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「まさか、こんな地下通路を掘られていたなんてな…」
「言っとくけど、俺はここまで掘ってねぇぞ?」
「当たり前ニャこのボケモグラ!」
ノア達はどこまでも続くような地下通路を歩き続けていた。距離は既に町の外に達している。
もしこれを拡張され、一度に戦力を町の内部に送り込まれていたならばひとたまりも無かっただろう。
しかし、ここを辿ればあの『マフ』と名乗った少年型アンドロイドの本拠地まで直接乗り込めるという物。
この通路幅ならば一挙に敵が現れる事も無い。オリバー、テト、ノア、
そして成り行きでついてきたドルの順で、周囲を警戒しつつ探索する。
順調に歩を進めているように思えたが、唐突に先頭のオリバーが止まった。
その前には、少し開けた場所と複数に分岐する通路があった。
「ノア殿、これは…不味いですな。」
「正しい通路は一つ…というわけでもなさそうだな。」
人海戦術ならば楽に探索できるだろう。
だが、ウォッチの通信機能が地上に届かない為、増援を呼ぶにも戻らなくてはならない。
「そうだ、テト、匂いは?」
「うーん、それがここ、ずっと変な匂いが全体に漂ってて…嗅覚が効かないニャ。」
そう言って首を横に振るテトを見て、ノアは一度戻ることを決断すべきか考える。
だがエウサラがどうなったのかもわからない以上、ゆっくりと探索を進める余裕はない。
しかし、そこでドルが確信をもって呟く。
「…いや、ちょっと待ちな。こりゃ全部ダミーだぜ。」
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私はマフにある一室に案内された。
室内なのに辺りは明るく、植物も生い茂っている。
元々は長い航行の中で植物を育て、食料を確保する為の場所だったらしい。
木陰に置かれた椅子に案内され、そこに腰を下ろす。マフはすぐ傍の倒木に腰を下ろした。
木漏れ日は人口の光とは思えない程に、心地よい暖かさを作り出している。
そこへ、果物の籠を持ったエイリアン達が、私達に近付いてきた。
流石にこの前襲われかけたばかりなのもあり、近付いてきた彼らに私は怯み、身構える。
マフは彼らから籠を受け取りつつ、私の様子にも気が付く。
「…ん、別にそこまで怖がる必要は無いさ。
彼らはオレが丁寧にしつけてるからね。」
マフが上に指先を掲げ、そこから小さく、電気のスパークが煌いた。
それを見たエイリアンはビクリとし、その場から逃げる様に去る。
今の反応を見るに、どうやら猿回しの猿のように強引な手段での調教を行っただろう。
マシンとの連携なども同様の手段で仕込んだのかもしれない。
「…で、君は彼らの事をどれぐらい教えてもらってるんだい?
ま、話したくないならこっちから勝手に話すけど…」
籠から林檎をひょいと投げ渡し、彼はニコニコとこちらに話を促す。
…彼が町でノアに向けていた敵意の様な物はすっかり身を潜めている。無邪気な笑顔が可愛らしい。
警戒すべき相手ではあるが、別にこの辺りの話は一般へ伝えられている話のはずだし、別に問題は無いだろう。
私がエイリアンに関して知り得ている事…つまり、彼らが配合の失敗による未熟児で、以前はノアが保護していた事。
しかし以前の事件で脱走し管理できなくなったため、やむを得ず駆除対象になっている事等、聞いていた事をそのまま伝えた。
「うん、成程、教科書通りの説明は聞いてる、と。
…ところでエウサラ、どうやら君は異星人ではあるけど、
その体の構成は間違いなく純粋な“ヒト”そのものみたいだね。」
…そう、実は少し疑問だった。
シベールさんは私を『純粋なヒューマンタイプ』と言っていた。
しかし私は他の星から来た異星人のはずだ。
本当に私がこの星で“ヒト”と呼べる物なのか、密かに疑問ではあった。
「…まあ、この宇宙には数多くの星が存在していて、
“母なる星”と同様の環境が存在する可能性も十二分に有り得る。
同様の生命体が他の星に存在していたっておかしくはないさ。
それどころか似たような環境があったならば、鏡映しのように同じ生命を育み、
同じ歴史を紡いでいった星がある可能性だってあり得ると思うからね。」
疑念に曇る私の表情を見透かしてか、
彼はあっけらかんと、その疑念を振り払う…には少々無理の有る超理論を語った。
「…流石にそれは無理あるんじゃない?」
「んー、別にいいんじゃない?
少なくとも君が存在してる以上、これぐらいの超理論でも展開しないと説明が付かないじゃん?
深く考えても無駄ってもんだよ?」
釈然としない表情を見せる私を眺めながら、ケラケラと彼は笑う。
…うーん、確かに真面目に思い悩むのがバカバカしくなってくるし、
そもそも私の記憶が戻ってない以上、考えても何もわからないのが実状よね。うん、やめやめ。
「ま、それはいいとして、君に一つ質問だ。
君はシドゥンの町に入る時、ゲノムセンサーに引っかかったよね。
なんで引っかかったと思う?」
「それはやっぱり、私が異星人で、登録に不備があったせいで…」
「ハハッ、もっと本質を見なよ。
あのセンサーは単純に『エイリアン』と呼ばれる者が引っかかるセンサーさ。
で、君はそれに引っかかった。でも君は間違いなく純粋な“ヒト”そのものさ。
今のヒントでよーく考えてみなよ。」
…?
『エイリアン』と呼ばれる物…本来ならば異星人を指すけど、それはあくまで便宜上呼ばれているだけ。
現在駆除対象になっている、配合失敗による未熟児。
では、そのセンサーに引っかからない、町の住人達はどうだろう?
あれを通過できるのは、それぞれ異なる動物の特徴を持った住人達…。
…それぞれ異なる…?
――そいつらは、“ヒト”じゃあないだろ…?
彼がノアに向けてはなった言葉が脳内を反芻した。
では、エイリアン達はどうだろう?
見た目こそいろんな動物の特徴を表出させていたけど、体格等は大体統一されている。
知能は高く、
群を作り、
社会的行動を行い、
器用に原始的な道具を扱い、
物を正確に投擲する…
思い浮かんだ特徴を列挙してゆくと、一つの結論が浮かばざるを得ない。
「…まさか、彼らが…?」
「そう、彼らは配合失敗から生まれた未熟児じゃない。
変質こそしてるけど、彼らこそ本来の“ヒト”だった者達さ。」




