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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
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アステロイドベルト攻防戦 弍

扶桑 第2艦橋 戦闘指揮所(CIC)


 艦長の芝蔵をはじめとする扶桑の幹部たち、そして隊員たちが第2艦橋の戦闘指揮所(CIC)に集まっていた。加えてオブザーバーとして、女王府からロトリーが参加している。


「さて・・・現状についてですが・・・」


 彼らが集まった理由はもちろん、今後の動向について話し合うためだ。船務長兼副館長の菅原中佐が進行役となり、集まったメンバーに説明を始める。


「我々は、宇宙漂流連合軍第3艦隊の所属艦と会敵し、戦闘状態に陥りました。敵の数は8隻、そのうち4隻は撃沈しましたが、この艦も決して軽くはない損傷を受けました。何より・・・牽引船である『ライ・アルマ』と離別してしまいました」


 菅原中佐は現状について説明する。


「現在、艦後部のロケットノズルの修復作業を行っております。応急処置が終了し次第、ライ・アルマの捜索に向かいます。あの船にも、我が国の宇宙軍兵士が同乗しております。何とかして連絡を取り合い、彼らを見つけ出します・・・!」


 ライ・アルマを見つけ出す。それ以外に地球を救う道はない。角笛の音色も届かない漆黒の空間で、星屑の底を浚うような旅路が始まった。




扶桑 第1艦橋


 無数のアステロイドの群れの中を、電波と光のモールス符号を同時に発信しながら、28世紀の宇宙戦艦が進む。相手に悟られず、尚且つ地球人にしか分からない20世紀の暗号を放ちながら、その艦は進んでいた。

 電波は小惑星に反射しながら、虚空の彼方へ飛んでいく。通信兵たちは両耳に全神経を集中させ、友軍からの救難信号を探っていた。


「・・・」


 計器の音だけが響き、艦はライ・アルマが飛ばされた方角に向かって進んでいく。1秒、1分、1時間と刻一刻と過ぎる時間は、地球人類のタイムリミットそのものだ。艦長の芝蔵はヤキモキしながらその時が来るのを願っていた。


「・・・!?」


 そして、状況は突如として激変する。宇宙用パッシブレーダーが微細な空間の歪みと光子を探知した。肉眼で周囲を監視する見張り員たちも、それを見つけていた。


「3時の方向から惑星間ミサイル!」


 だがそれは味方からの救難信号ではなく、敵からの遠距離攻撃であった。一度は目を欺いた敵とついに出会ってしまった。


「対実体弾防御!」


 砲雷長の伊東淳彦中佐が指示を飛ばす。直後、無数の破片を含んだ小型爆雷が5発発射された。それらは空中で炸裂し、極音速ミサイルから扶桑を守る盾となる。

 破片に絡め取られたミサイルは無音の閃光を放つ。ミサイルの破片が扶桑にぶつかり、コツンコツンという音が艦内に響き渡る。


「高出力探査レーダー起動! 敵艦探索開始!」

「レーダー反応あり! 方位0-2-3、1.6宇宙ノーティカルマイル!」


 扶桑のレーダーはすぐさま敵艦の位置を把握した。同時に扶桑のレーダー波は敵艦のセンサーに捉えられた。まもなく、他の敵艦も接近してくるだろう。敵が再度艦隊陣形を整える前に、各個撃破する必要がある。

 6基の主砲のうち、残存の2基が敵艦に向かって動き出す。艦内の加速器が回り出し、亜光速の中性粒子が砲身から放たれた。


「弾種は中性粒子ビーム! 撃ちぃ方、始め!」


 亜光速まで加速された粒子が、幾重もの筋となって宇宙空間へ放たれる。それらは無造作に飛び交うアステロイドの中を一直線に突き進む。


「攻撃効果確認! 敵艦に命中確認!」


 放たれたビームは見事敵艦に命中した。これで残す敵はあと3隻だ。だが、その艦のAIは味方を呼び寄せていた。扶桑のレーダーには新たな船影が写し出される。


「・・・クソ、次から次へと」


 航海長の遠藤中佐は思わず悪態をつく。だがその時、予期せぬ敵の一手が扶桑を襲う。


「・・・!?」


 突如として、扶桑の近距離レーダーに無数の敵影が映し出された。20余機の敵機がいつの間にか扶桑を取り囲んでいた。


「・・・これは!?」

「・・・宇宙漂流連合軍の戦闘用アンドロイドです!」


 それらはステルス機能を持つ輸送船で送り込まれた自律駆動アンドロイドであった。火星への最初の攻撃にて、地上制圧のために送り込まれた巨大ロボットと同型の機体であった。それらは扶桑の表面にまとわりつき、内部への侵入を図ろうと扶桑の外壁の解体作業をし始めた。


