魅惑の歌姫
2112年4月28日 横浜市
照や宿屋と同じ1年B組に所属する東崎鈴美は、女子の中でも言わばカースト上位を占めるグループに属している女子だ。そして彼女は天文部の小羽と同じく、亜人種である「ローレライ族」の血を引いていた。
ローレライとはドイツの伝承に登場する精霊で、歌で船乗りや漁師を誘惑し、水底に沈めてしまうと言われている。同様の特徴を持つセイレーンと混同・同一視されることもある。
異世界テラルスにおける「ローレライ族」は身体的特徴として、エルフの様な角張った耳と小鳥の様な翼、そして足に鱗肌を有していた。よって、外見で人間と区別されるため、彼女たちは小羽や月神の様に素性を隠すことはないのである。
「ねぇ? 鈴美の力って、ホントにあの月神先生も虜に出来るの?」
「勿論、人間の男に私の歌に争う術はないの」
学校への通学途中、東崎は友人の女子生徒の疑問に、得意げな表情で答えた。世間がゴールデンウィークに突入しようとしている頃、彼女たちはとんでもない計画を立てていた。
同日 横浜翡翠学園高等部
5日前の天体観測にて、宿屋は「こと座流星群」を運良く写真に収めることに成功した。そして彼はその活動記録を、流星の写真と共に学園のホームページに掲載した。
一筋の流星を写した夜空の写真は、教師陣から非常に好評となり、記念すべき初活動は成功と言えた。
「・・・♪」
4限目と5限目の間の昼休み、宿屋はパソコンを使い、上機嫌になりながら部の広報誌の作成をしていた。ペンケースほどの大きさのデスクトップから、空中にバーチャルディスプレイが、テーブル上にキーボードが投影されている。
「・・・どうかな? 門真さん」
その傍らでは、名目上の副部長である照が天体図鑑を開いていた。照はそれを途中で閉じると、宿屋が作成した校内刊行広報の紙面をチェックする。
「・・・はい、いいと思います。読みやすい文章を書くんですね」
「あ! はは、いやぁ〜」
褒められた宿屋は照れてしまう。その後、照は再び天体図鑑を開き、夢中になって続きを読みはじめた。宿屋は彼女が天文学に興味を持ちはじめたことを嬉しく思っていた。
異世界テラルスから持ち帰った、遥か未来の遺物である「飛行戦艦・扶桑」を手に入れた日本政府は、それに凝縮された「28世紀の技術力」を用いて、宇宙への進出を一気に進めていた。国家的事業として行われているそれは、今や火星表面に基地を設営するまでになっている。
特に月面への一般人の入植が開始された2085年は、「宇宙開拓時代」の幕開けと謳われた記念すべき年であり、入植者の第一陣30名が月へ旅立った日は「宇宙の日」として、国民の祝日になっていた。
「・・・」
図鑑を眺める照は、いつもの“氷の美少女”と評される無機質な表情とは違い、どこか柔らかな顔をしていた。そしてそれは、彼女が「龍神様」と呼ぶ人物と電話する時と同じ表情だった。
(・・・『龍神』といえば、最強の亜人種と呼ばれる『龍神族』のことだろう。そんな奴らと、どんな関わりが?)
