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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第3章 横浜龍神篇
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黄金の再宴と「扶桑」の目覚め

ー宿屋奏太の独白ー


 元々、俺は小学校からサッカーに打ち込んでいた。しかしプロのユースからは声がかからず、中学に上がった時、今はもう数少ない「サッカー部」がある学校に何とか入り込んだ。そして中学3年生の時は国体の候補選手にもなったけど、ある日を境にきっぱりと止めた。


 きっかけは半月板損傷。医者には「iPS細胞移植による再生手術」を提案されたが、元々ユースに上がれなかった時点で、プロになるつもりもなくなっていた俺は、その提案を断った。


 ただ、その選択をふと後悔する時はやっぱりあって、俺は心の中にどこか虚無感を抱えながら、高校へ進学した。

 せめて心穏やかに過ごせたら・・・そう思った俺は、サッカーと並んで小さい頃から大好きだった「天文学」に再び興味を抱いた。だが、俺の高校生活は、安寧とは程遠い、命が危うくなるほどスリリングで、刺激的なものになった。


 それはあの時、あの教室で「氷の美少女」に出会ったことがキッカケだった。彼女に出会って、俺のイカレた高校生活が始まったんだ。


・・・・・

・・・


横須賀皇国海軍施設 周辺


 時間は少し前に遡る。公園での気晴らしを終えた宿屋、小羽、そして波鐘の3人は、レンタカーに乗って帰路についていた。運転席に免許保持者の宿屋が、助手席に小羽、後部座席に波鐘という布陣で、運転席に座る宿屋もハンドルを握ることなく、談笑に参加していた。

 この国の普通自動車免許の取得年齢は、完全自動運転技術の発達によって18歳から16歳へ引き下げられている。


 彼らは今、「横須賀皇国海軍施設」の外苑を走っていた。「横須賀皇国海軍施設」とは、2042年の「日米安保条約」終了によって在日アメリカ軍が撤退した「横須賀海軍施設」を、そのまま海上自衛隊の施設としたもので、現在は飛行戦艦「扶桑」や核融合原子力空母「翔鶴」の母港となっている。

 日本政府による接収に伴い、商業施設の大半が廃業となったことで、敷地面積はむしろ米軍時代よりも縮小しており、メインゲートの場所も変わっている。


 彼らの車はそのメインゲートの前に近づいていた。


「・・・ん?」


 運転席に座る宿屋がいち早く異変に気づく。そして彼はメインゲートで小競り合いが生じていることに気づいた。


「・・・亜人だ!」


 破壊されたメインゲートを舞台に、亜人種の集団と皇国海軍兵士の戦闘が発生していた。スクラムを組む警備アンドロイド、その背後に海軍の警務隊がシールドを持って陣地を形成している。

 アンドロイドと警備システムが連携して、大規模な衝撃吸収バリアが展開されており、亜人種による攻撃を防いでいるが、市街地が間近で積極的な攻撃が繰り出せない皇国軍側の方が大きく劣勢であった。


「・・・やつら『亜人解放同盟』か!?」

「・・・分からない! でも・・・少しでも手がかりが掴めるなら!」


 宿屋と小羽は無言で頷き合う。そして手動運転に切り替えた宿屋は、戦場と化しているメインゲートに向かって突っ込んでいく。


「波鐘ちゃん! 申し訳ないけど体を屈めていて!」

「は、はい!」


 宿屋は波鐘に身を隠すように伝える。そして小羽はシートベルトを外すと、窓を開けて上半身を車外に出して箱乗りの体勢をとり、右腕に魔力を纏わせる。


「・・・ハアアアァッ!!」


 仲間を奪われた怒りが込められたそれは、今までの比ではないほどのパワーを秘めていた。そして小羽は怒りが導くままに、その膨大な力を襲撃中の亜人たちに向かって繰り出した。


「・・・『白銀の鎌鼬』!!」


 台風のごとき疾風が、名刀のごとき斬撃を秘めて、敵に向かって襲いかかる。亜人たちは背後からの急襲に対応できず、鎌鼬の餌食となる。


「な、何だ!? いきなり!?」

「ぐわああぁ!!」

「きゃあああ!」


 不意打ちの鎌鼬が、皇国海軍を襲っていた亜人たちを一網打尽にした。猛烈な砂煙がメインゲートに立ち上る。するとその中から、小羽の攻撃から1人逃れた有翼種族の女が現れた。


