表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
80/98

女王の凱旋

宇宙漂流連合 都市エリア


 制空権を奪った日本皇国宇宙軍の戦闘機が轟音を立てながら都市の上空を飛び回っている。市民たちは都市の下層へと殺到し、未知なる侵略者の進軍に恐れ慄いていた。


「・・・お母さん」

「・・・!」


 下層の避難区画では、幼い女児が震える母親の腕の中で不安そうな表情を浮かべている。母親は震えを止められないながらも、親として娘を守るため、その小さな体を強く抱きしめていた。


 上空では扶桑の艦載機「ゼロファイター」が、まだまだ出てくる保安局の警備艇を次々と撃ち落としていた。戦闘機部隊を率いる東郷中尉は地上戦力の支援のため、制空権の確保に勤しんでいる。


(・・・あの小さな子が、自分の命を捨てても俺たちをここまで連れてきてくれたんだ! 絶対にここで終わらせる!)


 東郷はイツキの自己犠牲を無駄にするまいと、この戦いに全てを賭ける覚悟を決めていた。




宇宙漂流連合 行政部


 そして宇宙漂流連合の中枢部は、扶桑から派遣されたわずか100人ほどの白兵戦部隊によって為す術もなく制圧される。残っていた保安局員も、警備用アンドロイドや警備用車両が無力と知るや、逃げ出す有様だった。


『こちら第1小隊、『連合議会議事堂』制圧完了(All clear)

『こちら第3小隊、『連合最高裁判所』制圧完了(All clear)


 議会と裁判所はすでに制圧されている。残すところは行政機関である「行政部」と「女王府」のみであった。行政部に突入した第2小隊は、何者にも阻まれることなくその内部を蹂躙していく。


「キャアアア!!」


 時折、逃げ遅れた役人たちが蜂の巣を突いた様なパニックを起こして飛び出し、そして逃げ惑うが、パワードスーツに身を包んだ兵士たちは、そんな雑兵を相手にすることなく、ただ目標の探索を続けていた。


『行政部1F、クリア!』


 すでに建物の1階は制圧された。しかし、最優先目標であるガンヴォの姿はない。第2小隊を率いる安藤少尉は、この行政部の最重要区画である「会議場」にたどり着いていた。


「・・・」


 天井には12種族の結束を示す「連合旗」と、12種族それぞれのエンブレムが掲示されている。中央には12種族の代表者が集まる円卓が設置されていた。

 当然ながら、その代表者たちは各々避難を終えており、この場には誰もいない。


『こちら越本! 執務室にも目標なし!』


 執務室の制圧を以て、行政部庁舎の制圧が完了した。安藤少尉は任務完了を扶桑へ伝達する。


「こちら第2小隊、『行政部』、制圧完了(All clear)


 これにて、宇宙漂流連合における行例、司法、立法の中心が皇国陸軍によって制圧された。残す対象は統治の象徴である「女王府」、そして女王の居宅である「宮殿」だけであった。




宇宙漂流連合 女王府・宮殿


 女王が直接民衆の前に姿を現す「公式参賀」が行われる「参賀の場」、今は人1人居ない広大なその広場を抜けて、日本皇国陸軍の兵士たち、そして民間から集まった亜人の志願兵たちが女王府に向かって進んでいく。上空を見れば、蝙蝠の翼を生やした吸血鬼たちが飛び回り、さらに箒に腰掛けた魔女の姿もあった。


「・・・突入!」


 クーデター時に破壊され、そのままになっていた正門から、異星の軍勢が傾れ込んでいく。ここに勤めていた役人たちはクーデター時に捕縛されており、庁舎内部は誰もいない状態であった。そんな状態の建物を制圧することなど訳もなく、皇国陸軍の兵士はあっと言う間に「宮殿」へ繋がる渡り廊下まで辿り着いた。


