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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
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女王府親衛隊

2199年7月19日 地球 日本皇国 首都・東京


 連合女王が率いる地球視察団は、東京、栃木、京都、沖縄と日本各地の視察を終えて、首都・東京に戻ってきていた。彼らは「東京・宇宙港」へ移動するため、連絡船へ乗り込む時をターミナルで待っている。

 数多の役人や警備要員が慌ただしく動く中、女王のライザは巨大なガラス窓の外に広がる東京湾を見つめていた。


「いよいよこの国、この星ともお別れですね。ロトリー」

「はい、陛下・・・」


 ライザは地球との別れを名残惜しく感じている。だが、ロトリーの思いは女王のそれとは異なる方向を向いていた。


(チキュウは・・・想像以上に過酷な惑星だった。本当に、この惑星で暮らせるのか? 我々は・・・)


 緑と生命が溢れる豊かな星・・・その想像通り、地球は豊かな資源と食糧に恵まれた惑星であった。それと同時に、酷暑、暴風雨、寒冷など、管理されたコロニー内部では経験し得ない、過酷な環境を有する惑星であった。

 連合のナンバー2であるロトリーをはじめ、この地球視察に同行したほぼ全てのメンバーは、地球で暮らすことへの憧れをほとんど失っていたのである。


 日本政府の外務官僚が、連絡船の準備が整ったことを視察団へ伝える。それを部下伝いで聞かされた女王は立ち上がり、ロトリーを引き連れて歩き出した。


「では、帰りましょうか。第4惑星へ・・・」


 女王は地球に別れを告げる。そして現在の本拠地である火星へ帰るために足を進める。その火星も、今回の地球訪問で行われた会見にて、近日中の撤退を約束したため、近いうちに女王府は本拠地を母艦に戻さなければならない。

 その後、地球との正式な条約が締結されれば、女王府は地球へ移設されることとなる。地球への憧憬が薄れている部下たちを他所に、女王はその日が訪れることを心待ちにしていた。


 そんな中、突如として1人の外務官僚が女王の前へ躍り出た。女王の近衛兵たちが具に警戒心をあらわにする中、外務官僚の庭月野は息を切らしながら緊急の要件を伝える。


「大変失礼します、女王陛下!! 唐木田首相がお見えになっており、至急のお話があるとのことです!」

「!?」


 庭月野の言葉を聞いて、女王やロトリーたちは怪訝な表情を浮かべる。その後、女王たちはこのターミナルの管理区画にある職員用の会議室へと案内された。そこには日本皇国首相の唐木田、そして国防大臣の山本康二の姿があった。


「帰還直前の謁見に応じて頂き、恐れ入ります。しかし、急を要する案件なのです」


 唐木田はそういうと会釈をして女王への非礼を陳謝する。


「それは聞き及んでおりますが・・・して、どのようなご用件でしょうか?」


 女王に代わり、腹心の部下である女王府総裁のロトリーが問いかける。


「先ほど・・・第6惑星『土星』の衛星タイタンより、宇宙漂流連合軍による襲撃を受けたとの緊急通信がありました。地球人類の入植天体であるタイタンとエンケラドゥスは壊滅、現地に駐留していた国連宇宙軍は文字通り全滅です・・・!」


 唐木田は顔を青ざめながら現状の説明をする。土星圏を治める行政庁からの緊急通信、それは今の今まで友好関係を築こうとお互いに歩み寄っていた者たちからの裏切りに他ならなかった。


「どういうことですか!? 我々はそんな命令は出していません!」


 先に驚愕の声を上げたのは地球視察団のロトリーだった。


「しかし、事実として土星は連合軍の襲撃を受けた! どういうことかは此方の台詞です!」


 それに言い返すように、国防大臣の山本は声を荒げる。その後、2人の背後に控えていた国連宇宙開発機構の職員が口を開く。


「土星襲撃の直後・・・宇宙漂流連合より地球へ向けて声明発表がありました。こちらをご覧ください」


 職員は腕時計型の端末を操作し、女王たちの前へホログラムディスプレイを出現させる。それには宇宙漂流連合が太陽系全域に向けて発信した映像が映されていた。女王やロトリーたちもよく知っている、青い肌をした男の姿があった。


