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ときめき君のポートレイト  作者: 檸檬 絵郎
中途半端な挿話
18/44

別世界から


 * 上条(かなで)


 東京は丸の内、整然と建ちならぶオフィスビルのひとつ。十一階。


「『ちょっと書きとめとくんです。……題材が浮んだものでね。……(手帳をしまいながら)ほんの短編ですがね、湖のほとりに、ちょうどあなたみたいな若い娘が、子供の時から住んでいる。かもめのように湖が好きで、鴎のように幸福で自由だ。ところが、ふとやって来た男が、その娘を見て、退屈まぎれに、娘を破滅させてしまう――ほら、この鴎のようにね。』」


「なに読んでるんだ」

「うわ、びっくりした」

「びっくりしたか」

「びっくり……、しますよ、なんですか急に」

「お前が集中しすぎなんだよ、まだ仕事してんのかと思った」

「いや……、違うでしょう、どう見ても」

「お前はまじめだからな」


「……母親が好きだったんです、これ」

「母ちゃんがねえ、どれ」

「これです、チェーホフの『かもめ』」

「ああ、いきなりかもめが襲ってくるっつう、パニック映画か」

「ぜんぜん違いますよ。アントン・チェーホフの戯曲、『かもめ』です」


「……なんかまた、難しそうなのを読んでるなあ」

「さっぱりわからないです。……母さんも、妹も……、俺なんかとはまったく別の世界にいるみたいで」

「お前以上の変わり者ってわけか」

「俺以上?」

「……中途半端ってのが、いちばん辛いよな。じゃ、先帰るぞ」

「あ、ちょっと……」





「ちょっと書きとめとくんです。……題材が浮んだものでね。……(手帳をしまいながら)ほんの短編ですがね、湖のほとりに、ちょうどあなたみたいな若い娘が、子供の時から住んでいる。かもめのように湖が好きで、鴎のように幸福で自由だ。ところが、ふとやって来た男が、その娘を見て、退屈まぎれに、娘を破滅させてしまう――ほら、この鴎のようにね。」

アントン・チェーホフ『かもめ』・神西清訳・第二幕より引用 青空文庫にて閲覧

https://www.aozora.gr.jp/cards/001155/card51860.html(図書カード:No.51860)

https://www.aozora.gr.jp/cards/001155/files/51860_41507.html(本文:XHTML版)

なお、「鴎」のルビ(かもめ)は引用者による。

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