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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
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女王、火星への降臨

2199年3月27日 地球 日本皇国 首都・東京 新宿区 外務省


 宇宙人による火星占領が大々的に報道されてから9日後、地球の人々は史上初の宇宙戦争に不安を抱きながら、日常を過ごしている。外務省に勤める若き官僚、庭月野天明も、同僚たちと共に多忙な業務に勤しんでいた。


 そして時刻は12時前、お昼時の職員食堂には大勢の外務省職員が集まっている。天井から吊るされた巨大スクリーンには、お昼のワイドショーが放映されていた。火星占領から1週間以上経過した今も、世界中のメディアは連日その関連情報を報道している。

 国連使節団と火星を占領した集団が接触して2日後、世界はその交渉を固唾を吞んで注視している。そしてこの日、再び世界中の人々を驚愕させる一報が伝えられた。


『火星を占領した『宇宙漂流連合』と名乗る集団と、国連との交渉が連日続けられていますが、本日、国連より新たな発表がありました。ワシントンD.Cより現地映像をお届けします』


 画面がテレビ局のスタジオから、国際連邦本部のあるワシントンD.Cに切り替わる。本部内の会見会場にて、国連の報道担当官が声明発表を行なっていた。


『まずはじめに、我々国際連邦は『宇宙漂流連合』と名乗る武装集団を『国家』と認定しました。そして同国政府より、同国の最高統治機関である『女王府』を、火星に移設させたいという申し出があり・・・火星の都市『セレーノ・アクア』の一部地域を短期間『租借地』として貸与することで、これを了承しました!』

「・・・!!」


 敵の行政機関が火星へ拠点を移す・・・まるで火星を相手の領地と認めたかの様な決定に、世界がざわついていた。


『尚、この決定は断じて、宇宙漂流連合による火星の統治を追認したものではありません。租借地として貸与するセレーノ・アクアを除く、火星の全領域は不法占拠されているものであり、早急なる火星の解放と軍の撤退を求める我々の姿勢は変わりません!』


 科学力の差は歴然であり、地球側が拒否しようとも、連合が強行すれば関係なくなってしまう。故に国連は漂流連合に対して、女王府を移設する地を「租借地」として貸与することで体裁を整えたのである。


『・・・ワシントンD.Cからの映像をお届けしました。さて昭島さん、今回の国連の声明をどう見ますか?』

『そうですねぇ・・・』


 ニュースの映像がテレビ局のスタジオに切り替わる。ニュースキャスターがゲストとして訪れたコメンテーターに意見を求めた。

 連合の駐留を認めるのは租借地のみであり、その他の火星全領域は国連の主権地であるという主張を崩さない。それが国連の立場である。しかし、いずれにせよ相手の力に屈して現状を追認したという事実は変わらず、世論の批判は必至と言えた。


〜〜〜


3月27日 火星 首都 水龍 第4区 市民講堂


 地球で行われた国連の記者会見は、数時間後に火星のメディアにも届けられた。理不尽な占領下、抑圧された環境で暮らす水龍の人々は、その内容を聞いて愕然としていた。

 水龍は今も、宇宙漂流連合の撤退を求めるデモ隊やゲリラによる喧騒や、破壊活動の騒音が絶えない。さらには家を無くした避難民同士の窃盗、非合法組織やチンピラたちによる火事場泥棒や性犯罪が蔓延し、「太陽系で最も危険な都市」はまさに地獄と化していた。


『・・・以上、ワシントンD.Cからお伝えしました』


 第4区では襲撃によって家を失った大勢の避難民が、行政庁によって設営された仮設テントや、避難所として定められた体育館などで暮らしている。

 そしてボロボロの衣服で日々を暮らす人々の中に、教会を失った副牧師、大久保イツキの姿があった。彼女は携帯端末でニュースを見つめている。


「・・・」


 第4区の市民講堂に避難していたイツキは、板張りの床の上に座りながらニュースを見つめていた。講堂内部はプラスチック製の簡素なパーテーションによって仕切られており、各世帯ごとのパーソナルスペースとなっている。

