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このドーム登板炎上したら誰ルートでもグッドエンドは無理っていう裏設定的な。
だから試合前に貯めた経験点全部振ったみたいな。
某所のレポ屋さんの真似してみましたが……ちょっと気持ち悪いですね(汗
『一回表 投手倉田
山崎 三球目右飛 BB 内角ストレート
田村 初球三邪飛 外角シュート
鈴木 見逃し三球三振 SF 外角低めカーブ』
『なんだこのピッチャー』
『ストレート半端じゃないな』
『これがドラ六!?』
『変化球に難ありじゃなかったのか落差あるカーブ全部低めに決まってるぞ』
『先発は田川かと思っていましたが、まさかの倉田でした。先々週見に行った時はまだスライダーが決まらず投げにくそうでしたが、今日投げてるストレートは今までと質が違います。それと、このカーブは何!? 初めて見た球です。まだ三球しか投げてませんが、この落差は大きな武器になりそうです』
『レポさんも見たことないって』
『二回表
ジョージ 三球目二ゴロ BF 外角低めカーブ
山本 初球右安 外角ストレート
本持 初球投犠打 内角ストレート
越智 五球目空三振 FBSB 外角チェンジアップ』
『三回表
元原 初球遊ゴロ 外角シュート
宇佐見 四球目空三振 SSB 外角チェンジアップ
山崎 三球三振 FSS 外角シュート見逃し三振!』
『四回表
田村 二球目左安 B 外角ストレート
鈴木 三球目二ゴロ進塁打 SB 外角ストレート
ジョージ 初球浅めの中飛 高めストレート
山本 二球目三ゴロ F 内角シュート』
『五回表
本持 八球目大きな右飛 BSSFBFF 内角ストレート
越智 四球目中安 BBF 外角シュート
元原 六球目遊併殺 SBBFF 内角シュート』
『六回表 投手倉田→田川』
『倉田ヤバかったな』
『さすがに最後はバテてた』
『カーブもヤバかったけどストレートが凄すぎる。歩幅広いし球持ちも良いしで全然捉えられてない。ヒットも全部当てただけの流し打ち』
『最後は疲れてバラついてたけどコントロールがエグい。無四球どころかボールスリーにすらなってない』
『スタミナは一年前から課題のままだな。去年もバテなきゃあのまま甲子園だったろ』
『一年前とは投げ方が全然違う』
『腕だけで投げてたからな。あのままだと遅かれ早かれ壊れてた』
『よくドラ六で取れたわ』
『フォーム改造とカーブ習得が今日の結果だから。完全な素材型だったろ。半年で成果出るのは予想外すぎるけど』
『お試しあるか?』
『ここは高卒ルーキー絶対に動員しない。来年のローテ争いだな、スタミナ次第』
『先発倉田は五回を被安打三の無失点。
皆さんがご覧になられた通り、伸びのあるストレート中心にブレーキの効いたカーブ、チェンジアップを交えたパワーピッチを披露してくれました。
今日を除いて三回倉田の投球を見てきましたが、今日みたいに打者を制圧するようなピッチャーではなかったのです。
これまでの倉田はツーシームで芯を外しチェンジアップでタイミングをずらす、良く言えば老獪な、悪く言えばルーキーらしからぬピッチングでした。
結果こそ伴っていましたが、なんだか小手先で抑えているように見えて、私はイケイケドンドンで小気味よく投げ込んでいく田川を評価していました。
しかし先発が田川でなく倉田、そして結果として完璧なピッチングを披露してくれたということは、コーチや監督の目には輝く原石のようなものが映っておりそれが正しかったということなのでしょう。
将来図は久米田のような中継ぎの駒だと思っていましたが、今日の内容は全盛期の澤上を彷彿させる内容です。まずは五回でバテないようなスタミナを身に付けて来年はローテ投手に、そして数年後にはエースとして君臨するような投手になってほしいと思います』
『ええの取ったわ!!』