「・・・全く、何だって言うの!?」


 砂煙の中から飛び出した女は、上空から現場の様子を伺う。その直後、彼女の足に黄金の蔓が巻き付いた。


「・・・何これ? ・・・ギャッ!!」


 黄金の蔓は女を容赦なく地面に引き戻し、叩きつけた。そして地面から生え出した黄金の蔓が、むせ込む女を抵抗する間もなく拘束する。


「・・・『黄金の神の裁きドラード・フィッジオ・デ・ディオ』」


 いつの間にか車から降りていた波鐘が、その女に近づいていく。宿屋は慌てて彼女の後を追いかける。


「・・・危ないって言ったのに、陽夏さん!」

「すみません、でも・・・私、もう後悔したくないから」


 波鐘は宿屋に謝罪の言葉を告げる。彼女は敵を1人も逃すまいと危険を冒したのだ。その後、2人の元に遅れて小羽が合流する。



『一体、何が起こったんだ?』


 防衛線を張っていた警務隊員はポツリと呟く。凄まじい突風音と共に襲撃者たちの断末魔が上がったかと思えば、あれほど厳しく繰り出されていた攻撃がピタっと止んだ。

 舞い上がった砂煙が晴れていくと、月の光に照らされた3人の少年少女の姿があった。その周辺には手酷い傷を負った襲撃者たちが倒れている。


『・・・誰だっ!?』

「!」


 兵士たちは鎧袖一触で襲撃者たちを制圧した少年少女たちを警戒する。宿屋が前に立ち、懐に入っていた生徒手帳を右手に掴みながら両手を挙げ、自らの身分を明かす。


「俺たちは『横浜翡翠学園』の生徒です! 仲間を取り戻しに来ました!」

『・・・?』



 その後、宿屋たちは自分たちの素性と此処へきた経緯、そして「亜人解放同盟」に攫われた女子生徒は自分たちの仲間であることを説明する。兵士は彼らが所持していた学生証をスキャンし、素性に偽りがないことを確認した。


「ここは危険だ。感謝はするが・・・もう帰りなさい」

「・・・ええ、でもその前に・・・彼らには聞いておかなければならないことがありますから」

「・・・?」


 そう口にしたのは、宿屋の後ろに立っていた波鐘だ。彼女は自らの能力で捕縛した有翼種族の女性に近づく。女性の翼は腕と一体化していた。彼女は特殊能力を持たない「鷲の獣人族」であった。

 波鐘は女性の前にしゃがみ込むと、穏やかな声色で問いかける。


「あのニュースで言っていた夢永という男は、ここに来ているの?」

「・・・」

「質問を変えましょう。貴方方が人質にとった門真照さんはどこ?」

「・・・」


 女性はソッポを向いて、波鐘の言葉など聞いていない様だった。すると、それまで優しい笑みを浮かべていた波鐘の表情が真顔へ一変し、カバンの中に入れていたペットボトルのお茶を取り出すと、中のジュースを女性へぶちまけた。


「・・・ケホッ! いきなり何を!?」


 全身をジュースまみれにされた女性は、咳き込みながら波鐘を睨んだ。波鐘は無言のまま、女性の右足に触れる。


「私は触れたものを黄金に変える『ミダス族』、生きている生物は変えられないけれど、衣服やジュースの中に含まれる砂糖や香料は別です・・・」

「・・・!!?」

「生きながら黄金の彫像に変わる苦しみに、あなたは耐えられますか? 言っておきますけど、一度黄金化したら私でも解除できませんからね」

「・・・や、止めなさい!」


 波鐘がやろうとしていることを悟り、女性は堪らず狼狽する。波鐘は周囲が固唾を呑んで見守る中、自身の能力を発動した。


「照さんの行方、言いたくなったら言ってください。・・・『ミダスの右手マノ・デレーラ・デ・ミダース』」

「!!?」


 その瞬間、女性が履いていたタイツが輝かしい黄金へ変わる。様子を伺っていた皇国海軍の兵士たちは、驚きの表情を浮かべていた。

 黄金化した衣服、ジュースの残骸が流動し、黄金が下半身から上半身へと登っていく。まるで女性の体そのものが黄金と化している様だった。そして黄金が顔まで迫った時、女性は唐突に叫び声を上げた。


「わ、分かった! 言うから止めて!」


 全身が作り変えられる様な感覚に耐えきれず、鷲の獣人族の女は自白した。

 彼女は自身が「同盟」の一員であること、リーダーである夢永が照と共に来ていること、そして彼らの目的が「扶桑」であることを明かしたのだった。




皇国海軍施設 「扶桑」停泊バース


 そして今、宿屋と小羽、波鐘の3人は照の身柄と共に「扶桑」へ乗り込もうとする「亜人解放同盟」の幹部たちと対峙していた。兵士たちの制止を振り切って軽自動車に乗り込み、ここまで辿り着いたのだ。


