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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
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火星の終焉

火星 第3の都市 セレーノ・アクア 沖合 女王府「ミーナン」


 火星方面派遣部隊の壊滅は瞬く間に地上の知るところとなり、火星表面に散らばる92都市には火星行政庁より緊急避難勧告が発令されていた。人々はパニックになりながら、火星の大気が不完全な時代に作られた緊急シェルターへと駆け込んでいく。


 そしてここ、セレーノ・アクアでは街の沖合に停泊中の「ミーナン」にて、女王府の役人・近衛兵たちが慌ただしく動いていた。


「女王府親衛隊は依然としてセレーノ・アクアへ接近中!」

「戦闘体制発令! 迎撃システム起動!」


 地球の艦隊が女王府親衛隊により壊滅させられたことを知らされ、ミーナンは戦闘体制に入る。女王の留守を守る上級役人のジャディ・レマイクギギアは、部下たちに命令を飛ばす。艦の各所から外敵迎撃用のビーム砲が出現し、レーダーに捉えられているかつての同胞たちに照準を定めた。


「・・・ジャディ様! チキュウより連絡がありました! 母艦では『女王陛下暗殺』という捏造報道が出回り、『カリアン』によるクーデターが発生したとのことです!」

「・・・何だと!?」


 地球滞在中の視察団からミーナンへようやく詳細な情報が届けられた。ジャディは思わず声を荒げてしまう。


「・・・百歩譲って、それが事実だと信じ込んだとしても・・・! 誇りある『女王府親衛隊』が我々に刃を向けるとは・・・一体どういう了見だ!」


 ジャディは「カリアン」に寝返ったのであろう女王府親衛隊に怒りを覚えていた。




セレーノ・アクア上空 宇宙漂流連合女王府親衛隊 旗艦「グリンディッツ」


 女王府親衛隊は「ミーナン」を最優先目標として定め、セレーノ・アクアに降下する。雲を抜けた先には、海辺に作られた美しき水上都市が現れる。


「戦闘機隊は散開させ、地上に残存するチキュウの戦力を掃討せよ!」

「了解!」


 女王府親衛隊の総司令、ウィッテ=シン・カルガイーの指示に従い、兵士たちは無人戦闘機に新たな指令を下す。

 各機体のAIは新たな命令を受けて、火星の各都市へと散らばっていった。実に600機以上の無人戦闘機が火星全域に散らばっていったのだ。


「『ミーナン』への攻撃を開始する! 各艦、主砲用意!」

「はっ! 主砲用意! 目標は女王座乗専用宇宙艦艇『ミーナン』!」

「目標ロック!」


 各艦の主砲が「ミーナン」を捉える。直後、ウィッテは右腕を振り下ろし、非情な命令を下す。


「全艦、攻撃開始!」


 甲高い充填音と共に、各艦の砲身が輝きを放つ。そして赤色の閃光を湛えた荷電粒子ビームが、「ミーナン」に向かって振り下ろされた。




女王府「ミーナン」


「女王府親衛隊の各艦に高エネルギー反応!」

「攻撃来ます!」


 敵となった女王府親衛隊を迎え撃つ「ミーナン」でも、迎撃体勢を整えていた。兵士や役人たちは相手が攻撃準備に入ったことを伝える。


「バリア展開! 最大出力!」

「バリア展開!」


 「ミーナン」は宇宙漂流連合が誇る絶対防御の盾「電磁バリア」を発動する。直後、荷電粒子ビームはバリアによって弾かれ、周囲の海面に着弾して爆発を起こした。


ド ド ド ド!!


 巨大な水飛沫と轟音が響き渡る。「ミーナン」は何とか親衛隊の初回攻撃を退けたが、荷電粒子ビームの勢いはバリアを削ぎ落としてしまい、「ミーナン」は丸裸にされてしまった。

 

「迎撃砲発射!」


 「ミーナン」は自衛用のビーム砲を空中に向けて発射する。それらは親衛隊の艦艇に向かっていくが、同様にバリアによって弾かれてしまう。そして親衛隊艦隊はすでに第2射撃の体勢を整えていた。


「バリアを貼りなおせ!」

「・・・は、はいっ!」


 兵士たちは弾き飛ばされたバリアの再構築を試みる。だが、間一髪で完全な防御壁の構築は間に合わず、幾筋かのビームがミーナンの艦体に着弾してしまった。


ド ド ド ドン!!


