの心臓は動き出しましたけど・・・


 写真撮影で美和さんと修二さんに再開すると、花嫁さん達はお互いのドレス姿をベタ褒めし始めました。

でも、相談もしていないのに、お互いがクラシカルなドレスを選んだことにはビックリでした。

 ウエディングフォトは、1人ずつ、夫婦で、花嫁さん達だけ、4人でと、人数もポーズもたくさん変えてたくさん撮りました。

2組の美男美女のカップルに、スタッフの皆さんもノリノリで


「当社の専属モデルになりませんか?」

「当社のホームページに載せてもいいですか?」


等、オファーされちゃいました。

もちろん、修二さんが全部綺麗サッパリお断りしました。


 ドレスのレンタルは丸一日。

撮影スタジオの外に持ち出すのもOKなので、そのまま着て帰って家族写真を撮ろう!と修二さんが。

美和さんと美世さんは恥ずかしがりながらも了解すると・・・


「・・・本物、初めて見たわ」

「私も・・・」


 スタジオ玄関前に用意されていた車は、乗って来た修二さんの軽ワゴンじゃなくて、ピッカピカに輝く真っ白のリムジン。

運転手付きです。


「さ、お姫様方」


 お互いの手を繋ぎながら、呆然とする美和さんと美世さんの肩をポンと軽く叩くと、それが合図だったのか、運転手さんがうやうやしくリムジンのドアを開けてくれました。


 始めてのリムジンは、乗り心地の良さを満喫する余裕も、サービスのシャンパンを味わう余裕もないままに、目的地に到着しました。

ええ勿論、修二さんと勇一さんは確りと満喫しましたよ。

スマートフォンで写真もたくさん撮っていました。


 喫茶店の前にリムジンが止ると、ササっと修二さんと勇一さんが下りて、喫茶店のドアに手をかけて待っています。

ウエディングドレスも、リムジンも、シャンパンも・・・全てが初めてで夢心地。

フワフワした頭と足取りで、美世さんと美和さんがドアの前まで来ると・・・


「誰か、お店で聞いているのかしら?」


 微かに、ドアの向からレコードの音が聞こえてきました。

美和さんが小首を傾げると、美世さんも聞き耳を立てます。


「子ども達じゃない?

家族写真、取る予定なんでしょう?」


 少し恥ずかしそうに勇一さんに微笑みながら、美世さんは美和さんと手を繋いでドアを軽く押しました。



ドアを開けて飛び込んできたのは 『(あお)

どこまでも高い真っ青な空と泳ぐ白い雲・・・

美世さんは、自分が白い鳥になって空を飛んでいると思いました。


飛び込んできたのは 『(あお)

どこまでも透明で深さの計れない海と、白い空気の泡・・・

美和さんは、自分が白い小さな魚になって海を泳いでいると思いました。



 それは、2人の正面、お店の一番奥の壁に飾られたとても大きな『画』でした。

そして、レコードから流れるメロディーに乗せて、美しいソプラノの『アヴェ・マリア』が店内に響き渡っています。

 店内の椅子は、人で埋まっていて、皆が見ています。

2人を祝福の瞳で見つめる人々の中には、見慣れた顔もあれば、とても懐かしい顔もありました。


「お母さん、美世さん、どうぞ」


 驚いて固まっている美世さんと美和さんに、スーツ姿の双子君達が、かすみ草とブルーデルフィニュームのクラッチブーケを持たせてくれました。

 坂本さんが髪を整えながら、髪飾りを増やします。

美世さんには濃い赤の、珊瑚の(かんざし)を・・・


「勇一さんの、お母様の形見よ」


 美和さんには薄い翠色の本翡翠と白翡翠が並んだ、小振りの飾り(くし)を・・・


「これは、修二さんのお母様の・・・」


 簪を挿しながら、坂本さんがこっそりと教えてくれました。

後ろから入って来た勇一さんと修二さんに手を取られて、4人は店の奥へと歩き出しました。

ゆっくり歩く4人に、周りはアヴェ・マリアがかき消されないぐらいに、暖かな拍手を贈りました。


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