最果ての星
2199年7月24日 扶桑 第2艦橋 戦闘指揮所
アステロイドベルトでの多大なタイムロスを超えて、扶桑は木星および土星軌道を通過し、この時代でもなお人類未到の領域に突入した。天王星軌道と海王星軌道を超えて、ついに「エッジワース・カイパーベルト」へ辿り着いたのだ。
この時代、冥王星はエッジワース・カイパーベルトに漂う巨大なチリ雲に覆われ、観測不能となっていた。扶桑は未知のチリ雲に突入する直前、最終の作戦会議を開催していた。
「地球滅亡まで残り1時間と少し・・・そのリミットを過ぎれば、宇宙漂流連合による攻撃が始まります。もはや、回りくどい策を弄している暇はありません」
艦長の芝蔵大佐は戦闘指揮所に幹部を集めていた。同時に彼の言葉は全艦、ならびにライ・アルマにもアナウンスされ、この行軍に同行した者たち全てに届けられていた。
「この先は生きるか死ぬか・・・それだけです。人類の命運を賭けた最大の大博打、みなさん・・・ついてきてくれますか?」
芝蔵大佐は全ての乗組員に命をかける覚悟を問いかける。その言葉に異議を唱える者など、この艦にはいなかった。
火星から乗ってきた志願兵のイツキ、日本政府の役人として乗艦した庭月野、妻子の敵討のために乗り込んだ東郷、さらには連合女王のライザ、女王府総裁のロトリー、女王の侍従としてこの旅にも同行したクーラ・・・運命に導かれて、双方の陣営からこの戦争で人生を大きく変えた者たちが集まっている。彼らは全員、この戦いを終わらせるため、命を捧げる覚悟を決めていた。
「・・・フフフ、愚問でしたね」
芝蔵大佐はそういうと小さなため息をついた。直後、1人の皇国宇宙軍兵士が状況報告に訪れる。
「報告します! ライ・アルマの乗員を全員扶桑へ移乗させ、同船の操舵を本艦からの遠隔操縦に切り替えました!」
「・・・よし、では行きましょうか・・・冥王星へ!」
準備は整った。芝蔵大佐は艦内通信を使って第1艦橋の航海班へ指示を出す。
「これより予定通り、我々は冥王星へ向かう。無人としたライ・アルマにバリアを展開させて盾とし、宇宙漂流連合の母艦へ突撃する! もはや猶予もなく、時間をかけた作戦は実行できない。この一点突破に全てを賭ける・・・!」
ついに轟沈覚悟の特攻作戦が始動する。無人と化したライ・アルマに牽引され、扶桑はチリ雲の中へ飛び込んでいった。
第1艦橋
航海班の根城である第1艦橋では、皇国宇宙軍の隊員のほか、ライ・アルマから乗り込んだ女王府専属の操縦士たちが集まり、2隻の船の舵をとっていた。そしてチリ雲に飛び込んだ瞬間、窓の外は一寸先も見えない靄に覆われた。音が聞こえぬ静寂な宇宙のはずなのに、耳をすませば雷鳴や水音が聞こえてくるかの様であった。
さらにチリ雲は太陽光や宇宙からの光を反射して、多種多様に顔を変える。上を見上げると、まるで水面の下を泳いでいるかの様な波紋が広がっていた。
「・・・」
航海班の兵士たちは、無言のままその光景を見つめていた。未知なる世界「エッジワース・カイパーベルト」、それはまさしく宇宙の神秘であった。
『冥王星の重力圏突入、冥王星近傍に巨大物体をレーダーで確認。到着まであと30分45秒』
チリ雲がますます濃くなっていく。それは周囲の光を乱反射し、虹のような輝きを放って扶桑を覆い尽くす。そしてライ・アルマに導かれるまま、扶桑はついにチリ雲を抜け、再び開かれた宇宙空間へ飛び出した。
航海班の兵士たちは一斉に前方の窓へ視線を送る。扶桑の行く先には、白い氷で覆われた小さな星が浮かんでいた。
