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こどものへやと、約束事

「ここ、どこ・・・?」

”こどもたち”のうちの一人が不安そうに問いかけた。

その問いは、特定の誰かに向けたものではなく、広くて大きなこの館のどこか当てもないところに向けられたものだった。

何か言葉を発しないと、自分がどこか遠くに持っていかれてしまうので、何か発言をしておかないととも思われる空気の張り詰め方だった。

商人が去った後の玄関ホールは、やけに広く感じられ、そして一気に冬のような寒ささえ感じるほどだった。

今ここには、9人のこどもと全身黒で包まれた巨体の人物しかいない。

その巨体は、人からは大きくかけ離れているようだった。

身長は180センチを優に超えるほどの大きさで、顔は鉄色のマスクで覆われていて全く表情もわからない。

息をするたびに、マスクに取り付けられている呼吸器からシューシューと一定の音が聞こえる。

そしてこの巨体の人物のいちばんの特徴は、大きく競り出た背中だった。

一体何を背負っているのか、はたまた大きなコブでもできているのか、何か人を背負っているのか。

その理由は見当も付かないほど、大きく膨らんだ背中から誰もが目を離すことができない。

全身が黒の布で包まれいてるため、この巨体の人物の中身を想像すらできなかった。

そんな異様な黒の巨体ではあるが、こどもたちを攻撃したりする雰囲気は一抹も感じられなかった。

しかしこどもたちはキョロキョロと不安そうに辺りを見渡し、自分がなぜここに連れてこられたのか、ここはどこなのか、目の前にいるガルファという巨体の人物は何者なのか、できる限り情報を得ようとしているようだった。

そこに桃色の癖毛を揺らしながらミヒリエが走ってやってきた。

「お待たせしました〜。みんないらっしゃい。ガルファさん遅くなってごめんなさい。昨日までの雨が晴れて天気が良いものだから、思わず外でゆっくりしちゃってたの。」

黒の巨体とは正反対に、一瞬で喜怒哀楽が読み取れるほど表情が豊かな幼女が笑顔でこどもたちの輪に近づいた。

背中まである桃色の髪はくるくると癖が強いカールでされており、色白で透き通るような肌をしていた。

目は鮮やかな緑色で、まるで瑞々しい新緑を鏡で映したような、人を魅了する色だった。

背丈は黒の巨体の半分もなく、年はおそらく10歳くらいだろうか。

非常に幼い印象を受けるが、黒の巨体とは異なり、とても行為を感じられるような柔らかい体づくりをしていた。

元気なミヒリエの言葉に対して、こくり、とガルファと呼ばれたその巨体はゆっくりと頷き、

「では早速行こうか」

と、一言だけ呟いた。


「君たちには、ここで生活をしてもらうよ」

ガイファはいつものようにポツリとがらんどうな部屋の中に言葉を置くように呟いた。

その言葉は、こどもたちに向けられたものではなく、儀礼的に発せられた音の塊のようだった。

大きな玄関ホールを抜けて、長い廊下をゾロゾロと12人のこどもとガルファ、ミヒリエと共にたどり着いたその先には、丸い部屋だった。

天井も丸く作られており、青空がペンキで描かれていた。

この部屋はこどもたちの遊び場らしい。

積木やボール、カード、絵本、ぬいぐるみなど色とりどりのたくさんのおもちゃが置いてある。

まだ幼いこどもたちは、その輝かしいおもちゃを見て、目を輝かせている。

暖かい太陽のようなライトで優しく照らされているこの部屋は、それまで警戒心しか感じていなかった彼らを一気に安堵させたようだった。

興味津々とおもちゃを眺めるこどもたち。

その人間らしい表情を見て、ミヒリエは毎回嬉しくなるのだった。

この子たちは、きっとおもちゃで遊ぶことができるような状況にはいなかったはずだからだ。

だからこそ、せめてここにいる間だけでも幸せを感じて欲しい、と願った。


「夕方の六時に夕ご飯、朝は八時に起床して朝ご飯、昼は十二時。それ以外の時間は君たちの自由だ。何かわかないことがあれば、ここにいるミヒリエに聞くといい」

ガルファはそう事務的に答えて、その巨体をずるずると引きづりながら部屋を出で行った。

「皆さん、こんにちは。私はミヒリエ。ここの館でご主人のガルファさんと住んでいます。今日からここがみんなのお家です。ここには怖いものは何もありません。山には獣は出ないし、村の人で攻撃的な人はいません。夜には暖かいご飯があって、大きなお風呂でゆっくり体も洗えるよ。本もたくさんあるから好きなだけ読んでいいの。大きなお庭では自由にお花を摘んでいいし、川で水遊びもしていいわ。ここはとても平和な場所。誰もあなたたちを傷つけない。私もガルファさんもそんなことには興味はない。ゆっくりしていってね。」

ミヒリエは得意げに一息で言い切った。

こどもたちの視線を浴びるこの瞬間が、彼女は好きだった。

そして、こどもたちの表情が徐々に柔らかく、安心感を得ているのが手に取るように分かるのが本当に気持ちが良かった。

「ただ」

ミヒリエが一気に声のトーンを落として空気を切った。

「一つだけ約束をして欲しい。ガルファさんのお仕事部屋にだけは行ってはいけないよ。そこに入ってしまうと、二度とここにはいられなくなってしまうわ。」

いつもニコニコしているミヒリエの顔が真剣そのものになり、その豹変ぶりにこどもたちも思わず息を飲む。

先ほどまでの幼稚で元気な印象とは全く異なる、大人を超えた、ある意味でガルファを超えるような冷たさも感じるような忠告だった。

「話は以上!さあさ、きっと長旅だったんでしょう?ゆっくりくつろいでね。私は基本的に庭の手入れか厨房にいるから何かあったら気軽に声をかけてね」

そう言った時には、いつものように太陽が燦々と降り注ぐような笑顔に戻って話していた。

ふわふわとした癖が強い桃色の髪の毛を揺らしがなら、部屋を出ていった。

部屋には、9人のこどもとたくさんのおもちゃだけが取り残された。

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