その156 修学旅行・長崎原爆資料館
■その156 修学旅行・長崎原爆資料館■
グラバー園近くのバス停から約30分ほどで、次の目的地『長崎原爆資料館』に到着です。
資料館に入る前に、少し遅いお昼ご飯で皿うどんを食べたので、佐伯君はとてもご機嫌になりました。
秋君もお散歩が出来てご機嫌ですが、今は主に抱っこされて眠たそうです。
「来た来た、待ってたんだよ~」
資料館の入り口に、梅吉さんが立っていました。
主達の姿を見つけて、駆け寄ってきます。
「あら兄さん、お久しぶり」
「桃華ちゃん、兄さんも一緒に回りたい~」
ちょっと冷たく挨拶をされて、梅吉さんは半べそです。
「梅吉兄さん、ちゃんと寝れてる?食事は?
なんだか、ちょっと見ないうちに、やつれたみたい」
心配する主の言葉通り、梅吉さんは何だがお疲れの様です。
「桜雨ちゃん、ありがとうね~。
2人のご飯が恋しくてさー。
責任が、のしかかってるからさぁ・・・。
まぁ、この旅行で何キロ痩せるか・・・」
「帰ったら、御馳走作るね」
トホホ・・・と肩をすぼめる梅吉さんに、主は優しく言いました。
「楽しみにしてる。
でね、坂本さんから伝言。
原爆資料館や、その関連する所に行くときは、桃華ちゃんと桜雨ちゃんは絶対に放れない事。
秋君も、ずっと一緒にいる事。
だってさ」
「「はーい」」
主と桃華ちゃんは、顔を見合わせてから返事をしました。
「じゃあ、ごゆっくり~。
あ、三鷹も笠原も、ちゃんと仕事しろよ」
そう言い残して、梅吉さんは外へと行ってしまいました。
「お仕事、いいんですか?」
「梅吉は、高浜先生と今夜のホテルで、ホテル内の活動と明日の行動の最終チェックをするんですよ。
学校への定期連絡もしながら、各施設への最終確認等ですね。
俺たちは、生徒の見張りですね。
事前に提出してもらった行動計画表を基に、教員のつく時間と場所を割り振っています。
俺と三鷹は、ここの担当ですよ。
この資料館が閉館するまで居て、そのままホテルです」
桃華ちゃんに聞かれて、笠原先生はジーパンの後ろポケットからプリントを出しました。
小さく折られているそのプリントは、広げられなくても、所々に書き込まれた赤いインクが見えました。
「んじゃ俺、喫茶店ブースで昼寝してっから~」
佐伯君、こういう所は嫌なんでしょうか?
さっさと行ってしまいました。
「秋君、目立たないかな?」
「ほら」
普通、こういう所はペット禁止ですもんね。
主に抱っこされて、秋君はプスプス寝てしまっています。
心配する主に、三鷹さんはさっさとパーカーを脱いで、スッポって頭から被せました。
・・・大きすぎて、制服のスカートまで隠れてますよ。
「嫌か?」
「・・・お借りします」
ちょっとだけ心配そうに聞いてきた三鷹さんに、主は首を振って答えました。
モゾモゾしながらブカブカな袖に腕を通して、パーカーの中の秋君を上手く抱っこしなおしました。
三鷹さん、Tシャツ姿ですけど、寒くないですか?
「最近、遠慮ないわよねー」
「私達に、隠す気が無いわね」
「け、喧嘩じゃないから・・・な、仲が良いのは、良い事だと思うわ。
そ、それに、水島先生の匂いで、秋君も安心するんじゃない?」
そんな三鷹さんと主を見て、大森さんと田中さんは呆れていました。
松橋さんは、弁解しています。
桃華ちゃんは面白くなさそうな顔で、横に立ちました。
本当は、主と手を繋ぎたかったんですよね、桃華ちゃん。
「桃ちゃん、行こう」
そんな桃華ちゃんの気持ちを分かっている主は、手は繋げませんが、ニッコリと笑いかけました。
「そうね」
桃華ちゃん、そんな主の笑顔に気を取り直して、歩き始めました。
主達は時間をかけて、館内を見学しました。
どうして原爆が投下されたのか、被爆投下後の惨状、被爆してから現在までの長崎の復興していく様子、核兵器開発の歴史について・・・
それは写真であったり、映像であったり、絵や物、建物の残骸であったりと、主達は言葉を発することなく、『実際にあった過去』を受け止めていました。
「・・・私達は経験していないけれど、忘れちゃいけないし、繰り返しちゃいけないことだね」
「・・・うん」
主、何とか片腕で秋君を抱っこして、いつの間にか、桃華ちゃんと確り手を繋いでいました。
目の前にあるそれらは、作り物ではなくて、産まれるまえにあった真実で、瞬時に奪われてしまった『日常』や『大切な人達』が残してくれたモノ。
それらが、語り掛けてきます。
あった真実から、目をそらさないでね・・・
忘れないでね・・・
繰り返さないでね・・・
未来に伝えてね・・・
主達は怖くて悲しくて、ただただお互いの手をギュッと握っていました。




