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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第5章 ワールドエンド・レベレーション編
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太陽系帝国の崩壊

 時は西暦2209年、ついに23世紀に突入する。「連合」の侵略を退けた地球人類は、その代償として35億の人命を失った。一度まとまりかけた世界は、再び世紀末の様相へ逆戻りしてしまった。

 そして例外なく連合の容赦無い攻撃を受けた「日本」も、すでに世紀末の波に飲まれていた。旧首都・東京の治安は崩れ、経済は崩壊した。国内は厭世観に満ち、人々は希望の見えない日々を過ごしている。


『我々は天皇陛下と共に! 世界平和を目指して・・・』

『2030年代の『世界秩序崩壊』、2199年の『宇宙戦争』、そして人類滅亡の危機・・・』

『35億の人類が犠牲となったあの悲劇から立ち上がるため、日本国民は力を合わせ・・・』


 上空を飛ぶ小型飛行船から、政府の宣伝放送が鳴り響く。地上には木造の住宅街と雑多な工業地帯が立ち並ぶ再建された「東京」の姿があった。

 不安を抱える国民の暴動を恐れた日本政府は、強権的な姿勢を強める様になっている。日本は徐々に独裁国家の様相を呈していく。宣伝放送を聞く国民たちの表情は、ますます暗くなっていった。


 話は変わり、我々の住む宇宙とは異なる宇宙に、魔法文明の絶頂を誇った「エルメランド」と呼ばれる惑星があった。その住民たちは滅びの後に連星「テラルス」へ渡り、さらにその星に3つの遺物を遺した。


 「エルメラーの本」「ティルフィングの剣」、そして「都市円盤ラスカント」である。

 その全ては、日本によって滅された・・・筈だった。


 だがもう1つ、亡国の女王の手によって日本国内に持ち込まれ、密かに目覚めの時を待つ遺物があった。

 それは・・・「プロムシューノのペンダント」

 この世界に唯一持ち込まれた「エルメランド」の遺産である。


 何の因果か、神の悪戯か、これは日本政府の監視から逃れ、人から人へと渡る。そして、新たな物語が始まる・・・。


〜〜〜


西暦2210年3月10日 火星 首都・水龍 第4区 教会


 連合による攻撃から10年、未だ復興の途上にある火星の首都「水龍」の一画に、プロテスタント系教会がある。再建されたその教会の礼拝堂に、車椅子に乗った女性が居た。

 10年が経過し、25歳の大人の女性となったイツキは、地球から届けられた一通の手紙を広げていた。


(イツキ、共に戦った仲間として、君にこの手紙を送る。もしかしたら、私はすでに死んでいるかもしれないから返信は不要だ。だが、君は必ず生きて、この真実を必ず歴史に残して欲しい)


 送り主は共に扶桑に乗った同志、東郷俊亨であった。軍を辞めて久しい彼は、ある大きな事件に関してその真実を残すため、遠く離れた火星に手紙を出していたのである。


(日本という国には異世界から齎された“魔法”という現象がある。特に君自身がそうである様に、生まれながらにして、特定の魔法を使うことに特化した人と似て異なる種族“亜人”の存在は、稀にこの世界を揺るがす様な事件を起こしてきた・・・)


 イツキはその手紙を無言のまま読み進める。


(魔力を持つ人口の割合は年々増加している。また、亜人種同士の交配によってその能力の幅は多様化しつつあり、そしてその存在は、確実に地球の歴史に影響を与えている。だが、そんなことは今考えれば些細なことだった・・・)


 そして手紙の内容は本題へと突入していく。事の始まりはおよそ1年前、2209年3月に遡る。


〜〜〜


西暦2209年3月25日 日本皇国 東京府 東京市


 世界中の大都市は「連合」による破壊行為で大打撃を受けた。宇宙に築かれた都市や基地もその多くが破壊され、食糧の生産にも事欠いている。

 それは「東京」も例外ではない。地球史上初の「宇宙戦争」終結から10年後、日本を含む世界各国は国家を挙げて復興事業を進めていた。しかし、十分な資源も人手も足りない現状、復興事業は行き詰まっている。そんな変わり果てた日本列島を旅する風変わりな一行がいた。