『全チキュウ人類に告ぐ。私は宇宙漂流連合行政部代表、ガンヴォ・レ・マンシ。女王陛下暗殺という許されざる愚行、我々の底知れぬ怒りを思い知るが良い。最初は土星(サターナス)、次は金星(ヴェナスト)火星(マズナー)木星(ズープ)・・・最後は地球(チキュウ)だ。完全な滅亡か服従か・・・それまでに選択されよ』


 映像はそこで終わっていた。女王ライザと彼女の家臣たちは、困惑の表情で顔を見合わせる。


「暗殺・・・? ガンヴォは何を言っているんだ?」


 ロトリーはぽつりと呟く。各人の頭上に疑問符が踊る中、近衛師団長のテールナーは1つの可能性に思い至る。


「もしや・・・陛下不在の時を狙って、カリアンがクーデターを起こしたのでは?」


 テールナーは最悪の想定を思い浮かべていた。“女王絶対”という教育下にある一般市民はともかく、連合で最多人口を有するカリアンの上層部には、女王府への対抗心を抱いている者がいることは、近衛師団の中でも常々語られていることであった。


「ロトリー・・・マズナー停泊中の『ミーナン』へ連絡を! 我々はマズナーに到着し次第、直ちに母艦へ帰還する!」


 女王ライザは為すべきことを瞬時に悟っていた。それは一刻も早く母艦へと帰還し、自身の健在を示すことであった。

 だがそれを阻止するため、カリアンが放った刺客が火星に忍び寄る。同時に人類居住圏である各惑星には、すでに宇宙漂流連合から出撃した各艦隊が迫りつつあった。


〜〜〜


7月20日 火星 首都・水龍


 ここは水龍の東アジア人居住区にある朝鮮料理店、そこにイツキと角一郎の姿があった。テーブルの上にはチヂミ、コーンチーズ焼き、2人前のビビンバが並び、2人は鉄製の箸で平壌冷麺を啜っていた。


「たまには・・・外食も良いもんだな」

「アハハ、いつまでも下手くそな手作り料理じゃねぇ・・・」


 角一郎の言葉を聞いて、イツキは苦笑いを浮かべる。未だお尋ね者である彼女は、伊達メガネとベレー帽を被って顔を隠し、カモフラージュしていた。事件から3ヶ月が経ち、世間からの関心も薄れていることもあるのか、彼女が外出してもその素性が露呈することはなかった。

 しかし、親子団欒を楽しむ2人にこっそりと近づく人影がある。その人影はそっとイツキの肩に、耳元に口を近づけて囁きかける。


「あらあら・・・女王暗殺未遂のお尋ね者が、公衆の目前で無防備ね」

「!!?」


 イツキ、そして角一郎は警戒心を最大にしてその声の主へ振り返った。そこには、ラフな私服に身を包む「セレーノ・アクアの妖精」の姿があった。


「あ! あの時の『魔女』!」

「あらあら、覚えていてくれてたのね」


 そこにいたのは、イツキがセレーノ・アクアで邂逅した因縁の相手、女王暗殺を寸前で阻止したゴンドリエーラの亜里亜・ヴェファーナ=大道寺であった。

 火星唯一の水上都市であるセレーノ・アクアには、女性のゴンドラ漕ぎによる水路案内が観光名物として存在する。時に水の妖精とも比喩されるゴンドリエーラ(女性の漕ぎ手)たちの頂点に立つ存在、それが亜里亜であった。


「なぜ・・・貴方がここに!?」

「休暇よ。あの一件以降、私たちも暇を持て余しているの」


 イツキはセレーノ・アクアを本拠地とする彼女が、首都水龍にいる理由を問いかけたが、亜里亜はあっけらかんと答える。イツキが実行犯となった「連合女王暗殺未遂事件」以降、セレーノ・アクアのゴンドラ事業は再び開店休業状態に陥っていたのである。


「というわけで・・・観光がてら水龍に寄ったって訳。お互いに宇宙漂流連合には迷惑させられるわね」


 正式に火星占領の終了が宣言されたとはいえ、未だ火星は他天体との往来が制限されている状態である。観光客相手の商売をしている亜里亜たちゴンドリエーラにとって、宇宙漂流連合は目の上の瘤であった。


