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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
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理想と現実

2199年7月12日 日本皇国 東京都渋谷区


 22世紀末の東京に輝かしい夜景が灯る。東京は宇宙産業で繁栄する22世紀の地球を象徴する都市であった。その23区の1つである渋谷区では、センター街の街頭ディスプレイが夜のニュースを放送していた。


『宇宙漂流連合の地球視察団は本日朝、東京・宇宙港より来日しました。連合女王ライザ=グリアント・アルザウォール陛下は東京への上陸後、随行員と共に皇居を訪れました。宮内省によりますと、女王陛下は天皇陛下との懇談にて『地球の主要国たる日本の天皇陛下とお会いできて光栄です』と述べられ、天皇陛下は『遠路はるばるお越しいただき、大変感謝致します』と労をねぎらうお言葉をかけられました。

懇談は和やかな雰囲気で20分ほど行われ、その後、天皇陛下と摂政殿下は地球視察団との昼食会に臨まれました。宮内省によりますと、昼食会は終始和やかな雰囲気で行われ、陛下は地球・日本の文化を紹介しつつ、地球と漂流連合の友好的な関係の構築を望まれたとのことです』


 ニュースは天皇と女王の邂逅を映しながら、両者の会談の様子を報道していた。交差点を行き交う人の群れはしばし脚を止め、地球の行末を占うその報道を見上げていた。


 21世紀中頃、異世界にて「15年間の冒険」を経て地球へ帰還した「日本国」は、日本国憲法の大改正を経て2050年頃から“皇国”という国号を使用する様になった。

 飛行戦艦「扶桑」の存在によって国際社会と軋轢が生じ、日本政府も半鎖国体制を構築するなど国際的に孤立する時間が続いたが、21世紀末に「宇宙開発事業」を本格化させ、さらに22世紀に入って国際社会に対して扶桑に秘められた技術を一部開示したことで、宇宙開発は世界的事業となり、その先頭を走るリーダーとして、国際的に認められることとなった。

 宇宙移民が推進され、人口が削減されたことで地球の治安も安定化し、22世紀は繁栄の時代となったのである。




同日夜 帝都ホテル


 19世紀末に建てられたこの日本最古にして最上級のホテルは、何回かの建て替えを経て、22世紀末になっても尚、日本最高のホテルの名誉を保っている。

 そして今宵、ホテル本館の上層階にある大宴会場では、地球視察団と日本政府首脳陣による晩餐が開催されていた。


『・・・『宇宙漂流連合』の皆様、本日は遥々地球へようこそお越しくださいました! 今宵は日本政府より、晩餐の場を設けさせていただきました。これを契機に、我が国と連合の交流をより一層深められることを願っております』


 首相の唐木田がグラスを片手にスピーチをしている。双方の参加者たちは彼に視線を集めていた。その中には女王の姿があり、そして日本側の参加者の中には、各国の駐日大使の姿もあり、この晩餐はまさしく国際的なイベントと化していた。


 そして今回、日本へ降り立った「地球視察団」は連合の元首たる女王ライザを筆頭に、女王府総裁のロトリーや同機関の役人たち、すなわち連合の盟主であるキリエ人が中心となっているが、連合内部で主要勢力であるカリアンやライナ、ジンビーといった種族も数人だが混じっている。

 また正式な視察団メンバーではないが、女王の侍従たちも同行しており、合計で40人近い連合人民が地球を訪れていた。


「・・・これは、すごい!」


 主賓席に座る女王ライザは、目の前に広がる絢爛な会場と食事に目を見張る。手をかけた料理という文化が廃れた漂流連合では、これほど大規模で絢爛な晩餐が開かれることなどないからだ。

 資源も食糧も、地球より遥かにシビアで有限な連合では、王族と言えども奢侈を尽くすことはできない。だが、ここには金銀などの貴金属を惜しげなく使用した食器や調度品、食べ切れるかどうかも分からない量の食事と、彼女たちにとっては旧時代の負の遺産とされ、製法すら忘れ去られた飲用のアルコールが並んでいる。