「『扶桑』から離れろ! そして返してもらうぞ、俺たちの仲間を!」


 口火を切るのは小羽だ。彼の背後には軽自動車から降りた宿屋と波鐘の姿がある。そして彼らに遅れて、装甲車に乗った当直の兵士たちが到着した。


「・・・君たち!! いい加減に・・・!?」


 兵士の1人が足早に降車し、迷うことなく軍事施設の奥底まで侵入した学生たちに苦言を呈する。だが、それ以上に、目の前に広がる光景が衝撃的であり、彼らは言葉を失った。テロリストたちが無防備な「扶桑」に乗り込もうとしていたのだ。


『・・・警備アンドロイドを配置につけ! テロリスト『亜人解放同盟』を排除する!』

『了解!』


 警備アンドロイドが兵士や宿屋たちの前方に横一列で並び、内蔵されたシールドと電磁バリアを展開する。アンドロイドの間に兵士たちがしゃがみ、小銃の銃口を向ける。その直後、小銃に搭載されたAIが起動した。


『対象を捕捉・・・自動照準システム起動、速やかに対象を排除してください』


 小銃に搭載されたAIが自動で目標を捕捉し、照準を合わせる。しかし、テロリストたちは気絶したままの照の首元にナイフを突きつけた。


「来るな! 皇国軍! こっちには人質がいる!」

『・・・!? 撃ち方止め!!』


 人面鳥族の男に担がれていた照を盾にして、夢永は皇国海軍に脅しをかける。皇国海軍側の指揮官は咄嗟に攻撃命令を取り下げた。


「不便なものだな、軍人というのは! 国民1人、盾にされただけで何もできない!」

『・・・クッ!』


 皇国軍は万が一にも一般市民を傷つけることがあってはならない。唯一無二の弱点を突きつけられ、兵士たちは引き鉄を引くことが出来なかった。

 その直後、「扶桑」へ続くタラップから武装した兵士たちが降りてくる。彼らは夢永らの前に立つと、仲間であるはずの基地勤務の兵士たちに向かって銃口を向けた。


『・・・お前たち、何のつもりだ!?』


 指揮官が拡声器を介して、対峙する兵士たちに問いかける。反逆者と化した兵士の1人が、空な目で口を開いた。


「俺たちは・・・幸せな夢を見せて貰うんだ・・・!」

「うおおおっ!!」


 その言葉を合図に、反逆兵士たちが怒号をあげてこちらへ突撃してきた。兵士たちは思わず小銃を向けるが、トリガーがロックされて引き鉄が引けなくなっていた。


『射線上に友軍を確認しました。同士撃ち防止システムを起動します。トリガーをロックします』

「・・・クソッ!」


 同士撃ちの防止機構が起動し、彼らの小銃は武器としての機能を喪失していた。それを好機と捉え、迫り来る反逆兵士の背後から、2人の亜人種が飛び出して来た。


「俺は雷を操る『シュガール族』!」

「俺は炎を操る『炎魔族』! 喰らえ! 人間共!」


 2人の男はそれぞれ、電撃と火炎による攻撃を繰り出そうとする。構えていた小羽も、咄嗟に攻撃を繰り出した。


「・・・『白銀の鎌鼬』!」


「ハアアアッ!」

「ヤアアアッ!」


 渾身の鎌鼬が敵に向かって襲いかかる。しかし、それを凌ぐ雷撃と火炎が鎌鼬をかき消してしまった。強烈な攻撃は警備アンドロイドも、無力化された兵士たちも蹴散らし、吹き飛ばしてしまう。そして轟音と共に砂煙が舞い上がった。


