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綾取由奈視点2

「本当にこれで良かったの?」


 明日の記事の原稿を書きながら、その横でベッドに横たわる深迫くんに問いかける。

 彼はなにも答えなかった。


 昨日、師匠に負けた深迫龍平は、不良たちにボスをやめると宣言した。

 もちろん不良たちは必死で引き止めたけど、深迫くんはそれを無視して「お前らなんか知らねぇ、勝手にしやがれ」とその場から立ち去ってしまった。


 そのあとを追いかけていくと、深迫くんは他校の不良をまとめるボスたちに喧嘩を吹っかけていた。

 私は不良のことはよくわからないけど、きっと自分が仕掛けた喧嘩で、仲間を負けさせてしまったことに対する償いだったんだと思う。

 そして、仲間が今後も舐められないようにという配慮だ。

 ただの威張ってる不良のトップって感じだと思ってだけど、ここまでできる奴だったんだなーと少しだけ関心した。


 深迫くんは、さすが県内最強と言われるだけあって、一対一の喧嘩では無類の強さを見せつけた。

 でも、他校のボスがピンチになって周りの不良たちも応戦すると、やっぱり多勢に無勢で深迫くんでもかなり厳しくなる。

 それでも血だらけになりながら、信じられないタフさで応戦する深迫龍平。

 その光景を見ながら、私は陰ながらシャッターを押す。

 それが深夜まで続いた。


 ようやく最後の喧嘩を終えて、倒れこむ彼に肩を貸した。

 余計なことすんな、という彼を無視して、なんとか私の家まで運び、ベッドに寝かせる。

 それにしても体が大きい。

 私のベッドから足がはみ出している。


 そのまま深迫くんは寝てしまった。

 いや気絶か? どっちでもいいか。

 私は床に布団をひいて寝るとする。しかし、私のベッドが血だらけだ……。

 まあ、しょうがない。あんだけのものを見せてくれた対価だとしよう。


 そして翌日、目覚めると深迫龍平は死んだように眠っており、まったく起きる気配がない。

 これ、死んでないよね?

