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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第3章 横浜龍神篇
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黄金の宴の終わりと新たなる脅威

ホテル・エ・ベリッシモ・ノッテ ロビー


 農林水産大臣が会合を開いていたホテルからの通報ということもあり、あっと言う間に警察が駆けつけた。そしてシールドを持ったアンドロイドを盾にして、警官隊が最上階に突入する。他の来賓たちが不安気に見つめる中、黒服の男たちは銃刀法違反の現行犯で続々と確保された。

 そして誘拐の容疑で黒幕である近藤が連行される。佐久間大臣を巻き込んだことが仇となり、彼の証言で今回の一件に誘拐事件が絡んでいることが露呈したのだ。被害者である波鐘は保護され、事情聴取のために警察署へ同行することとなった。

 加えて、監視カメラの映像から大暴れしたことが明らかになった宿屋と小羽も、参考人として同行する羽目になった。


「全く・・・人騒がせな連中だ・・・」


 会合に参加していた来賓の1人が、連れ出される黒服たちを見て大きなため息をついた。別の場所では通報者である照と喜久が、警察官と話をしている。


「・・・」


 宿屋はパーティードレスで着飾る照に見惚れていた。そんな彼に龍神族の青年である龍二が話しかける。


「・・・やぁ、君が天文部の部長の宿屋奏太くんだよね?」

「は、はい! ええっと・・・」


 意識の外側から声をかけられた宿屋は、おっかなびっくりになりながら返事をする。そして冷静になり、改めて龍二の立ち姿を確認した。


(この人が・・・門真さんが言っていた『龍神様』なのか?)


 装いも相まって、宿屋には彼がとても大人びた青年に見えていた。


「照から話は聞いているよ、彼女がお世話になっているね。まさかこんなところで会えるとは思わなかったよ。俺は葉瀬名龍二、よろしくね」


 龍二は自己紹介をする。宿屋は彼が差し出した右手を握り返す。


「・・・こちらこそ、横浜翡翠学園高等部1年生、宿屋奏太です。よろしくお願いします」


 宿屋の方も改めて自己紹介をした。


「俺も門真さんから貴方のことを時々聞いています。・・・ええっと」

「・・・ああ、俺たちの一族は『龍神族』という種族の血を引いている。照とは血のつながりは無いけど、俺にとって大切な家族だ。・・・だから、これからもよろしく頼むよ」

「・・・は、はい!」


 宿屋は力強い返事をした。そして2人も、照と喜久から話を聞いていた警察官に呼ばれ、彼らがいる方へ歩みを進める。



 同じ時、警察に保護された波鐘は、ホテルの外にあるベンチに座っていた。彼女の目の前にはパトカー待ちの小羽が立っている。

 波鐘は警察官からもらったお茶を一口含むと、戦闘の時とは一転して、弱々しい声で口を開く。


()は人を幸せにできると思っていました。でも()のために、人は囚われ、苦しみ、怒り、引き裂かれ、絶望する・・・」

「・・・」


 黄金を生み出す力・・・波鐘にとってそれは、家族が幸せに暮らすことのできる力であり、そして周りの人々すらも幸せにできる力であると思っていた。しかし、祖母はその力を人前で使うことを禁じた。彼女にはその理由がわからなかった。

 しかし今、波鐘はその理由を痛いほどに思い知らされた。ミダスの力はこの世界において、あらゆる人間や組織を屈服させ、さらに人々の心を狂わせる恐るべき可能性を秘めた力だったのだ。


