翼竜のような悪魔
そいつは恐るべき形体を有していた。—— 太古の空を飛び回った翼竜プテラノドンのような頭と痩せた四肢と尾とを持ち、その胴には人間のような乳首と浮き出た肋骨、臍がついていた。関節でつながった両腕の先は蟹の足先のように鋭くとがり、脇のあいだには羽毛のような毛が生えている。
「なんなの、こいつ……」
「ウミガメ奏者が言ってたやつ、だろうね」
肩から伸びる頚部は掃除機のホースあるいは駝鳥の硬く太い脚を連想させるような蛇腹の形状になっていて、そのくの字に曲がった首の先にある翼竜のような頭部には、ふたつの恐ろしい目の玉と鉤のかたちに反り返った恐るべき犬歯とがあった。
「じゃ、僕は所用だからお暇を —— あいだだだ!」
憂花は逃げようとする笑う蜘蛛の脚をひっつかみ、
「そりゃっ!」
おぞましい敵の影へと投げつけた。
「ぎゃああああ……」
敵の鋭くとがった腕の先に捕らえられた蜘蛛は悲鳴を上げる。
「クシャアアアッ!」
唸り声とともにその怪物は腕を振り下ろし、地面へと突き刺した。—— 白い砂埃が巻き上がり、それが消えると、そこにはすでに笑う蜘蛛の影はなかった。
敵は憂花を見下ろすように立っていたが、そいつを見上げた憂花は不敵にも口角を上げて笑った。
—— やってくれるじゃない……。
憂花は戦斧を掲げて跳び上がり、その翼竜のような頭へと振り下ろした。
「クキャアアアア」
怪物は唸り声をあげ、地に降り立った憂花へととがった口先を突き刺そうとする —— 憂花は体勢を崩しながらもすかさず斧を掲げ、牽制する。
—— さあどうする、悪魔よ……。
しばらくにらみ合いがつづいたが、その間に敵の背後に現れる、無数の怪物の群れ……。
—— 援軍のつもりかしら……。
憂花は戦斧の刃へ敵の注意を引きつけつつ、ゆっくりと片脚を動かしていた。—— この動作の起こりに敵は気づいていない。
—— いける……!
「ハッ!」
「クキアアアアアアアッ……」
憂花のかかとが怪物の細い足首へとかかった。—— 不意をつかれた怪物は体勢を崩し、膝を折って地面へと倒れ込む —— その口先が、憂花の額をかすめて地面へと突き刺さった。
—— 間一髪……。
白い砂煙の中、憂花ははっとして立ち上がり、斧を持ち直した。
倒れた怪物が頭をもたげ、憂花を睨む —— その頭部を、憂花は思い切り叩きのめした。
「クキイイイイイイッ……!」
怪物の悲鳴とともに、あたり一面が白い光に覆われた。—— 視界が元に戻ると、憂花はひとり荒野のど真ん中に突っ立っていることに気がつく。—— 足元には、土に埋もれた翼竜の化石とその頭部に突き立てられた戦斧とがあった。
乾いた風が、頰をなでる……。