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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
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宇宙漂流連合と国際連邦

エッジワース・カイパーベルト


 「宇宙漂流連合」とは惑星「キリエ」を盟主とする、母なる星を無くした12の種族によって構成される星間連合である。1300年前、発達しすぎた科学文明により大地と空気が汚され、自然が破壊されてしまった惑星「キリエ」にて、惑星脱出プロジェクトが行われた。

 キリエの人々は全長1200キロメートルの巨大な宇宙船を建造し、果てしない放浪の旅に出ることとなる。その後、様々な理由で同じように母なる星を失った種族が集まり、合計12の種族による星間連合「宇宙漂流連合」が結成された。


 連合の母艦内部にはコロニーが形成されており、実に130億の人口が暮らしている。その中心地には連合を治める政府機関が集中しており、12の種族の首脳陣が合議制で意思決定を行う「行政部」、各種族の代議士が集う「連合議会」、平等な司法の砦である「連合裁判所」が存在する。

 そしてそれら政府機関の頂点に立つ組織こそが、連合女王を擁する「女王府」である。王の地位は盟主「キリエ」の王室であるアルザウォール家が代々受け継いでいる。もとより「キリエ」は地球より遥かに発達した科学文明を持ちながら、その政治形態は政祭一致の君主制であり、それが母星を失って1300年経った今も継続されているのだ。


 そして現女王は連合内部で神格化されており、キリエを除く11の種族は女王の下に忠誠を誓っている。唯一無二の絶対君主を頂点に据えた、政祭一致の君主制連邦国家、それが「宇宙漂流連合」の正体だ。


「女王陛下は一刻も早いチキュウへの降臨を望まれている・・・」


 「女王府」に従事する役人は、女王と王族の身の回りの世話をする侍従を除き、すべてがキリエの出身者で占められている。その総裁を務める男、ロトリー=ラマグ・ケンティールは部下の男を引き連れながら、女王府の長い廊下を歩いていた。


「・・・しかし、チキュウにも戦う力はあります」

「そうだ、そうなれば長い戦いになる。それは女王陛下の望まれるところではない」


 女王は地球への移住を切に願っている。連合と地球が本格的に開戦すれば、おそらくは地球を含む太陽系全域が戦いの場となる。地球を戦場にするということは、彼らにとってようやくたどり着いた理想郷を破壊することに他ならないのだ。


「チキュウの使節団が第4惑星へ向かっていると聞いた。また交渉が再開される手筈だ。だが・・・おそらくは我々が望むように進みはしないだろう」


 連合と地球は4年間交渉を続け、その結果、両者の思惑は全く結実しなかった。その後、連合は地球への警告として「火星占領」へ踏み切ることとなる。

 しかし、その火星も彼らにとっては移住候補地の1つであり、その星に対して破壊行為を行うことは、連合内部でも賛否両論であったが、12種族で第2位の地位を占める「カリアン人」の主張で計画・実行されたのである。


『まもなく、女王陛下の公式参賀が開催されます。出席予定の方々は、展望テラスへお急ぎください・・・。繰り返し申し上げます。まもなく・・・』


 突如として女王府内部にアナウンスが響き渡った。ロトリーは天井を見上げる。


「おっと、もうそんな時間か・・・急がなければ」

「・・・行ってらっしゃいませ、ロトリー様」


 ロトリーは展望テラスへと向かう。部下の男は深々と頭を下げて彼を見送った。


・・・


女王府 参賀の場


 女王府は王族が暮らす宮殿と隣接しており、正面には大きな広場がある。広場には連合の住民たちが所狭しと集まっており、女王が現れる時を今か今かと待っていた。

 女王が立つ演題の周囲には、王族の他、ロトリーを含む上級官僚が控えている。そして盛大なファンファーレが鳴り響き、ついに人々が待ちかねた存在が姿を現した。


「女王陛下万歳!」

「女王陛下万歳!」

「宇宙漂流連合万歳!」


 数万人単位で集まった民衆の歓声が湧き上がる。演台に上がった女王は、その眼下に集う民衆を見下ろすと、優しい目で彼らに向かって手を振った。


『宇宙漂流連合女王、ライザ=グリアント・アルザウォール陛下のお言葉です・・・』


 そのアナウンスが鳴った途端、民衆は一斉に静まり返る。広場の各地には、女王ライザの姿を投影した巨大なホログラムが映し出され、彼女の一挙手一投足をリアルタイムで伝えていた。


