表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/434

その128 バレンタイン・桜雨ちゃんとコンプライアンス2

■その128 バレンタイン・桜雨ちゃんとコンプライアンス2■


「私も、皆で作ったモノだから・・・

でも、皆のより甘さをグッと抑えたの。

・・・お夕飯のデザートに出せば、三鷹さんに食べてもらえると思って」


そう言いながら、主はクラフト紙のハート型の箱をおずおず差し出しました。

もちろん、真っ赤なリボン付きです。


「でも、渡せるチャンスがあればなぁ・・・って思ってたの」

「ありがとう。

嬉しいよ」


大きな手が、そのハート型の箱を受け取りました。

手元の箱を見つめながら、優しく微笑む三鷹さんの顔を見て、主は顔を真っ赤にして、胸の鼓動が激しくなりました。


「三鷹さん、た、食べてもいい?」


そんな顔を見られたくないと、主は慌てて椅子に座って、貰った箱を再度手にしました。


「もちろん。

・・・口に合うと良いんだが」


心配そうな三鷹さんの前で、主は嬉しそうに丁寧にラッピングを外して、蓋を開けました。

中には、イチゴ・ホワイト・ビター・ミルクのトリュフチョコレートがコロンと1つづつ入っていました。

イチゴだけは、ハートの形です。


「わぁ・・・可愛い」


想像以上の出来栄えに、主は感嘆のため息をついて、見とれていました。


「見ているだけでは、味は分からないだろう?」

「食べちゃうのが、もったいないぐらい可愛くって」


主は箱を持ったまま、まだトリュフチョコレートに見とれています。


「これだけは、食べて欲しい」


そう言うと、三鷹さんはハート型の苺トリュフを摘まんで、主の唇に軽く押し付けました。

それは本当に軽く・・・フニって感じです。


「・・・あ」


主は三鷹さんの熱っぽい瞳に見つめられながら、小さな唇をゆっくりと開けつつも、なんだか恥ずかしくて三鷹さんの目が見れなくて、苺トリュフを摘まむ三鷹さんの筋張った指に視線を落としました。

ゆっくりと、主の小さな口にチョコが入っていきます。

筋張った細い指、右手の親指の付け根にある小さなホクロ・・・

三鷹さんの視線を感じながら、ぽぉっと手に見とれていると、舌に甘酸っぱい刺激を感じて、思わず口を閉じてしまいました。

三鷹さんの親指と人差し指の先が、主の唇に挟まれました。


「酸味があったか?」


慌てて、主が三鷹さんを見ると、三鷹さんはちょっと笑ってその指先を引いて、軽く自分の唇で吸いました。

熱を含んだ目で、ジッと主の目を見つめて、チュッチュッと、小さな音を立てながら。


「・・・」


主、ノックダウンです。

何も答えられなくて、ただただ口の中のチョコレートが甘酸っぱくって、こんな三鷹さんは反則だとか、心臓がドキドキし過ぎて死んじゃうとか、あの指になりたいとか、・・・キス、したいとか・・・主の心も頭も大混乱です。

口の中のチョコレートだけが、どんどん溶けてその甘酸っぱさが広がって、しだいに無くなっていきます。


「もう一つ?」


言いながら、三鷹さんは箱に手を伸ばします。

主はその手を、頭を振りながら止めました。


「・・・一気に食べるの、勿体無いから。

大切に食べたいの」


本心ですが、もう一つの理由は・・・


また同じ事をされたら、今度こそ死んじゃう!!


でした。

その代わりにと、主は自分が上げた箱をジッと見つめました。


「そうだな、俺も頂こう」


三鷹さんは主の視線に気が付いて、ハート型の箱を開けました。

中に入っていたのは、クルミのたっぷり入ったチョコレートブラウニーです。

隅っこに、小さなハートのチョコもありました。

色で見ると・・・両方、とっても苦そうです。


「桜雨、どれから食べればいい?」


三鷹さん、開けた箱を主に向けました。

これは・・・


「えっと・・・三鷹さんの食べたいものからで・・・」


さすがの主も、この行動の意味が何となく分かったみたいです。

箱の中と、三鷹さんの目を交互に見ながら、ちょっとビクビクしています。


「じゃぁ、ハートのチョコ」


そう言って、三鷹さんは主に向かって軽く口を開けました。


「・・・甘かったら、ごめんなさい」


主、意を決して、黒くて小さなハート型のチョコレートを摘まむと、三鷹さんの口元に運びます。

ずっと見つめられていて、その指は緊張して小刻みに震えています。


「ひゃっ!」


三鷹さんがパクン!と口を閉じると、主の指を加えた形になりました。

唇の感触と、ちょっと当たった前歯の硬さ、そして・・・熱くてぬるっとした舌先。

思わず指を引き抜いて左手で覆うと、主は腰を抜かして座り込んでしまいました。


「やり過ぎた」


今にも泣きだしそうな主を抱えて、三鷹さんは床に胡坐をかきました。

椅子だと、狭いですもんね。


「怖かったか?」


少し震えている主の髪を撫でながら、三鷹さんは軽く自己嫌悪中です。

ええ、僕は、やりすぎだと思いますよ。

今日一日で、どれだけ焼きもち焼いたんですか?


「・・・三鷹さんに、あんなふうに見つめられた事なかったし、その、唇・・・」


主は俯いたまま、三鷹さんに咥えられた指先を、自分の唇に軽く付けました。


「桜雨・・・」


そんな主を見て、三鷹さんは・・・


「はい、時間でーす!!」


主の頬に三鷹さんの手が触れた瞬間、目の前の社会科準備室のドアが勢いよく空きました。


「お兄ちゃん、もう待てません!!

貰ったチョコレートを、夕飯にはしたくありません!!」

「わん!」


そう言って、ドアを開けたのは、秋君を胸元に入れたままの梅吉さんでした。


「梅吉兄さん、すぐ、帰ろうね、ね。」


主は耳まで真っ赤になった顔をなんとか笑顔にして、梅吉さんと秋君に向けました。

そんな主の耳に、盛大な舌打ちが上から聞こえたのは、言うまでもありません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