その106 クリスマスの妖精・良い子へのプレゼント
■その106 クリスマスの妖精・良い子へのプレゼント■
カーテンの隙間から洩れてくる白い光は、朝日とは違う明るい帯になって、よく眠っている主の顔にかかりました。
「・・・んうぅぅ・・・」
枕元の目覚まし時計は、セットされたアラームの少し前。
その光に起こされた主は、少しボーっとしながら、ベッド横のカーテンをゆっくりと開けました。
「まぶしぃぃ・・・」
窓から入ってくる白い光に、主は窓の下の壁に逃げ込む様に寝っ転がりました。
まだ寝ぼけ眼の主の耳に、いつもは聞こえない、ドサッ・・・ドサッ・・・という聞きなれない音が聞こえます。
ソロソロと窓を開けると、そこは一面白銀の世界でした。
まだ朝日は昇っていません。
主を起こした光は、降り積もった雪が街灯で反射したものでした。
「あ、そうか、雪だ!」
主、一気に目が覚めました。
スッと背筋を伸ばして、大きく深呼吸。
「気持ちいい~」
冷たい空気が、肺の中を満たします。
主のお部屋は3階です。
下の庭では、梅吉さんと三鷹さんと笠原先生が、雪かきをしています。
白い世界の中に、青・オレンジ・黄色と、どれも蛍光色のスキーウエァーが良く目立っています。
「・・・やだ、すごい積もったんだ!」
何か違和感があるなぁ・・・と、主はよくよく見ていたら・・・正面のアパートの1階のドアが3分の1程しか見えていないことに気が付きました。
「私も手伝わなきゃ」
慌ててベッドから下りて着替えようとした主の視界に、真っ赤な花が入りました。
ベッド横の勉強机の真ん中、本屋さんから貰った小冊子の横に、それはありました。
それは緑色のガラスで出来ている、天使の姿をしたカエルの一輪挿し。
そこに、真っ赤な薔薇が一本。
「・・・これ」
一輪挿しの下に、メッセージカードを見つけました。
「三鷹さんの字」
赤い薔薇で縁取りされただけの、小さなクリスマスカード。
そこには見慣れた字で『Merry Christmas』とだけ書かれています。
赤い薔薇1本の花言葉は・・・
『一目ぼれ』
『あなたしかいません』
『あなたを愛しています』
『愛情』
主は一輪の薔薇を見つめながら、メッセージカードを胸に当てました。
「早く、大人になりたいな」
主は机の椅子に座ると、引き出しから一枚の名刺を取り出して、メッセージカードと一輪挿しの下に並べました。
ちょっと複雑な顔で、その2枚を見つめます。
『満月出版社』
横に置かれた小冊子と名刺に、同じ出版社の名前がありました。
「卒業したら大人って、ちょっと違うよね・・・
でも、今は、これが凄くうれしいな」
早く大人になって、三鷹さんの口からその言葉を聞きたいんですよね。
主は真っ赤な花弁をそっと触った指先で、自分の小さな唇をなぞりました。
その時、LINEが鳴りました。
慌ててLINEをチェックすると・・・
主、ニコニコ顔でスマートフォン片手に部屋を飛び出しました。
真っ暗なリビングの白川家側では、双子君達と佐伯君、秋君がテレビの前でグッスリ眠っています。
東条家のキッチンで、静か~に朝食の準備をしている桃華ちゃんは、その手を止めてスマートフォンを構えました。
三人の枕もとの目覚まし時計が鳴るまで、あと3分・・・
あと2分・・・
ここで、主がそ~っと、桃華ちゃんの横に現れました。
スマートフォンを構えています・
あと1分・・・
外で雪かきをしていた先生組が現れました。
皆、スマートフォンを構えています。
あと30秒・・・
両家の親も現れて、白川家のキッチンで待機しました。
5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・
ピヨピヨ・ピヨピヨ・ピヨピヨ・ピヨピヨ・・・
アラームは、ヒヨコの鳴き声です。
真っ先に起きたのは、秋君です。
秋君、双子君達と佐伯君の顔を舐めたり甘噛みして、起こしにかかります。
「わかったよー」
「起きるよー」
「うー・・・」
双子君達は、ゆっくり体を起こしましたが、佐伯君はまだ頑張って布団の中に潜り込みました。
「「あ!!」」
双子君達、枕元のプレゼントに気が付きました。
「佐伯君、佐伯君、起きて!」
「佐伯君、サンタさん来たよ!」
双子君達、容赦なく佐伯君が潜り込んだ布団をはぎ取って、外気に触れた瞬間きゅゅ!って丸まった大きな体を、二人でユッサユッサと揺らしました。
「ワンワン」
秋君は、丸出しになった足を甘噛みです。
「分かった、分かった・・・起きる」
その攻撃に降参した佐伯君は、ボサボサの頭をかきながら、体を起こしました。
「「ほら、サンタさん!」」
そんな佐伯君の目の前に、双子君達は綺麗にラッピングされたプレゼントを、勢いよく突き出しました。
「お、良かったじゃん。
サンタさん来たな」
佐伯君、大きな欠伸をしながら、両目をキラキラさせている双子君達の頭を、順番に撫でます。
「佐伯君にも、サンタさん来てるよ!」
はい!って、夏虎君が佐伯君の頭の上にあったプレゼントを渡しました。
「あ、こっちはアキ君だ」
冬龍君は、赤いリボンが付いた骨型のガムを、秋君に渡します。
秋君、大きく激しく尻尾を振って、ガムに噛みつきました。
「え、俺にサンタ?」
「いい子には、サンタさん来るんだよ!」
「早く開けようよ。
電気、付けるね」
戸惑う佐伯君に、ワクワクしながら夏龍君が言います。
冬龍君は、リビングの明かりを付けに走りました。
それを、キッチンから盗み見していた主達は、サッとしゃがんで隠れました。
双子君達は、ガサガサと丁寧にラッピングを剥がしていきます。
「あ!植物辞典!」
「僕は宇宙の辞典!」
冬龍君は植物辞典、夏虎君は宇宙辞典です。
もちろん、リサーチした物なので、二人とも大喜びでさっそくページを開いていきます。
「佐伯君は?」
「はやく開けてよ!」
そんな双子君達を見ていた佐伯君は、自分が手にしているプレゼントをどうしていいのか困っていました。
けれど、双子君達に急かされて、恐る恐るプレゼントを開けました。
「あ・・・」
「わぁー恐竜だ!」
「恐竜の辞典、カッコいいー!!
佐伯君、恐竜好き?」
「ああ、好きだ。
大きくて、強い奴が特に好きだな」
佐伯君はビックリしつつも、嬉しそうです。
「めくって、めくって。
早くー」
佐伯君へのプレゼントは、恐竜辞典でした。
双子君達にせがまれて、佐伯君は戸惑いながらページをめくります。
「「「わぁー!!!」」」
次々と出て来る色とりどりの恐竜に、三人の目がキラキラ輝いて、鼻息も荒くなりました。
そんな3人の様子を盗み見していた主達は、顔を見あってニコニコ喜んでいました。