 本来ならば侵入者はもちろん、連合内部でもごく限られた人々しか出入りすることを許されない「神の聖域」である。


「・・・行くぞ!」


 その広大かつ荘厳な“渡り廊下”を、屈強な兵士たちが進む。そして目の前に最後の制圧目標へ繋がる巨大な扉が迫る。隊を率いる安藤少尉は興奮した心地で、部下たちと共にその扉へと迫っていく。

 だがその時、突如として空中に閃光と稲光が走った。


「グアアアッ!!」


 前方を進んでいた兵士たちのパワードスーツが砕け散り、吹き飛ばす。赤十字の腕章を付けた衛生員が咄嗟に駆け寄り、その兵士の状態を調べた。


「凄まじい熱傷です、すぐに処置が必要です!」


 吹き飛ばされた兵士たちは、稲光によって激しい電撃傷を負っていたのである。


「バリア・・・か!」


 安藤少尉は目の前に現れた“見えない壁”の正体を知る。前情報として、連合母艦の内部には存在しないと聞かされていた筈の「電磁バリア」が、彼らの目の前に現れたのだ。


「簡易ホバーを持って来い! 負傷者をすぐに扶桑のメディカルマシンへ!」


 安藤少尉の指示を受けて、衛生員たちが空中浮遊式タンカを用意する。彼らは負傷者を手際よくそのタンカに乗せると、急いで輸送艇が止まっている中央広場へ引き返して行った。

 その直後、事態を察知した吸血鬼族のプランヴィー、そして彼女の子供たちである桃真と葵の姉弟が空から降りてきた。


「・・・これは、何事なの?」


 突如として走った稲光は、彼らも空中から見えていた。プランヴィーは兵士たちに現在の状況を尋ねる。


「・・・電磁バリアです。この都市エリアには設置されていないと聞いていたが、どうやらこの『宮殿』だけは別だったらしい」


 電磁バリア、強力な粒子ビームによる原子破壊攻撃でしか破壊できないそれは、まさしく連合の科学力の象徴である絶対防御の見えざる盾である。

 ミサイルとレーザーが宇宙戦闘の主力であった地球にとって、それはあまりにも不条理な脅威であった。しかし、この連合母艦内部ではその使用が出来ない様になっていた。それは今回のように内部で反乱やクーデターが発生した際に、反乱勢力によって利用されない様にするためである。しかし、その原則から唯一外れた場所があった。それがここ、王族の社である聖域「宮殿」であった。


 さらに、この宮殿にはもう1つ、恐るべき防御システムが備わっていた。


「!!?」


 突如として周囲の柱から気味の悪い無数の触手が生えてきた。それらの先端にはカメラがあり、侵入者たちの周囲を蠢きながら、彼らの顔、網膜パターン、指紋の情報を勝手に収集していく。そしてそれらが登録されたデータと合致しないことが分かると、防御システムのAIは攻撃モードへと変貌する。

 カメラであった筈の触手の先端は、多種多様な形をした鋭利な刃物へと形を変えた。それらは侵入者たちに狙いを定めると、一斉に襲いかかってきた。


「うわあああ!!」


 兵士たちは間一髪で逃げ出した。吸血鬼のプランヴィーは魔法防壁で防御し、ミダス族の小羽ハルナは黄金の盾で身を覆い、それらの攻撃を弾き飛ばす。


「・・・この!!」


 安藤少尉は逃げながらも、襲いくる触手の1本に銃撃を食らわせた。その瞬間、触手は粉々に砕け散るが、瞬く間に繋ぎ合わさって元通りに戻ってしまう。


「これは・・・『ナノマシン』!?」


 安藤少尉は攻撃の正体を察知する。ナノ単位の大きさからなる極めて微小な機械の集合体が、彼らに襲いかかって来ていたのだ。故にいくら破壊しようとも決定打にはならず、再びナノマシン同士が結合して触手が再生してしまう。