宿屋は何度か照の電話を耳にしている。その会話の中で、彼女が幾度と「龍神様」という単語を発していることに気づいていた。
彼女が金回りの良い亜人種の男と共に暮らしていることは、彼女と中学の同級生だった級友から聞いている。おそらくは、あの高級車に乗っているイケメンのことだろう。ということは、あの男があの「龍神族」ということなのだろうか。
「あのさ・・・1つ聞いていい?」
「はい、何でしょう?」
思案に暮れた宿屋は、堪らず照に問いかける。照はキョトンとした顔で図鑑を閉じ、宿屋の質問を待つ。
「実際のところさ、あの・・・イケメンとどういう関係なの?」
「!」
宿屋は長らく気になりながらも、なかなか聞けなかった質問に踏み込んだ。照は少し戸惑う表情を見せたが、少し間を置いて口を開く。
「私の・・・ご厄介になっている一族の御子息です」
照は龍二との関係をざっくりと説明する。尚、中学では一緒に暮らす龍の妖怪への異常な忠誠心を隠さなかったため、同級生からは「龍の愛人」と揶揄われることとなった。
「・・・恋人、とか?」
「・・・! いいえ」
恋人・・・その言葉を聞いた瞬間、照は大きく動揺して目を見開いたが、サッと目を逸らして宿屋の言葉を静かに否定した。その顔はどこか寂しげであった。宿屋はそれ以上、何も聞かなかった。
放課後
この日の終業を告げるチャイムの音が、学園中に響き渡る。日本は明日からゴールデンウィークに突入するため、生徒たちはどこか浮き足立っていた。
グラウンドや体育館では、大型連休前の最後の練習に向けて、運動部員たちが続々と顔を出している。そして、宿屋率いる「天文部」も、この日に連休前の最後の活動日を迎えていた。
部長の宿屋は文化会館に向かっていた。帰宅途中の生徒たちの間を抜けて、文化会館へ伸びる渡り廊下へたどり着く。その途中、宿屋は普段は見かけない人物を姿を見かけた。
(・・・? あれは確か、ローレライの東崎さん?)
そこには宿屋と同じクラスの女子である、東崎鈴美の姿があった。渡り廊下の柱に体をもたれて、文化会館に向かう宿屋に視線を向けている。彼女自身のルックスも相まって、その姿はどこか妖艶にさえ見えた。
「・・・あら、偶然。宿屋くん」
「・・・?」
宿屋は立ち止まり、少し怪訝な顔をする。宿屋は東崎たちが照を疎むような言動を繰り返していることを知っており、彼女たちのことを快く思っていなかった。
そしてサッカー部のマネージャーに志願していた筈の彼女が、文化会館へ伸びる渡り廊下に立っていることが、彼の不信感をかき立てていた。
「・・・ども。じゃあ、先を急ぐんで」
宿屋は素っ気ない挨拶でやり過ごし、再び歩き出そうとした。しかし、東崎は彼の行手を阻むように、廊下の真ん中に移動してきた。
「・・・一体何の・・・!?」
宿屋はいきなり通せんぼをしてきた彼女に、何の用があるのか尋ねようとする。だがその瞬間、東崎は彼の耳元に口を近づけ、喉の奥底から魔力の乗った音波を放った。
「・・・っ!」
宿屋は突然のことに驚き、目を見開く。しかし、数秒と経たずにうつろな目つきとなった。まるで何かに取り憑かれた様に見えた。
「・・・これで貴方は私の下僕。私の命令には絶対服従・・・良い?」
「・・・はい」
妖艶な笑みを浮かべる東崎の言葉に、宿屋は空な目をしたまま頷いた。
「門真照と月神葵を第2体育館倉庫前に連れて来なさい」
「・・・はい、分かりました」
命令を受けた宿屋は、少し危なげな足取りで来た道を戻って行く。その後ろ姿を見つめる東崎は、まるで悪魔の様な邪悪な笑みを浮かべていた。
高等部校舎
その頃、照は宿屋に遅れて文化会館の天文部室へ向かっていた。小走りで校舎内を急ぐ彼女の携帯に、1通のメッセージが届く。着信音に気づいた照は、携帯とリンクしている腕時計端末を操作し、届いたメッセージをバーチャルディスプレイへ投影した。
ー次の活動に必要な物品が、第2体育館倉庫にあります。搬出を手伝ってくれないか?ー
(・・・部長から? 体育館に保管してある物品って何だろう?)