『宇宙漂流連合の同胞たちよ、この船が造られ、我々が果てのない放浪の旅を始めておよそ1300年、その永きに渡って続いた黄昏の放浪に、ついに終止符を打つ時が来たのです・・・』


 ライザの言葉を聞いて、民衆の歓声が再び湧き上がる。ついに見つけた理想の惑星「チキュウ」、その存在はすでに全住民の知るところとなっている。130億の人民が新たなる故郷に足をつける時を待ち侘びているのだ。


『このジェリカ恒星系には『チキュウ』と『マズナー』・・・生命が暮らせる惑星が2つも存在する。まさに奇跡。これは神が、長い試練を乗り越えた我々に与えた好機なのです』


 女王ライザは集まった民衆に対して、新たなる故郷への想いを炊きつける。直後、民衆の頭上に「地球」と「火星」のホログラム映像が映し出された。緑あふれる自然、豊かな海、清浄な大地・・・そのすべてが人々を魅了する。この時代の火星は急激に上昇した気温によって、地下に凍結していた水が流れ出し、北半球に海が出現していた。

 しかし、彼らは知らない。地球の自然は人間に“恩恵”のみを与えるわけではないこと、そして火星の今の環境は地球人類の血の滲むような努力の賜物であることを。


『・・・しかし、この恒星系はその『チキュウ』で発達した人類・・・『チキュウ人』の領域。我々は彼らの星へ使者を送り、連合全住民の移住に向けて平和的に交渉を続けています。同胞たちよ、新たなる日々の幕開けはすぐそこまで迫っているのです!』


 女王の言葉を聞いて、民衆の興奮は最高潮に達していた。その後、演説を終えたライザは歓声を一身に浴びながら演台を降りていく。そして側に控えていたロトリーのもとへ近づき、耳打ちをする。


「地球人に我々の本気を見せつける。・・・第4惑星へ『女王府』を移動させます」

「!?」


 ロトリーは目を見開いた。彼の反応を見て、女王は不敵に笑う。この時、「宇宙漂流連合・女王府」の火星移設が決定したのだった。


〜〜〜


2199年3月25日 火星 首都・水龍 宇宙港


 国連宇宙軍月面派遣部隊を引き連れた1隻の宇宙航行船が、首都・水龍の宇宙港に降り立った。火星の海「北大洋」に降り立った宇宙貨客船「那由多」は、海岸線に建てられた宇宙港の巨大な桟橋に水飛沫をあげながら近づいていく。そして「那由多」の護衛として月より同行していた国連宇宙軍の宇宙戦闘艦も、続々と海面に着水していく。

 桟橋には火星行政庁の役人や現地警察、そして火星を占領している宇宙漂流連合第4艦隊の兵士たちが並んでいた。


 無事桟橋に接岸した「那由多」からタラップが下ろされる。船からは使節団の代表を務める国際連邦事務総長のジュンタ・ピワランが降りてきた。タイ王国出身の彼女は、タラップを降りた先で待っている火星行政長官の牟礼昭弘と握手を交わす。


「ようこそ、火星へ。私は火星行政長官の牟礼昭弘と申します」

「国際連邦事務総長のジュンタ・ピワランです。よろしくお願いいたします」


 地球の代表者として矢面の立つ者同士、両者は極めて真剣な表情をしている。そしてジュンタ・ピワラン以下、国連より派遣された使節団のメンバーは、行政庁が用意した公用車に乗って占領下の水龍へ向かう。


・・・


首都・水龍 第1区 火星行政庁 大会議室


 公用車の車列が火星行政庁の敷地に入る。本来、国連による火星統治の中心であったそこは、今や宇宙の果てからやってきた侵略者たちの根城になっている。

 巨大アンドロイド兵に見下ろされながら、公用車の車列が行政庁の正面に停車する。数多のマスコミがかけつけている中、ジュンタ・ピワラン以下、国連使節団の面々が車を降り、火星行政庁の中へ足を踏み入れた。