 彼女を含め、地球視察団の面々はこの晩餐に圧倒されていた。火星や皇居で行われた昼食会は全体的に質素な雰囲気で行われていたが、今宵の晩餐はそれらを覆すほどの奢侈に溢れたものであったからだ。

 それは如何にこの惑星が豊かな星であるかを誇示していた。科学力では圧倒していても、決して埋まることのない“格差”がそこにはあった。


 火星での会食で、地球の味に慣れている者たちは、目の前に広げられたご馳走に躊躇なく手を伸ばし、その食感や味に舌鼓を打つ。しかし、今回の地球訪問で初めて連合母艦から参加した者たちは、彼らの常識からは度を超えた贅沢に戸惑うばかりであった。


「この繊維は・・・?」


 晩餐の最中、女王府総裁のロトリーはテーブルナプキンの素材に疑問を呈する。隣に座っていた宇宙開発大臣の吉井は、少し間を空けて質問に答えた。


「・・・ああ、これは『絹』または『シルク』といって、蚕という家畜化された昆虫の蛹から採取した繊維から生成された生地になります」

「・・・生物から、繊維を!?」


 ロトリーは驚愕する。連合の母艦には他の生物や植物が生息していないため、彼らは地球で言うところの化学繊維しか知らない。文化や常識の違いは、何も食文化だけではなかった。


「5000年前に人類は蚕から絹を生産する方法を確立し、以降人類はこの繊維の肌触りと質感に魅了されてきました。合成繊維で絹の質感を再現したものもありますが、やはり天然物というのは、それそのものに付加価値が生じる・・・そうは思いませんか?」

「・・・は、はぁ」


 天然物という概念がないロトリーは、吉田の問いかけに対して曖昧な答えを返すことしかできない。だが彼の右手は無意識のうちに、絹の質感に夢中になっていた。



 常識の違いに戸惑っていたのは連合側だけではない。大宴会場の外で待機していた外務官僚の庭月野は、女王の侍女として視察団に帯同していたクーラが、1人の女性を抱えて歩いている場面に出くわした。庭月野は慌てて2人のもとへ駆け寄っていく。


「・・・ど、どうしたんですか!? クーラさん!」

「・・・あ! ニワツキノ様、ちょうど良いところに!」


 クーラは顔馴染みに出会えてホッとした様な表情を浮かべる。そしてクーラと庭月野は、気分が悪そうなその女性をソファに座らせた。女性はその服装から連合側の参加者であることが一目瞭然であった。外見はキリエ人と同様に、地球人類と大差ない様に見える。


「・・・日本皇国外務省、庭月野天明と申します。日本政府の命より、今回の地球視察における日程調整を担当させて頂いている者です。地球視察団の方とお見受けしますが、もしやアルコールがお体に合いませんでしたか?」


 宇宙漂流連合にはアルコールを飲用する習慣はない。故に今までに火星で行われた会合では、アルコールが提供されたことはなかったが、今回の晩餐では、女王府側のリクエストに応じる形でアルコール飲料が提供されていた。庭月野はそれが連合住民の体に合わなかったのではないかと危惧していた。


「いえ、違うのです。ニワツキノ様、この方は・・・」

「・・・待ちなさい、私自身の口から説明させて。その前に・・・このフロアに“電源”・・・て無いでしょうか?」

「・・・で、電源?」


 ソファに横たわっていた女性は、クーラが語ろうとしたのを制止する。同時に庭月野に対して1つの質問を投げかけた。その突拍子もない内容に、庭月野は面食らったが、ひとまず女性をコンセントがある場所へと案内することとした。


「これが我が国において電気供給源となる装置です。あの・・・これでよかったのでしょうか?」


 庭月野は困惑しながら女性に問いかける。女性はうっすらと目を開けると、目の前にあるコンセントを見て、ホッとした様な笑みを浮かべた。


「・・・はい、十分です」


 女性はそういうと、おもむろに服の中へ手を突っ込んだ。ギョッとする庭月野を他所に、彼女はお腹の中から何かを取り出す。それは体から伸びている様に見えるケーブルだった。