それは宿屋から届けられたメッセージだった。照は小首をかしげる。しかし、宿屋を疑うことなく、第2体育館倉庫へと向かった。
横浜翡翠学園 第2体育館倉庫
夕焼けが体育館の屋根を赤く染めている。宿屋に呼び出された照は、彼の姿を探して辺りをキョロキョロと見渡していた。体育館が夕日を遮っており、まだ太陽が登っているにもかかわらず、彼女の周囲は薄暗い影に覆われている。
「・・・部長? どこですか?」
「・・・」
その時、小さな足音が聞こえてきた。照が後ろへ振り返ると、そこには彼女が探していた宿屋の姿があった。
「あら、そこにいたんですね。早速ですけど、私は何を運んだらいいですか?」
「・・・」
照は宿屋がここへ呼びつけた理由を尋ねる。彼女は一切の警戒心を抱くことなく、彼のもとへ近づいていった。
「・・・? 部長?」
しかし、照は宿屋が何も答えないことに微かな不信感を抱く。そして生気を失った彼の瞳を目にした瞬間、照は背筋に悪寒が走るのを感じた。
「・・・部長!? どうしたんですか!?」
「・・・」
照は宿屋の体を掴んで揺さぶる。しかし、彼は何も答えず、空な顔をしたままだった。その時、宿屋にメールで呼び出されたもう1人の人物が、この場に姿を現した。
「やぁ、一体何の用かな? わざわざこんなところに呼び出して・・・」
(・・・月神先生!?)
天文部顧問である月神が、宿屋に遅れて第2体育館倉庫の前にやって来た。彼も照と同じように、宿屋からのメッセージを受け取り、ここへ来たのである。
「・・・?」
月神は照の形相から、何やら不穏な事態が起きていることを悟った。そしてその不穏な雰囲気をさらに掻き立てる様に、どこからか美しい歌声が聞こえてきた。
「・・・な、何だ? この声は?」
月神は周囲を見渡す。しかし、声の主と思われる人物を見つけることができない。そして歌声の間に別の言葉が聞こえて来た。
『・・・私の声を聞いた男は、その瞬間に忠実な下僕。・・・宿屋くん。門真照の体を取り押さえなさい』
「・・・はい」
「!?」
その言葉が聞こえた瞬間、宿屋は照の背後に周り、彼女の両腕を羽交い締めにした。いきなりのことで為す術もなく、照は動きを封じられてしまう。
「一体何を!? ・・・まさか、この声のせい!?」
照は謎の歌声と言葉が、宿屋の体を操っていることを理解する。そして謎の声は月神にも命令を下した。
『次はアナタですよ、月神先生・・・。門真照を・・・この場で犯せ。一生残る傷を、生意気女の心に刻み込め・・・!』
「!!?」
その声が聞こえた瞬間、照は顔を青ざめる。月神を見れば、顔をうつむけてゆっくりと彼女の方へ近づいていた。
「・・・じ、冗談・・・ですよね? 月神先生・・・お願い、目を覚まして!!」
照はガタガタと震え出し、涙目になって月神に向かって叫ぶ。しかし、月神は何も答えず、羽交い締めにされた照の目前に立った。
そして月神はおもむろに、右手を照・・・の後ろに立つ宿屋の顔前に向かって伸ばしたのだ。
「・・・しっかりしろ、宿屋くん!」
「!!」
月神は甲高いフィンガースナップを鳴らす。その音は宿屋の体を縛っていた呪縛を、一瞬のうちに解いてしまった。呪縛を解かれた宿屋は、照を羽交い締めにしていた両腕を外し、地面に尻餅をついた。
「・・・カハッ! ・・・ハァ、ハァ! 助かった! ありがとうございます、月神先生!」
「・・・部長! 大丈夫なんですか!?」
照は宿屋の方へ振り返ると、跪いて彼の身を案じた。宿屋は息を整えると、自分の身に何が起こったのか説明を始める。
「部室に行く途中、彼女の歌声を聞いてから、全く体の自由が利かなくなったんだ・・・」
「・・・彼女?」
宿屋は彼女を傷つけずに済んだことに、安堵の表情を浮かべていた。一方、照は宿屋が発した「彼女」という言葉に反応する。
『なんで・・・!? 私の“歌”が効かないの!?』
月神が宿屋に掛けられた呪いを解いたこと、そして月神が呪いに掛からなかったこと、謎の声はその2つの事実に動揺していた。