「まぁ・・・お互いにほとぼりが冷めるまで大人しくしていましょう」


 亜里亜はそういうとイツキたちから離れた席に座る。イツキと角一郎は訝しげな視線で彼女の姿を見つめていた。


・・・


第2の都市 嶺豊 タルシス・嶺豊基地


 水龍よりさらに南へ行くと、火星第2の都市である「嶺豊市」が位置しており、その郊外には「タルシス・嶺豊基地」が存在する。火星襲撃時に「国際連邦宇宙軍火星方面派遣部隊」の本拠地である「ノーク・マーズ基地」が崩壊したため、同基地に代わり火星方面派遣部隊の本部が移設されていた。

 火星にはレーダーを搭載した人工衛星が多数浮遊しており、基地に勤務する管制員は、それらによる監視綱を24時間体制で見守っているのである。


「・・・監視衛星よりエマージェンシー!!」


 そしてこの時、火星襲撃事件以来のアラートが基地内に鳴り響いていた。管制員たちは各方面との通信に奔走し、戦闘機格納庫では整備員とパイロットたちが大急ぎで出撃準備を整えていた。

 レーダーには宇宙空間より飛来する無数の船影が映し出されている。


「多数の未確認飛行物体は依然として接近中!」

「識別コード不明! おそらくは宇宙漂流連合軍かと思われます!」

「第42宇宙航空群、出撃準備!」


 宇宙漂流連合軍の襲来は、すでに首都水龍に伝えられ、火星行政庁の知るところとなっている。そして事態はセレーノ・アクアに本拠地を置く「連合女王府」にも伝えられていた。


・・・


第3の都市 セレーノ・アクア 沖合 女王府


 宇宙艦「ミーナン」のレーダーも迫り来る宇宙艦隊の群れを捉えていた。そして火星行政庁の牟礼から、正式に抗議文と要請が届けられる。


「マズナーの行政庁から電報あり。『宇宙漂流連合軍艦隊が接近中。直ちに経緯を明らかにし、同艦隊に対して撤退命令を発せられたし』」


 この火星において地球人類の代表者である「火星行政庁」は、艦隊が火星に接近している理由を問いただし、さらに艦隊に対して撤退命令を下す様、女王府に要請していた。すでに国連宇宙軍の火星方面派遣部隊は出撃準備を整えており、あとは女王府の返答を待つばかりとなっている。

 しかしこの事態は女王府にとっても晴天の霹靂であり、幹部たちが地球へ出向いて不在の中、残っている役人たちが懸命に情報を集めている。


「この識別コードは・・・『女王府親衛隊』!」

「・・・何!?」


 ミーナンの通信司令室は動揺に包まれる。「女王府親衛隊」、それは「女王近衛師団」とは別の組織であり、儀礼的な存在である近衛師団とは異なり、明確な武力を有する軍隊である。

 本来の任務は女王府の最後の防衛線として、外敵から宇宙漂流連合の母艦を守護する直掩艦隊である。ゆえに本来ならばこうして遠隔地へ派遣される部隊ではないのだ。


「直ちに親衛隊へ撤退命令を送れ!」

「了解!」


 通信司令室の指揮官は部下たちに命令を飛ばす。通信司令室のメインパネルには無数の艦影が映し出されていた。


「一体どういうつもりなんだ・・・!?」


 指揮官の男は困惑の表情で冷や汗を流す。連合1300年の歴史で未だかつてない事態が起ころうとしていた。


・・・


首都・水龍 火星行政庁


 セレーノ・アクアに位置する女王府ミーナンからの返信は、直ちに火星行政庁へ届けられた。大会議室に設立された特別対策室には、各方面からの情報が飛び交っている。室長である行政長官・牟礼は、頭を抱えながら部下たちの報告に耳を傾けている。


「女王府より返信! 『我々は出撃命令など出していない。当該の艦隊には直ちに撤退命令を発布した』と・・・!」

「・・・何だと!?」


 牟礼は驚嘆の声を上げる。宇宙漂流連合からの未知なる襲撃、それを連合の最高権力機関であるはずの「女王府」が認識していないということは、この事態は女王の意思の範囲外で起こっていることになる。