()は人に不幸をもたらす存在でしかないのでしょうか? ()はこの世に必要なのでしょうか・・・?」


 波鐘はそんな自分の存在を恐ろしく感じていた。小羽は不安がる彼女に、優しい声でその答えを返す。


「・・・どんなものでも、この世に生まれた時点で善も悪もないさ。波鐘陽夏()は俺たちを助けてくれた。それだけで、俺たちにとって波鐘陽夏()は必要不可欠な存在だよ」

「!!」


 小羽の言葉を聞いて、波鐘は頬を真っ赤にした。今日初めて出会った2人の間には、特別な絆が生まれつつあった。



 その後、近藤たちは身柄を確保され、銃刀法違反の現行犯で連行されていく。小羽と宿屋、波鐘も参考人として、彼らに同行することとなった。

 通報者である葉瀬名家の面々は、正面のロビーからパトカーの車列を見送った。その中には当然、龍二と照の姿もあった。


「・・・まさかこんなことになるなんて。すまなかった、照」

「・・・い、いえ! 龍神様が謝ることではないですよ!」


 照はブンブンと首を左右に振る。だが、彼にはもう1つ、彼女に謝っておかなければならないことがあった。


「それに須美華やおじさんの言動、君を動物みたいに・・・。あまり気にしないでくれ。特に須美華には俺からも言っておく」


 龍二は親族の言動が彼女を傷つけていないかを心配していた。また、親族に強く言えない自分を情けなく感じていたのである。


「・・・? 私は別に気にしていないですよ」


 しかし、彼の予想とは裏腹に照はキョトンとした顔をしていた。その表情を見て、龍二はわずかながらに罪悪感が和らいだのだった。


 かくして、農林水産大臣が開催した晩餐会の影で行われた「ミダス族少女誘拐事件」は、高校生男子2人の活躍と大暴れによって明らかになり、晩餐会参加者による通報というあっけない結末で幕を閉じた。

 その後、未確認亜人種である「ミダス族」は、政府のアーカイブに登録されることとなり、彼らの日陰暮らしに終止符が打たれた。また政府の方針により、後に「人魚族」などと並んで“特定保護種”に指定されることとなる。


〜〜〜


ミダス族

「異界の15年間」において、異世界テラルスから日本へ秘密裏に亡命した、触れたものを「黄金」に変質させる能力を持つ種族。その希少性と高値で取引されることから、人間だけでなく他の亜人種からも“奴隷狩り”の対象とされ、日本転移の時点で絶滅の危機に瀕していた、“テラルスで最も悲惨な種族”である。

尚、波鐘陽夏に発現した「黄金を操る力」は、日本移住後に他種族との交配によって生まれた副次的なもので、ミダス族に本来備わっている能力ではない。


〜〜〜


2112年7月31日 日本皇国 東京都千代田区


 時は流れ、日本に夏が訪れる。人々はいつもの様に街を行き交う。そしてその中には、人と似て非なる躰を持つ者たち・・・「亜人種」の姿がある。怪物、妖怪、おばけ・・・そんな呼び方をされてきた存在が人間社会に溶け込む国、それが日本皇国である。

 亜人は人間より身体能力が優れる者が多いが、両者には圧倒的な数の差があり、依然として人間が中心の社会を維持している。しかし、そんな社会に対して挑戦を企てる者たちがいた。


「強者は弱者を従えるのがこの世の理、故に『人間』は文明という名の武力で他の動物を凌駕し、この世界の支配者となった。それは必然だ。だが今、人間は最強ではない。長き歴史の中、人間が他の生物を制圧してきた様に、我々には人間を制圧する権利がある」


 デパートの屋上庭園から、人々が行き交う様を眺める男がいた。彼らは日本政府への挑戦を企てる亜人の集合体を形成し、水面下で暗躍していた。そして彼らはついに、表立った行動を開始しようとしていた。


「・・・『亜人解放同盟』に、夜明けを」


 その男は、日本政府に認知され、“公式に公表されている亜人種”の中では「最強」と謳われる種族の血を引いていた。

 故に、彼の周囲の者たちは彼らの血を恐れた。そして彼らの血を面白がり、弄んだ。そしてその男は、世間からの迫害に争うことなく、大衆の目を恐れて怯える様に暮らす一族を恥じた。


「ーー我、貴き龍の血を引く者なり」


 時は西暦2112年、男の復讐が幕を開けようとしていた。


・・・


神奈川県横浜市 龍二の自宅


 世間は夏休みに入りつつある。照が通う横浜翡翠学園高等部も、8月より正式に夏季休業に入る予定になっていた。そして今、龍二はリビングでPCのバーチャルディスプレイと睨めっこしていた。そこには実家からのメッセージが表示されている。


(・・・誤魔化してきたが、とうとうおじいさんも痺れを切らしたか)