「・・・宇宙漂流連合の代表者団は大会議室でお待ちです」


 国連使節団は牟礼に先導されながら、侵略者たちが待つ場所へと向かう。そして両開きの扉を開けた先には、変わった民族衣装を身に纏う者たちがいた。

 国際連邦と宇宙漂流連合、双方の代表団が顔を合わせる。マスコミのカメラが向けられる中、ジュンタが前へ歩み出た。


「初めまして、国際連邦事務総長のジュンタ・ピワランです」

「宇宙漂流連合マズナー派遣団の代表を務めさせて頂いております、ジャディ・レマイクギギアと申します」


 ジャディという男がジュンタの手を握る。彼は地球人と変わらない見た目をしていた。しかし、彼の背後に控えるその他の面々は、明らかに地球人とは異なる身体的特徴を有していた。

 両者の言語は自動翻訳機によって、一瞬のうちにお互いの言語に直される。会議室の中には国際連邦旗と宇宙漂流連合の国旗が掲げられていた。そして両者は設置されていた長テーブルに着席する。ここから先はメディアへ非公開となり、カメラマンたちは役人の誘導に従い、会議室を退出していった。


「・・・では早速ですが、本題に入りましょう」


 先に口を開いたのは、地球側の代表であるジュンタだ。彼女の発言に合わせて、使節団の1人がタブレット端末を操作する。すると双方の参加者の眼前に、バーチャルディスプレイが浮かび上がった。


「我々『国際連邦』は『宇宙漂流連合』に対して、以下の条項を提示します」


 そのディスプレイには双方の言語で書かれた箇条書きの文章が表示されていた。その内容は以下の通りである。


・国際連邦は宇宙漂流連合に対して速やかな火星占領の終了と撤退を要求する

・国際連邦は地球に1億人の宇宙漂流連合住民を移民として受け入れる

・国際連邦は火星に7億人の宇宙漂流連合住民を移民として受け入れる

・国際連邦は太陽系内に存在し、地球人類が進出していない天体を宇宙漂流連合に対して複数個割譲する

・国際連邦は地球移民より外れた宇宙漂流連合住民に対しても、条件付きで地球への渡航を許可する


 圧倒的な科学的優位を背景に、火星占領という暴挙に出た宇宙漂流連合に対して、国際連邦は速やかな火星の解放を求めた。さらに4年前より連合が求め続けている地球移住に対して、大幅な譲歩を提示することを決めたのである。


「これが我々の最大の譲歩です。なお・・・あくまで地球を含む太陽系は国際連邦が主権を有する領域であり、地球の共同管理は容認できません。それは改めて強調させていただきます」

「・・・」


 地球側の大きな譲歩に、連合側のメンバーは少々ざわついている。地球側は人口がすでに飽和状態であることを理由に、今までの交渉では極一部の特権階級のみ移民として受け入れる姿勢を崩さなかった。その地球側が1億人規模の移民を受け入れると提示した事実は、国連が如何に火星占領を重く受け止めているのかを示していた。


「・・・1億か、やはりな」


 青い肌をした男が嘲笑するような声を出す。国連使節団の面々は、一斉にその声の主へ視線を向ける。


「やはりお前たち『チキュウ人』は、すでに『チキュウ』は飽和状態など適当な嘘をついて、我々からゆすろうとしていたのだな。まさに原始種族の浅知恵、恐れ入った」

「・・・!?」


 その男は地球人類を原始種族と蔑みながら、バカにしたような発言を続ける。ジュンタは眉間にしわを寄せ、さらには連合側のメンバーも動揺を隠せない。そんな彼らを他所に、青い肌の男は言葉を続ける。


「それにさっきから譲歩、譲歩と言っているが、お前たちは何か勘違いをしている様だ。お前たちは我々に対して優位に立っていると考えている様だが、こうしてチキュウ人を滅ぼさず、対等に扱ってやっていることこそ我々の“譲歩”なのだ。力の差は歴然。つべこべ言わず、チキュウを我々に差し出せば良いのだ。女王陛下は慈悲深くも、チキュウ人を追い出すことはせず、チキュウを共同管理としようと仰られている。なぜそのご慈悲を無下にする?」

「マーラン殿!!」


 連合側の代表であるジャディが、青い肌の男を強い口調で諌める。国連使節団の面々は呆気にとられ、言葉が出ないでいた。


「女王陛下は・・・平和的な合意を望んでおられる。不適切な発言は控えたまえ、マーラン殿」

「これは大変失礼しました、ジャディ殿。我ら連合の盟主である貴方方『キリエ』と『女王陛下』の意思は絶対・・・それに逆らうつもりはありませんので」


 マーランと呼ばれた青い肌の男はジャディの警告を素直に受け入れる。彼らは「カリアン」という惑星より連合に加わった種族で、体の構造は地球人類とほぼ変わりないが、青い肌をしているのが特徴であった。


