その110 皆で楽しくお料理教室
■その110 皆で楽しくお料理教室■
皆さんこんにちは。
桜雨ちゃんの傘の『カエル』です。
明日は大晦日。
そんな今日は、主と桃華ちゃんの二人は、お節料理の仕上げで大忙しです。
お揃いのポニーテールと、ピンクのエプロンがよく似合っています。
並んだ二つのキッチンはフル稼働。
換気扇を回していても、湿気や香りはリビングに充満しています。
早めのお昼を済ませた後のリビング。
東条家のキッチンテーブルには出来上がったお節や、途中のお節が広がっています。
白川家のローテーブルでは、主の双子の弟君達がお勉強道具を広げて、並んでお昼寝中です。
その頭の上で、子犬の秋君もお腹を出してお昼寝です。
「お、お邪魔します」
「こんにちは」
そーっと、キッチンのドアを開けて、松橋さんと田中さんがやって来ました。
「「いらっしゃーい」」
小声で出迎えられて、松橋さんと田中さんは辺りを見渡しました。
お昼寝組を見つけて、小さく頷きました。
二人は持って来たエプロンを付けると、松橋さんは主の隣へ、田中さんは桃華ちゃんの隣に立ちました。
「じゃぁ、『栗きんとん』を作っていきましょう~」
「「「はーい」」」
小声でも、明るい主の声に、三人は小さく手を上げました。
今日は、主と桃華ちゃんは先生です。
松橋さんと田中さんに、お節料理を教えるようです。
全部は時間が足りないので、『栗きんとん』だけですけど。
『栗きんとん』は、松橋さんからのリクエストです。
「じゃぁ、まずは『くちなし』を空っぽのティーバッグに入れて、麺棒で潰しましょう」
「「「はーい」」」
こうして、お料理教室が始まりました。
もともと、松橋さんも田中さんもお料理は出来るので、大きなハプニングもなく、手際よく進みました。
「・・・いい匂いがするぅぅ~」
「お腹、すいたぁ~」
「わぁふゥゥゥ~」
栗とお芋の甘い匂いに釣られて、双子君達と秋君がお昼寝から起きた頃には、殆ど仕上がっていました。
「あ、田中さんと松橋さんだー」
「こんにちはー」
「「こんにちは」」
眠い目を擦りながら、ご挨拶すると・・・
「お姉ちゃん、オヤツ欲しい」
「お腹すいちゃった」
さっそく、オヤツの催促です。
「栗きんとん、たっくさん作ったから、『栗きんとんパイ』つくろっか」
「「わーい」」
主が言いながら、冷凍庫からパイシートを取り出すと、双子君達は大喜びです。
「作ってる間に、今日の分のお勉強、終わらせちゃいなさいよ」
「「わーい」」
桃華ちゃんに言われて、双子君達の元気が半減しました。
それでも、ちゃんとやる双子君達は偉いです。
秋君は、良い子にそんな双子君達の間で丸くなって、お姉ちゃん達はパイ作りです。
「終わったよー」
「さすがに、しんどいですね」
パイが焼き上がる頃、庭の倉庫の大掃除をしていた梅吉さん、笠原先生、三鷹さんの先生組が戻ってきました。
力仕事がメインなせいか、寒空の下での作業でしたが、たくさん汗をかいています。
「兄さん達、先にシャワー浴びて」
桃華ちゃんにビシッ!と奥のバスルームを指さされたので、先生組は大人しくしたがいました。
「帰りましたー」
そのすぐ後ろから、佐伯君が帰って来ました。
「お帰りなさい。
今日の配達は終わり?」
「年内の配達が終わりー。
明日は修二さん一人で大丈夫だから、店内の大掃除を水島先生と一緒に手伝えって」
桃華ちゃんに聞かれながら、佐伯君は双子君達の近くに行くとグデン~と、仰向けに寝っ転がりました。
「「「「お疲れ様」」」」
お姉ちゃん達からの労わりの言葉に、佐伯君は一度胡坐をかいた状態で頭を下げて、また仰向けに転がりました。
佐伯君、結局、お花屋さんのアルバイトをしているんですよね。
「佐伯君、肋骨の調子はどう?」
手の空いた田中さんが、双子君達の勉強の進み具合を布巾片手に、覗きに来ました。
「んー、ぼちぼちかな。
変な姿勢になんなきゃ、大丈夫」
「そう、良かったわね」
疲れているんでしょうね。
佐伯君、目を瞑ったまま答えました。
田中さんは優しく言うと、手にした布巾でローテーブルを拭きながら、双子君達のノートをそっと覗いていました。
「さ、オヤツが出来ましたよー」
主と桃華ちゃんが『栗きんとんパイ』の乗ったお皿を、松橋さんがアツアツの紅茶を、お盆で運んできました。
「「「食べるー」」」
双子君達と佐伯君は、急いで手を洗いに洗面所に向かいました。
そうこうしているうちに、シャワーを終えた先生組もローテーブルに座りました。
皆で、オヤツタイムです。
皆で出来立ての『栗きんとんパイ』とちょっと濃い目に入れたストレートティーを味わいます。
「ここで、桃華ちゃんの豆知識タイム~。
問題です。
お節料理の中に、『栗きんとん』が入っているのは、なぜでしょう?」
桃華ちゃんが問題を出してきました。
「美味しいから」
「子どもに人気だから」
双子君達、2個目のパイを頬張りながら、元気に答えます。
「はい、残念。
『栗きんとん』の『きんとん』の名前は、中国のおまんじゅうの『餛飩』に由来して、後に『金団』の文字を当てたの。
鮮やかな色が小判や金塊に似ているから、金運の上昇を願って頂くのよ。
あと、栗を臼でついて皮をむく作業を『搗つ』ということから、栗は『勝ち栗』と呼ばれて勝負に強い縁起物とされているのよ。
なので、おめでたいお正月に栗きんとんを食べると、勝負運や金運が上がって商売繁盛が叶うと言われているんですって。
まぁ、全部、母さんの受け売りよ」
ちょっと濃い目のストレートティーを静かにすすりながら、桃華ちゃんは解説をしました。
「サッカー、来年はリーグ優勝できる?」
「お小遣い、上がる?」
「たくさん、練習したら、優勝できるかも。
お小遣いは、お手伝い頑張れば増えるんじゃないかな?」
期待満々の双子君達に、主がニコニコと答えました。
そんな双子君達、オヤツが終わった途端にお昼寝を始めた先生組と佐伯君と一緒に、本日2回目のお昼寝です。
もちろん、秋君も丸くなっています。
そんなリビングの様子を見ながら、主達は今夜のご飯のおかずを作り始めました。
学校の先生達の噂話、友達の事、流行のメイクや音楽や雑貨、芸能人の話・・・女の子の会話は話題が豊富で尽きません。
キッチンから漂ってくる香りにお腹を、4人の楽し気な会話に耳を刺激されつつも、先生組は心地よい微睡みに身をゆだねていました。