 その先端には地球のコンセントに合わせた接続部がついており、女性はその接続部をコンセントに突き刺すと、生き返ったかの様に大きなため息をついた。


「フゥ・・・、大変失礼しました。私はエリル=ナーリ・ジョイン、連合12種族の1つ、『ジンビー』に属する者として、チキュウ視察団に同行させて頂いております」


 エリルと名乗ったその女性は、気を取り直して自己紹介をした。


「・・・お恥ずかしいところをお見せしました。我々はエネルギー源を口から摂取できないので・・・脳を動かすのに必要な糖分は別途補給しますが、この体を動かすには充電が必要でして」

「まさか・・・あなたはサイボーグ?」


 庭月野は驚愕する。この時代、生身の手足とほぼ変わらない動きができる義手・義足はすでに開発されているが、全身の機械化を行なった例は未だに存在しないからだ。


「はい、我々ジンビー人は、脳以外の器官がほぼ全て退化した種族・・・愚かな祖先が人工知能と機械に頼り切った成れの果てです」


 エリルは自嘲する様な笑みを浮かべると、右腕と左足をそれぞれ取り外して見せた。彼女の首から下は、地球とは遥かに隔絶された技術力によって作られた義体であった。


 「ジンビー」は連合を構成する12種族の1つであり、暴走した人工知能との闘争に敗れ、惑星「ジンビー」を追われた人類の末裔である。外見は地球人と変わりないが、種としての生命力は末期的な状況まで衰退しているため、体外受精、人工保育器に頼らなければ出生すらできず、体は出生直後からサイボーグ化しなければ生存できない。


「・・・」


 惑星ごとに事情と常識は異なる。連合に属する種族は12、その数だけ異なる世界があるようなものだった。


〜〜〜


7月13日 栃木県日光市 日光東照宮


 翌日、地球視察団の一行は日本政府の案内のもと、東京から北へ移動し、日本屈指の観光地である栃木県日光市を訪れていた。

 政府によって貸し切られた「観光列車」に乗って、彼らは東武日光駅に到着する。そしてバスに乗り換え、本日の目的地の1つである「日光東照宮」へと移動した。

 日光東照宮は江戸幕府初代将軍・徳川家康を神格化した「東照大権現」を祀る、東照宮の総本山である。22世紀末のこの時代も日本屈指の観光地であり、半鎖国政策が解除されておよそ50年、外国人観光客も再び訪れる様になっていた。


「我が国の文化遺産『日光東照宮』へ到着しました」


 視察団の案内役を務める庭月野は、さながらツアーガイドの様に視察団の面々を先導する。バスから降りた瞬間、彼らの鼻腔には本物の植物と土の香りが漂ってきた。周囲は栃木県警の機動隊員や警備用アンドロイドによって警戒網が構築されており、万が一に備えている。

 夏の暑さも木々によって日差しが遮蔽されている分、東京よりは幾ばくかマシになっていた。


「見渡す限りの木々・・・、何と美しい!」


 女王ライザは日光の豊かな自然を目の当たりにして恍惚な表情を浮かべていた。他のメンバーたちも息を呑んでいる。


「では日光東照宮の内部へ、皆様をご案内いたします。この日光東照宮は今からおよそ600年前に建造された建築物群です。600年前に実在し『江戸幕府』という軍事政権を樹立した人物・徳川家康を神々の1柱として祀る施設です」


 地球視察団は庭月野の先導に従い、階段を登って武徳殿の前を通り、石鳥居を潜っていく。進行方向の左側には絢爛な五重塔が立ち、視察団の視線を奪う。

 さらに進むと左右に仁王像が安置されている表門が現れる。その中をくぐると、ついに東照宮の境内へと足を踏み入れることとなった。三猿で有名な神厩舎、三神庫を通りすぎて、かの有名な陽明門へと差し掛かる。視察団の面々は500以上の彫刻が施された“日本一美しい門”に見惚れてしまっていた。