「国連より通信! 土星圏はすでに襲撃を受けているとのこと!」

「敵艦隊は依然として接近中!」


 女王府からの言い分を信じるならば、接近している艦隊は絶対権力者の命令の外で動いていることになる。連合内部で只ならぬ事態が起きていることは、牟礼たちも察しつつあった。


「火星方面派遣部隊に出撃要請を! 宇宙漂流連合軍を迎え撃つ!」


 牟礼は再び宇宙漂流連合と戦う覚悟を決める。火星行政庁からの出撃要請は、直ちにタルシス・嶺豊基地へと届けられた。


・・・


第2の都市 嶺豊 タルシス・嶺豊基地


 国際連邦宇宙軍火星方面派遣部隊、その本部が移設されたタルシス・嶺豊基地では、正式な出撃要請を受けてさらに慌ただしく動き出す。


「残存の宇宙艦隊、そして第42航空群を出撃させる! この“砂漠と海の星”を守るんだ!」


 火星方面派遣部隊・相澤道之はこの火星に残った戦力を以て敵を迎え撃つことを決める。しかし、最初の火星襲撃で火星方面派遣部隊は多大な損害を受けており、勝ち目の無い戦いであることは明確だった。

 だが、彼らは逃げるわけにはいかない。火星住民14億の人命を守ること、それが彼らの使命であるからだ。


 「国際連邦宇宙軍」とは、各国の宇宙軍を招集して組織された安全保障理事会指揮下の宇宙軍である。地球のワシントンD.Cに本拠地を置く「統合参謀本部」を頂点として、壊滅した土星方面派遣部隊、火星方面派遣部隊の他、金星、月、木星にもそれぞれ派遣部隊を組織している。

 組織の主目的は地球外天体で暮らす29億の地球人類の救援、補助、そして宇宙の治安維持である。元より太陽系外からの侵略者に対応することを想定して設計されておらず、その戦力・武力は宇宙漂流連合と雲泥の差があった。

 また国家間の軋轢のため、一枚岩の組織とは到底言い難く、また戦力的にはほぼ日本皇国宇宙軍に依存している状態でありながら、一方で将官階級が多国籍な人材で固められていることが、より組織内の纏まりを阻害している要因であった。


『各種戦闘部隊は直ちに出撃せよ! 繰り返す、各種戦闘部隊は直ちに出撃せよ!』


 基地内には非常警報が鳴り響く。


・・・


火星 大気圏外


 火星の各基地から無数に飛び立った、大気圏宇宙両用戦闘機「シューティング(UF-4)・スター」は、あっという間に上昇して大気圏外へ到達する。「宇宙漂流連合女王府親衛隊」も火星へ刻一刻と迫っていた。

 「第42航空群」のリーダー機を駆る四元直樹中佐は飛行隊を率いて、味方を嬲り続ける敵の艦隊に迫る。


『土星はすでに壊滅した! 目の前にいるのは敵だ! 総員、覚悟を決めろ!』

了解(Copy)!』

『・・・戦闘準備(ロックアンドロード)! 第42航空群、攻撃を開始する!」


 四元中佐は部下たちに戦闘開始命令を下す。彼はミサイルの発射装置に手をかける。各機には宇宙戦闘用の極超音速ミサイルが搭載されていた。


『サンドワーム1・・・発射(Fox3)!』

『サンドワーム9・・・発射(Fox3)!』

『サンドワーム20・・・発射(Fox3)!』


 符丁のコールと共に、ミサイルが群れになって飛んで行く。火器管制AIによって目標を振り分けられたそれらは、マッハ55の飛行速度で連合軍艦隊へと向かって行った。そしてそれらのミサイルは次々と敵艦に激突する。