 そこには彼の祖父である葉瀬名縁の名前で、次の夏季休業中は必ず一族の本拠地である諏訪へ帰郷するようにと記されていた。


「ハァ・・・」


 龍二は小さなため息をつく。そして台所に立つ照に向かって話しかける。


「ねぇ・・・照。実は・・・今年の夏、一緒に来て欲しい場所があるんだ」

「・・・?」


 照は夕食の仕込みをしていた手を止めて、彼の方へ視線を向けた。龍二は故郷より、帰省を命じられていることを説明する。


「俺の故郷、長野県諏訪市にある亜人種のコミュニティ『龍王の里』へ、一緒に来てほしい。いつも適当な理由をつけて断っていたんだけど、今年は絶対に来いと言われてしまってね。もし嫌なら、無理にとは言わないけど・・・」


 龍二は無理強いするつもりはなかった。しかし、照の答えは決まっていた。彼女は柔和な微笑みを浮かべると、穏やかな声色で口を開く。


「私が、龍神様の頼みを断るわけないでしょう。貴方の命令なら、どこへでも行きます」

「・・・ありがとう」


 長野県諏訪市「龍王の里」・・・そこは、普通の人間が滅多に立ち入らない亜人種のコミュニティである。

 里の創設者とその一族である「龍神族」を筆頭に、数多の有力な長命種族が蠢いていると言われており、日本政府からも警戒対象とされているのである。


〜〜〜


東京都千代田区 警察庁


 日本全国の警察機関をまとめる組織「警察庁」の会議室で、公安警察による会議が開かれていた。壁面に巨大なバーチャルスクリーンが投影されており、進行役の男が会議の参加者たちに向けて説明を行っている。

 参加者の公安警察官たちは、真剣な目つきで彼のプレゼンに目を向けていた。


『『外来生物・亜人法』にて、亜人種は1級、準1級、2級、3級、4級の5つの階級に分類されます。分類の基準は“危険度”であり、最上級である1級、すなわち“国家を揺るがすほどの力を有する亜人種”として認定されているのは3種。その中で日本国内に存在している(と公式に発表されている)のは、『龍神族』のみです』


 議題は亜人種に関するものであった。スクリーンには亜人種の分類を示す表と、長野県諏訪市の衛星写真が投影されていた。


『空翔ける龍に変身する能力を有する『龍神族』の血を引く者は日本国内に1家系・7名のみ存在します。皆様もご存知の通り、国内最大の農業企業である『ハゼナ・アグリカルチャー』の経営者一族『葉瀬名家』です。

首都圏の食料供給を一手に担う彼らは、国を滅ぼすほどの暴力に加え、この国でも有数の富と権力を有する一族。彼らが管理するコミュニティは政府にとって最大級の警戒対象でもあります。さらに葉瀬名家は他の強力な種族との婚姻を重ね、個々の力をましているのです』


 人智を超えた力を持つ亜人種は、日本政府にとって保護対象であると同時に、国家の存続を揺るがしかねない警戒対象であった。


『さらに近年、『亜人解放同盟』を名乗る亜人種の集合体の存在が報告されております。『龍王の里』との関連は今のところ不明であり、実態が掴めていませんが、こちらの団体についても、目下調査継続であります』


 さらに公安警察には近年、厄介な案件が舞い込んでいた。未確認の亜人種団体が秘密裏に組織されているという情報である。未だ表立った活動はしていない様だが、亜人種の徒党はその存在そのものが人類の脅威となりうる。

 数多の人ならざる者たちを抱える日本政府にとって、それらの把握は国家の存亡すら左右するものであると位置づけられていた。そして2112年、彼らの不安が現実に牙を剝くことになろうとは、この時、誰も予想していなかった。


〜〜〜


外来生物・亜人法 亜人種の分類


一級 国家を揺るがすほどの力を有する亜人種

龍神族 エルフ族 吸血鬼族


準一級 広範囲に被害をもたらす特殊能力を有する亜人種

天狗族 羅刹族 雷豪族 狗神族(狗の大将) 炎魔族 ミダス族


二級 不特定多数の他者を害する特殊能力を有する亜人種

鎌鼬族 呪術族 妖精族 妖狐族 ゴーゴン族 雪女・雪男族


三級 特定の他者を害する特殊能力を有する亜人種

さとり族 蝶化身族 ローレライ族


四級 体の構造が異形であるのみで特殊能力を持たない亜人種

変身能力を有さない獣人種の大半

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