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『チョコは卒業式でもいい?』
練習を終えて球場から出る際、確認したスマホにはよっちゃんからのメッセージが届いていた。
『?』
正直何を言っているのかわからない。
どこからチョコレートが出てきたのか、そこからわからない。
そのままの気持ちを送り返すと、電話がかかってきた。
「何、不満なの? いいじゃん。あげないなんて言ってないじゃん」
「……何の話?」
「え? バレンタインの義理チョコ」
「……」
「あほ。冗談に決まってんじゃん。あげるとも言ってないし」
「どこからが冗談なの!?」
上げてもないのに落とされる!
電話越しでも、学校にいる時と何も変わらない。
いつも通りの時間がここにはあった。
「だから渡し合いっこね。用意しときなさいよ」
「うん。マシュマロは嫌いだったよね」
「財布かカバンか、どっちが欲しいか当てといて」
「えっ」
そこで会話は終わった。電話は切られた。……。
「え? なーに?」
すぐに夕実へと電話する。呑気な声が帰ってきたけど、俺はそれどころじゃない。
「財布かカバンかなら、どっちの方がいいのかな」
夕実がよっちゃんと仲が良いとは思ってないけど、一応同じ女性ではある。
俺よりは答えに近いものをくれるだろう。
「……カバンだよ。多分。一応聞いてみるけど、くれるの?」
「ううん。あげないよ?」
「……私だけにしときなよ、それ」
そして電話は切られた。
……え? 何か、怒ってる?
まぁいいや。どっちにしろカバンが正解らしい。……選ぶ時間はあるかな?
「知りたいやつは俺に聞けー」
バレンタイン当日、ロッカーにはもらったチョコレートの数が張り出されていた。
上位は有名な、人気な選手で固められている。
四十位までしか書かれてなくて、俺たちのような末端は……十六位!?
俺、十六位!?
ドラ一の福山さんが三十五位なのに!?
「……」
「……」
「いや、俺のせいじゃないからね!?」
名前の横にあった数は四十六。俺を睨みつける山田くんと田川くんの名前はない。
「ちょ、ちょっとすみません……」
慌てて球団事務員に駆け寄る。
多分集計ミスだから。
高校の時でも二個だったのに、そして今回はよっちゃんからもらえてないのに、ありえない。
だから駆け寄った。
「おう、ルーキートップじゃないか。やるなぁ!」
「あの……間違いですよね?」
「うん。間違いと言われると間違いかもな。でも、数は間違ってないぞ?」
「……どういうことですか?」
「まぁまぁ。チョコは渡せないんだけど、手紙は渡せるから、それ見て納得してくれよ」
事務員は腰に下げたポーチから六通の手紙を取り出して、手渡ししてきた。
……六通?
そもそもなんで俺だけ?
「俺らは何通ですか!?」
「山田、田川は……一つだ。ほらよ」
俺には手紙。
でも二人には現物。
そしてやったーと喜ぶ二人は、包みを開けて固まっている。
そっと覗き見ると、残念賞と書かれた紙が同封されていた。
「なんだこれ……」
夜になって、渡された手紙を開封してみた。
四つは中に数字が書かれた紙が入れられていて、さらに意味がわからない。
一から四まで、とりあえず順番に開けてみる。
「よ……理……」
よ理義だ。
……写真を撮って、ありがとうというメッセージと一緒に、夕実に送りつけてみた。
すぐに既読がついて、どういたしましてと返ってきた。
残り二通のうち、装飾がキラキラした方は嫌な予感がしたので、白地なだけの手紙を開けてみた。
「余ったから……」
『結構余ったからあげる♡ 練習頑張ってね、野沢さんより』
小さな便箋と、少し大きな写真。
このご時世に写真? と思って見たら、数十個の包装紙と、笑顔の野沢さんが写っていた。
これにもツッコミは入れない。
……二人で四十五個。
嫌がらせ、なのかな……。
嫌がらせだよね……。
でもいいや。俺はよっちゃんからもらえたらそれでいい。
だからすることは一つ。
女子大生に人気のカバンを調べる。
そう決意して、一応最後の一通を開いてみると、本当に一般の人からの応援メッセージが書かれていた。
地区予選で負けた時から応援してます、頑張ってください。
そのメッセージに勇気付けられてホワイトデーに臨んだら、「冗談に決まってんじゃん!」と怒られてしまった……。