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白の砂漠で


 憂花は灰の砂漠を歩いていた。だれもいない、白の世界 —— 夜ではないらしい ——。時折ときおり遠くに象かラクダのような動物の影が見えたが、ひどく視界が悪くすぐに見えなくなってしまうため、これは幻覚かなにかなのだろうと憂花は思うのだった。


「っていうか、そもそも夢なんだけどね」

「えっ!」

 突然の声に、憂花は驚く。

「こっちこっち」

 よく聞く声ではないが、聞いたことのある声ではあった。

 声をたどって視線を落とすと、白い灰の砂地から、目鼻と大きな口が現れ、ニタリと笑った。


「きゃーっ!」

「驚くなって」


 笑う蜘蛛は全身を現した。

「なんだ、蜘蛛か……」

「呼び捨てなのね」

「ねえ、王子さまは?」

「舞踏会へ出かけたよん」

「デタラメ言わないでよ」

「……」

「な、なによ……」


 笑わない蜘蛛を見て、憂花は少し不安になったが、


「君、変わってるね」

「え?」

「蜘蛛だってわかると、余計に大騒ぎするもんなのに」


 そう言ってまた、ニタニタと笑いはじめた。



 ***


 憂花は、笑う蜘蛛を肩に載せて歩いた。


「ほんとに変わってる。我が道を行くタイプ?」

「そうでもないけど」

「我が()()()()タイプか」

「そうかもね」


 しばらく行くと、半人半馬の怪物が空へ向かって弓を引いているところに出くわした。


「あ、いけない。ケンタウロスだ」

「ケンタウロス?」


 ケンタウロスが弓矢を放つと、空からブルーベリーのようなきのみが落ちてきて、上を見上げた憂花の口にすっぽり収まってしまった。


「ああ、やっちゃった」

「なにを?」

 笑う蜘蛛は憂花の肩から背中をつたって地面へ降りると、

「僕は急用を思い出したから、ここでいったんお別れするね」

 そう言って、白い灰の砂の中へともぐっていってしまう。

「ちょっと!」

 憂花が言ったときにはすでにニタリと笑う口しか残っておらず、

「またね」—— そう言って、ついに消えてしまった。


 ケンタウロスが憂花をにらみつけて言った。


「おいシンデレラ!」

「は、はいっ……」

 憂花はおびえて返事をした。

「俺の射落としたきのみを食ったからには、問題に答えてもらうぞ。正解しなければ、俺がお前を食ってやる!」

「え、そ、そんな……」

「問答無用で問答開始!」


 ケンタウロスがえたてると、目の前に巨大な黒板が現れて、ケンタウロスが白いチョークで問題を書き記した。「ワーテルローの戦いに敗れたナポレオン・ボナパルトが流された島の名を答えよ! さもなくば食うぞ!」


「え、そ、そんな……」

「ははは、降参するか」

「えっと……」


 白い灰が噴きあがった。ケンタウロスが前足のひづめを打ち鳴らし、

「料理の準備をせにゃならんかな」

 火花が飛んだ。



 —— ダメだっ、思い出せないっ!



 憂花が諦めかけたとき……、


「ところでお前たち、『冬将軍』という言葉を知っているか?」


 どこからともなく、聞き覚えのある声が響いてきた。


「先生っ?」

「おいお前たち、ここはセントヘレナか」


 ……ヘレナか……ヘレナか……ヘレナか……。



 —— 先生っ……!




「さあどうだ、降参か!」

 迫るケンタウロスに対し、憂花は言い放った。


「セントヘレナっ!」


 叫ぶやいなや、青白い鬼火が憂花の口から出現し、飛んでいったそれはケンタウロスの頭へ直撃した。


「う、うおおおおおっ!」

 ケンタウロスは、頭を抱えて暴れ出した。

「ぐおおおおおっ!」


 そのまま、わけもわからず憂花に向かって突進してくる。—— ナポレオンになれなかった世界史教師は助けに来ない。



 —— もうダメっ!







 代わりに彼女を助け出したのは、王子さまだった。


「ときめき君っ!」


 彼は、いつの間にか現れた黄色い月を背に、赤い羽を生やした人間の頭部をつかんで立っていた。—— その頭部の両目はトルコ石のような色をしていて、眼差しを向けられたケンタウロスはたちまち硬直し、岩へと変わってしまった。


 王子さまは憂花に駆け寄ると、

「プリンセス・チャーミング、お怪我はない?」

「ええ……、大丈夫」

 彼は意味ありげに微笑むと、

「じゃあ僕は、行くね」

「えっ」


 戸惑う憂花の頬にキスをして、彼は白の中へと消えていった……。











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