その171 凸凹マッシュコンビの初体験?
■その171 凸凹マッシュコンビの初体験?■
顧問との話を終わらせた主は、不意に外を見て小首を傾げました。
でも、それはちょっとだけで、すぐに桃華ちゃんや百田さんと瀬田君の所に戻ってきました。
「先生、何って?」
「今年だけらしいんだけれど、夏に大きなコンテストがあるんだって。
それ用に、1枚描いてみない?って。
もし描くなら、いつもより大きい物にチャレンジしてみない?って言われたの」
主は話しながら、帰りの支度を進めます。
「どれぐらい、大きいの?」
「うーん・・・最低でも130号みたい。
簡単に言うと、私より大きいサイズ」
「家じゃ、無理ね」
「うん。
だから、もしチャレンジするなら、美術室に私用のスペースを作ってくれるって」
主は、今立っている床を、指さしました。
なるほど!ここなら、教室の一番端っこで他の人の邪魔になりませんもんね。
主のお気に入りの席だし。
「他の部員は?」
「このコンテスト、誰でもチャレンジ出来るわけじゃないみたい。
過去5年間の間、何らかのコンテストで賞を取った人が対象なんだって」
「先輩、凄いですね!!」
素直に驚いた百田さんに、主はニッコリ笑ってお礼を言いました。
「やるんでしょう?」
「うん、チャレンジするよ。
せっかくだもん。
ただ・・・」
主は、申し訳なさそうに桃華ちゃんを見ます。
「学校ある日は、遅くまで作業すると思う。
だから、お家の事、桃ちゃんに負担かけちゃう。
もちろん、なるべく今までと変わらない様に・・・」
必死に言う主の言葉を、桃華ちゃんがギュッと抱きしめて止ました。
「何馬鹿な事言っているのよ。
手伝いなら龍虎達が居るし、兄さん達もいるじゃない。
今まで桜雨は家の事を頑張って来たんだもの、自分の事に時間を使ったって誰も文句言わないわ。
それとも、私が桜雨と同じ立場になったら、『桃ちゃんの分も家事するの、負担だなぁ』って、思う?」
「思わない!」
「でしょう?
私も、家族の皆も『頑張れ!』としか思わないわよ」
「ありがとー、桃ちゃん」
主は、桃華ちゃんの言葉が嬉しくて、ちょっとだけ涙が出ました。
そんな主と桃ちゃんを見ていた百田さんと瀬田君も、グスグスと鼻を鳴らしていました。
「さ、帰りましょう。
もう、暗くなってきたわ」
キュッと主の涙を拭って、桃華ちゃんが微笑みかけました。
「うん。
今日のお夕飯、三鷹さんから辛い物が良いってリクエストがあったから、キムチ鍋でどうかな?」
鞄を手にして、美術室を出ようとした頃には、顧問も他の部員も居ませんでした。
「あ、先輩、何か落ちましたよ」
主がドアを開けようとした時、鞄から1枚の紙が落ちました。
それに気が付いてくれた瀬田君が拾おうと、腰を曲げた時でした。
ガラっと美術室のドアを開ける音と、ポン!と小さな小さな破裂音が瀬田君の鼻先でしたのが同時でした。
「「「「え??」」」」
腰を曲げたままの瀬田君の前に、小さな小さなカラフルなワンちゃんが現れました。
それは、主がさっき描き上げた『スクラッチの秋君』でした。
「・・・か、怪奇、現象?」
「わん!」
思わず漏れた百田さんの呟きに、絵の秋君はシッポをブンブン振って、主に向かって吠えました。
「・・・紙がない。
先輩が落とした紙が、無いです」
「じゃぁ、紙に描いた犬が実体化したって事?
凄いリアル!
絵のクオリティじゃないよ」
百田さんと瀬田君は床にはいつくばって、カラフルで小さな小さな秋君をジロジロと観察し始めました。
「凸凹マッシュコンビ、帰るわよ」
そんな2人の頭に、桃華ちゃんが軽~くポンポンと手のひらを置きました。
「床、冷たいってば。
体、冷えちゃうよ」
クスクス笑いながら、主はそのカラフルな秋君をヒョイっと抱き上げました。
主の小さい手にチョコンと乗るサイズです。
カラフルな秋君は主の腕を登って、肩の上にお座りしました。
肌触りは紙で、重さは感じませんでした。