 一応、脈は動いてるっぽい。

 うん、眠ってるだけだ。たぶん。

 私は仕方なく、彼を置いて学校に向かった。


 そして、学校から帰宅し今に至る。

 深迫くんは、「迷惑かけた。もう帰る」とベッドから起き上がろうとしたけど、まだ体が痛むみたいだったから肩を押さえつけて、寝てるようにと言った。

 深迫くんはいつものように眉間にしわを寄せて睨む。私はご飯の用意をするから待っててとそれを無視。

 そのあとは割と素直に寝てくれて、ご飯もベッドに腰掛けながら食べてくれた。

 彼はもしかして女子に弱いのかもしれない。


 私が記事を書いている中、彼はずっとそれを静かに見ていた。

 そんな彼に少しいたずら心が湧く。


「で、いつデートする?」

「ぶっ……お前……本気だったのか……」

「もちろんだよ!」


 やはり女子に弱いという予想は的中していそうだ。






 机に突っ伏したまま、寝てしまったようだ。肩には毛布がかけられていた。

 ベッドを見ると、もう深迫くんはいなかった。

 私はできた原稿をコピーしながら朝食を作る。

 本当は二人分作る予定だったから大目に材料を買ってきたのに。


 学校に行くと、教室ではまた深迫くんの机が倒されている。

 まあ、あんな別れは寂しいよね。構って欲しいよね。意外と女々しいね、君たち。むふふ。

 寂しさの裏返し。案外あれで慕われてたのかもしれない。


 そんな不良たちを横目に階段を上っていき、最後にある扉を開く。

 やっぱりここだ。

 でも、多分ここだろうなという予想がついてたことは表に出さずに話しかける。


「こんな所にいたんだ」

「……お前か」

「なんで起こしてくれなかったの?」

「……自分で起きろよ」


 たしかに一人暮らしなんだから自分で起きろよ、と自分でも思う。

 でもそういうことじゃない。なんだろう、これ……よくわかんないな。


「今日もうち、来るんでしょ?」

「……もう大丈夫だ」

「今日はご飯作って待ってるからね!」

「いや、だから……」


 深迫くんの返事を聞かずに屋上をあとにする。

 こうすれば彼は必ず来るという確信があった。こういう面倒くさいことは、すっきりさせておきたいタイプだから。


 そしてその日、やっぱり彼は私の罠にはまってやってきた。

 それから彼は時々、私の家に泊まるようになった。






「よし、次はあっちに行こう!」

「……おい、なんで遊園地なんだ」


 あれから一週間が経ち、約束のデートと称して深迫を近場の遊園地に連れてきた。

 この遊園地はそんなに大きくはないけど、基本的な乗り物は揃ってるし、何より最近は廃れ気味で平日はわりと空いてる。


 深迫は学校に復帰し、予想通りと言っていいのか完全にハブられていた。

 そんな深迫に師匠は事あるごとに助けを求めている。

 もはや師匠が本当に困ってるのか、それともそれすら演技なのか私には読めない。


 しかし、深迫は師匠の懇願を無視し、お前が俺に勝ったんだから当たり前だろ、と完全に突き放している。

 そんな普通の生徒が担ぎ上げられてるだけのように見える師匠のボスっぷりも、最近は見慣れてきた。


「なんでって、デートといえば遊園地でしょ?」

「お前の目的は俺の取材だろ! なんで本格的にデートしてんだよ!」


 深迫は何やら不満らしい。いつも来ないところだからこそ、いつもは見れない部分が見えるってのに。

 しかし、深迫龍平は嫌がってはいるが、ちゃんと私についてくるし、乗り物にも乗ってくれる。コーヒーカップに仏頂面で乗る深迫は、なかなかに面白い。


 聞くと、深迫は別に不良になりたくて不良になったわけではないらしい。たまたま喧嘩をふっかけられた相手が他校の番長であり、そこから仕返しを受けるたびに勝ってたらこんなことになってしまった、ということだ。

 私は深迫が不良になった理由よりも、未だに番長なるものが存在していたことに驚きを隠せない。


 周りの不良たちは他校の人に大きな顔ができるから深迫くんについてきたのかな、と意地悪な質問をぶつけると、そうかもな……と、なんか切ない表情で俯いた。

 意外とセンチメンタル! 深迫龍平!

 いや、この見出しはダメだな……。


「んあっ!」


 そんなことを考えながら歩いていたら、目の前で小さな男の子がソフトクリームを思いっきりぶちまけた。

 ぶちまけた先は私。

 これは……遊園地デートあるあるだ! ここでの深迫の反応はかなり重要なデータ!

 私は固まったフリをしておこう。


「びぁあああああ!」


 ああ、男の子が泣いた。

 大丈夫だよー、と声をかけたくなる気持ちをぐっとこらえる。

 深迫、見せ場だ! それいけ深迫!


 泣いてる男の子に駆け寄る深迫。

 これはやはり優しく、「泣くな坊主……俺がかわりのやつ、買ってやるから」とか言っちゃうやつ……。


 ——パチン。


 ビンタだ。いきなり男の子にビンタをかます深迫。

 男の子は急にビンタされて呆けていた。私もあまりのことに思考停止する。


「泣くな、まず謝れ!」


 おおおおおい! なにやっとんねん! どこに泣いてる子供にビンタして謝らせるやつがおんねん! ここにいたー!!