「残念だったな、この『扶桑』の内部はすでに我々の支配下にあるのさ。この『夢魔族』の力のな・・・!」


 買収した国防官僚から「扶桑」幹部の人員名簿を受け取った夢永は、地道な活動で「扶桑」乗員たちの一部を自らの能力で籠絡し、彼らの精神まで配下においていた。

 まさしく地道で長い準備期間を経て結実した計画だったのだ。人質の存在と友軍による裏切りで無力化された皇国海軍兵士は、為す術もなく制圧されてしまった。


「・・・?」


 しかし、立ち上がる者がいないはずの砂煙の中から、金色に輝く謎のドームが出現する。それはチョコレートの様に溶け落ちていき、中から3人の若者が現れる。


「・・・『黄金の盾(ドラード・エスクード)』」


 宿屋と小羽の2人は、波鐘の機転で凄まじい雷撃と火炎放射から防御されていた。


「・・・ありがとう、陽夏ちゃん!」

「ハァ・・・! た、助かった!」


 2人は心臓の高鳴りを抑えつつ、波鐘にお礼の言葉を告げる。


「いえ・・・それよりも」


 2人を守った波鐘は黄金の防御壁を解除すると、目の前に展開する敵を睨みつける。黄金を操るという能力を目の当たりにして、夢永たちは驚きを隠しきれない。


「・・・おい、雨宮。あの能力は?」

「・・・分かりません、黄金を操る亜人種など」


 同盟の頭脳である呪術族の雨宮も、波鐘の存在は知識の範囲外だった。それもその筈だ。彼女はつい最近確認され、さらに政府によって存在を隠匿されている亜人種なのだから。

 動揺する同盟の幹部たち、そして反逆した兵士たちに対して、波鐘は新たな動きを見せる。


「・・・『黄金』は全てを超越する! 『ミダスの右手マノ・デレーラ・デ・ミダース』!」


 波鐘は地面に手をつける。その時、港のコンクリートは瞬く間に輝く黄金と化した。そして流動化した黄金は、反逆した兵士たちの足元を飲み込み、自由を奪う。


「な、何だこれは・・・!?」


 兵士たちは狼狽する。そんな彼らに追撃が襲いかかる。


「『黄金の神の裁きドラード・フィッジオ・デ・ディオ』!」


 地面から生え出した黄金の触手が、兵士たちに向かって襲いかかる。金属に顔面を殴打された兵士たちは気絶してしまった。


「・・・皇国海軍の兵士が、全滅!?」


 同盟の幹部の1人である呪術族の女は驚愕のあまり、顔を青ざめていた。屈強な海軍兵士たちが、1人の少女に瞬く間に制圧されてしまったからだ。


「・・・我々にとっての脅威ならば、同じ『亜人種』であろうと滅するのみ!」


 呆気にとられていた「シュガール族」の男が、波鐘に向かって突進していく。彼は両手に雷を纏い、波鐘たちに向かって振り下ろした。


「轟け! 『雷鳴』!!」


 しかし、それとほぼ同時に、黄金と化した地面から数本の黄金の柱がせり上がった。


「『黄金の避雷針ドラード・パララィオス』!」

「!!?」


 伝導する黄金の柱が天然の避雷針となり、電撃を誘導して海中へと逃がしてしまう。雷撃を無効化された「シュガール族」の男は酷く狼狽えていた。


「・・・今だ! 『直線の鎌鼬』!」


 小羽はその隙をついて、避雷針の隙間から攻撃を繰り出す。鉄砲の様に構えた右手の中指と人差し指から、3発の小さな鎌鼬を放った。それはまるで弾丸の様に、男の体へ突き刺さった。


「・・・吉清!」


 吉清と呼ばれた「シュガール族」の男は、為す術もなく吹き飛ばされ、気を失う。「炎魔族」の男は仲間がやられたことで、隙を見せてしまった。そして波鐘は、密かに彼らの足元に伝わせていた黄金の蔓で、彼ら2人の体に襲いかかる。


「・・・!?」


 黄金の蔓は2人の手足と体に巻きつき、瞬く間に彼らを拘束してしまった。


「クソッ!」


 「炎魔族」の男は体から赤い炎を出して、黄金の拘束具を焼き切ろうとするが、黄金は熱を持つのみで融けることはなかった。


「金の融点は鉄より低いと言えども千度超え・・・ガスバーナーの炎でもない限り融けないわ。それほどの出力はないのでしょう」


 男が放出できる炎の温度は900度が限度であり、波鐘は彼が発する炎の色からそのことを予見していた。黄金でできた拘束具は、到底人力で破壊できるような強度ではなかった。


「我々の中でも、攻撃力に特化したあの2人を・・・!」

「・・・つ、強い!」


 同盟の幹部たちは波鐘、そして小羽の能力に驚愕していた。特に事前のデータが一切存在しない「ミダス族」の波鐘の存在は、彼らの興味を大きく引き寄せていた。


「・・・ハァ、ハァ!! ・・・ウッ!」

「大丈夫か、陽夏さん!」


 波鐘は息を荒げながら、吐き気を抑えるために口元を覆う。度重なる魔力の酷使によって、波鐘の体力はすでに限界に達していた。宿屋が咄嗟に彼女の体を支えるが、波鐘は立つのがやっとの状態だった。