「あれが・・・『冥王星』・・・・」
航海長の遠藤中佐はぽつりと呟く。地球人類史上最遠の旅路の果て、飛行戦艦「扶桑」はついに太陽系最果ての象徴とも言うべき星、「冥王星」に到達した。
「冥王星」・・・1930年にアメリカ人の天文学者であるクライド・トンボーによって発見され、以降、2006年に準惑星に分類されるまでは「第9惑星」に数えられ、長らく太陽系最果ての象徴として親しまれてきた星である。
「第9惑星」として20世紀よりあらゆるサイエンスフィクション作品で登場し、2015年にアメリカの探査機「ニュー・ホライズンズ」が到達するまでは、明瞭な写真すら存在しなかったことから、人々の間では最果ての謎の星というイメージで見られてきた。そして2199年、人類はついにこの星へ辿り着いたのである。
扶桑 兵士待機区画
扶桑のウェルドックには、日本皇国陸軍と民間志願兵からなる白兵戦要員が待機していた。彼らの任務は、連合母艦に突入した扶桑から母艦内部へ侵入し、敵を排除しつつ、女王が帰還するための道筋を作ることである。
その中には、日本政府からの依頼を受けて参戦した亜人種もいた。日本で唯一の純血吸血鬼であるプランヴィ=ツェペーシュとその子供たち、天翔ける龍に変身する能力を持つ「龍神族」の血を引く青年、さらには黄金を生み出し操る力を持つ女、多種多様な人々が集まっている。
その中に、火星最強の魔女である亜里亜と、幸運を操る力を持つイツキの姿があった。
『第1艦橋から全艦へ! 本艦は冥王星に到達した!』
冥王星到達の一報が全乗組員に届けられる。その単語を聞いて、吸血鬼族の青年である月神葵は、はるか昔の記憶を思い出していた。
「『冥王星』か・・・」
「・・・どうしたんですか? 月神さん」
彼と行動を共にしていた龍神族の血を引く青年、葉瀬名龍二は葵の感情の機微を察知して問いかける。
「いや、80年くらい前に教え子と、それこそ照さん、宿屋くんたちと『冥王星』の話をしましてね。まさか、本当に来ることになるとは思いもしなかった・・・」
葵は80年前に教師として勤めた高校での思い出を語る。後に龍二の妻となる門真照をはじめ、宿屋奏太と小羽星太郎、彼らと作った天文部の記憶を思い出していた。何の因果か、その子孫たちは全員この艦に乗り込んでいる。
『本艦は今より、宇宙漂流連合への突入を開始する!』
チリ雲を超えた勢いのまま、扶桑は連合母艦へ舵をとる。
第1艦橋
第1艦橋のメインスクリーンには、冥王星の近傍に停泊する巨大物体が映し出される。全長はおよそ1200キロメートル、形状は平たい半球の様な形をしていた。扶桑は宇宙漂流連合の母艦へ、ついに辿り着いたのだ。周囲には巡視艇と思われる小型の宇宙艦艇が見える。
「・・・行くぞ!」
操縦桿を握る松岡は、巨大船に向けて進路を取る。隣に座る航海長の遠藤中佐は思わず生唾を呑み込んだ。
そして扶桑とライ・アルマの接近を察知した巡視艇のAIは、母艦内部の軍司令部へ緊急連絡を送る。直後、母艦の側面にある巨大ゲートが開く。その内部からは太陽系の各天体を襲撃したものと同じ宇宙艦が飛び出してきた。
「・・・第5艦隊!」
女王府総裁のロトリーは目を見開く。宇宙漂流連合軍が擁する6つの艦隊、すなわち女王府親衛隊と第1〜5までのナンバー艦隊のうち、太陽系侵攻に参加していなかった「第5艦隊」が姿を現したのだ。
第5艦隊の軍艦は、女王が乗る扶桑に向かって容赦なく砲撃を繰り出してくる。だがライ・アルマのバリアが盾となり、扶桑への直撃を防いでいた。
「・・・よし! このまま行ける!」