 亜光速の荷電粒子がミーナンの堅牢な外壁を打ち砕く。迎撃用ビームの砲門までいくつか破壊されてしまった。元が単なる移動用宇宙船であるミーナンと、戦闘用の宇宙軍艦では備わっている攻撃力に天と地ほどの差があった。


「このままではやられるだけだ! ・・・急速離陸!」


 ジャディは火星からの脱出を決断する。直後、ミーナンの下部に設置されている噴出口が点火し、垂直方向に強烈なジェット噴射が放たれた。巨大な水飛沫と共に、ミーナンの巨体が海面から浮き上がる。

 だが、親衛隊艦隊は進路を変えて追撃してくる。ミーナンは迎撃用ビームを放ちながら宇宙へと向かっていく。




宇宙漂流連合女王府親衛隊 旗艦「グリンディッツ」


 女王府親衛隊艦隊はその最大火力を以てミーナンを追撃していた。総司令のウィッテは感情を昂らせながら、部下たちに命令を下す。


「連合史上最悪の裏切り者たちを、決して逃すんじゃないわ!」

「は、はいっ!」


 ウィッテは女王府を裏切り者と叫び、部下たちに追撃を訴える。部下たちも少し戸惑いを覚えながらも、“地球人による女王陛下暗殺を女王府が隠匿した”という連合政府行政部の発表を信じ、追撃の手を加えていく。


(・・・フフフ、ガンヴォ様の言う通り、先代の国王陛下ならともかく・・・今の、小娘女王ではチキュウへの移住など不可能! 連合の誇りも忘れ、原始種族にへり下る統治機構など必要なし!)


 しかし、ウィッテはこの女王府親衛隊のメンバーで唯一、事実を知った上で行動していた。キリエ人でありながら、現在の女王へ不満を感じている者は少ないながらも存在する。クーデターを起こした一派は、そんな者たちにも取り入っていたのである。




女王府「ミーナン」


 ジャディが率いる「ミーナン」は、空中へ飛び立って火星からの脱出を試みていた。しかし、強力な荷電粒子ビームの雨霰は、巨大なミーナンを確実に破壊していく。


「推進機構が被弾しました!」

「マズナーからの重力脱出ができません!」

「・・・クッ!」


 そして最後、艦の推進を司る機関が被弾してしまう。飛び立つ術を失ったミーナンは火星の重力に引かれて海面へと落下した。

 敵はその瞬間を見逃さない。親衛隊の各艦は制御を失ったミーナンに狙いを定める。そして幾筋もの輝かしい荷電粒子ビームが、もはやバリアも展開することができないミーナンに降り注ぐ。


「・・・最早これまで! せめて・・・陛下の御身に魔の手が降りかからなきことを」


 自らの最期を悟ったジャディは、遥か地球に滞在している女王の身を案じていた。その後、ミーナンは爆発飛散し、ジャディたちは爆炎に包まれる。この時、女王の座乗艦は火星の海に沈んだのである。




地上 セレーノ・アクア 市街地


 その頃、火星の各都市では散らばった親衛隊の各艦艇、および無人戦闘機によって破壊の雨が降り注いでいた。

 地表の建造物、車両、そして逃げ惑う人々に向かって、無人戦闘機は容赦なくビームやレーザーによる攻撃を加える。さらにヒトデの様な形をした対地攻撃用艦艇が飛来し、艦底の中心に備えたレーザー砲から、大出力レーザーを地上へ叩き込んでいく。


ド ド ド ドーン!