 だが、独り身であるイツキはパーテーションを割り当てられなかったため、彼女は講堂の角に毛布を敷いて日々を凌いでいた。


「・・・?」


 床に座る彼女の視界に影が差し込む。見上げてみると、非極東アジア系の中年男がイツキの目の前に立っていた。


「・・・おう、お嬢ちゃん。可愛いねぇ。いくらだい?」

「・・・」


 男はイツキに対して唐突に売春を持ちかける。イツキは激昂するでもなく、冷徹な目つきで男の顔を見上げていた。


「あら、私・・・お金は要らないの」

「え、ラッキー♩ じゃあ早速」


 イツキの返事を聞いて、男は下衆な笑みを浮かべながらイツキに手を伸ばした。だがほぼ同じタイミングで、イツキは男の手を躱すように立ち上がる。


「・・・お金の代わりに、貴方の“幸運”を頂くから」

「・・・は?」


 イツキは男の胸元に手を触れる。その時、男の運命が大きく書き換えられた。

 イツキはその場から優雅に立ち去っていく。その直後、男が立っている場所の真上から、パラパラと小さな石くずが落ちて来た。


「・・・一体何」


 男は天井を見上げる。その直後、天井から1本の鉄骨が男の頭上に向かって落下した。


「うわあああ!!」

「きゃあああ!!」


 巨大な轟音と共に大量の土煙が立ち上り、講堂内には断末魔が響き渡る。パニックを起こす群衆を尻目に、イツキは講堂を後にした。彼女の手には1枚の紙ビラが握られている。それには日本語と英語、中国語とスペイン語で、以下の一文と集合地を示す地図が書かれていた。


ー志士よ集え、攘夷の名の下にー


〜〜〜


4月10日 北大洋の海岸 第3の都市 セレーノ・アクア


 首都「水龍」よりさらに北へ行くと「海」がある。日本政府が施行した「超短期惑星改造計画」によって地下から溶け出した水が地表へ流れ、火星の北半球に「海」が生まれていた。海の出現によって、沿岸部では雨や雪さえ降るようになっている。

 その海「北大洋」の海岸に水上都市が位置する。名前は「セレーノ・アクア」、火星第3の人口を誇り、その外観から「火星のベニス」とも呼ばれていた。都市は大きく干潟の水上区域と地表の陸上区域に分かれ、総人口は1400万人、本家ヴェネツィアよりも都市の規模と経済力は段違いに上であった。


「此処が、あの有名な『セレーノ・アクア』か」

「噂通り・・・綺麗な街だな」


 そのセレーノ・アクアに張り巡らされた水路を、数隻のゴンドラが渡っている。乗っているのはこの街を視察に来た国連の役人と軍人たちだ。船尾には規定の制服を身に纏う女性の漕ぎ手、ゴンドリエーラがオールを漕いでいた。

 彼らがここへ来た目的はもちろん観光ではない。襲撃による混乱と動乱が絶えない首都水龍に代わり、連合女王が降り立つ場所としてこの街に白羽の矢が立ったため、その視察に来たのである。


「この街は火星唯一の水上都市であり、その景観から観光都市と呼ばれております。しかし、最初から水上都市として建設された訳ではありません。そしてこの街の状況は、今の火星が抱える最大の問題を象徴しているのです」


 ゴンドリエーラの女性はそういうと、国連からの使者たちに水上に立つ建物の基礎部分を見るように促す。


「この街は50年前までは他の都市と同様に砂漠の真ん中にある地上都市でした。しかし、予想外の海の出現によって水没してしまったのです。現在のセレーノ・アクアは、水没した都市跡の上に地中海風の新たな都市を作ることで再建された街なのです」


 予想外に生まれた「火星の海」は現在、火星表面の2割を覆い、今もなお拡大を続けている。そして火星表面に散らばる92の都市のうち、このセレーノ・アクアが最初に水没してしまったのだ。当時は都市の移転も検討されたが、最終的には水上都市として新たなスタートを切ることとなる。


「『海の拡大』は火星における大きな問題の1つです。北大洋がどれほど拡大するのかは憶測の域を出ませんが、このままのペースですと、およそ20年後には首都『水龍』も水没すると言われているのです」


 国連が租借地として貸与するのは、セレーノ・アクア沿岸部にある小さな島「レーナ島」と、同島から半径5kmの海上である。この島もかつては陸の上の小高い丘に過ぎなかった。

 予想外の海は火星の住民に恩恵を与えると同時に、深刻な社会問題をもたらしていた。


「・・・」


 護衛として視察団に同行する東郷は、危険な都市とされる「水龍」とは対照的な美しさを持つこの街に感銘を受けていた。それと同時に、この土地を我が物顔で蹂躙するであろう敵の傲慢さに憤りを覚えていた。


 その後、国連は数週間に及ぶ視察とデモやゲリラに備えた警備計画の策定を終え、セレーノ・アクアに敵の本丸を受け入れる準備を整えた。水龍に本拠地を置く占領軍司令部は、それを母艦へと伝達する。


〜〜〜


4月20日 エッジワース・カイパーベルド


 海王星より外側にある星屑の海の中に、全長1200kmの巨大な宇宙船「宇宙漂流連合」が鎮座している。その下部に直径5km大きさを誇る円盤型の艦載機が駐機されていた。