 旧首都高速6号に乗って、北から1台のピックアップトラックが走ってくる。その中には2人の男と1人の女が乗っていた。


「そろそろ『東京23区』に入るぞ、いや・・・今は『東京市』か」


 その中の1人、一際年上に見える男、東郷俊亨が車窓の外に見える荒川と、その向こう側にある東京の街並を見つめる。だがそこは、もう日本の首都ではなくなっていた。

 「宇宙戦争」の際に首都機能がつくば市へ疎開し、終戦後はそのまま正式に「つくば市遷都」が決定した。その瞬間「つくば市政」は終了して「政府直轄地」となり、東京都には新たに「東京府」が設置された。23の特別区は廃止されて「東京市」という統一自治体に再編されている。


「・・・東京だ! アハハ、10年ぶりの東京だ!」


 運転席でハンドルを握る少年・工藤ヨウジが、笑い声を上げながらアクセルを踏み込む。彼は10年ぶりに訪れる東京に興奮していた。車は新荒川橋を越え、一行は「東京市」へと入っていく。


「何・・・これ?」


 一行の紅一点・沢星羅は、木造の住宅と低層で無機質なアパート、そして雑多な町工場がごちゃ混ぜに立ち並ぶ、まるで歴史ドラマで見るような「東京」を目の当たりにして、言葉を失っていた。


 この風変わりな一行は、それぞれが宇宙戦争が終わった後に出会った。戦争で両親を失った工藤ヨウジは長野の親類に預けられて中学を卒業した後、高校に入らず、日本全国を回ることを思いついた。そして松本市で元皇国宇宙軍のエリートパイロットである東郷を仲間にした後、大津市のラーメン屋でバイトをしていた沢を加えた。

 その後、彼らは近畿、山陽・四国、九州、そして山陰を経由して北陸を回り、日本海沿いに東北を北上して北海道へ、そして太平洋側から東北地方を折り返し、ついに関東に入ったのである。だが、彼らを出迎えた東京は、彼らの記憶とはかけ離れた姿をしていた。


「これはまるで・・・『20世紀』の東京だ」

 

 東郷はぽつりと呟く。かつて「太陽系帝国」の首都として栄華を誇った「東京」の生活・文化水準は、20世紀後半のレベルまで後退していたのである。


「・・・東京に着いたけど、これからどうするの・・・ヨウジ?」

「・・・そうだなぁ」


 ヨウジは沢に問いかけられ、ある場所を思い浮かべる。


「・・・『谷中霊園』」

「霊園?」

「ああ、俺の両親がそこにいる」


 ヨウジは10年前の宇宙戦争で死んだ両親の墓参りに行くことを考えていた。


「・・・そっか、じゃあ行こうよ!」


 沢はヨウジの提案に賛同する。荒川を超えた一行を乗せた車は、高速を降りて日暮里駅へと向かう。

 ヨウジと一行の最年長である東郷は、戦争で家族を失った者同士であった。ヨウジは世界中で同時に行われた大空襲で両親や多くの友人を、東郷は皇国宇宙軍のエリートパイロットとして戦争に参加していたが、その最中に妻とまだ幼かった息子を失った。あの日、1億人であった日本人口の4割、4000万人がその命を失った。


 そして連合は地球だけでなく、太陽系各地の宇宙都市を破壊した。数多の宇宙都市の破壊は、宇宙移民の間に地球への帰還運動を発生させた。そして労働力を失った地球は人的資源確保のため、彼らの帰還を後押しした。一行の紅一点である沢も、そんな“引き揚げ者”の1人である。そして故郷の土地を踏んだ「宇宙生まれの地球人」たちは予期せぬ悪夢に直面することとなる。

 宇宙都市、小惑星コロニーの管理された環境の中で育った宇宙人類は、酷暑、寒冷、湿気、宇宙都市には存在しない病原体、自然災害など、地球ならではの環境に対応できないほど脆弱になっていたのだ。地球に降り立った途端、次々と体を壊す同志たちを見て、宇宙移民の地球への望郷の念は瞬く間に冷えていった。