 更なる攻撃の雨が美しきセレーノ・アクアを粉砕していく。空襲によって街に火の手が回り、水上都市は緋く焼け爛れていく。


・・・


地上 首都・水龍 第4区


 そして同様の攻撃は火星の全域に及ぶ。2000万人都市である首都「水龍」も、女王府親衛隊による大規模な空襲を受ける。非常事態を伝えるアラートが鳴り響く中、市街地も軍用区画も無差別な攻撃を受けていた。

 人々は悲鳴を上げながら逃げ惑う。その中には、イツキと角一郎、そして亜里亜の姿があった。


「2人共、急いで!」


 3人は逃げ惑う人波と共に、避難所である地下シェルターの入り口へ向かっていた。亜里亜の先導を受けながら、イツキと角一郎は地下シェルターを目指す。

 だがその途中、角一郎がつまづいて転んでしまう。イツキは立ち止まり、角一郎のもとへ駆け寄った。


「牧師さん!」

「構うな! 行け!」

「いや! 一緒に行くのっ!」


 角一郎は声を荒げて先に行くように促した。だが、イツキは足を負傷した角一郎のもとから離れない。イツキは角一郎の右腕を肩に回し、立ち上がらせようとする。その時、女王府親衛隊の無人戦闘機が放った熱線が彼女たちの周囲にある建物を襲った。


「・・・もう! こんな時に!」


 遅れて角一郎の異変に気付いた亜里亜が、慌てて2人の元へ引き返す。直後、崩壊した建物や電柱の瓦礫が彼女たちに向かって襲い掛かった。


「・・・“魔法防壁”!」


 火星最強の魔女・亜里亜は、魔法によるバリア“魔法防壁”を発動する。直後、大量の瓦礫が3人の頭上に降りかかってきた。


 この日、女王府親衛隊の攻撃によって、火星は首都・水龍を含めて壊滅状態に陥った。


・・・・・

・・・


 その後、宇宙漂流連合による奇襲攻撃は同時多発的に太陽系の各地で繰り広げられた。木星圏では、首都「ジュピタン・メディテレーニアン」を有する主星・第3衛星「ガニメデ」が襲撃を受け、さらに人類が居住する「イオ」「カリスト」も襲撃を受け、多くの犠牲者を出した。


 さらに金星も上空を浮遊する24の「浮遊都市」が襲撃を受け、金星居住民はほぼ全滅。そして火星もその全土が強烈な空襲を受けた。


 この奇襲攻撃によって金星、火星、木星圏、土星圏は壊滅し、実に8億人・・・全宇宙移民の4分の1を超える人命が失われることとなったのである。


〜〜〜


7月21日 地球 日本皇国 首都・東京 皇居


 各国政府が自国の宇宙軍戦力の一部を供出し合うことで組織された「国際連邦宇宙軍」は、地球上における陸・海・空の戦力を統括する「平和維持軍」と同様に「国際連邦安全保障理事会」直下の軍隊である。


・・・


「国際連邦宇宙軍」

国際連邦安全保障理事会

 統合参謀本部 司令:時津風轍聖(日本)

  月面方面派遣部隊 司令:峰岡凛(日本)

  金星方面派遣部隊 司令:ティモーニオ=ファッキネッティ(イタリア)

  火星方面派遣部隊 司令:相澤道之(日本)

  木星方面派遣部隊 司令:アルジェリーナ=ヒッチコック(アメリカ)

  土星方面派遣部隊 司令:アルフォンソ=デイヴィット(カナダ)   

  小惑星群警備隊 司令:ヴァイチュン・ミランダ(インド)


・・・


 ワシントンD.Cに本拠地を置く「統合参謀本部」の指揮下に、「月」「火星」「金星」「木星」「土星」の5個「方面派遣部隊」を、そして「小惑星帯」に1個「警備隊」を組織しており、彼らは主に各惑星間の宇宙船航行の安全確保、および各宇宙都市の治安維持を任務としていた。彼らにとって、太陽系外からの襲撃など本来想定し得ないものであった。