航海長の遠藤中佐は手応えを感じていた。だが、敵の粒子ビームはライ・アルマのバリアを確実に削りとっていた。そして母艦が間近に迫った時、ライ・アルマは何もない筈の虚空に現れた透明な壁に激突した。
「・・・しまった! バリアか!!」
侵入者を防ぐ最後の盾、宇宙漂流連合軍の軍艦が有するものとは出力が段違いのバリアが、扶桑の侵入を阻む。ライ・アルマのバリアと母艦のバリアが衝突したことで稲妻が走り、周囲の温度が急激に上昇していく。
「主砲発射!」
だが今までの戦いから、連合のバリアは扶桑の中性粒子ビームで破れることがわかっている。砲雷長の伊東中佐は砲術士に主砲を発射する様に指示を出した。
「!!?」
だがその時、扶桑の前方に膨大な光が現れた。船員たちが視線を向けると、母艦の側面に位置する巨大な突起物が輝きを放ち始めたのが見えた。
「・・・あれは!?」
誰かの言葉が聞こえた。その直後、輝きは巨大な光の筋となって扶桑とライ・アルマに向かって襲いかかってきた。
「うわああああ!!」
それは宇宙漂流連合母艦の最終防衛兵器、母艦に設置された巨大ビーム砲であった。ビームの直撃を受けたライ・アルマは粉々に吹き飛ばされ、扶桑にも攻撃の影響は及んだ。扶桑の外壁は損傷し、あらゆる砲門が使用不能となる。さらに再構築されたバリアによって、扶桑は勢いよく弾き飛ばされてしまったのだ。
「・・・!!」
扶桑は不規則に回転しながら飛んでいく。飛ばされた方向、扶桑の背後には冥王星の大地が迫っていた。このままでは冥王星に叩きつけられて宇宙の藻屑だ。
「姿勢制御装置緊急始動! 体勢を立て直せ! 松岡!」
「やってるよ!!」
航海長の遠藤中佐は操縦士である松岡に指示を飛ばす。当然ながら、彼も扶桑を安定させるために死力を尽くしていた。
扶桑の側面に設置された姿勢制御用のロケットノズルが開き、冥王星に向かって噴出される。それによって落下速度は低下したが、依然として冥王星の大地は迫っていた。
「・・・海だ!」
その時、航海員の1人が、冥王星の大地の裂け目に液体があるのに気づく。冥王星の氷の大地の地下にある海の一部が、地表に露出していたのだ。
「うおおおお!」
松岡は扶桑を不時着させるため、その水面に向かって舵を切る。不安定な軌道を描きながらも、松岡は扶桑をその場所へ誘導することに成功し、扶桑は巨大な水柱を立てながら、艦首から冥王星の海の中へ飛び込んだのである。
〜〜〜
月軌道上
地球の周囲には、宇宙漂流連合軍の艦隊が展開していた。母艦のクーデター政権が提示した降伏のリミットまで残りわずか、宇宙漂流連合軍の士官たちはその時を待ち続けていた。
「チキュウからの返答なし・・・時間です」
しかし、運命の時間を迎えても、地球側から降伏の一報は届かなかった。旗艦である宇宙戦艦「グリンディッツ」にて、艦隊の総指揮をとるカリアン人のカボン・ヤ・デフール中将は、邪悪な笑みを浮かべる。
「・・・チキュウ人は自ら滅びの道を選んだか、全く・・・愚かな原始種族だ。だがまあいい、これで邪魔な先住民を一掃することができる」
カボンは右手を振り上げ、目の前にある“蒼き惑星”を指差した。
「全艦、チキュウへ進軍開始! 親愛なる女王陛下を謀殺した仇敵を滅ぼし、新たな故郷を手にいれるのだ!」
その言葉を合図にして、全ての無人戦闘艦が一斉に動き出した。地球史上最大の厄災が、ついに降り掛かろうとしていた。
〜〜〜
地球 アメリカ合衆国 バージニア州ワーリントン郡 国防総省本庁舎