「・・・退避! 退避! 攻撃が届かない場所まで逃げろ!」


 敵の親玉を間近にして、安藤少尉は逃亡を決断する。兵士たちは咄嗟に体を反転させて来た道を戻っていく。

 その間にも渡り廊下の柱から、さらにはその外側にある人工の樹木が姿を変え、鋭利な刃物の触手と化して四方八方から襲いかかってくる。魔法防壁に守られた亜人種たちはともかく、パワードスーツに身を包んでいるとは言え、生身の体が剥き出しな陸軍兵士たちは、それらを捌き切ることができない。


「うわああぁ!!」

「ギャアアアッ!!」


 そしてナノマシンの餌食になった者たちの断末魔が響き渡る。砕けたパワードスーツの破片と共に、大量の血飛沫が舞い散った。安藤少尉は思わず目を瞑ってしまうが、すぐに気を引き締め直して前を向く。今の彼らがすべきことは、この状況から一刻も早く脱することであった。



 ナノマシンの魔の手は上空にも及んでいた。上空にて待機していた魔女の亜里亜のところまで、先端が刃物と化した触手が襲いかかって来たのである。


「・・・うわっ!! 何!?」


 亜里亜はホウキから落ちかけながらも、咄嗟に展開した魔法防壁で攻撃を弾き、奴らの攻撃範囲から離脱する。

 気づけば、綺麗に手入れされていた宮殿の庭全てが、凶悪なナノマシンの触手と化していた。これこそが、宮殿に住まう者を守るための防衛システムの要であった。


「・・・!!」


 空を守る東郷中尉、そして龍に化けていた龍二は、上空からその異様と言うしかない光景を見て唖然としていた。




宮殿内部 コントロール室


 地球の軍勢が退散する様は、監視カメラによって宮殿の中に立て篭もる者たちに届けられていた。ガンヴォは宮殿の防御システムに対して為す術もない地球人たちを見て嘲笑う。


「フハハハ!! 無様なチキュウ人共め! これが我々の科学力だ! お前ら原始人などにこの私が捕らえられるものか!! 間もなく第5艦隊も帰ってくる! お前たちはもう終わりだ!」


 ガンヴォとその部下たちは最後の手札を切った。それは絶対不可侵の宮殿に、敵の体力が切れるまで篭り続けることだった。喉元まで迫ったとは言え、彼らは130億人の人民と無数の無人兵器が蠢く坩堝の中へ飛び込んだ孤立無縁の集団だ。その圧倒的な物量でじわじわ嬲れば、いずれ死に絶えることは明白であった。


 だが彼らは想像だにしていなかった。このたどり着けるかどうかも分からない無謀な旅路に、宮殿の防御システムを外部から解く唯一の鍵を連れて来ていたことに。




連合母艦 艦内


 扶桑に搭載されていたもう1隻の汎用輸送艇が都市エリアに向かっていた。その中には数名の皇国軍人と日本政府の役人、そして女王とその部下たちが乗り込んでいた。


「宮殿の防御システムを外部から解く唯一の鍵、それは女王陛下自身の生体データです。網膜、指紋、表皮血管の走行パターン・・・変装やホログラムでは偽造不可能なそれを、ナノマシンに読み取らせることで、宮殿の防御システムは停止します」


 ロトリーは猛威を振るう防御システムの解除方法を説明する。それはすなわち、女王の身を戦乱の真っ只中へ送り込むということに他ならない。同時に、宮殿の防御システムを止めることができれば、それは女王が健在であることの絶対的な証明となる。

 故に、女王ライザは危険を冒す覚悟を決めた。そして彼女は今、信頼できる部下たちと共に、故郷へと戻って来たのである。


 程なくして、女王を乗せた輸送艇は都市エリアへ到達する。ライザは窓から外を見下ろし、戦闘が続く故郷を見て感極まった表情を浮かべた。


「・・・宇宙漂流連合よ、私は帰ってきた!!」


 その言葉は、後に連合の歴史に刻まれる言葉となる。地球時間にしておよそ3ヶ月、130億の人民を統べる女王が、連合母艦への帰還を果たしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
思ったのですが、態々バリアを解除しなくても連合人民に女王の生存と真実を知らしめてやればクーデター側は窮地なのでは? 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