「・・・流石に限界の様ね」


 「呪術族」の女は波鐘の限界を察知する。彼女は2人の解放同盟幹部を圧倒したものの、拘束した「シュガール族」の男と「炎魔族」の男の他にも強力な亜人種がまだ控えている。彼我戦力差は圧倒的であり、こちらがジリ貧になるのは自明なことであった。

 相手の限界を知った同盟の長・夢永タクヤは、圧倒的な戦力差を背景にして波鐘と小羽に揺さぶりをかける。


「・・・その能力、分かるよ。研ぎ澄まされている。どうだろう? 君も、鎌鼬族の少年も・・・俺たちの仲間にならないかい? 俺たちが望む世界が訪れたら、その力を思うがままに振るうことができる! 人間が課した不条理な法も気にせず、君達の力で弱者の人間共を蹂躙できる! ・・・どうだ、最高だと思わないか?」


 夢永は波鐘と小羽の攻撃力を買って、2人を仲間に引き入れようとする。心の奥底では、自分たちと同じ鬱憤を抱えていると感じて、その本能に揺さぶりをかけようとした。しかし、2人の答えは決まっていた。


「お生憎様、私は今の不自由な暮らしも気に入っているのです」

「・・・クククッ!」


 波鐘はキッパリと彼の誘いを袖にする。それを聞いて、小羽は思わず吹き出してしまった。


「・・・」


 夢永は柔和な表情を崩していないが、中学生の小娘にコケにされた事実は、彼のプライドを大いに傷つけており、こめかみには血管が浮き出ていた。


「・・・フン、まあいいさ。いずれこの国はもう終わりだ。そうなれば君たちも我々に跪き、仲間にしてくれと懇願する様になるだろう・・・」


 夢永は再び「扶桑」へ続くタラップを登っていく。「扶桑」の第1艦橋では、船務長の呉鹿大蓮中佐とその部下たちが、乗り込んでくる客人たちを見下ろしている。彼らは夢永との密会によって、彼の能力の虜となった者たちだ。

 薬品によって気絶していた照も、艦の中へ担ぎこまれていく。宿屋はたまらず駆け出し、テロリストと共に「扶桑」の中へ消えようとする彼女に向かって手を伸ばした。


「・・・待て! 門真さんを返せ!!」


 宿屋の叫び声も虚しく「扶桑」への入口は閉じられる。直後、強烈なエンジン駆動音が鳴り響き、500メートルを超える巨大な艦が動き出す。


「ここは危ない! 宿屋、陽夏ちゃん! 逃げるぞ!」


 小羽は呆然と突っ立っていた宿屋の手を引き、足元がおぼつかない波鐘を脇に抱えて、急いで沿岸から内陸に向かって駆け出した。

 その後、艦後方のエンジンが点火し、凄まじい爆風が沿岸を襲う。艦へと伸びていたタラップは破壊され、動かしてはならないはずの艦が、軍港からゆっくりと離れていく。


「・・・!!」


 宿屋、小羽、そして波鐘の3人は、何とか爆風から逃れられるところまで退避していた。そしてわずかに遠ざかっていく「扶桑」の第1艦橋と、只々呆然と見つめていた。

 後から駆けつけた皇国海軍の兵士たちも、その光景を見て言葉が出なくなっていた。




飛行戦艦「扶桑」 第1艦橋


 「扶桑」に乗り込んでいる当直の船員たちは、そのほぼ全員が夢永の能力に魅了された者たちだ。その他、同盟と繋がりのない兵士たちは、裏切り者たちによって拘束され、監禁されていた。

 彼らの指揮を執るのは、船務長の呉鹿中佐だ。本来ならばこの時間に、ここに居ないはずであったが、同盟の計画発動に合わせて「扶桑」の中に潜んでいたのである。


 艦橋に続くエレベーターの扉から、亜人解放同盟の幹部たちが姿を現す。先頭を行く夢永は艦橋を見渡すと、呉鹿中佐に命令を下した。


「艦を飛ばせ。幸せな夢を見たいなら・・・」


「・・・はっ! 総員、飛行態勢に入れ!」

「飛行用意! 重力子阻害装置発動!」


 呉鹿中佐は部下たちに離水する様に指示を出す。重力子阻害機構が作動し、艦にかかる重力が薄まっていく。ジェット噴射によって海面には大きな波飛沫が立ち、「扶桑」は徐々に海面から離れていった。

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