特徴的な五角形の巨大建造物、通称「ペンタゴン」と呼ばれるアメリカ国防総省本庁舎には、人工衛星が捉えた宇宙漂流連合軍の再接近を受けて、慌ただしく動き出していた。
「・・・彼らは、どう出るでしょうか?」
「・・・」
宇宙軍作戦部長のジョージ=トンプソン中将は、宇宙軍省長官であるジーナ=ローゼンバーグに問いかける。ジーナは不安そうな瞳で、司令室のメインスクリーンに投影されている、人工衛星のレーダーが探知した敵影の群れを見つめていた。
宇宙漂流連合が最初に火星を襲撃した後、アメリカ合衆国政府は火星の首都「水龍」に駐在する合衆国総領事、ラインズ・R・ウェルベックを介して、カリアンとある盟約を交わしていた。それは「太陽系帝国」、つまり「日本」について有益な情報を提供する代わりに、宇宙漂流連合と地球の間に正式な友好条約が結ばれた時、カリアンはアメリカを優遇するように計らうというものだった。
敵同士とはいえ、あくまでも融和を望んでいた宇宙漂流連合との全面戦争が予期できなかった時の話であり、アメリカ政府は仮想敵国であった日本の最終兵器「扶桑」の存在を明かしたのである。アメリカ政府は最終的に、宇宙漂流連合を国連の加盟国とし、共に扶桑の放棄を日本政府へ迫る派閥となろうと考えていた。
だが、連合内部でのクーデターという不測の事態が発生し、宇宙漂流連合は方針をがらりと変えて、地球人類に対して滅びるか全員地球を出ていくかの2択を迫ってきた。カリアンとアメリカ政府の間に密かに築かれていたホットラインも同時に途絶え、おそらくは密約など無かったことにされているだろう。
「・・・東海岸上空に進路をとる敵艦確認! ワシントンD.CよりDEFCON1発令!!」
ペンタゴンに緊張が走る。アメリカ国内における戦争への準備態勢の規定である「DEFCON」、5段階に分けられるその中で、最高度の戦争準備を示す「DEFCON1」が、アメリカの歴史上初めて発令された。それは核兵器の即時使用準備を含むものであった。
「各地空軍基地より、B-5爆撃機出撃準備」
「了解、各種戦闘機の出撃準備も随時進行中」
「ロスの攻撃隊、準備完了」
「マイアミとNYも完了、直ちに出撃します」
核弾頭を搭載した爆撃機の出撃準備、さらに戦闘機の出撃命令が下される。それはペンタゴンからアメリカ各地の空軍基地へ直ちに伝達された。しかし、核兵器が敵のバリアに対して無効であることは、先日の「月の戦い」で判明している。だが、アメリカにはさらなる切り札が残されていた。
「ネリス試験訓練場へ連絡、例の試験兵器を実戦投入する!」
通常攻撃の用意を進める中で、宇宙軍省長官のジーナはその切り札を使うことを決める。ネリス試験訓練場・ホーミー空港、通称「エリア51」と呼ばれるその施設には、アメリカ政府が密かに開発を進めていたある実験兵器の試作品があった。
ネバダ州 ネリス試験訓練場 ホーミー空港
アメリカ空軍ネリス試験訓練場・ホーミー空港、同じアメリカ空軍の軍用機ですら、その空域への侵入は厳しく制限されるそこはかつて「エリア51」と呼ばれ、2013年に情報公開されるまで、アメリカ政府が公式にその存在を認めなかった場所である。
その秘匿性の高さから、UFOや宇宙人との関連や、非公開の兵器開発を行なっていると噂される場所であり、尚且つそれはこの時代になっても変わらず、またそれは概ね事実であるのだ。
「敵のバリアの構造や原理は未だ不明だが、単なる膨大な熱エネルギーの衝突では破ることが出来ない。だがその一方で、一点に集中した原子崩壊攻撃、すなわち強力な粒子ビームが極めて有効であることが判明している・・・故に」
