その149 修学旅行・ドタバタ準備の前夜
■その149 修学旅行・ドタバタ準備の前夜■
皆さんこんばんは。
桜雨ちゃんの宝物の『カエル』こと、黒い折りたたみ傘の僕です。
白川家&東条家のリビングには、デン・デン・デン!と、三人分の大きなスポーツバッグと、そこに入れる荷物が所狭しと広がっています。
三階の、主と桃華ちゃんと梅吉さんの部屋のドアは開けっ放しで、それぞれが、それぞれの部屋に居ながら、廊下を会話が飛んでいます。
「桃ちゃん、パジャマや下着、どうする?」
「平均が15度位で、最高が20度行かないぐらい、最低が10度ちょいって感じだから、そんなに厚いのはいらないわね。
パジャマだけ、ちょっと温かいのにしておく?」
「桃華ちゃーん、お兄ちゃんの新しいパンツどこー?」
「4月だもんねー。
モコモコは暑いかー。
スエット?
んー・・・ショートパンツタイプにしようかな?
あ、梅吉兄さん、新しい下着、机の上に置いて置いたよー、無い?」
「・・・あー、あった、あった!桜雨ちゃん、あったよー」
廊下にまで、カチャカチャってハンガーの音や、バタンバタンとクローゼットが開いたりしまったりする音が響いています。
「桜雨、ショートパンツはダメ。
綿のパジャマにしよう?」
「はーい。
ねぇ、桃ちゃーん、パーカーはバックリボンのでいいかな?」
「あ、桜色のやつでしょう?
ちょうどいいんじゃない?それにしよう」
「やっぱり、ジャージじゃぁダメかな?」
「「ダメ!!」」
主と桃華ちゃんのダメだし、息がピッタリです。
そんなこんなで、選んだ衣類を持ってリビングに降りてみると・・・
「・・・お父さん、何してるの?」
主のお父さんの修二さんが、4個目のスポーツバッグに、何やら荷物を詰め込んでいました。
目つきの悪さを緩和させる伊達眼鏡も、仕事のエプロンもしっぱなしです。
主、返って来る答えは分かっていますが、一応、聞きました。
「何って?荷作り。
準備は前夜にやらないと、ダメだもんな」
横で、主の双子の弟君達が、しゃがんでジーっと見ながら聞きました。
「・・・お父さん、明日、出張?」
「お花屋さんが、出張?
それとも、商店街の慰労旅行?」
双子の冬龍君と夏虎君は、修二さんがスポーツバッグに荷物を1つ入れると、1つ出します。
1つ入れると、1つ出す・・・荷造りが終わりません。
「お父さんも、長崎に行ってくるからな。
お土産、いっぱい買ってくるから、楽しみにしてるんだぞ」
「「お母さーん!」」
出されても、構わずに荷造りを続ける修二さんに背中を向けて、主と桃華ちゃんが『お母さん』を呼びました。
「あらあら、修二さん、本当に行くの?」
パタパタとお店から上がって来たのは、エプロン姿の美和さん。
「持っていく荷物、分かる?
下着類は、新しいのを入れてね?」
美和さん、双子君達の隣にチョコンと座り込んで、双子君達と同じようにスポーツバッグの中を覗き込んでいます。
「大丈夫、いつも美和ちゃんがやってくれるように、詰めてるよ」
「・・・でも、私は置いていくの?」
ニカッ!って笑った修二さんに、美和さんは主とよく似た顔をちょっと寂しそうにして、小首を傾げて聞きました。
「・・・置いていかない!
置いていくわけないだろう!!
美和ちゃんを置いて、俺がどこかに行くわけないってば」
修二さん、慌てて美和さんをギュって抱きしめました。
「でも、私はお店があるし、龍虎のお世話をちゃんとしたいわ。
私、桜雨の修学旅行に付いては行けないの。
修二さんは、一緒に行っちゃうねの・・・」
クスン・・・って、美和さんがちょっと鼻を鳴らせば、もう終わりです。
「ごめん、ごめんよ美和ちゃん!
俺、付いて行かない!」
そんな両親を見ながら、双子君達は修二さんのスポーツバッグから、オヤツのお菓子を取り出していました。
缶酎ハイや、オツマミも出て来ました。
「二人とも、これ、持っていく?」
一段落したのを確認して、桃華ちゃんのお母さんの美世さんが、主と桃華ちゃんに紅茶の缶を渡しました。
美和さんと一緒に、上がって来ていたんですよね。
「桃華のが、桃の紅茶。
桜雨ちゃんのが、カモミールティー。
ティーパックにしてあるから、旅館でも飲めるわよ」
嬉しそうに受け取ると、リビングのドアが開きました。
「夜にすみません。
秋の預かり、今夜からでいいですか?」
入って来たのは、スエット姿の三鷹さんでした。
小脇に、飼い犬の秋君を抱えています。
秋君、三鷹さんも引率で修学旅行に行くから、その間は白川家&東条家でお泊りの約束でしたが・・・
「あら、構わないわよ~」
いつの間にか、修二さんに膝枕をしてあげている美和さんが、ニコニコと答えます。
「どうしたの?」
直ぐ近くにいた美世さんが、秋君を受け取るために、両手を出しました。
「バッグの中を出して、入り込もうとするんで・・・荷造りが進まないんです」
三鷹さん、ひょいっと秋君を美世さんに渡しました。
秋君、耳も尻尾も下げて、目も半開きで・・・ふてくされていますね。
「秋君が行きたがるのは、微笑ましいわ。
どこかの、大きな誰かさんとは違ってね」
美世さん、笑いながら良い子良い子って、秋君をナデナデしてあげました。
「桜雨、寝間着は長いので・・・」
「・・・三鷹さんまで。
さっき、桃ちゃんにショートパンツはダメって言われたから、長袖長ズボンのパジャマにしました」
三鷹さんに心配そうに言われて、主はちょっと唇を尖らせました。
双子君達と、修二さんの荷物を漁っていた梅吉さんは、緑茶割りの缶を見つけると、プシュ!と開けて、三鷹さんに聞きました。
「三鷹、流石にスーツではいかないよな?
ジャージで行かない?お洒落ジャージ」
「「ダメ」」
三鷹さんが答えるより早く、主と桃華ちゃんが2度目のダメ出しです。
「どうせ、笠原先生はパーカーでしょうから、3人一緒にパーカー着てればいいじゃない」
「パーカ三兄弟ね」
辛辣な桃華ちゃんの言葉を受けて、主はニッコリと命名しました。
「長男のウメ兄ちゃんは赤いパーカー、次男のヨシ兄ちゃんは青、三男のタカ兄ちゃんは黒ねー」
「なら、佐伯君は黄色パーカーで、近藤先輩は緑着れば、5人揃うじゃん!」
双子君達、相変わらず戦隊物が好きですね。
そんなこんなで、何とか修学旅行の荷造りが出来て・・・
いよいよ、明日、出発です!!