「・・・これ、まずくない?」


 艦内には鉄板を引き剥がすような鈍い音が響き渡る。志願兵の松岡は顔を引き攣らせながら天井を見上げていた。

 思わぬ形で訪れた危機を前にして、艦長の芝蔵大佐は新たなる決断を下す。


「スペースアーマーと戦闘機を出す!」

「・・・はっ!」


 艦長の命令はすぐに飛行班へと伝達される。小惑星帯の戦いはついに佳境を迎えようとしていた。




扶桑 艦下部 戦闘機格納庫


 艦の後方に位置する戦闘機の格納庫では、飛行班の整備兵たちが慌ただしく走り回っていた。彼らに与えられた任務は、艦の壁に張り付いた敵の巨大アンドロイドを国連宇宙軍のスペースアーマーで引き剥がし、それらを宇宙戦闘機で排除することである。


 格納庫には「UF-1・ゼロファイター」と「UF/I-2・サンダーボルト」、18機の宇宙戦闘機が並んでいる。


『パイロットは直ちにコックピットへ搭乗し、キャノピーを閉じてください。間もなく与圧装置を解除します。宇宙服を身につけていない整備員は速やかに外界接続区画から退避してください。15秒後に格納庫を開放します』


 「月の戦い」に続いて「UF-1・ゼロファイター」に乗り込んだ東郷中尉は、整備兵から手渡されたヘルメットを装着する。


「こちら隊長機、コスモ1、東郷俊亨中尉。準備OK」

『了解』


 戦闘機の出撃準備が整っていく。そして同じ区画では「スペースアーマー」の出撃準備が進められていた。17メートルほどの高さがある“人型のロボット”が11機、戦闘機と同様に並べられている。

 胴体部分にある操縦席では、戦闘機のパイロットと同様の宇宙服に身を包んだ操縦員が、整備員の手を借りて準備を進めていた。


「ご存じのとおり『スペースアーマー』は本来、真空中での作業および救助活動目的に造られた、いわば拡張型宇宙服、戦闘用ではありません。決して無理はせず・・・!」


 整備員の女性は心配そうな視線でパイロットを見つめる。


「大丈夫です、問題ない・・・」


 パイロットは素っ気なく答える。彼は民間の宇宙輸送会社に所属する宇宙作業員であり、イツキと亜里亜、松岡の様に民間からの志願兵であった。

 程なくして操縦席の扉が閉まる。生身の整備員が退出し、与圧装置が解除された。クレーンがスペースアーマーを吊り上げ、射出用カタパルトへ移動させる。


『発射カタパルトスタンバイ! いつでもどうぞ』


 スペースアーマーの両足がカタパルトのレールにセットされる。パイロット、民間宇宙作業員の宿屋順一は操縦レバーを握りしめ、前を向いた。


『ヒャクレン2型! スペース・エルメ社、宿屋順一、出ます!』


 宿屋順一、彼は2112年の「亜人テロ事件」に深く関わった高校生、宿屋奏太のひ孫である。日本国内において新進気鋭の宇宙開発企業「スペース・エルメ・カンパニー」に勤める、宇宙空間作業従事者であった。

 彼を乗せた日本製のスペースアーマー「ヒャクレン2型」は、大宇宙の大海原へと射出された。彼を筆頭にして合計11機の有人操作型ロボットが飛び出していく。




扶桑 艦外 宇宙空間


 宿屋は無音かつ天地もない世界、宇宙へと飛び出した。左右に位置する操作レバーを動かしながら姿勢を制御し、モニターが示す目標に向かって動き出す。スペースアーマーはそれぞれ、扶桑から離別しない様に、扶桑の格納庫と強固なケーブルで繋がれていた。

 「スペースアーマー」とは地上における「パワードスーツ」の着想を発展・拡張させ、宇宙空間における人の手を要する危険作業をより安全かつパワフルに行うことを目的として開発された、言わば機能拡張宇宙服である。その設計思想はもちろん“戦闘”を前提としたものではない。だが、扶桑の外壁にへばり付いた敵の巨大アンドロイドを処理するためには、彼らの力が必要であった。


「扶桑から・・・離れろ!」


 宿屋が操るヒャクレン2型は、巨大な鉄の棒を振りかぶりながら、扶桑の外壁を解体しようとしている敵の巨大アンドロイドに襲いかかる。ヒャクレン2型はまるでゴルフのスイングの様に、巨大アンドロイドの頭を吹き飛ばした。

 指揮系統を失った巨大アンドロイドは、扶桑から離れていく。その瞬間を見計らって、UF-1・ゼロファイターのレーザー機銃掃射が炸裂した。巨大アンドロイドは煙を上げながら瞬く間に崩壊していく。

 他の場所でも、スペースアーマーを駆る戦士たちが、遥か宇宙の彼方の技術によって造られた巨大アンドロイドに向かって、果敢に立ち向かっていた。


「まさか、本当に宇宙でロボット同士の戦いを演じることになるとはな・・・!」


 この時代においても、SFロボットアニメは根強い人気を持っている。だが、実際に人型のロボットが実戦兵器として開発されることはないと考えられていた。故に、少年の頃の夢を実現している事実に、宿屋は血が騒ぐのを感じていたのである。


「・・・うおおお!!」


 宿屋は2機目の敵アンドロイドに襲いかかる。彼の接近に気づいたアンドロイドのAIは、肩に装着されたレーザー砲を宿屋の機体に向けて攻撃しようとするが、宿屋はレーザーが発射されるよりも早く、鉄の棒をレーザーの砲口に突っ込んだ。


