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歪なドミノたち

 あれから数日後。

 俺はまだこの学校にいる。

 実際に登校してるのは分体で、本体は今も底守と訓練中だ。

 さらに夜は分体たちと個別に訓練が待っている。


「あなたは、とりあえず待機」


 浅倉緋奈局長からの直々の命令だ。

 死神が死んでその黒幕も掴めなくなった今、俺は特に必要とされていない。

 橘宗吉。それが死神を操り、浅倉が密かに監視していた奴の名だった。

 同じモブとして親近感あったのにな。


 シナプス超伝達症患者は、良くも悪くも……まあ、悪い部分がかなり多いが、とにかく人間離れした力を持つ。

 もちろん、国から依頼されているアサクラ記念病院はそれらを管理するのが役目だ。

 普通の人間達と、共に歩むために。


 それとは対照的に、人間を駆逐して、シナプス超伝達症患者のみの世界を作ろうとする奴らもいる。


 ——アポカリプス。

 そう呼ばれる彼らは、人間が支配するこの国、そして人間に協力するアサクラ記念病院を潰そうと企んでいる。

 橘宗吉はその頭らしい。






 チャイムが鳴った。

 朝のホームルーム。

 担任の浅倉緋奈と一緒に教室に入った来た転校生たちには見覚えがあった。


 一気に教室が湧く。


「高梨悠介です。これからよろしく! ほら、竹内も」

「……………………竹内祐一」


 黒板の前に立つ二人は、誰もが知ってる名前で自己紹介をする。

 二大皇帝の帰還。

 綾取がいたら喜んでネタにするだろう。


 好意的な雰囲気に包まれる中、俺だけが二人を睨みつける。

 それに気づいた高梨は苦笑いで誤魔化すように頭をかく。

 竹内は、完全に無表情。しかも俺に対して視線すら外さないという面の厚さ。

 なんじゃこいつは。


「いやぁー、ごめんごめん!」


 昼休み、女子の群れの中にいる二人に目力でこちらを向かせ、顎で今すぐ来いと指示を出した。

 久々に三人でくる裏路地の喫茶店。

 そこで高梨は平謝りを繰り返し、竹内はなぜかぼーっとこちらを見ていた。


「ごめんじゃなくて、説明しろ! あと竹内は謝れ! 今すぐ」

「……………………なにを?」


 なにを?

 こいつ何を謝ればいいのかわかってねぇ!

 なんだ? 

 謝れないのか? こいつは。

 その顔を見てると真剣に怒ってるこっちが馬鹿馬鹿しくなる。

 それもこいつの作戦か?


「説明もせずに急に消えたことだよ!」

「…………じゃあ、今から説明する。高梨」

「俺?!」


 はぁー。

 内心でため息をつく。

 ダメだこいつ。

 ……竹内はもういいや。

 俺は高梨に全責任があるとばかりに睨み、説明を促す。


「な、なんだよ。悪かったって。いやな、病院を脱走したのは殺されると思ったからなんだよ。お前も能力に目覚めて殺されることはないだろと思ってさ」

「なんで、俺が能力に目覚めたって知れたんだよ」

「ん? それは竹内が……なあ、竹内……」

「松下のことはいつも、監視している」

「怖ぇよ!」


 高梨と竹内は病院から脱走したのち、さっちゃんと一緒に逃げ回っていたらしい。

 なぜさっちゃんも逃げなきゃいけないのかはわからないが、高梨と竹内をほっとけなかったのかもしれない。

 それを浅倉に見つかり、殺されないことがわかり戻ってきた、と。

 今は檻のある個室ではなく、俺と同じアサクラ記念病院地下二階の部屋を与えられたようだ。

 制限付きではあるんだけどな……という含みのある言い方だったが。


 高梨がアサクラ記念病院の研究データを持ち出そうとした理由については結局ごまかされた。

 でも、ごまかす際の高梨の仕草や口調で、なんとなく俺の過去と関係があるんだと思う。

 俺の過去については……。


「記憶を消したのはお前自身だ。だから、俺たちからは何も言えない」


 と、いうことだった。

 衝撃だったが、それ以上に俺は何を考えてんだと焦燥に駆られる気持ちの方が大きい。

 しかし、その時の俺はそれが必要だったということだろう。

 何でかは知らないが。


 俺が二人をある程度問い詰め終わったとき、竹内がぶちっと指で何かを潰した。

 ……俺の細胞だ。


「松下……監視するのは俺」

「あ、うん」


 バレた。

 なんでバレるんだよ。目にも見えないはずなのに!


「宗一郎、なかなか黒く成長したじゃねぇか!」


 高梨が悪い笑みを向ける。

 お前はすでに寄生が完了してるんだけどな。

 まあ、それは言うまい。


「高梨、寄生されてる」

「うお、マジかよ! 早く取れ宗一郎、今すぐだ!」

「言うなよ、竹内」


 仕方ない、この二人はこの沢山ある“目”で見守るしかないか。

 また、いなくならないように。






「なんだ……松下か」


 屋上にいくと、深迫とその周りに不良達がいた。


 綾取由奈の死体には爪痕があり、そこから砂川のDNAが検出された。

 それが証拠となって、砂川は逮捕。

 綾取は砂川による暴力が原因で自殺したとみなされた。

 さらに、涼海(すずみ)(しずか)の自殺とも関わりがあるとして、再調査が行われている。


「綾取がいなくなって、寂しい思いしてるかと思って来た」

「余計なお世話だ」


 あれから不良たちは、また深迫のそばに戻っていった。

 俺としては平穏が戻ってきて何よりだ。

 まあ、少し目立つ存在にはなってしまったが、高梨と竹内も戻って来たことだし、またいずれカースト底辺に落ち着くだろう。


「あ、松下さん!」

「松下くん、ちーす」


 あとはこいつらが俺に対して“普通”の態度に戻ってくれればいいんだが。

 不良たちが俺に挨拶する中で、深迫はこちらをじっと見つめていた。

 なんだ? また喧嘩吹っかける気か?

 負けないからな?


「松下……いろいろ、悪かったな」

「気持ち悪っ」

「…………テメェ」


 深迫がこちらを睨む。

 その目は、睨んでいながらも怒ってはいなかった。


「おい、龍くんが謝るなんて……」

「ああ、今日は雷雨だな」

「氷河期が来るかもしれん」

「………………テメェら」


 あ、深迫の額から眉間にかけて血管が浮き始めた。

 これは雷雨の前兆。


「ブッ殺す!」


 深迫が暴れまわる。

 逃げ惑う不良たちを傍観しながら、俺は何だかんだで現実よりもこの平穏が好きなんだと自覚した。

 それはきっと、俺が俺の記憶を消したことと繋がっているのかもしれない。


 だが、現実は俺の足を鎖で縛って離してくれそうにない。

 この鎖を引きちぎるまで、俺の平穏は……。


 待っててくれるのだろうか。

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