「・・・話を戻しましょう。地球に1億、火星に7億。これだけで漂流連合の6%に近い人口である筈です。これ以上の無理難題を押し付ける様であれば・・・既に同胞の血が流れている以上、我々も刃を交える覚悟です。たとえ地球を戦場としようとも・・・!」


 ジュンタは強い言葉でこの条件を飲むように求めた。実務者協議なしで行われるぶっつけ本番の首脳会談であるからこそ、飛び出した発言であり、同時に国際連邦が最悪の場合として「宇宙戦争」を覚悟していることを初めて示した瞬間であった。


「・・・チキュウを戦場に、ですか。それは我々の望むところではありません」


 ジャディは地球側が強気な発言をしてきたことに少し驚いていた。地球を戦場にしてしまっては元も子もない。


「次いで・・・今回の火星襲撃にて生じた被害の補償についてですが・・・。我々としては当然、宇宙漂流連合より何らかの補償をしていただけるものと考えております。それでよろしいでしょうか?」


 今回の火星占領事件により、軍人・民間人と合わせて数万人規模の犠牲者が出ている。さらには火星全域の経済活動がストップしている状態であること、襲撃による被害も相まって既に数兆円規模の経済的損失が出ていた。


「・・・補償だと? 原始種族が調子に・・・!」

「マーラン殿!!」


 青い肌の男が再び憤りを露わにするが、ジャディが咄嗟に諌める。彼はマーランが口を閉じたことを確認すると、ジュンタへ連合の意向を説明する。


「・・・我々の経済と貴方方の貨幣経済では、その価値観や構造があまりにも異なっています。一重に補償と言っても、難しいのではないでしょうか?」


 宇宙漂流連合と地球では経済の構造が根本的に違う。地球で行われる金銭的な補償を求めることは非常に難しいと言えた。


「・・・それについても、我々は代替案を用意しております。我々国際連邦は、連合に対して無制限・無償の技術供与を求めます。それを補償の代替とさせていただきたい」


 ジュンタはさらに、宇宙漂流連合へ技術提供を要求した。すでに連合側が戦いの火蓋を切っており、宇宙戦争も覚悟している以上、国際連邦も容赦無く連合へ要求を突きつける。


(・・・母艦の『女王府』へ指示を仰ぐべきでは?)

(うむ、まさかチキュウ人がこれほど強気に出てくるとは・・・)


 ジャディの左隣に座る部下が耳打ちする。地球側が提示した大幅な譲歩案と、その対価と言わんばかりに主張してきた技術提供、それぞれここで結論を出すにはあまりにも高度に政治的な問題であった。


「・・・一旦、我々の母艦へ報告させていただきます。それで宜しいでしょうか」

「・・・分かりました。良い返答を期待します」


 ジャディは結論を控えることを告げた。ジュンタもそれに同意し、本日の宇宙漂流連合と国際連邦の会談はこれにて終了する流れとなった。

 だがその時、連合の役人が血相を変えて会議室へ現れる。彼はそそくさとジャディのもとへ近づいて彼に耳打ちする。


「・・・何!?」


 部下からの報告を受けて、ジャディは目の色を変える。その様子を見て、地球側の会議参加者たちは怪訝な表情を浮かべる。


「・・・どうされましたか?」

「いえ・・・その、・・・えーっとですね」


 ジュンタに問いかけられたジャディは、思わず視線を泳がせてしまう。今まで冷静な態度を崩さなかった彼が、この日初めて明らかな動揺を見せていた。


「・・・我らの女王陛下が、『女王府』をこの第4惑星(マズナー)へ移転すると決定されたと、先ほど母艦より連絡がありました。女王陛下ご本人と共に・・・!」

「・・・!?」


 宇宙漂流連合の女王、地球にとっては「敵の親玉」に等しい存在。それが占領下で未だ混乱が続いている火星に来るという。地球側の面々は驚きを隠せない。

 そして、この「女王降臨」によって、事態はさらに大きく動き出すこととなる。

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