 そして月を除く各方面派遣部隊の壊滅、それは地球と宇宙漂流連合の技術が、如何に段違いのレベル差があるかを見せつけていた。地球人類は未だかつてない危機に晒されていた。


 国連は各宇宙都市の被害報告だけでてんてこ舞いになっている。そんな現状で、日本政府は自分たちの進むべき指針を決めるため、天皇臨席による政府重役会議「御前会議」を皇居にて開催していた。


 中央の最上座に座る天皇の両手に、内閣総理大臣、内閣官房長官をはじめ、国防大臣、皇国軍統合幕僚長、そして宇宙開発大臣など、国家の重鎮たちが座している。そして天皇・・・齢十一、22世紀の幼帝の隣には、齢十九の摂政を務める内親王が着席していた。


「皆様、集まりましたね・・・では、会議を始めましょう」


 内閣総理大臣の唐木田が議長役となり、会議開幕を宣言する。続いて、宇宙開発大臣である吉井が発言する。


「国連の報道の通り、金星、火星、木星圏、土星圏は壊滅的被害を被りました。宇宙漂流連合・・・その中で『カリアン』という種族の首長が、我々が女王を謀殺したと虚偽の発表を行い、連合の主導権を奪取し・・・仇討ちという名分の下、地球人類への大規模攻撃を開始したのです。そして彼らの主である筈の『女王府』にまで牙を剥いた。

我々は連合を1つの集団・国家として考えていましたが、もう少し・・・彼らに対する理解を深める必要がありそうです」


 宇宙開発大臣の吉井は発言を終える。続けて外務大臣の猪野が席を立つ。


「・・・そもそも『宇宙漂流連合』とはですが、彼らは冥王星付近に突如として現れた太陽系外知的生命の連合体です。ライザ女王陛下を擁する『キリエ』という種族を盟主として、母なる星を無くした12の種族が集っているとされています。政治形態はおそらく政祭一致の立憲君主制、そして恐るべきはその圧倒的な科学力と戦力です・・・!」


 宇宙漂流連合の盟主「キリエ」はかつて、地球を遥かに超越する科学力を誇っていた。宇宙漂流連合となった後もその科学力は引き継がれている。そしてその軍事力も地球を遥かに凌駕したものであり、国連宇宙軍は全く無力であった。


「土星、木星、金星・・・そして火星も壊滅か・・・」


 唐木田は言葉を詰まらせる。土星まで広がる太陽系植民天体、そのほとんどが襲撃され、壊滅的被害を受けた。残すは民間人がいない「水星」と「小惑星ケレス」、そして「月」と「地球」だけだ。


「・・・太陽系全域への同時攻撃に先立ち、『宇宙漂流連合』は降伏勧告を行いました。おそらく、彼らは我々の返答を待っている。そして次なる攻撃対象となり得るのはこの『地球圏』です。『月』は地球の絶対防衛ライン・・・そして健在の国連宇宙軍は『月面方面派遣部隊』・・・通称“アルテミス艦隊”のみですが・・・」


 国防大臣の金倉は唐木田の顔色を伺う。その直後、宇宙開発大臣の吉井が再び口を開いた。


「こんな・・・理不尽な話がありますかね。女王暗殺など完全な濡れ衣なのに・・・!」


 地球側としては女王暗殺など完全な捏造であり、カリアンの首長による声明は言いがかりもいい所であった。女王は現在、火星への帰還をキャンセルして東京都内のホテルでの滞在を余儀無くされている。しかし、彼らにはそれを主張する手段がない。


「ですが、降伏の選択もあり得ません。・・・まだ手立てはあります。女王の生存を何とかして連合120億人の市民に知らしめることです」


 皇国軍統合幕僚長の水嶋貴子陸軍大将は、地球がこの危機を打開するために1つの提案をする。だが、地球と連合の通信は連合側からの一方的なものであり、さらに宇宙漂流連合の母艦は反乱勢力に掌握されて以降、女王視察団からの通信すら拒絶している様であった。