……寝て起きて、夕実から送られてきたアドレスを踏んだらこんな感想にまみれていた。
二軍戦と言ってもテレビの力は大きい。
約一名はちょっと怖いけど、自分でも出来すぎなピッチングを多くの人が見てくれた。
そう考えると感慨深い。
ちなみにメールは夕実の一通だけ。
勝ち投手おめでとうとは送られてこなかった。
親からも来なかった。
誰からもこなかった。
やっぱり一軍でこそということなんだろうけど。
ゆっくりと起き上がって時計を確認すると、四時。
夕方の。
完全オフとはいえ、こんな生活を送っていいのかな。
誰も何も言わないからいいのかな。
「お? らっしゃいー! 昨日のヒーローお出ましですよー!」
何をすることもなく、ご飯を作るのも面倒だったから、俺は小料理屋へと向かった。
一番近い店がここだったから。
開いてるかどうかはわからなかったけど、引き戸を開けると、ジャージ姿で髪を下ろしたままの瑞季さんが出迎えてくれた。
「あ、入ってよかったですか?」
「もちろんですよ! 話し相手になってもらえるのなら大歓迎です!」
「でも仕込み中じゃ」
右手には包丁、左手には生のエビを持って歓迎してくれた瑞季さん。
どう見ても俺が邪魔しに来たようにしか見えない。
「これですか? これはあたし用です。さすがにまだ触らせてもらえませんし。髪もこのままではとてもじゃないけど出せないですよ!」
「……晩ご飯? 昼ご飯?」
「まかないというやつです!」
これは答えになってるのかな。
野球一筋でアルバイトをしていなかった俺にはわからない。
とにかく自分用のご飯を作っていることだけはわかったけど。
「あ。ならまだ開いてなかったんですよね」
「あれあれ。珍しく一人で来られたので、デートに誘われるかと思ってドキドキしてましたが、普通にお食事にいらしたんですか?」
「はぃあっ!? いやっ、その……」
半年は来れない。
最初横本さんに連れてもらった時そう思ったのは確かだ。
でも、先輩に誘われた時、ほとんどの確率でこの小料理屋に来ることになり、半年どころか、月に三回は必ず訪れていた。
ちなみに同期三人とはあの一回しかない。
「冗談ですよ! 開店前なのでメニューは用意できませんが、あたしのまかないでよければ提供しますよ!」
「え、瑞季さんの分は……」
「キミはあの時から気を遣いすぎです! 一人分も二人分も変わらないですし。大人のお姉さんであるあたしに身を委ねていてくださいね!」
言い方に問題があるよね。
瑞季さんは事あるごとにお姉さんをアピールしてくる。
というか俺が来るまではお盆を抱えて立ってるのに、俺が来たら俺の隣に座ってみんなと話を始める。
俺はほとんど喋らないのに。
若手選手にはそうしてあげてるのかな。
「はぁ」
「とは言っても簡単なものしか作れないですけどね。はい! どうぞ!」
……え? もうできたの? とは思ったものの、出されたものを見るとそりゃそうかと思えた。
かき揚げ、ナスと小さなエビの天ぷらが、塩とともにご飯の上に乗せられていた。
「見た目は不恰好ですけど」
「あ。いやそんな。ありがとうございます」
表情に出てたかな。慌てて謝って茶碗を持ち上げ、がつがつとかきこんだ。
……うん。普通に美味しい。
「でも大丈夫ですか? もうすぐ、寮の夕食だと思いますよ?」
「あの、小腹が、待てなくて」
「ふーん。ならついでに、夕食も食べますか?」
「……そうしようかな。そうします」
「はい決まりですね!」
何も考えずに来てしまったけど、もう動くのも面倒だし、よくわからないけど昨日の疲れは残ってるし、食べてしまおうかな。
ここって何時に開くのかな。
もしかして、開く時間まで瑞季さんと二人だったり……?
「まだまだ早い時間なので、待ち合わせをしましょう! 七時に駅前でいいですか?」
「駅前?」
「そうですよ! あたしも準備が要りますし。楽しみにしてくださいよ!」
ニコニコと微笑む瑞季さんは、そう言って油のスイッチを落とした。
なんで七時?
