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その135 春が来ます・・・『17歳になった君へのプレゼント』

■その135 春が来ます・・・『17歳になった君へのプレゼント』■


 主は薄いピンク、桃華ちゃんは白の、色違いのお揃いパジャマはモコモコで、ウサギ耳のフード付きです。

 お風呂上がりの麦茶を飲む頃には、佐伯君と双子君達はリビングのテレビの前でうたた寝です。

もちろん、お風呂も済ませて秋君の添い寝付きです。

 主達と入れ替わりで、美和さんと美世さんが一緒にお風呂タイムです。

お母さん同士も、大の仲良しなんですよね。

 成人男性達は、ローテーブルでまったりお酒を楽しんでいます。 


「まだ呑んでる。

明日もお仕事でしょう?」


 呆れた声で桃華ちゃんが言うと、梅吉さんがフニャフニャと、気の抜けた笑顔で返します。


「今日は可愛い可愛い、俺のお姫様の誕生日だもん。

こんなに可愛くて、こんなに綺麗に育って・・・

なぁ、俺の歌姫、一曲歌ってくれないかい?」

「・・・一曲だけよ。

一曲歌ったら、寝るんだから。

夜更かしは美容の敵だもの」


 梅吉さんのお願いに、桃華ちゃんはしょうがないなぁ・・・と、しぶしぶ答えます。

 どこまでも伸びやかで、透き通った歌声に、皆は目を瞑って聞き入りました。

双子君達に添い寝している秋君の尻尾が、リズムを取っているかのように、ゆっくりゆっくりと揺れています。


「・・・お粗末さまでした。

じゃ、おやすみなさい」


 歌い終わって、うやうやしくお辞儀をした桃華ちゃんは、クルっと皆に背中を向けて、リビングのドアの方を向きました。


「あ、笠原先生、竜虎(りゅうこ)と佐伯君の布団、お願いできますか?

梅吉兄さん、これなんで・・・」


 桃華ちゃんと一緒に部屋に行こうとした主が、笠原先生を呼びました。

梅吉さん、泥酔ではないんですけれど、酔い始めた修二さんに捕まってるんですよね。


「はいはい」

「桜雨ちゃん!」


 笠原先生が立ち上がったタイミングで、修二さんが主を呼びました。

梅吉さんにつられて、修二さんもちょっと切なくなっちゃったみたいです。


「・・・先生、桃ちゃんと、先に行っててください。

竜虎と佐伯君、風邪ひいちゃうと困るから」


 苦笑いをして、主は修二さんの横に座り込みました。

修二さん、お酒臭いのに主をギューってしながら半べそかいてます。

立派な、酔っ払いです。


「さ、行きましょう。

貴女も風邪をひきますよ」


 笠原先生は、足が止まっていた桃華ちゃんにパジャマのフードを被せて、ポカポカしている右手を握ってリビングを出ました。

桃華ちゃん、急に手を握られてドキドキしちゃっています。


「せっかく温まったのですから、湯冷めしない様に。

はい、おやすみなさい」


 桃華ちゃんの部屋の前に来ると、笠原先生はパッと手を放しました。


「あ、はーい。

おやすみなさい」


 桃華ちゃんは、右手はまだ暖かいはずなのに、笠原先生の手が放れたせいか、少し寒さを・・・、ちょっと期待していたから寂しさを感じちゃいました。

そして、右手を左手でさすりながら平静をよそって、部屋のドアを開けようとしました。


「忘れ物」


 ウサギ耳フードを被ったモコモコの後ろ姿を、笠原先生はギュっと抱きしめました。


「せ、先生・・・」

「ブー、間違えです」


 両腕の力強さと、全身を覆う重量感にビックリしつつも、嬉しさと恥ずかしさで心臓がまたドキドキし始めました。


「よ・・・」

「聞こえませんよ」


 笠原先生、意地悪です。

桃華ちゃん、笠原先生に耳元でそっと聞き返されて、体中に電気が走って、一気に耳まで真っ赤になって・・・


義人(よしひと)・・・さん」


 今にも、泣きだしそうです。


「はい」

「・・・ズルいです。

私だって・・・」

「大人ですから、ズルいですよ。

では、正解したお姫様には、これを」


 名前を呼ばれて、嬉しそうに返事をした笠原先生は、桃華ちゃんの両手に小さな箱を握らせました。


「ゆっくり、お休み。

俺の、お姫様」


 そして、部屋のドアを開けて、


トン・・・


と桃華ちゃんの背中を押しました。

 桃華ちゃん、一歩部屋に入った瞬間、膝から崩れ落ちました。


「・・・反則ぅ」


大きな支えと、包んでくれていた温もりが無くなって、桃華ちゃんの体と気持ちが震えました。


「本当に、ズルいんだから・・・」


 気持ちを落ち着かせようと大きく深呼吸して・・・手にしたプレゼントに気が付きました。

桃色の和紙と、真っ赤な細いリボンでラッピングされた小箱です。


「・・・明日、お礼言えるかな?」


 明日、ちゃんと笠原先生の顔が見えるか、桃華ちゃんは自信がないようです。

そんな心配をしながら、桃華ちゃんはラッピングを解きました。


「小さな、アクセサリー入れ?

あ、オルゴールになってる」


 それは、三本の猫足が付いて、桃の花が透かし彫りされた、銀色のハート形のジュエリーボックスでした。

底のねじを回して、蓋を開けると・・・


「・・・ナット・キング・コールの『LOVE』」


 桃華ちゃんは文化祭のファッションショーで、別人のようにカッコ良くなった笠原先生に、優しくエスコートされたことを思い出して、更にドキドキ・・・桃華ちゃん、心臓大丈夫ですか?


 中を見ると、薄桃色のベルベットは敷き詰められていて、四つ葉のクローバーの押し花を使った、手作りっぽい丸い栞がありました。


「・・・バカ」


 桃華ちゃんは、小さく呟いて、その栞にキスをしました。

そして、ベットに入ると、オルゴールを枕元に置いて曲を聞きながら、栞を持ったまま、ゆっくりと眠りにつきました。


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