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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第1章 東京万博篇
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万博閉会式

2101年5月21日 東京都江東区 ネオ・ベイサイド臨海地区


 22世紀が始まっておよそ5ヶ月後、新世紀の幕開けを祝う式典がついに終わりを迎えようとしていた。「東京万国博覧会 Expo’ 100」が開催されてから半年、ついに「閉会式」がやってきたのである。

 開会式と同じ舞台である「万博メモリアル・スタジアム」の観客席には、数多の一般観衆の他、VIP席には各界の要人たちが着席している。当初の予定では現陛下の弟にあたる親王殿下が出席される予定であったが、開会式の事件もあり、現地への出席は見送られることとなった。


ヒュー・・・ドン! ド、ドン!


 夜空を見上げると、万博会場の周辺から花火が上がっている。ついに万博の閉会を告げる宴が始まったのだ。

 スタジアムのグラウンド上では、陸軍音楽隊によるドヴォルザークの「新世界より」の演奏が行われる。その演奏に乗って、ピッチの中央に置かれたステージの上に、東京都知事の石川清一が現れる。

 そしてスタジアムの巨大スクリーンが点灯し、皇弟に当たる親王殿下の御姿が映し出される。映像は殿下が住う御所から中継されていた。その瞬間、観客席からは大きな拍手が上がる。


『皆様、御着席ください・・・』


 音楽が終わるのと同時に、アナウンスが着席を促した。直後、スタジアムは静寂に包まれる。


『東京都知事、石川清一より閉会の辞を行います』


 名前を呼ばれた石川はステージの前へ足を踏み出した。そして設置されていたマイクスタンドの前に立つと、ゆっくりと口を開く。


『只今より、2100年東京万国博覧会、閉会式をとり行います』


 閉会の辞が告げられる。直後、スタジアムを照らしていたスポットライトが夜空に向かう。それぞれの光が空の一点で交差した瞬間、光が交わる場所から煌めく光の粉が降り注いできた。


『続きまして、東京万国博覧会協会会長、小林直太朗よりご挨拶を申し上げます』


 都知事の石川が後ろへ下がり、それと入れ替わりで万博協会会長の小林直太朗がマイクの前に立つ。小林は胸のポケットから式辞用紙を取り出すと、大きく息を吸い込んだ。


『本日、親王殿下の御臨席を賜り、東京万国博覧会閉会式を挙行する運びとなりましたことは、誠に喜びに絶えません。半年前の開会式を凄惨なテロが襲い、さらに当協会の副会長に名を連ねていた興梠驤苑の不正が明らかになるなど、今日に至るまでの道のりは決して順風満帆とは言えず、東京都民の皆様、そして日本国民の皆様、さらには世界各国よりこの万国博覧会へ足を運んで頂いた皆様には、大変なご迷惑をおかけいたしました。

にも関わらず、こうして閉会の時を迎えることができたのは、今回の万博に携わった全ての方々のお力のお陰であります。今日までの来場者数は4300万人と、当初の目標でありました2000万人を大きく上回る結果となりました。心より感謝申し上げます』


 世界唯一の完全なる法治国家で起こったテロ事件は、日本国内だけでなく、世界各国の首脳陣に衝撃を与えていた。日本政府は警備予算を倍増し、徹底した再発防止に努めた。そのアピールは功を奏し、来場者の減少は止められたのである。


『今回の万博では『新世紀の夜明け』をテーマに、混沌の時代となった21世紀から、新たなる100年である22世紀への橋渡しとして、未来の地球を明るく照らす最新技術や、未来へ受け継ぐべき伝統・文化の展覧が行われました。これらが未来への希望を繋ぐ架け橋となることが、我々の切なる望みであります。

我々は22世紀が人類にとって幸福の時代となることを願ってなりません。この万博は、世界34カ国の国と地域の協力によって開催されました。我々は手を取り合うことができるのです。我々の手で22世紀を幸福の時代とすることができるものだと、私は信じております。以上を以て閉会の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました』


 小林は用紙を懐にしまうと、深く頭を下げた。観客席からは拍手が湧き上がる。その次に、内閣総理大臣の橋田悠真がステージヘと向かっていった。

 そして首相の言葉が終わると、閉会式は次のプログラムへ進む。


『続きましてBIE、博覧会国際事務局旗の引継ぎを行います。スタジアム上部の掲揚台にご注目ください』


 そのアナウンスを合図にして、音楽隊が再び動き始める。メンデルスゾーンの「春の歌」が奏でられ、その演奏と共に掲揚台のポールにはためく「BIE旗」がゆっくりと降ろされていく。

 それは丁寧に折りたたまれると、礼服を身に纏う近衛師団員の手によって、スタジアム中央のステージへ運ばれる。それと同時に、万博協会会長の小林直太朗、博覧会国際(BIE)事務局議長のジェームス=シュールレ、そしてオーストラリアのパース市市長であるジョン=グラッドストンが、中央のステージに立っていた。


『東京万博に続く万博は5年後の2105年、オーストラリア連邦のパースにて行われます。そして今、東京万博協会が預かっていたBIE旗が、万博協会会長の小林直太朗氏より、博覧会国際(BIE)事務局議長のジェームス=シュールレ氏に返還されます』