そして月神は彼女が放つ魔力の波動を察知し、その本体が潜伏する場所を特定する。彼は右手の中に自分の血で「紅いダーツの矢」を形成し、それを近くに立っている街路樹に向かって投げつけた。
「・・・そこだ!」
矢は凄まじい勢いで街路樹に向かって飛んでいく。そして生い茂る葉の中に突っ込む直前、その矢は花火の様に弾け、轟音を発した。
「・・・キャア!」
その閃光と音に驚いたのか、少女の短い悲鳴が聞こえた。それと同時に街路樹の枝の上から、1人の少女が落ちてきた。照はその少女のことを知っていた。
「・・・東崎さん」
木の上から現れたのは「ローレライ族」の血を引く少女、東崎鈴美だった。彼女は地面に打ちつけた尻を摩りながら、その痛みに顔を歪めている。
「・・・!」
そして、自分の方を睨みつける宿屋や照の視線に気づくと、状況の悪さを一瞬で理解し、咄嗟に顔を背けてしまう。月神はいつもとは明らかに異なる、険しい表情を浮かべている。宿屋と照は彼の顔から、獣の様な覇気を感じ取っていた。
「・・・1年B組の東崎鈴美さんか。君は確か『ローレライ族』だったね。学園内における生徒の魔術の私的使用が禁止されていることは、よく知っている筈だが? それに、俺が君の魔法に掛かっていたら、門真さんにどれほどのトラウマを植え付けることになっていたか・・・! お遊びとしては少々やりすぎじゃないか?」
月神は彼女に詰め寄ると、激昂する思いを抑えつつ、極めて冷徹な口調で東崎を責め立てた。東崎は動揺のあまり、言葉を上手く紬ぎ出せない。
「なんで・・・アンタは私の歌が効かないの・・・!?」
東崎は何より、月神に自分の能力が通用しないことに驚いていた。月神はため息をつくと、衝撃の真実を語り始める。
「『俺』が人間じゃない可能性は考えなかったのかな?」
「!!?」
月神は自分が「亜人種」であることをカミングアウトした。東崎、そして宿屋と照もその言葉を聞いて驚きを隠せない。
「そういえば・・・君は過去、中学でも男性教諭を脅迫したことがあるそうだね。調べたよ、その手口。こうして、相手の男を意のままに操り、そして決定的な場面を映像に収める。もし俺と宿屋くんが門真さんを襲っていたら、その場面を撮影するつもりだったんだろう」
「!?」
月神は彼女の過去についても調べていた。彼女は中学時代、男性教諭を操って失態を自演させ、それをネタにして仲間たちと共に教諭を強請る様な真似を繰り返していたのだ。
「だがその時は、こうして他の生徒を加害するレベルのものではなかった筈だ。なぜ・・・今回はこんなことをした? 門真さんの何がそこまで君を駆り立てたんだい?」
「・・・」
月神は彼女が凶行に至った理由を問い質した。しかし、彼女は視線をそらして何も答えようとしない。
それに業を煮やした月神は、彼女の過去にさらに踏み込んで行く。
「俺が亜人種だったのは想定外だったみたいだけど、君のやっていることは、まるで他者からの関心を求めて癇癪を起こす子供と同じ様に見える・・・。以前、B組の担任である十条先生から、君の家庭環境を聞きました。父親は皇国陸軍少将、『ローレライ族』である母親はテレビにも出る教育評論家だそうだね。そんな恵まれたエリート家庭に育ち、何故そんな行動に走るのか・・・」
東崎の家庭は世間的に、いわゆる富裕層と呼ばれる環境にあった。衣食住に困ったことはなく、経済的な不安も何もない。一見して、彼女が非行紛いの行為に走る理由はないように思えた。
「それで思ったんだ。もしかしたら、君は親との関わりが限りなく希薄だったんじゃないかとね。歪んだ自己承認欲求を持つ者は、親からの愛情を感じず育ったことが多い。軍人とメディア露出の多い評論家、そんなご両親は金銭的に問題はなくとも、いささか君自身と共に過ごす時間が少なかったのかもしれない。君は寂しかったんじゃないかな?」
「・・・違うっ!!」
東崎は月神の推論を否定する。しかし、月神の言葉は彼女の心の奥底に凄まじい揺さぶりを与えていた。
「・・・東崎さん」
