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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
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6:他傷事件

あの自傷事件をきっかけに、部屋にはずいぶん人以外の者たちが増えた。おそらく再発防止のためだろう。ラウラはふと、最初に目にしたフクロウ面の異形のことを思い出し、あたりを見渡し探してみるが、見かけることはなかった。


「ふう」

ラウラがか細い溜息をつくと、それをかき消すかのように声が重なる。

「んもぉー!なぜ食べない!」


食事用の大きな長机の前に、スケルトンのカルボスと少女が横に並んで座っていた。おそらくあの子は、着替えを手伝ってくれたうちの一人かもしれないとラウラは思い出した。


くせのある栗色の短髪に吊り上がった琥珀色の目が気の強そうな印象を与える。しかし、今はかなり虚ろな状態に見えた。顔にはそばかすが散っていて、栄養失調なのか不健康そうな肌の色をしている。服装はよくある村娘のいで立ちで、年は少し下くらいかもしれないとラウラは思った。


「いらない、もう必要ないから。あの子たちに分けてあげたい」

「あの子たちって誰?どこにいるの?」

「あの子たちは………ああ、そうだ。もう死んだ。ずっとお腹すいたって、言ってきて」


少女は頭を両手で押さえるとうつむき、ブツブツと何かを言っている。

机の上には涙が落ちはじめ、それを見たカルボスは困惑しているのか、手を空中にさまよわせている。

見かたによっては、何か呪術でもかけるのかと思われそうな動きであったが、ただ戸惑っているだけである。

「アタシには、こんなにいい食事をする資格がない。だからいらない」


そんなことを聞くと、ラウラ自身もそうではないかと考えはじめる。

それは周りの人間も同じだったらしく、感化されたのか自傷行為をはじめる者が現れた。

「あっ、怪我した腕かきむしっちゃだめだって」

「壁に頭ぶつけるなよ!」


それを止めようとする皆の悲鳴と騒ぎを耳にするとラウラは冷静になった。

今の自分は周りの人間たちと同じように、さぞ虚ろな表情を浮かべていただろうと思い反省する。再びカルボスと少女に目を向けると、言い争いに発展しているようだった。なぜか少女はいつの間にか泣き止んでいて、立ち上がった状態で腕をつかまれていた。


「だからいらないって言ってるでしょう!」

少女が腕を振り払う。


「この大バカ者が!」

大声が辺りに響き渡る。まるでどこか反響する場所で叫んでいるようだ、とラウラが考えた時。


少女は何かに突き飛ばされたかのように後ろへよろめき、吐血した。

彼女は口元をぬぐい、手にべっとりとついた血を見ると意識を失う。

カルボスは崩れ落ちる彼女の名を叫ぶと急いで抱きとめた。


「誰か助けを!怪我をしたんだ!クラールスを呼んでくれ!」

「ここに居る」

どこからともなくウサギの獣人のクラールスが薬箱を持ってやってきた。

飛んできたと言う方が正しいだろう。彼がどこからやってきたのか、ラウラにはさっぱり分からなかった。

「……え……もし内側がやられていたら……これは僕じゃ」

「オレは………」


「ひとまず清潔なシーツを敷くから、この子をベッドに寝かせて」

「ああ」

カルボスは壊れ物を扱うかのように、慎重に彼女を持ち上げるとそっとベッドに寝かせた。

「何か他にできることは………」

「カルボス、あんたはここに居ないほうがいい。まずはぬし様に報告に行って」

「わか………った」


ここに居る人間たちがよく見ていた、自信満々な彼の姿はもはやなかった。器用なことに背中を丸めながらすごい勢いで家を出て行く。

「フィライン、ちょっと手伝って」

クラールスの傍に猫の獣人フィラインが近寄ると、治療をはじめたようだ。ラウラの位置からは離れていて少し見えにくかったが、おそらく消毒しているのだろうと考えた。


しかし、しばらくすると二人の獣人は、急に体を硬直させその場に跪いた。

「承知しました!!」

そう叫ぶと、驚異的なスピードで家を出ていく。彼らだけでなく、他の者たちも移動しているようで、たくさんの足音が聞こえる。


そして、この場には人間たちだけが残された。

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