「・・・しかし、どうやって」

「・・・」


 内閣総理大臣の唐木田はポツリと呟く。上座に座る天皇陛下と摂政の内親王殿下は、あくまで立憲君主として傍観者に徹し、会議の行方を静観されていた。

 だがその時、厳粛な会議に突如として凶報が届けられた。緊急報告であることを示すアラートと共に、各参加者の面前にバーチャルディスプレイがポップアップした。


『会議中大変失礼します!』


 発信者は内閣官房の役人であった。彼は上がった息を整えながら、国家のトップたちに緊急案件を伝える。


『月の『シャクルトン・竹取基地』から緊急報告です! 地球磁気圏内に多数の未確認飛行物体接近! おそらく宇宙漂流連合軍かと思われます!』

「!!!」


 唐木田たちは目を見開く。敵は地球の宇宙航行船ではあり得ない進軍速度で、すでに間近に迫っていた。


「・・・最早、他に手立てなし」

「・・・!」


 この時、初めて天皇陛下が口を開かれた。臣下たちは一斉に口をつぐむ。


「宇宙漂流連合軍と同時に、世界を敵に回す覚悟はありますか?」

「・・・陛下!」


 国防大臣の金倉は陛下の真意を悟る。そして皆が固唾を吞んで見つめる中、ついに“禁じられた兵器”の名が告げられた。


「・・・『飛行戦艦扶桑』の出撃を命じます」


 西暦2042年、異世界から帰還した日本国は、国連加盟時の世界との盟約により、超兵器「扶桑」の軍事出撃を禁じられた。それ以降、扶桑は抜かずの刃としておよそ150年に渡り、日本の国防の象徴となっていた。

 だが、22世紀の地球では全く太刀打ちできない未知の敵が現れた。例え全世界を敵に回すことになったとしても、最早、日本政府にそれを出し惜しみする余裕は無かったのである。


・・・


7月21日 地球 日本皇国 東京都福生市

 

 宇宙漂流連合軍の土星襲撃から2日後、彼らの突然の裏切りはすでに地球全人類の知るところとなっている。そして主要国政府は自国の宇宙軍に緊急出撃命令を発布した。それはもちろん日本も例外ではなく、「横田航空・宇宙軍基地」に駐在中の宇宙戦闘機パイロットには、全員に緊急出動命令が下されていた。


「・・・俊亨さん」

「そんな暗い顔するなって! 大丈夫さ!」


 東郷俊亨中尉、月面方面派遣部隊所属の宇宙戦闘機パイロットである彼にも、招集命令は例外なく届いていた。玄関でいそいそと軍靴を履く亭主の姿を見て、妻の優香は顔を青ざめていた。

 金星、火星、木星、土星の宇宙戦闘機部隊が全滅していることは、連日のニュースにて知るところであった。そしてその敵がついに地球の間近まで迫っている。優香にとって、俊亨の死は確約されている様なものだった。


「・・・ねぇ、お父さん。お父さんは負けないよね? 帰ってくるよね?」


 息子の大輝も母親のただならぬ様子を察し、不安そうに俊亨の顔を見上げる。彼の右手には俊亨の搭乗機である「シューティング(UF-4)・スター」の模型が握られていた。

 俊亨はしゃがんで息子と視線を合わせ、安心させる様な笑顔と声色で語りかけた。


「・・・ああ、絶対に帰ってくる。でも、また長いこと留守にしなくちゃいけない。だから・・・その間、優香を・・・お母さんをしっかり守るんだぞ」

「・・・うん!」


 大輝は涙を堪え、気丈な笑顔で強く頷いた。俊亨はその答えに感極まりながら、荷物を肩に背負い、我が家を後にする。

 亭主の出征を見送った妻の優香は、しばしの間扉の向こうを見つめていたが、程なくして崩れ落ちる様に座り込んでしまい、息子の大輝を抱き寄せながら、大声で泣き腫らしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カリアンって結構好戦的というか、支配欲の強そうな種族な気がしました。 [一言] カリアンに「そういうところが母星を滅ぼしたんじゃないの?」って言いたい。
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