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特殊武器庫前でエウサラを飲み込んだ巨大な穴。
ノア達はワイヤーでゆっくりと底へ下りてゆく。
「こんな深い穴、いつの間に準備していたんだ…?」
予想以上の深さに驚きつつも、すぐに追跡をしなければならないと気持ちは逸る。
先に底へ到着していたテトが、誰かに問い詰めている様子が見えた。
相手は浅黒い肌の黒髪の男…どうやら、本物のドルは無事だったらしい。
「…ん?おお、ノアじゃねえか?頼む、ちょっとこのうるせぇ猫娘、黙らせてくれねぇか?」
「いや何言ってるニャあんた!ちょっとノアっち!このモグラ男、
何もせずにエウサラちゃん攫われるの見送ったらしいニャ!ホントマジ信じられニャいんですけど!?」
「ハァ?攫われた?あの小僧からはちょっとしたゲームってしか聞いてねぇぞ俺は?」
口論を続ける二人。テトは興奮してまともに話を聞けるような状況ではない。
急ぎたいところではあるが仕方ない。ノアはテトを諫め、ゆっくりとドルに質問をする。
「ドル、まずは君が無事でよかった。
“小僧”って言ったけど、君はマフと知り合いだったのかい?」
「ん、ああ。この前の隕石騒ぎの時にウチを訪ねて来てな…」
その言葉にノアは合点がいった。
エウサラ救助の記録を残さない為に、一時的にメインシステムと自身を切り離し行動していたことが仇となった。
しかし後悔をしている暇はない。ノアは他の情報をドルに確認する。
「それで、この穴は一体どうしたんだい?以前はこんなもの無かっただろ?」
「ああ、これな!あのマフって小僧、すげえじゃねぇか?
自立思考や姿形の擬態…。クククッ…あんなの隠して作ってるなんてお前も人が悪いよなァ…?
で、機能テストの為に暫く化かし合いをするとか、面白い事聞いたんでな、
数日間、あいつが俺の真似をしてる間にこの穴を掘っておいてくれって話でなァ…。
いや、機械いじりも大好きだけどヨォ…穴を掘ることがこんなに、ここまで快感だったとはナァ!?
これだよな?これこそが本能に生きるって奴なんだよなぁ?ククク…クハハハハ!」
ドルは目を輝かせ、興奮冷めやらぬ様子で今までの経緯を話す。
安易な手段で騙されていたなどとは微塵も考えていないようだ。
「ダメにゃこいつ、はやく何とかしないとニャ…。」
「ドル…君って奴は…。」
引き気味に、冷ややかな視線を送るテト。額を抑え、深い溜息を吐き落胆するノア。
それに気が付かず、未だ興奮し穴掘りの素晴らしさを切々と語り続けるドル。
対極の空気が、冷たい穴蔵の中に流れていた。
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「ノアの…方舟……!?」
「そ、この星に住む生き物達が入植してきた時の宇宙船。
元々は“母なる星”で伝承されていたおとぎ話みたいな…
…まあ、この星ではふわっとしか伝わって無いけど、兎に角、そういう物があったらしい。
それで、この船のメインコンピューターの名前も“NOAH”だったからその名で呼ばれ続けてるね。」
マフはその小さい体で大袈裟に身振り手振りを加えながら語る。
そのしぐさは元気の良い少年そのものだ。
…そう、『船』の名もノア…彼自身の名で呼ばれていた…。
何気に初耳かもしれないが、彼は『船』の証明となる存在そのものだ。そう呼ばれるのは自然な事かもしれない。
「もっとも、ここは着陸時に分解したブロックの一つ。
地中に埋まっていた物をオレが見つけて、使わせてもらってる。
…同じようなものを、君も一度は見てるんじゃないかな?」
そう言われ、私は再びこの星で最初に目覚めた部屋を思い出した。
「…もしかして、ノアが住んでいる、『塔』も…?」
「ご名答。あれは元、中央ブロックの一部が使われているんだ。
さて、エウサラ…だったかな?寝起きの所悪いけど、ちょっとついて来てくれないかな。」
そう言って彼は手を差し伸べるが、私は警戒し、少し後退る。
彼自身は無邪気な様子を浮かべているが、当然信用に足るはずがない。
その私の反応に、彼は少しバツの悪そうな表情を浮かべ、軽く頭を掻いた。
「…いやだなあ、強引に連れて来たのは悪かったと思ってるけど…
そこまで警戒してくれなくてもなぁ?本物の異星人さん?」
「えっ…?」
その言葉にぎくりとする。
彼がドルさんに化けていた時、私は素性を誤魔化していたはずだ。
微笑を浮かべつつ、彼はポッケから何かを取り出した。
「いや、もしかして…とは最初にも思ってたんだけどね。
ちょっと、これを調べさせてもらったよ。」
彼が取り出したのは、私が掛けていたはずの名前付きの金属プレートだった。
この時に初めて私は自身の胸元に目をやり、それが無かったことに気づかされた。
「これ、この星では精製できない金属なんだよね。君が異星人だって十分な証拠だろ?」
彼は私の名札を指に掛け、くるくると回しながら話し続ける。
「…ま、とりあえずついて来てよ?
悪いようにはしないよ。お腹だって空いてるでしょ?」
名札をひょいと私に投げ渡し、彼は軽快に出口に駆け出す。
私もここでじっとしていても仕方がないと思い、その方向へ歩き出した。




