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目指せ約束の場所  作者: やまだ
13/24

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 二月十四日 倉田


 小さな包みを抱えた倉田がニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「三倍になりました」

 手にしたバレンタインの贈り物は、去年のゼロから三つへと大躍進。この調子で成績も三倍にしたいと語りながら開いた包みから出てきたのは、三種類のウイスキーボンボン。幼少期に誤って食べてしまった苦い思い出が忘れられないという倉田の瞳は憂いを帯びる。

「全部、乗り越えろってことですかね」

 ファンからの思わぬ檄に苦笑いを浮かべた倉田は、ゼロには何を掛けてもゼロだということに最後まで気付いていなかった。






毎朝部屋に届く新聞を読んでいた俺は、生まれて初めて新聞の中に電話番号を探していた。

オーナーだろうが球団社長だろうが、クビにされようが関係ない。

名誉毀損で訴えてやる。


「で? 実際何個だよ?」


「十二個」


「減ってるやん!大丈夫? 間違ってない? 十の次は十一やで?」


「垓まで数えられる」


「わかったわかった。残念だったな、来年は頑張れよ!!」


馴れ馴れしく肩を組んできた二人の同期は、減ったことを慰めてくれてるんだろうか。

実際は増えてる。

送ってくれた人が四倍に。

それに、二人が増えた数を合わせても、俺の方がもらってる。

そんなことはどうでもいい。

この記事が捏造だということを、よっちゃんが気付いてくれるかが問題だ。

いや、きっと気付いてくれる。

信頼関係が成り立っている。

だって今年の正月に、今年のチョコレートもらったし。

だから大丈夫。

ただ不安なだけ。


「おーい」


午前の練習から球場を移動する際に声をかけられた。

その声はどうも聞き覚えがあったけど、まさかキャンプ地にいるわけがない。

そう思って、振り向いてみた。


「はい、四つめ!」


立っていたのは夕実だった。

なんでここにいるんだという疑問も消し飛ぶ言葉と一緒に、袋を手渡してきた。


「……十三個めだよ」


「強がっちゃって! それともあれかな、数えたくもないのかな、去年みたいにさ!」


「あれ捏造だからね!?」


一番付き合い長い人がこれだよ!

信用も何もあったものじゃない!!


「っていうかなんでいるのさ」


「いやね、去年と同じように幼馴染にチョコをあげようと思って来たんだけど、正解だったよ。ちゃんと届けられたから」


「もらったよメッセージカードの順番めちゃくちゃだったよわざわざ分ける意味全然なかったよ!」


だから引きずらないでよ!

俺のせいじゃないし!

夕実のことだから、ここに来てなくても絶対ネットで見てるだろうから遊ばれるのはわかってたけど。

直接となると、めんどくさい……。


「今年は捨てないでね」


「去年も捨ててないよ。ありがとう」


大声で往来で話し続ける夕実に、とりあえず誤解を解く言葉を大声で返しておく。

一緒に歩いていたチームメイトがいないことから手遅れかもしれないが、最前は尽くす。

……夕実は結局、何をしに来たんだろう。






「はーい、倉田くん。お疲れ様」


紅白戦の登板を終えて、ベンチ裏で声をかけてきたのは野沢さん。

嫌な予感しかしないけど、ないがしろにもできなくて、お疲れっすと返しておいた。


「はいこれ。疲れには甘いものよ」


手渡してきたのはやっぱりチョコレート。

普通の板チョコだ。

……誰も見てないな?

キョロキョロ見回したけど、野沢さんも人前ではさすがに渡……しそうだよね。

一応だけど、誰もいない。


「四つも食べるんだから、開幕投手目指そっか」


「……十四個めです」


記事読んでるよ!

メディア関係者が騙されてるよ!?

なんで頬が引きつってるの!?


