その175 ルーツ1
■その175 ルーツ1■
初めて会ったお祖父ちゃんは、勇一伯父さんによく似てるなぁ・・・と、主は思いました。
皆さんこんにちは。
折りたたみ傘の『カエル』です。
今日は僕の主、桜雨ちゃんは、皆で都内のホテルにお呼ばれされました。
結婚式場でも有名なホテルで、とても大きくてとても立派な日本庭園のあるホテルです。
皆はその庭の一部が見えるロビーで、ある人を待っていました。
日曜日なので、主の両親のお店も、桃華ちゃんの両親のお店も、『今日はお休みします』の貼り紙を貼ってきました。
主のお父さんの修二さんはメチャクチャ不服だし、目つきの悪さを隠す伊達眼鏡もしていないので、メチャクチャ怖い顔です。
桃華ちゃんのお父さん、修二さんのお兄さんはいつも通り・・・
主のお母さんの美和さんと、桃華ちゃんのお母さんの美世さんは、どこか緊張しているようです。
いつも通りに振舞っているようですけれど、主や桃華ちゃんには何となく伝わっていました。
「会わなくても、いいだろう」
修二さんの口から出た不機嫌な一言は、そんな美和さんと美世さんを思ってのことです。
そんな修二さん、今日はエプロン姿じゃなくて、濃い目のチョコレートブラウンのスーツ姿。
勇一さんは、明るめのチョコレートブラウンのスーツ姿です。
「修二さん、私は大丈夫よ」
ニッコリ微笑む美和さんは、ふんわりとした薄い桜色のワンピースに、柔らかい薄茶色の髪をスッキリと編み込んで纏めています。
「あー・・・可愛い。
ごめんな、美和ちゃん」
修二さん、心の声も駄々洩れです。
美和さんをぎゅーっと抱きしめて、その細い方にオデコを置きました。
「修二さんが謝る事じゃなわ。
大丈夫、全部、いい方向に行くわよ、きっと」
修二さん、大きな子どもです。
美和さんは、そんな修二さんの頭を良い子良い子と撫でました。
「梅吉達が居るんだから、大丈夫よ。
それに、修二君だって暴れて良いんだから」
人目もはばからず甘えている修二さんに、美世さんが呆れた声で言いました。
美世さん、今日は髪を高めに結い上げて、赤いマーメイドラインのワンピースと黒のパンプス姿です。
「いいの?」
「もちろん」
思わず振り向いた修二さんの顔は、少し機嫌が治っているようでした。
「いやぁ・・・暴力沙汰は勘弁してほしいです」
不意に話に入って来た声に、修二さんは顔と少し緩んでいた気持ちを一気に引き締めて、その方を向きました。
「東条グループ代表取締役社長・東条一美と代表取締役副社長・小暮好和の長男・小暮和良です。
初めまして、伯父様方」
修二さん達の視線の先に立っていたのは、スーツ姿の小暮先生でした。
「長ったらしいな。
で、お前の肩書は無いのかよ?」
修二さんが馬鹿にしたように、口の端で笑いながら言います。
「僕の肩書ですか?
・・・白桜私立高等学校2学年国語担当教師ってとこでしょうか?」
「それが一番長いな」
修二さん、自分で聞いておいて、直ぐに飽きた顔です。
「いつも、娘たちがお世話になっております」
そんな修二さんんの横で、美和さんがペコリと頭を下げました。
「あら、私はどうすればいいかしら?
桃華はお世話になっているだろうけれど、梅吉はお世話しているだろうし・・・」
その横で、美世さんは腕を組んで考える素振りを見せていますが、頭を下げる気はないようです。
「いえいえ、お世話になっているのは、僕なので・・・美和様、お顔を上げてください。
僕が、母に怒られます」
「そうですか?」
「で、その一美様は?」
顔を上げてニッコリ微笑む美和さんに、小暮先生はホッコリしました。
そんな小暮先生に、美世さんが辺りを見渡しながら聞きます。
「それが、肝心のお爺様がどこかに行かれてしまいまして・・・
総出で探しています」
「徘徊老人だな」
面目ない・・・と頭をポリポリかく小暮先生に、修二さんがズケズケと言い放ちました。
「とりあえず、ここではなんですから、お部屋の方に・・・」
小暮先生が、皆を促すようにぐるりと一人一人の顔を見渡しました。
「・・・5人程、いらっしゃいませんが。
僕の、良く知る方々は、どちらに?」
思わず、紺色のスーツを着た双子君達に聞いちゃいました。
紺色のスーツ、白いシャツ、ネクタイは水色の水玉模様。
双子君達は、着なれない洋服一式に緊張しています。
けれど、夏虎君に抱っこされているワンコの秋君は、いつも通りリラックスしていました。
「お姉ちゃん、クロッキー帳持って来てたから、お庭だと思うよ」
夏虎君の言葉に、小暮先生を含む大人一同は『持って来ちゃったか』と、心の中で思いました。