駅前?
ここで開店を待ってたらダメなのかな。
よくわからない。
でも聞けなかった。
ニコニコしてる瑞季さんに何か悪いような気がして。
結局俺は即席天丼を食べて、すぐに店を追い出されてしまった。
「お、はいはーい! ここですよ!」
寮を出るのは案外難しかった。
山田くん田川くんには特に見つかりたくなかったし、寮長が入り口の前で仁王立ちしてるなんて、漫画でも見たことがないのに。
「すみません。遅くなりました」
「些細なことですよ! では行きましょう!」
十五分遅れて到着した俺がキョロキョロしていると、見たことのない女の人から声をかけられた。
声と話し方が瑞季さんに似ているその人はブンブン腕を振って俺に近づいてくる。
よく見たら瑞季さんだった。
小料理屋で見ていた着物やさっき見たジャージ姿でもなく、濃い青の短いシャツワンピースを着た瑞季さんが立っていた。
髪の毛は下ろしたままで、顔もなんか、凄く大人っぽい。
「じゃーん! ここですよ!」
そんなお姉さんに連れてこられた場所は、イタリアンのレストランだった。
「……え?」
「あれ? 嫌いでしたか?」
「いや……好きっす。でも、なんで小料理屋が」
俺は小料理屋で食べるんだと思い続けていた。よくよく考えてみたら追い出された時点で違うよな。
「なんでって。お祝いだからですよ! 初勝利じゃないですか。知りませんでしたか?」
おめでとうございますー! と言って拍手してくれる瑞季さん。
なるほど。
初勝利のお祝いか。
とてもありがたいし嬉しい。
こんな、高卒ルーキードラ六が、二軍の試合でいっぱいいっぱいになりながら、それでも初めてなのは事実で。
「あり、……ぅ、ござい……」
「あれ? もしかし、な、くて、も……」
気づいたら涙が流れていた。
声にならなかった。
甲子園に出れなくても、親やよっちゃんから離れてしまっても出なかった涙なのに。
扉の前で、瑞季さんの前で止まらなくなってしまった。
しゃがむと起き上がれなくなる気がしたから、足だけは踏ん張っておく。
瑞季さんは何も言わなかった。
何もしてこなかった。
でも、それが冷たいとは微塵も思わなかった。
「落ち着きましたか?」
何分経ったのかわからないけど、とりあえず涙だけは止まった。
ティッシュとハンカチで顔を整える。
何も言わずに待っていた瑞季さんも、それを確認してから声をかけてくれた。
「あの。はい。すみません。なんかちょっと」
「大丈夫ですよ! 店でも、色んな方が結構泣かれてますし。あたしが対応したのは初めてですけどね!」
今のが対応と言えるのかどうか怪しいけど、恥ずかしすぎて何も考えられない俺にとっては、触れられない程度がちょうどよかった。
ありがとうございますと言って顔を上げた俺に、瑞季さんはスマホを見せつけてきた。
「貸してください」
言われるがままにスマホを取り出す俺。
それを奪うと、あっという間に操作を終わらせて俺に返してきた。
「はい、登録しておきましたよ!」
「……え?」
「あたしのIDです! 何かあったらいつでも言ってくださいね! 大人のあたしが、なんでも解決してあげますよ!」
ふふんと胸を張ってアピールする瑞季さんから目を逸らしてスマホを確認する。
メッセージアプリには、「みずき」という名前が追加さらていた。
……少しだけ冷静になれた気がした。
「あの。ありがとうございます。えっと……」
「では食べに行きましょう!」
意気揚々と俺の手を掴んで店に入る瑞季さん。
されるがままの俺だけど、もしかして、という考えが頭には浮かんでいた。
「あたしのおごりです! なーんでも食べてくださいよ!」
これってもしかして、浮気になる?
……誰にも言わないでおこう……。