 壇上に立った近衛兵は協会会長の小林にBIE旗を手渡す。小林は次に博覧会国際(BIE)事務局議長のジェームスへ旗を返還した。


『そしてジェームス=シュールレ氏より、次回開催地であるパース市市長、ジョン=グラッドストン氏へ引き継がれました。パース万博のテーマは「平和への歩み」です』


 ジェームスはパース市長のジョンへBIE旗を引き継ぐ。ジョンは折り畳まれた旗を誇らしげに掲げた。

 その後、ジョンは近くに立っている近衛兵に旗を預ける。引き継ぎの儀式が終わり、閉会式もいよいよ佳境へ迫っていた。

 再びオーケストラが動き出す。朝焼けのような静かなイントロから、新たな物語の始まりを告げるような力強いメロディがスタジアムに響き渡った。


『21世紀最後、そして22世紀最初の人類最大の祭典として、この「東京万国博覧会」は、人類の歴史に刻まれることでしょう。その歴史的な半年間を、メンデルスゾーン「夏の夜の夢・序曲」とともに振り返っていきたいと思います』


 19世紀のドイツの作曲家、フェリックス・メンデルスゾーン。彼が1826年に作曲した「序曲 ホ長調 作品21」は、まさに22世紀という時代の序曲が始まったことを示唆していた。

 東京万博の期間に撮られた映像や出来事が、ホログラム映像にまとめられて、スタジアム内の空間に投影される。仕切り直された「開会式」に始まり、連日6時間超の待ち時間となった「日本館」、開催期間中に会場内の至る場所で行われた種々のイベント、22世紀へのカウントダウン、そして天皇・皇后両陛下の御来場・・・一連の出来事が立体的なダイジェスト映像となって、観客の間を通り過ぎていった。

 そして映像が全て終わった後、明転したスタジアム中央のステージ上には、今回の万博の広報を務めたイメージキャラクターたちが立っていた。彼らは観客席に手を振りながら、万博の幕が閉じる時を待っている。


 ついに閉会式は最後のプログラムへ差し掛かっていた。


『親王殿下より御言葉を賜ります』


 そのアナウンスがされた瞬間、観客の目は一斉に巨大スクリーンに映し出されていた親王殿下へと向けられた。殿下は画面越しに観衆を見渡し、微笑んだ後、ゆっくりと口を開く。


『この万博に携わった全ての人々に感謝の意を示し、この万博が未来永劫人類の記憶に残ることを願い、「東京万国博覧会 EXPO’ 100」の閉幕を宣言する!』


 その刹那、観客席から破れんばかりの拍手が沸き上がった。そして殿下の閉幕宣言と共に、スタジアムの至るところから紙吹雪が舞い上がり、万博会場の至る場所から再び大量の花火が打ち上げられた。


 かくして、22世紀の到来を祝う最大の祭典「東京万国博覧会 EXPO’ 100」は、数多の人々に惜まれつつも、終わりを迎えたのだった。


・・・


東京都新宿区 桜田門 警視庁 捜査4課7係 オフィス


 その頃、警視庁捜査4課7係のオフィスでは、当直に入っていた刑事たちがテレビの生中継を見つめていた。


「万博、終わっちゃいましたね」


 当直刑事の1人である弐条は、名残惜しそうにぼそっと呟く。この日の当直には彼女の他に、六谷と拾圓の2人が入っていた。


「正直、万博の間は良い思い出がないですけどね」


 拾圓が苦笑いを浮かべる。彼はこの半年間の出来事を回想していた。

 彼がここへ異動になったのとほぼ同時に開幕した「東京万博」、その開会式を襲った「東京万博テロ事件」を皮切りに、卑劣な政治家の保身と亜人への差別意識が引き起こした「興梠釀苑・古屋壇司殺害事件」、次に人間社会に紛れていた吸血鬼による「新宿区連続失血事件」と、国家を揺るがすほどの大事件が連続して起こった。

 その間にも小さな事件はいくつか起こっていたが、特にこの2つは拾圓の記憶に深く刻まれていた。前者は犯人が行方不明、そして後者は世間に対して隠匿の措置が取られている。


「でも・・・この捜査4課の存在が、この『東京』の平和にどれほど寄与しているのか、身に染みて分かりました。多種多様な種族が跳梁跋扈する街で、人間と亜人の均衡を守る『砦』なのだと・・・。皆さんにはこの半年間、本当にお世話になりました」

「・・・係長」


 六谷は言葉を詰まらせる。現係長の拾圓がここへ来たのは、準キャリア組としての赴任であり、任期はおよそ半年間と定められていた。最終的には1ヶ月延長され、来週一杯で所轄警察署の課長代理として就任することが決まっている。故にこの捜査4課7係のメンバーと仕事ができるのは、来週までなのだ。

 3人の間に沈黙が流れる。その時、警視庁中に突如として緊急コールが鳴り響いた。


『緊急連絡! 足立区竹ノ塚2丁目のコンビニエンスストアにて強盗事件発生! 犯人はレジを奪い逃走中! 店員が1人死亡! 遺体は爆発四散しており、亜人種の関与が疑われる! 捜査1課及び4課は直ちに出動せよ!』


「!!」


 万博の閉会式が終わったのと時同じくして、新たな事件が巻き起こる。拾圓たちは椅子に掛けてあったジャケットを抱え、オフィスから飛び出していく。

 この世に悪意がある限り、警察の仕事がなくなることはない。亜人と人間の均衡を保ち、日本国の平和を守るため、捜査4課の戦いは続く。

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