『・・・クソッ!!』


 四元中佐は悲痛な声を上げた。女王府親衛隊は何事もなかったかの様に迫ってくる。そして艦隊の多くは進路を一斉に変えて、火星の北半球に向かって進み出した。


『・・・!? アイツらどこへ?』


 四元中佐は視線で艦隊を行く先を追いかける。彼らの行先、火星北半球の海沿いには、火星第3の都市「セレーノ・アクア」があった。




宇宙漂流連合女王府親衛隊 旗艦「グリンディッツ」


 旗艦「グリンディッツ」の第1艦橋にて、火星の海を見下ろす女がいる。この第1艦橋は全方位の壁がディスプレイになっており、それは火星の海を鮮明に映し出す。


「・・・これが“ウミ”、・・・なんて美しい!」


 女王府親衛隊の総司令、ウィッテ=シン・カルガイーは頬を紅潮させながら火星を見下ろす。彼女を含め、親衛隊の兵士たちは皆、火星の海「北大洋」から目を離せないでいた。


「ウィッテ様、我々は本当に『ミーナン』を・・・女王府を攻撃するのでしょうか?」

「いくら陛下不在とは言え・・・」


 一方で、親衛隊の一部の兵士たちは、事此処に至って自分たちに課せられた任務に踏ん切りがつかないでいた。親衛隊に課せられた任務、それは女王の座乗艦、現女王府である「ミーナン」への攻撃だったのだ。


「チキュウ人への融和を図るあまり、チキュウ人の狼藉すら闇に葬ろうとした、腐敗しきった組織など・・・最早必要ない」

「・・・!」


 ウィッテは女狐の様な鋭い目線を部下に向ける。部下の男は思わず身震いしてしまった。


「それよりも・・・航宙母艦から無人戦闘機を発進させ、うるさいチキュウ人共を蹴散らせ」

「・・・はっ!」


 命令を受けた艦橋の兵士たちは通信機器を操り、艦隊後方に控えていた宇宙航空母艦から無数の無人戦闘機を射出させる。それらはまるで蜂の群れのように不規則な軌道を描きながら、火星側の戦闘機部隊、そして艦隊へ迫った。




火星方面派遣部隊 旗艦 宇宙巡洋艦「阿賀野」


 一方、火星の戦闘機部隊「第42航空群」は女王府親衛隊に対して、全く打つ手がない状況であった。遅れて宇宙空間へ現れた火星方面派遣部隊の宇宙戦闘艦隊も、女王府親衛隊の艦隊に対して艦砲射撃を開始する。


「第42航空群支援射撃開始!」

「全艦、主砲発射用意! 弾種は自立誘導徹甲弾!」

「・・・撃ちぃ方、始め!」


 艦隊司令の日本皇国宇宙軍大佐・東谷海慈は、全艦艇に攻撃命令を発する。直後、各艦の核融合炉にて生成された膨大な電力が主砲の砲身に投入され、超高速の弾丸を打ち出した。

 ローレンツ力によって押し出された徹甲弾は、空気摩擦による抵抗もない宇宙で勢いを失うことなく飛んでいく。そして目標をロックオンした弾丸の群れは、敵艦艇に向かって飛び込んで行った。


「バリア通過せず! 攻撃効果なし!」


 宇宙漂流連合の宇宙軍艦や戦闘機は全て、極めて強力な電磁バリアによって守られていた。それは地球人類の攻撃を物ともしない。


「・・・話には聞いていたが、これほどに無力とは!」


 東谷大佐は苦虫を噛み潰したように呟く。他の兵士たちも顔を青ざめていた。その直後、敵艦隊から無数の無人戦闘機が出撃した。


「航空群を援護する! 誘導弾発射用意!」

「レーダー目標探知!」

「・・・発射(バーズアウェイ)!」


 各艦のミサイル・セルから無数の防空ミサイルが発射される。それらは人工知能によって振り分けられた目標、敵の戦闘機に向かって飛んで行った。直後、無数の閃光が宇宙空間に花開く。だが、敵の戦闘機は閃光の中から何事もなかったかの様に現れ、友軍機を撃墜していく。


「クソッ・・・!」


 東谷大佐は悔しさを露わにする。火星艦隊が壊滅するのは、そのわずか15分後のことであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 いつも楽しませて頂いてます。 滅多打ちの地球側戦力(TT) 身内の裏切りに唖然呆然の女王・・・・ 双方共に無力だが、果たしてこのクーデター&襲撃に挽回策&落としどころは…
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