 母艦から艦載機へ伸びるエスカレータータラップを介して、大勢の役人が乗り込んでいく。タラップの両脇には儀仗兵が並び、スピーカーからは荘厳な音楽が奏でられていた。さらには居住区画から大勢の住民が集まっている。


 艦載機に乗り込むのは「女王府」に務めるキリエ人の高級官僚ばかりである。人々は歓喜の声で彼らを見送っていた。女王府の移設は彼らの悲願である「地球・火星移住」が間近に迫っていることを民衆に印象付けている。


「ワアアアア!」


 そして一際大きな歓声が湧き上がった。全住民が崇拝する連合の象徴、女王ライザが群衆の前に現れたのだ。


『皆様・・・行って参ります』


 ライザは女神のような微笑みで民衆に手を振り、タラップに登る。彼女の後ろには女王府総裁のロトリーの姿があった。彼もそこはかとなく胸を躍らせている。

 だが、浮かれ気分の役人と民衆を冷ややかな視線で見つめる青い肌の男がいた。


「フン、交渉など生ぬるい。相手は原始人だ、力で奪い取ればいいものを・・・」


 出発セレモニーを特別観覧席から見つめるその男の名は、ガンヴォ・レ・マンシ。女王府の直下に位置する、12の種族の首脳12人が合議制で意思決定を行う「行政部」にて、「カリアン」の代表(首相)を務める男だ。

 彼が率いる「カリアン」とは、盟主「キリエ」に次ぐ連合第2位の地位を占める種族であり、およそ1000年前に核戦争で滅びた惑星「カリアン」に住まう人類の末裔である。

 12の種族の首脳陣は、盟主「キリエ」を筆頭に地球への平和的移住を求めるハト派、それとは対照的に圧倒的な科学力の差を背景に太陽系の軍事制圧を求めるタカ派に分かれている。そのタカ派の筆頭こそが彼、「カリアン」首相のガンヴォであった。


「全くです、首相。聞けば・・・チキュウ人は生意気にも、我々の代表団に技術提供を求めてきたとか」

「さらには、我々に奴らの傘下に入る様に求めてきた様で。原始人にあるまじき、身の程知らずと言わざるを得ませんね・・・」


 ガンヴォの取り巻きたち、彼と同様に青い肌をした者たちが次々と発言する。カリアン人は地球人とほぼ同じ体の構造をしているが、青い肌をしているのが最大の特徴であった。


「まぁ・・・甘い女王府も身の程知らずのチキュウ人も、いずれは思い知ることになるだろう。これは力でしか解決できない問題だということを・・・」


 ガンヴォは不敵な笑みを浮かべる。その後、女王を乗せた座乗艦「ミーナン」は大勢の民衆に見送られながら、宇宙漂流連合を出発した。



 直径5kmの円盤型宇宙船・座乗艦「ミーナン」は、女王ライザ以下、役人や侍従など500人以上の乗員を乗せて火星へ旅立つ。

 王族の座乗艦だけあって、その内部は非常に豪勢な作りになっている。「女王の間」では中心に置かれた玉座に女王ライザが座り、その背後には数多の侍女が控えていた。


「このマズナー移転はチキュウ移住への第1歩・・・いざ、砂の星へ・・・」


 ライザはまだ見ぬ惑星に期待を抱き、大きな窓の向こうに広がる宇宙を眺めていた。


〜〜〜


同日 火星 首都水龍 火星行政庁 第2庁舎


 女王の座乗艦が出発したことは、およそ5時間遅れで火星にも伝達されていた。今や占領軍の根城と化した「火星行政庁」は第1庁舎が彼らによって接収されている。

 そして今、火星行政庁に勤めていた役人たちは、第2庁舎へと押しやられていた。火星行政長官の牟礼はその一画にある展望テラスにて、国連使節団に名を連ねている日本人、小桜健斗と話をしている。


「今、女王を乗せた船が出発したそうだ。そして火星の次はおそらく・・・地球に上陸させろと言ってくるだろう」


 牟礼は地球側の意思を無視して、要求を押し通す連合側の態度に辟易としていた。火星への上陸を追認してしまった以上、いずれは交渉の進捗状況を無視して、地球への上陸を要求してくることは自明である。


「いえ・・・むしろそれは好機かも知れません」


 だが小桜は、牟礼とは違う可能性を考えていた。


「彼らは地球を理想郷としか見ていない。地球の“本当の姿”を知らないと言えます。思い知らせてやればいいんです。地球の過酷さを・・・!」


 宇宙漂流連合は管理されたコロニーで何世代も暮らしてきた種族の連合体である。故に彼らは豊かな自然が栄える地球に対して、大きな理想と期待を抱いている。

 だが、彼らは知らない。地球は人類に恩恵を与えるだけではないことを。その自然の厳しさを。

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