そして現在のホーミー空港には、21世紀には無かったはずの巨大な「砲塔」が聳えていた。その地下には地上から見えない様に円形の「シンクロトロン」、すなわち加速器が建設されている。
つまりこの砲塔の正体は「荷電粒子砲」であった。日本が有する遥か未来の兵器「扶桑」に対抗して開発された実験兵器なのである。元々、アメリカはレーガン大統領時代に荷電粒子砲の研究を盛んに行なっており、それが扶桑の登場によって21世紀半ばに復活したのだ。
まだ艦艇や宇宙航行船に搭載できるほどの小型化には成功していないものの、すでに発射実験は終えており、固定砲台としてならば問題なく使用できる状況になっていた。
「こちらホーミー空港、荷電粒子砲稼働完了!」
『了解、直ちに敵の位置情報を送る』
ペンタゴンからエリア51の指令室へ、北アメリカ大陸へ接近する宇宙漂流連合軍の位置情報が送られる。連合の軍艦はすでにアメリカ・カナダ・メキシコの主要都市に向けて、それぞれ進路をとっていた。
『最優先防衛対象は首都ワシントンD.C、現在ワシントン上空に3隻の宇宙戦闘艦が接近中』
『サンフランシスコではすでに戦闘開始』
『ロサンゼルスでも攻撃が開始された模様!』
だが、切り札の砲台はたったの1つ。無数の宇宙戦闘艦が襲来する最中、他の大都市ではすでにアメリカ空軍が戦闘を開始していた。アメリカだけではなく、カナダやメキシコの大都市も、敵の触手が伸びている。
「加速器稼働良好、荷電粒子砲発射まであと16秒!」
「目標補足、管制装置異常なし」
真空の宇宙空間とは異なり、地球の大気中で粒子ビームを放つと、大気そのものが分厚い壁となり、ある一定距離以降は一気に威力が減衰してしまう。故にシビアな射程距離とタイミングの調整が求められる。
「発射準備完了! ロックオン!」
「発射!」
荷電粒子砲専用の火器管制装置が目標を捉える。司令官の号令と共に砲術士が発射ボタンを押し込んだ。直後、加速器から原子核と電子が混ぜ合わされた中性粒子ビームが発射され、それらは一直線にワシントン上空の敵艦へと飛んでいった。
「・・・攻撃効果確認、命中!」
「オオッ!」
アメリカが自力開発した荷電粒子砲は、初の実戦投入で見事目標を捉えた。指令室は思わず歓声に包まれる。
「次の目標へ急げ!」
砲身の冷却が開始され、同時に膨大な電力が加速器へ投じられる。2隻目の目標に向かって、砲塔がゆっくり動き出した。
〜〜〜
キリバス共和国の遥か上空 宇宙戦艦「グリンディッツ」
無数の無人戦闘艦と共に地球の大気圏に侵入した宇宙戦艦「グリンディッツ」は、太平洋の島嶼国家キリバス共和国の上空5万メートルに停泊していた。
「地上から粒子ビームの発射を確認、1隻やられました」
「発射位置を特定します」
そしてその艦に乗る兵士たちは、アメリカから発射された中性粒子ビーム攻撃を察知していた。総司令官を務めるカボン中将は新たな命令を下す。
「チキュウ人の人工衛星を全て破壊し、奴らの目を奪うのだ。そして発射位置を特定し次第、そこへ無人戦闘機一個攻撃隊を向かわせろ」
不穏な兆候は早めに摘み取る。ガボンの命令を受けて、宇宙空母から無数の無人戦闘機が瞬く間に飛び立って行った。
〜〜〜
アメリカ合衆国 カリフォルニア州 ロサンゼルス
複数の宇宙戦闘艦、そして無数の無人戦闘機から、容赦のない無差別空襲が繰り広げられ、それは西海岸最大の都市である「ロサンゼルス」を次々と破壊していく。