「そう。なら一個めと同じね」


「……何が?」


「あたしが聞きたいわよ。四十あっても一には満たないんでしょ? どれだけ好きなの? 満足できるまで買ったげよっか?」


「あれ捏造だからね!?毎年毎年ありがとうございます!」


もしかして信じてくれてるかも。

と馬鹿な期待を抱いていた夕実とは違って、最初から疑ってかかった野沢さんにはすぐさま対応ができた。

我ながら流暢だったと思う。

それでも、野沢さんの不満は解消されなかった。


「ならそれ、食べながら帰ってくれる?」


「なんで?」


「なんでも。あえて言うなら贖い? 断るなら、誰か一人が通り過ぎるまでずっと抱きついて」


「了解っす! あざーっす!!」


面倒事は流していくのに限る。

言葉を遮って話を終わらせ、頭を下げてその場を後にする。

別に、チョコレートを食べるくらい、何の違和感もないだろう。

高を括って了承する。

一刻も早く野沢さんから離れるのが最善だと判断した。


「はーい、よろしく~」


野沢さんは引き止めなかった。

流れるような俺の動きについてこれなかったらしい。

遠ざかる声に少しだけ優越感を覚えながら、その場を後にした。






夜も更けた頃。

そろそろ寝るかとアラームをセットした時に、メッセージが届いていることに気がついた。

差出人はよっちゃん。

時間は三十分前。

内容は、画像を送信しました。

そういえば弁明してなかったな、などと思いながら、何気なく開いて、固まった。


『もらえた?』


そして新着メッセージ。

まるで、既読がついた瞬間を狙っていたかのようなタイミングで届いた言葉に、俺は『はい』とだけしか返せなかった。

瞬時に既読がついて、着信があった。


「……もしもし」


「おひさ。元気?」


「……はい」


「そっか。よかったよかった」

穏やかな会話が続く。

俺はいつの間にか起立していて、直立不動で返事をしていた。

悪い事は何もしていない。


「あのさ、言っとくけど、怒ってないし」


「え……?」


「どうせゆーみんの悪ふざけでしょ?」


……よっちゃんから送られてきた画像は、野沢さんの呟き画面と、俺がホテルへと帰る時の写真だった。

『チョコ渡してくる!』という呟きが添えられた板チョコは、俺が手にした板チョコと同じもの。

要するに俺はハメられた。

野沢さんどれだけ怒ってたの!?


「ゆみ?」


「変わんないねあの子も。ずっとバカじゃん」


……もしかして、セーフ?

勝手に勘違いしてくれている?

夕実がよっちゃんに画像を送った、以外の経緯がまったくわからないけど、でも、夕実に全部なすりつけて勘違いで済む話なら……。


「そうだね」


「それに、生まれて初めてチョコもらって喜んでるあほの邪魔なんかするわけないじゃん」


「あれ捏造だからね!?」


済むわけないよね!

知ってたよ!!

いっちばんタチが悪い!

何がって、電話越しなのが一番タチが悪い!!

言葉だけで全部ごまかすのは難しい!


「何? なら実際は何個さ」


「……十四」


「何倍かわかる?」


「あれ捏造だからね!?」


何回言わせるんだ!

同じ高校通ってたし!

……成績は知らないけど。


「あたしはホワイトデー、期待しててもいいの?」


……でも、案外怒ってないのは本当なのかもしれない。

記事を話題にはしつつも、声色はずっと穏やかだし。

こんな問いかけが来たら、この為のフリだったみたいに思えてくる。


「……うん。次は財布にするよ」


「……あほ!」


だから俺も、焦らず騒がず落ち着きを見せて、答えを返す。

触れ合う時間が減って忘れてたけど、よっちゃんとの接し方を思い出しながら。

やっぱり楽しいな。

癒されるな。

この時間が続けばいいな。

そんなことを思いながら。


「その時は会いに行くから、あたしに選ばせてよ」


「……えっ」


ピロンという音と重なった俺の声が届いていたかどうか。

何が起きたのかわからない。

とりあえず画面を見つめると、メッセージアプリの画面が映っていた。

いつの間にか通話は終わっていた。

……前言撤回。

やっぱり、怒ってたんだね……。






結局、ホワイトデーは俺の遠征とよっちゃんの合宿コンクールが重なって会えなかった。

チョコレートは送ったけど、財布は送らなかった。

『ありがと』っていう淡白な返事には、俺はどう判断すれば良かったんだろう……。

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