 だが、順調に進んでいた視察に予期せぬ横槍が入る。後方を進んでいた視察団メンバーがいきなり騒ぎ出したのだ。


「あ、暗殺用と思われるマイクロドローンが・・・!!」


 そう言って慌てふためくのは、12種族の1つ「ジンビー人」のエリルだ。彼女の他にも複数のキリエ人が頭を庇い、逃げ惑っている。


「・・・フンッ!」


 その直後、栃木県警の機動隊員が右手でそのマイクロドローンを叩き落とした。庭月野は慌てて騒ぎの渦中に駆け寄り、叩き落とされたものを覗きこむ。


「・・・これは、・・・アブですね」

「・・・?」


 庭月野は苦笑いを浮かべる。そこに居たのはドローンなどではなく、昆虫のアブであった。彼はキョトンとした顔をするエリルたちに、改めて昆虫について説明する。


「前々から説明していますが、これは『昆虫』といって、我々脊椎動物とは全く異なる進化過程を経た動物群です。地球で最大規模・最多数の生物群ですから・・・地球で暮らしたいならば、これに慣れて貰わなければ困ります」

「・・・」


 エリルは只々絶句している。日光東照宮の光景に見惚れて気付かなかったが、よくよく地面を見てみれば、黒く小さい何かが何匹も地面の上を這い回っている。

 さらには、ヒラヒラと華美な模様を纏った羽が舞い、周囲の木々にはジージーとうるさい音を立てる何かがくっついている。その全てが「昆虫」と呼ばれる生物であることを、彼女は初めて理解した。




鬼怒川温泉 とある旅館


 その後、日光東照宮を後にした視察団は、鬼怒川温泉へと移動する。女王の一団が日本政府の用意した旅館へ入ると、女将と従業員が整列して出迎えた。


「宇宙漂流連合の皆様、鬼怒川温泉へようこそ!」

「こちらこそ・・・本日はよろしくお願い致します」


 女王ライザは微笑みながら、女将たちに挨拶を返した。その後、女王を含む視察団の面々は各自の部屋へ案内された。

 女王は当然ながら、この宿で最高級の部屋へと通される。その傍にはクーラをはじめとする複数人の侍女が付き従う。女王を案内する女将は部屋の入り口の前で立ち止まると、侍女にカードキーを手渡し、この後の説明をする。


「こちらが陛下のお部屋になっております。何かありましたら、遠慮なく我々にお申し付けくださいませ。また、準備が出来ましたら大浴場の方へ案内させていただきます」


 女将はマスターキーでスイートルームの扉を開ける。その中には和洋折衷の荘厳な雰囲気漂う客間が広がっていた。


・・・


以下、女王が後に記した日光・鬼怒川訪問に関する手記を記す。


女王ライザの手記


 ニホン皇国の首都トウキョウに降り立った我々を最初に待ち構えていたのは、過酷な暑さであった。今のこの国は「ナツ」というキセツに属しているため、非常に暑い気候であることは事前に聞いていたものの、まさかこれほどとは思っていなかった。

 トウキョウはまさしく、この恒星系を統べる国家の中枢にふさわしい大都市であった。そして我々はこの国の皇帝「テンノウ」の住まいへ向かう。そこは深緑が茂る本物の木々に覆われた、まさしく聖域の様な場所であった。


 そして、我々を出迎えてくれたこの国の皇帝は、少年の姿をしていた。私よりも小さな体にこの恒星系の全権がかかっているのだろうか。私は皇帝陛下に一種の同族意識を抱いた。

 だが、陛下は・・・私よりも堂々としていた。自身が人の上に立つ存在であることを疑わない、紛う方なき「王の資質」を、その小さな体に秘めていた。


 翌日、我々はニッコウ、キヌガワという地に案内された。ニッコウはどうやら、この国でも有数の宗教施設があるらしい。そこは名前をニッコウトウショウグウと言うらしく、深緑の植物が生い茂る中に建てられた、まるで違う世界に入ったかの様な場所だった。

 これらの建物は600年前に、植物を材料にして建てられた「木造建築」だという。この惑星では木で建造物を作ることは一般的であるらしい。その絢爛さ、装飾の巧みさに、私はただただ感銘を受けるばかりであった。