時同じくして、付近の基地から離陸した空軍および海兵隊によって編成された飛行隊が現れる。当然ながら、連合と地球の間に隔たる科学力の差については、皆の知るところとなっており、死地への行軍に近いフライトに参加するパイロットたちの顔は、一様に暗く、険しい。
「月の戦い」が大敗に終わった時点で、世界各国の軍隊では除隊や脱走する兵士が相次いでおり、アメリカ軍でさえ出撃に応じたパイロットは本来の人員の3分の1にも満たない。それも自ら名乗りをあげた予備役の老兵を集めての結果である。この空に繰り出した者たちは、全てが死の覚悟を決めた者たちなのだ。
「目標発見・・・!」
隊長機を操るパイロットは目標を目視で確認したことを管制塔へ伝える。パイロットたちは唖然とした様子で敵の「宇宙軍艦」の姿を見ていた。
『何だこれは・・・』
パイロットの1人が正直な感想を漏らす。それは全長600メートルを超え、あの扶桑すら遥かに超える大きさの宇宙船であった。それが5隻もロサンゼルスの上空を闊歩し、地上に向かって破壊の雨を降らせていた。
「・・・戦闘準備! 第51飛行隊、攻撃を開始する!」
隊長機のパイロットは唖然とする部下たちに戦闘開始命令を下す。パイロットたちは酸素マスクを装着した。彼らはミサイルの発射装置に手をかける。各機には中距離空対空ミサイルと短距離空対空ミサイルが装備されていた。
「エコー1・・・発射!」
『エコー3・・・発射!』
『エコー7・・・発射!』
符丁のコールと共に、中距離空対空ミサイルが群れになって飛んで行く。横一列に並ぶそれらはマッハ7の飛行速度で敵の宇宙軍艦へと向かって行った。
ド ドン ドン ド ド ドン!!
だがそれらは敵艦に到達する前に爆発してしまう。同時に敵艦を覆う透明な膜が姿を現した。
「バリアか!!」
噂に聞く絶対防御の盾、扶桑にしか破れなかったバリアが、アメリカ軍の攻撃を阻む。直後、攻撃に反応した敵艦のAIが近接防御システムを始動させる。艦の側面から一筋のレーザーが放たれ、それはまるでライトセーバーの様に迫り来る飛行隊に向かって振り下ろされ、一斉に10機近い戦闘機を切断、撃墜してしまった。
「・・・!!」
隊長機を操るパイロットは絶句する。程なくして攻撃隊全滅の知らせが地上の基地へと届けられた。
〜〜〜
アメリカ合衆国 バージニア州ワーリントン郡 国防総省本庁舎
出撃した戦闘機部隊は次々と全滅し、地上の軍用基地も核兵器を積んで出撃準備を整えていた爆撃機ごと破壊された。さらに人工衛星が攻撃されたことで、地球上の衛星通信網とGPSが同時多発的に不通となり、アメリカ国内、ひいては世界が大混乱に陥る。それはここアメリカ国防総省も同じであった。
「ラングレー空軍基地、壊滅!」
「フランシス E.ワーレン空軍基地、通信不能!」
「衛星がやられました! GPSも使用不可能!」
各地からの被害報告が続々と届けられる。そして彼らをさらなる絶望へと突き落とす報告が届けられた。
「エリア51との通信ロスト!」
「・・・なっ!」
敵に対して唯一有効な兵器、それを有する基地と音信不通となった。宇宙軍省長官であるジーナは絶句する。それだけではない。敵の魔の手はすでにペンタゴンにも迫っていた。
「対空レーダーに無数の未確認飛行物体捕捉! 敵の戦闘機と思われます!」
「!! ・・・総員、直ちに地下シェルターへ退避!」
通信員が敵機接近の一報を伝える。基地内の職員がシェルターへの避難を開始する。アメリカの軍事を司る象徴「ペンタゴン」が破壊されたのは、そのわずか10分後のことであった。