「・・・!」


 間髪入れず、宿屋の駆る機体はアンドロイドを蹴り飛ばした。直後、無音の爆発が炸裂する。


「2機目・・・!」


 宿屋は熟練のスキルで、敵のアンドロイドを再び撃破する。だが、敵のアンドロイドも奇襲を理解して新たな動きを見せた。それらはスペースアーマーを敵として認識し、扶桑の解体作業を中断してレーザー砲の乱れ打ちを繰り出してきた。


『・・・ぐわああぁ!』

『くそっ! 死なば諸共・・・!』


 スペースアーマーパイロットの断末魔が聞こえてくる。その中の1人は両手をもがれた機体で決死の突撃を繰り出し、アンドロイドを思い切り蹴飛ばした。それと同時に、コックピットがレーザーで撃ち抜かれ、パイロットの生体反応が消失する。


「・・・森口!」


 そのパイロットは宿屋の同僚であった。宿屋は親友の死を目の当たりにして絶叫する。

 手練の民間パイロットは決死の戦いで、敵のアンドロイドを扶桑から遠ざけさせる。その隙をついて、宇宙戦闘機のレーザー機銃が次々とアンドロイドを破壊していく。


 さらに続々と接近してくる敵艦に向かって主砲が発射される。孤軍奮闘で進む扶桑は多大な犠牲を払いながら、小惑星帯を突き進む。




扶桑 第1艦橋


 戦闘の雑音が響き渡る中、扶桑はついに探し求めたものを見つけ出す。


「・・・信号探知! モールス符号です!」


 通信兵が友軍から発せられた救難信号を探知した。その瞬間、第1艦橋は歓喜の声に包まれる。


「中性粒子ビーム命中! 敵艦は残り1です!」

「敵のアンドロイド全滅!」


 同時進行で戦いも続いており、主砲は次々と寄ってくる敵艦を葬っていく。さらに、扶桑にまとわりついていた敵のアンドロイドを排除することに成功した。


「戦闘機およびスペースアーマーを直ちに収容!」


 スペースアーマーを繋いでいたケーブルが巻き上げられ、残存のスペースアーマーが続々と収容される。その直後、宇宙戦闘機が格納庫へと飛び込んで行った。


「残存の1隻が方位1-5-9から接近! 距離、0.9宇宙ノーティカルマイル!」

「測的完了、照準合わせ! 誤差修正!」

「撃ちぃ方、始め!」


 青色の中性粒子が亜光速で飛び出して行く。その筋は敵を討つ矢となって小惑星の間をすり抜け、そして最後の1隻に命中した。

 直後、赤い閃光が遥か彼方で炸裂する。


「敵艦撃破を確認・・・! これで敵艦隊を全て撃破しました!」


 扶桑はついに勝利を掴んだ。艦長の芝蔵大佐は胸を撫で下ろし、小さなため息をついた。さらに、新たなる吉報が第1艦橋へ届けられる。


「『ライ・アルマ』の救難信号の発信源を探知、方位2-9-8!」

「左舵急げ!」

「了解!」


 航海長の遠藤中佐の命令を受けて、松岡は操縦桿を思い切り左へ傾ける。またもや深い傷と多くの犠牲を払った扶桑は、道標となる船がある場所へと急ぐ。

 そしてついに、その瞬間がやってきた。


「前方12時の方向に『ライ・アルマ』発見!」


 扶桑は小惑星に不時着したライ・アルマを発見した。同艦の艦橋からはSOSを知らせる光のモールス符号が点滅している。


『こちら『ライ・アルマ』、本船は軽微な損傷あるも、航行には支障なし。現在、牽引ケーブルの修復作業中、間もなく終了する』

「こちら扶桑、了解。作業終了し次第、連結を行い速やかなる出発を希望する」


 お互いの通信も回復し、2隻の船はそれぞれの状況を把握する。かくして、アステロイドベルト攻防戦は扶桑の勝利で幕を下ろした。




扶桑 兵員滞在区画


 イツキと亜里亜は他の志願兵たちと共に、扶桑の兵員滞在区画に控えていた。その時、全艦アナウンスが響き渡る。


『『ライ・アルマ』との連結完了。これより本艦は冥王星に向けて出航する』


「あら、どうやら全て解決したようね」


 亜里亜はそういうと、コーヒーを口に含んだ。


「・・・よかった、私の力を使わずに済んで」


 イツキも続けてコーヒーカップを口元へ運ぶ。最後の手段として、イツキはハッピーチャーム族の力を行使することを覚悟していたが、その必要がなくなったことで、内心ホッとしていた。


(この力を使うのは最後の時、この艦が冥王星に辿り着いた時までとっておかないと・・・)


 イツキは冥王星到着の時を待ち侘びていた。


 程なくして扶桑とライ・アルマは動き出す。最後の戦いの時は、もう間近に迫っていた。

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― 新着の感想 ―
紙一重で希望を繋いでる感じですね
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