照はそんな東崎を、憐れみの目で見つめていた。そして顔を俯ける彼女のもとへ歩み寄ると、幼児を宥める様な口調で、彼女に話しかけた。
「・・・寂しかったのは可哀想だけど、それで先生や部長に迷惑をかけるのは違うと思います」
「!!」
貶めようとした対象に諭されたことが、東崎の逆鱗に触れた。彼女は照の顔を睨みつけると、周囲の目も気にせずに怒号を発した。
「五月蝿い! あんな金持ちイケメンに可愛がられて・・・金も、顔も・・・愛も! 何もかも持ってるアンタにはわかんないよ!」
彼女は入学当初から、男子生徒の間で密かに持て囃されていた照のことが気に入らなかった。さらに、龍二に送迎される照と、その際の彼女の幸せそうな表情を目の当たりにして、両親に愛されない自分と比較してしまい、歪んだ劣等感と嫉妬心を抱く様になってしまったのである。
「・・・それが、彼女を貶めようとした理由かい?」
「そんなの、逆恨みだろ! 門真さんは何も悪くないじゃないか!」
月神と宿屋は東崎の動機を聞いて呆れていた。しかし、彼ら以上に憤りを覚えていた人物がいた。
「私が、何もかも持っている・・・? 何も知らないくせに・・・!」
「・・・はぁっ?」
照は声を震わせながら、東崎を睨みつける。いつも感情を表に出さない彼女が、激情を露にしていることに、宿屋は驚きを隠せない。
そして照は今まで誰にも明かさなかった、自らの身の上について語り始めた。
「私は『不倫相手の子』なの。父親は誰かも知らないし、母親には育児放棄されていたわ。いじめも酷くて・・・死ぬことばかり考えてた」
彼女の生家は母子家庭だった。しかも不義密通の結果として生まれた子であったため、世間体を恐れた父親に認知されておらず、母親からはネグレクト紛いの扱いを受けていた。さらに母親はとうの昔に両親と絶縁していたため、頼れる類縁も居なかった。
さらにそんな境遇のため、周囲からは侮蔑と好奇の目に晒され、クラスメイトからいじめの対象とされていたのである。
「でも、そんな絶望の日々から、あの人は私を救ってくれた。・・・食べ物をくれた、着る物をくれた。熱が出たら病院へ連れて行ってくれた。だから私は・・・あの人に全て尽くすと決めたの」
照は初めて、「龍神族」の青年への想いを吐露した。そして宿屋と月神は、彼女の心に形作られた、「龍神族」の青年への異様な忠誠心の存在を知ることとなった。
「・・・なっ!?」
照の過去を知った東崎はショックを受けていた。彼女が自分よりも恵まれているという嫉妬心が、ただの思い込みに過ぎないことを改めて突きつけられたからだ。
「・・・門真さん、今回の一件で一番の被害者は君だ。君はどうしたい?」
月神は今回の主犯である東崎の処遇を照に委ねる。照はスッと目を細めて、東崎に向かって口を開いた。
「・・・宿屋くんと月神先生に、一言、謝ってください。そしてもう、2度とこんなことはしないと誓ってください」
「・・・」
照は東崎に謝罪を求めた。圧倒的に不利な状況を前にして、彼女に選択肢は残されていない。東崎は体を震わせながら頭を下げる。
「・・・ご、ごめんなさい」
東崎は謝罪の言葉を口にする。その様子を見て、宿屋と照は一先ず溜飲を下げた。
その後、東崎は月神からも厳重注意を受けた。表情は意気消沈しており、非常に反省している様な素振りを見せていたが、心の奥底では何を思っているのか図ることはできない。
「・・・よし、じゃあ、部室に行こうか」
東崎への説教を終えた月神は、宿屋と照の方へ振り返ってそう言った。部室では今頃、小羽が待ちくたびれているだろう。
「・・・あの、月神先生」
「・・・?」
しかし、宿屋にはどうしてもこの場で明らかにしておきたいことがあった。彼は言葉を選びながら、首を傾げる月神に質問を投げかける。
「・・・月神先生! 先生は・・・一体何の種族なんですか?」
「!」
宿屋はローレライの呪縛を跳ね除けた月神が、何の亜人種なのか気になっていたのだ。月神は困った笑顔を浮かべると、人差し指を唇に当ててポツリとつぶやく。
「・・・フフ、・・・秘密」