「ご……ごめ……」

「いやいやいや! ええんやで……じゃない、いいんだよー! よしよーし、痛かったねー、お姉さんが新しいの買ってあげるからねー!」

「なんだ……新しいのなら俺が……」

「あんたは来んくてよろしい!」

「なんで関西弁なんだ……?」


 私はすぐさま泣いてる男の子をソフトクリーム屋さんに連れて行く。

 なんで深迫の役目を私が……。

 私のスカートは未だドロドロで、売店のおばちゃんは何かを察したように新しいソフトクリームを巻いてくれた。


「ぐす……ありがとう……ごめんなさい」


 男の子はソフトクリームを受け取りながらも、まだ泣いている。あのビンタが尾を引いていることは間違いない。


「いいんだよー! 新しい方が美味しいかもしれないねぇ! ほら、食べてみて!」


 男の子がソフトクリームを食べるが、まだぐずっている。そうしているうちに母親が来て、平謝りののち男の子を連れて行った。

 ソフトクリームの代金の話も一切出ることはなかった……いや、いいんだけどさ……。


「なんだ……あの母親、おかしくないか?」

「いや、あんたの方がおかしいわ!」

「なぜだ、他人に迷惑をかけたらまず謝る。当たり前じゃないか」

「あんたが今までどんだけ他人に迷惑かけてきたと思っとんねん!」

「だから、なんで関西弁なんだ……?」


 自分でもなんで関西弁でキレてるのかよくわからない。お笑い番組の見過ぎだろうか……。

 というか人に怒られたことはあっても、怒ったことは初めてだ。

 私、怒ったらこんな痛いキャラに……。やばいパパラッチされる! すぐ治さないと!


「……なにしてんだ? とりあえず、これ……」


 顔の前に手を広げて写真に写らないようにしてたら、深迫がハンカチを渡してきた。

 不良なのにハンカチ持ってんの?!


「あ、ありがとう」


 ここできたギャップに戸惑いながも、ハンカチを借りてお手洗いに入った。

 洗面台の前でソフトクリームを拭いながら、無意識に先ほどの出来事を振り返ってしまう。


 まさか深迫が子供にまで暴力を……いや、まあ暴力というよりは、躾なのか? でも他人の子だよ!? 普通できないでしょ!


 読めない、全く深迫という人物が読めない。

 不良お決まりの女子供と老人には優しいというパターンでもないらしい……。

 かといってむやみやたらに喧嘩を売っているわけでもなさそうなんだよね。


 そこでふと疑問が湧いた。

 だったらなんで師匠を殴った?

 うるさかったから、とは言ってるけど不良グループの方が普段よっぽどうるさいし、私の方がうるさい時もあるし。


 そんなことを考えているうちに、スカートのソフトクリームはすっかり取れていた。

 ハンカチは洗ってから返すか……一応ね。

 柄にもなく女子っぽいことを考える自分に少し戸惑いながらお手洗いから出ると、深迫が近くのベンチに座りながら待っているのが見えた。


「ねえ、深迫。なんで松下くんを殴ったの?」


 ベンチに座る深迫に、私は立ったまま早々に聞く。疑問は早めに解決したい。


「あ? ……あいつが気に入らなかったからだよ」

「今までクラスの誰かを殴ったことなんてなかったのに、それだけで?」

「……それだけだ」


 嘘だ。何か隠している! 私のセンサーがビンビン反応してますねぇー。これは師匠と深迫くんの間に何かあることは明白! 師匠に取り急ぎ吐かせねば……むふふふ。


 気づけば、もう真っ暗になっていた。寂れてるというのもあって、遊園地の路地を照らす街灯が少し寂しい。

 デート、じゃなくて取材も終わりに差し掛かり、遊園地を出る。深迫は家まで送ると言ってくれたけど、私の家はここから歩いてすぐだ。

 今日は深迫の記事をまとめなくちゃいけないし、夜は忙しい。むふふ。


「大丈夫だよ、じゃあね深迫!」

「……ああ、気をつけろよ」


 何か言いたげな表情を残して、深迫は帰っていく。

 ポケットに片方だけ手を突っ込んで歩いている様は、やっぱり不良のトップって感じだ。

 深迫が学校に戻ってからは、いつも一人でいる。前までは取り巻きに囲まれて気づかなかったけど、深迫は一人でいる方が様になるタイプの不良だ。

 もしかしたら、これでよかったのかもしれないね。


 代わりのボスは一人だろうが囲まれていようが、全然不良っぽくないしモブ丸出しオーラなんだけどね。


「綾取じゃないか……何してんだ、こんな遅くに」


 振り向くと、後ろには砂川先生がいた。

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