 その後、我々はニホン政府が用意した宿泊施設に案内された。自らをオカミと名乗った支配人の女性と従業員たちは、今までに出会ったこの国の役人たちとは明らかに異なった装いを身に纏っていた。後から聞いたことだが、キモノというこの国特有の民族衣装であるらしい。

 そして夕食を済ませた我々は、オカミの案内で「大浴場」へと案内された。そこでは湯気を立てた大量の「水」が垂れ流しになっていた。地熱によって沸騰された「温泉」という熱せられた水を地下から汲み上げているものらしく、それを入浴に用いることが観光資源となっている様だ。

 母艦では「水」は非常に貴重な資源であり、王族と言えどもその使用には厳格な制限がある。大量の水が潤沢に流れ続ける様を目の当たりにして、私も侍女たちも、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。


 トウキョウでの晩餐で振舞われた食事、そして潤沢な水・・・この星に降り立って2日目だというのに、我々はチキュウの豊かさをこれでもかと見せつけられたのである。


〜〜〜


7月16日 沖縄県那覇市 観光ホテル


 地球ならではの生物や気候に戸惑う地球視察団は、日光を出発した後、日本の旧首都「京都」訪問を経由して、新関西国際空港から日本列島南方の離島「沖縄」へと辿り着く。

 沖縄はかつて、東アジアにおけるアメリカ軍の主要な軍事拠点であった場所だ。2042年に日米安全保障条約が終了してからは、東京の横田基地や神奈川の横須賀基地と同様に、沖縄県内に存在した米軍基地の管理権は全て日本皇国軍(当時の自衛隊)へ譲渡された。


 東亜戦争後に締結された「米中安全保障条約」により、アメリカ軍が東アジアでプレゼンスを示す場は日本から中国本土へと移った。パラオやマーシャル諸島、ミクロネシア連邦からもアメリカ軍は撤退しており、同地域の安全保障は日本軍が引き継いで今日まで至っている。


 エメラルドブルーの海、純白の砂浜・・・沖縄はこの時代も日本屈指の観光名所であり、治安が安定していることから、海外の富裕層もよく訪れる。だが現在、砂浜には観光客の1人も居ない。空は曇天であり、海も薄暗く、沖からは強風が吹きつけていた。


『南西諸島に接近中の台風4号は、今夜7時頃には沖縄本当に上陸する予定です。中心の気圧は910ヘクトパスカル、最大瞬間風速は75メートルと猛烈な勢力を持っており・・・』


 現在、沖縄は赤道から台風が接近しており、地球視察団は本来の予定をキャンセルして海の近くのホテルに缶詰になることを余儀無くされていた。

 日が傾くにつれて風は強くなり、波は高くなる。強風が打ち付ける度に窓ガラスが大きく揺れ、轟音が響き渡る。自然災害を知らない宇宙漂流連合の人々は、個室に籠り、暴風雨が過ぎ去るのを只々待っていた。

 その時、窓の外から眩い光が放たれる。


「・・・キャアアアアッ!!」


 光に遅れて、大地を揺らすほどの轟音が響き渡る。女王の侍女たちは広大なスイートルームの角っこに身を寄せあい、耳を塞ぎ、悲鳴をあげた。雷が鳴っているのだ。

 直後、2発目の雷が鳴る。同時にホテルの電源が落ち、部屋が真っ暗になった。侍女たちはうさぎの様に震え、目には涙を浮かべている。

 雷を恐れ、怯えているのは彼女たちだけではなく、女王府総裁のロトリーやカリアン代表のマーランなど、大の男たちもそれぞれの部屋でトイレやベッドの中に籠り、台風が過ぎ去るのを怯えながら待っていた。


 だが、当の女王は怯えることなく、むしろ窓辺に立って荒れ狂う空を見つめていた。直後、停電して真っ暗になった部屋を3発目の稲光が照らす。さらに追い討ちをかける様に、雷鳴が鳴り響いた。


「すごい・・・これが『台風』! これが・・・自然!」


 女王は自然のエネルギーを目に焼き付けようと、瞬きも忘れて外の光景を見つめていた。

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