 宇宙移民の帰還事業によって労働力の確保を目指していた地球側としては、またもや復興事業に大きくつまづくこととなった。

 沢の家族もそうして生まれ故郷である火星へ戻っていったのだが、彼女だけが地球に残ることを選んだ。そして大津でバイトをしながら生計を立てていた時、ヨウジと東郷の2人と出会い、彼らの旅に加わったのである。


〜〜〜


東京市千代田区 東京府警庁舎


 首都が東京都からつくば市に移転した後、「警視庁」はつくば市の治安維持を司る警察機関の名称となり、「東京都」は「東京府」へ変わった。同時に東京府には「東京府警」が設置されることとなる。

 かつての警視庁庁舎は連合の攻撃によって破壊されたため、新たな庁舎が千代田区に建設された。そしてその一画に「窓際部署」の粗末なオフィスがあった。そのオフィスの表札には「東京府警公安部公安第5課 未確認魔法対策係」と書かれている。

 窓際部署というだけあって、オフィスの中へ入ってみると、所属する刑事のほとんどは覇気なく、携帯をいじったり、筋トレをしたり、出勤時間だけが過ぎるのを待っている様だった。


 この「公安第5課」は魔法・亜人が関わる公安事件を担当する部署である。その中でもここ「未確認魔法対策係」は、極端に目撃証言や物証が少ない、過去に報告のない未確認魔法、言わば狂人の妄想扱いされた案件が集まる、まともに取り合うべきではない案件の処理窓口であった。


(ヴァチカンが250年以上にわたって秘匿していた秘密文書が、ある日、日本人の枢機卿が独断で、日本に対して極秘裏に公開した・・・)


 未確認魔法対策係に属する小羽春彦巡査は、そんな窓際部署から抜け出すため、手柄を立てることを虎視眈々と狙う野心家であった。彼のデスクには指名手配犯の顔写真が数多く貼り付けられている。だが彼は今、オカルトサイトを見つめながら、上層部から“押しつけられた”ある案件について考えていた。


(その枢機卿から送られた手紙の内容はこうだ! ・・・『ファティマ第3の預言』を阻止せよ!)


 数ヶ月前、「ヴァチカンの枢機卿」を名乗る人物が東京府警を訪れ、ある案件を持ち込んだ。枢機卿の身分は本物であったため東京府警は対応に困り、その案件を首都・つくば市に移転した「警察庁」に一度託したが、結局はまともに取り合って貰えなかった。対応に困った東京府警の上層部はこれを“困難案件のゴミ箱”へそのまま押しつけたのである。


「・・・おい、まだそんなの調べてるのか?」


 小羽の同僚である六谷は、紙パックジュースをストローで吸いながら、小羽のパソコン画面を覗き込む。


「いい加減、あのボケ老人の話なんか間に受けるなよ。係長なんか、完全にお前が遊んでると思ってる」


 この案件を間に受けているのは、この部署で小羽1人だけである。六谷は彼が係長から目をつけられていることを忠告した。


「いや、だけど・・・ヴァチカンが公式に認定した奇跡だぞ? それにこの預言がもたらされた1917年、数万人のポルトガル人が奇跡を目撃しているんだ」

「ただの集団幻覚だろ? 聖母降臨なんてあるものか」


 六谷は聖母も奇跡も、預言も信じていなかった。それは小羽を除く、他の刑事たちも同様である。


「それよりも、ずっと大事な案件があるだろ?」

「・・・」


 小羽は小さなため息をつきながらパソコン画面を閉じた。オフィスの中心にある電子ボードには、「エルメランドのペンダント」という言葉が記されていた。

話の内容のテーマというかイメージはハッピーエンドな「推し⚪︎子」です

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― 新着の感想 ―
お疲れ様です。 折角数々の困難を乗り越え栄華を極めた筈の日本がこんな姿になってしまうなんて……なんだか悲しいです。例の元女王あたりは嘲笑ってそうですが。いつか再び平和な時代に戻れるでしょうか。
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