その102 転校生は問題児・彼の新しい友人達
■その102 転校生は問題児・彼の新しい友人達■
皆さんこんにちは。
桜雨ちゃんの傘の『カエル』です。
主達、3日後の月曜日から、2学期の学期末テストが始まります。
進学する生徒にとって、中間も大切なんですけれど、ラストチャンスがここ!
って言うぐらい、大切なテストなんです。
だから、皆、メチャクチャ真剣なので、主達は図書室でお勉強です。
主、桃華ちゃん、松橋さん、近藤先輩、田中さん、大森さん、委員長、佐伯君・・・と、今日はずいぶん大人数です。
図書室の一番奥、向かい合わせで8人座れるテーブルを、皆で占拠してます。
「そこは、Xを入れてから計算。
・・・あ、待って、計算自体が間違ってる。
九九の7の段、苦手?
じゃぁ、書き出しておけばいいよ」
委員長、佐伯君のノートの表紙裏に、スラスラと九九の一覧を書きました。
「これ、テストには持っていけないからね。
当日は、怪しい段を、分かる所から・・・例えば、7×1=7は分かるだろう?
次の7×2が分からなかったら、上の答えに7を足せばいいから。
7×2=14に、また7を足せば、7×3で21。
掛け算じゃなくて、足し算をしていけばいいんだよ。
時間ロスにはなるけど、計算間違えの率は減るだろう?
回答できるのが少ないなら、正確な方がいい。
テストがスタートしたら、問題の端に書き出して」
佐伯君、真面目に聞いてます。
転入してきてから、先生相手に暴れっぱなしで、クラスの皆にもちょっと距離を置かれていたんですけれど、今日は素直です。
というより、昨日、三鷹さんに剣道で肋骨にヒビを入れられてから、急に大人しくなりました。
『憑き物が落ちたよう』って、こんな感じなんでしょうか?
「駄目~、休憩しよう、休憩」
珍しく、大森さんも真面目に勉強をしていました。
けれど、集中力が切れたみたいです。
パイプ椅子の背もたれに寄りかかって、溶けちゃいそうです。
「そうね、10分休憩しましょう」
そんな大森さんを見て、田中さんが鞄からキャンディの袋を出しました。
大森さん、嬉しそうに姿勢を直しました。
「集中して勉強すると、脳がエネルギーを使うから、これでチャージするといいわ」
小袋に入ったキャンディは、色んな果物の味でした。
皆、好きな味を取って、口にほおり込みます。
「桜雨、どれもらう?・・・寝てる」
本当にちょっとの間でした。
休憩に入る前まで、主もちゃんと勉強していたんですけれどね。
気がぬけちゃいましたか?
主は数学の教科書とノートを枕にして、気持ちよさそうに寝ています。
「め、珍しいわ。
お家、忙しいの?
ク、クリスマスシーズンだから?」
主の肩に、桃華ちゃんがコートをかけてくれるのを見ながら、松橋さんが聞きました。
「テスト前と期間中は、家の事はお母さん達が頑張ってくれるんだけれど・・・。
昨日、張り切っちゃったのよね」
もちろん、主の隣が桃華ちゃんの席です。
桃華ちゃん、座るとスマートホンを触りながら、チラッと佐伯君を見ました。
「張り切っちゃったって?
もしかして、水島せん・・・」
「馬鹿なこと言わないでよ。
そんな事、私や兄さんや笠原先生が、許すわけないでしょう?!
第一、ほっぺにチュ。のレベルでも、修二叔父さんが半殺しにするわよ」
大森さんのワクワクした声を、桃華ちゃんが途中で不機嫌にぶった切りました。
「歓迎会よ、そこの転入生の。
うちの、新しい店子さんになったのよ」
「暴れすぎて、とうとう24時間監視か?
3年の方まで、君の噂は響いてるよ」
近藤先輩が、笑いながら言います。
「それもあるけれど・・・」
桃華ちゃんが言葉を濁して、佐伯君を見ました。
「親が行方不明になって、東条先生が・・・なんだ?ほら、あの・・・」
佐伯君、特に気にしていないようで、桃華ちゃんの言葉を続けますが・・・、肝心の単語が出てこないようです。
「未成年後見人」
「そう、それ」
「ああ、なるほど」
桃華ちゃんが肝心の単語をポン!と言うと、佐伯君が頷きました。
そして、大森さん以外が納得です。
「何、それ?」
「簡単に言うと、親の代わり」
美味しいの?とでも言いそうな大森さんに、田中さんが答えます。
「ふーん。
じゃあ、東条先生、佐伯君のお父さんなんだ」
「そうね」
「桜雨、水島先生が可愛がってる子が来るって、腕によりをかけて夕飯作ったし、朝ごはんとお弁当も。
まぁ、最近、学校の授業でしかまともに水島先生の顔を見るチャンスがなかったから、昨日の夕飯は久しぶりに一緒にご飯を食べられて、嬉しかったのもあるんでしょうけれど」
久しぶりに・・・は、桃華ちゃんも同じですよね。
笠原先生も、三鷹さんや梅吉さんと同じく忙しいですもんね。
僕はちゃんと気づいていましたよ、桃華ちゃんもウキウキしていたの。
「可愛がってる?
迷惑じゃないのか?」
その一言に、皆の視線が発言者の佐伯君に集まりました。
「迷惑って自覚、あったの?」
大森さん、直球です。
「短気なのは自覚してるし、俺が暴れれば周りが迷惑するのもわかってるんだけど・・・頭に血が上ると、我慢が効かなくなるし、暴れれば気持ちもスカッとする。
今までは、親が金で始末してたんだ」
「最悪」
田中さんも、直球ですね。
「はは、よく、陰口言われてた。
剣道は、暴れても怒られないから始めた」
佐伯君、田中さんの直球も、気にしていないようです。
「柔道は?
君ほどのガッツがあるのが、最近いなくてな」
近藤先輩、勉強会に居るのは、柔道部への引き抜きが目的ですか?
「柔道は素手でやるから、ついつい殴ったり蹴っ足りしちまうんで。
前の学校も、柔道の授業で怪我人出して、その後の授業は見学だった。
でも、剣道も、なかなか俺より強い奴が居なくてさ。
水島先生だけかな?
俺の剣を真っすぐ受けてくれて、しかも、俺より強いの」
ちょっと、嬉しそうです。
「あら、うちの兄さんは剣道なら水島先生より強いし、桜雨のお父さんも喧嘩は負け知らずよ。
あと、昨日会った理容室の店長さんと、そこの従業員さん達でしょ、あと・・・」
「あの商店街、そんなに強い人がたくさんいるのかい?」
話ながら指を折って数える桃華ちゃんに、近藤先輩が聞きました。
「だから、中途半端な不良が居ないんですよ。
あそこで悪さするなら、それこそ骨の4~5本折れるのは覚悟しないとですね」
ビシッ!っと、桃華ちゃんは佐伯君の肋骨を指さしました。
「えー、じゃあ、夜遊びしてても安心じゃん」
「それ、普通に怒られるから」
大森さんにも、桃華ちゃんはビシッ!っと突っ込みます。
「だから、暴れたくなったら、相手は沢山いるから。
選びたい放題よ。
まぁ、暫くは暴れたくても、ブレーキがかかるでしょうけど」
「そうだな」
桃華ちゃんは嫌味で言ったつもりでした。
けれど、佐伯君が素直に頷いたので、拍子抜けしました。




