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その173 凸凹マッシュコンビ、やっぱり諦めきれません

■その173 凸凹マッシュコンビ、やっぱり諦めきれません■


 主を中心に、三人は主の手の中の紙に何度もお礼を言います。


「わん」


 そんな主達の真ん中に秋君が着地して、歩き出しました。

気配たちが向かったであろう、方向です。

そして、誘うように少し進んではチラッと振りかって、また進んで・・・

主達は顔を見合わせて付いて行きました。

主の手はそのまま、スクラッチの千切れた紙を持ったままです。

と言っても、主達にしてみれば、ほんの数メートル、ほんの数歩です。

すぐに廊下の行き止まり、壁です。


「秋君?」

「わん」


 不思議そうに主が声をかけると、秋君は勢いよく振り返って、主の足元までダッシュで戻ってきたと思ったら、器用に足から肩まで登りました。


「わん」


 そしてもう一度、秋君が吠えると・・・

小さなシャボン玉の様なものがキラキラ光りながら下から上に現れて、直ぐに幾つもの細い細い線になって、束になって、柱になって・・・

パン!とはじけた後に・・・


「おばちゃん?」


 思わず、百田さんが呟きました。

主達の目の前に現れたのは、こじんまりとした売店と、その横に立つエプロンと三角巾姿の小さなおばちゃんでした。

ほっぺもお腹も、お餅みたいなおばちゃんです。


「ちっさ・・・」


 思わず桃華ちゃんが口にした通り、売店もおばちゃんも、小さな秋君サイズです。


「瀬田君、もしかして、これって・・・」

「そうだよ、これって・・・」


 百田さんと瀬田君は、コソコソと話していましたが、主と桃華ちゃんは気にすることはなく、床に座り込みました。


「「こんばんは」」


 主と桃華ちゃんがお辞儀をすると、百田さんと瀬田君も話を止めて、慌てて座り込んで頭を下げました。


「ケロケロ」


 小さなおばちゃんは、カエルの声マネをします。


「あ、これかな?」


 主は手の中にある千切れたスクラッチの紙を、おばちゃんの前に差し出しました。


「ケロケロ」


 おばちゃんは、千切れた紙を一枚一枚抱え込む様に回収して・・・主の手の中が空っぽになったら、売店の中を指さしました。


「何か、取っていいのかな?」

「いいんじゃない?」


 主と桃華ちゃんが、顔を見合わせて不思議そうにしていると、おばちゃんはニコニコしたまま頷きました。


「失礼します・・・」


 ドキドキしながら、主は売店を覗き込みます。

小さいから、床にはいつくばって、ほっぺも床に付けて・・・でも、全部は見えません。


「わん」


 そんな主の肩から下りた秋君が、売店の中に入って行きました。

そして、何か小さな物を咥えて出て来ました。

カランと、普通の鈴より太くて、落ち着いた音がしました。


「これ?」


 主が聞きながら手を差し出します。

秋君は頷いて、その手の上にそれを落としました。


「何?」

「・・・カエルの土鈴」


 それは、緑に塗られたカエルの顔で、土を焼いて作られた鈴でした。


「ケロケロ」


 おばちゃんが、片手でどうぞどうぞと示してくれています。


「頂けるんですか?

ありがとうございます」


 主は嬉しそうにお礼を言うと、売店のおばちゃんはニコニコしながら頷きました。

そんなおばちゃんの横を、秋君がまた売店の中へと入って行きました。

そして、また土鈴を咥えて戻ってきます。

今度は、3つです。


「私達も、頂いていいんですか?」


 驚く桃華ちゃんに、おばちゃんは胸元に抱えたスクラッチの紙を指しました。


「・・・きっと、等価交換なんだ」

「あの切れちゃった紙と、この鈴4つが同じ価値があるってこと?」


 瀬田君が呟くと、百田さんが聞きます。


「たぶん・・・」

「でも、もう切れちゃった紙だよ?」


 自信なさげな瀬田君に、百田さんがさらに聞きます。


「僕達4人を護ってくれたから、鈴4つのまで価値が下がったとか?」


 瀬田君の推理に、おばちゃんは首を横に振りました。


「・・・じゃぁ、僕達を護ってくれたから、人間で言う『徳』みたいなのが上がったとか?」

「お坊さんみたい」


 瀬田君の推理に、百田さんが突っ込みます。

けれど、それは間違ってはいなかったようで、おばちゃんの首が立てに振られました。

そして、おばちゃんはニコニコしながら、売店と一緒に消え始めました。


「あ、ありがとうございます」


 主達は、慌てて心からお礼を言います。

そんな気持ちが伝わっているようで、おばちゃんは完全に消える直前に、主達に向かって投げキッスをしてくれました。


「おばちゃん、可愛いね」

「今の、オマケ?」


 主と桃華ちゃんはクスクスと笑いながら、土鈴を鳴らしました。


「・・・先輩、やっぱり、オカ研に入部してください!

東条先輩も、是非!」


 そんな主と桃華ちゃんに、百田さんが縋り付きました。


「あ、スマホのムービーで撮っておけばよかったぁぁぁぁぁ・・・」


 瀬田君は、土鈴を見つめたまま、後悔の絶叫です。

スマートフォン、電源落ちたままだったから、無理ですってば。


「嫌よ」

「ごめんね~。

マッシュルームカットはちょっと・・・」


 ツン!と断る桃華ちゃんと、手をフリフリしながら断る主。


「だから、髪型は・・・」


 百田さんが諦めきれず、更に声を大きくすると・・


「いつまで、残ってるんですかー?!」


 いつから聞いていたのか、梅吉さんが現れました。

少し、怒っているようです。


「下校時間はとっくに過ぎているよ!」

「はい!」

「すみません!!」


 百田さんと瀬田君は、弾かれたように立ち上がると、昇降口目指して走り始めました。


「先輩、ありがとうございます!

でも、諦めませんからー」

「ありがとうございます!!」


 2人の姿が見えなくなると、梅吉さんがチラッと桃華ちゃんを見ました。


「何があったの?」

「んー、帰りの車の中で、話してあげるわ」


 車で帰りたいってことですね。


「はいはい。

準備するから、職員室においで。

三鷹も笠原も居るから。

いつまでも床に座っていると、冷えちゃうでしょう」


 言いながら、梅吉さんは職員室に向かいました。


「桜雨、職員室に・・・」


 桃華ちゃんが横に座っている主を見ると・・・

主は後ろを向いていました。

その手には、1枚の紙があります。


「こっちの秋君も、大活躍だったね」


 それは、スクラッチの紙に戻った秋君でした。

主は目をウルウルさせながら、桃華ちゃんの言葉に大きく何度も頷きました。




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