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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
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5:自傷事件

席に着くと机の中央にはドライフルーツの入った、大きなパウンドケーキが真ん中に置かれていて、切り分け用のナイフが添えられていた。既に分けられ個別に皿に盛り付けられている。

おそらくお代わり用に残りを置いているのだろう。皿の横にはすでに暖かいハーブティーが淹れられている。


「キサマたち!さっさと召し上がるのだ!」

カルボスがそう言うと同時に手を付ける。ケーキはしっとりしていて味が薄めにできていた。食事もそうであるが、胃のことを考えて作られているのだろう。あっという間に食べ終わり、机の中央を見るとすでに何人もの人間たちが次を食べている。


ラウラも誘惑にかられるが、自分が食べるよりもマッチ棒のような手足をした彼女たちが食べるべきだと、ぐっと堪えた。

最もラウラ自身も栄養不足気味であったが、少なくとも大半の人間たちより良好な健康状態であることは事実であった。


手持ち無沙汰になり、ラウラはハーブティーをゆっくりと口につけて時間を稼ごうとした。しかし、ティーカップを持つ指が少なかったため、重さに耐えきれず落としてしまった。


すぐに「大丈夫?今かわりを持ってくるよ」と声を掛けられた。ラウラは余計な手間を増やしてしまったと後悔した。ここでマナーを必要以上に気にすることはない。右手で持つのをやめ、諦めて左手で持つことにした。


そうしているうちに、たくさんあったケーキは消え、なぜか横にあったナイフも消えていたが特に気にすることはなかった。


間食の時間を終えたラウラたちは各々のベッドへと戻っていく。

ふくれたおなかに幸せを感じつつぼーっとしていると、急に叫び声が聞こえた。


「ひゃあぁあああ!ど、どどぉ、どっどどどうして。え、えぇええ!?カルボス!クラールス!フィ………誰でもいいから早く!」


ラウラが叫びの主を見ると、この地に落ちて二番目に見た、あのフードをかぶった異形だった。その彼が見ている方向に目を向けると、一人の女性が腕から血を流しているのが見えた。フードの異形は動揺して忘れているのか、フードをかぶっていない。


あらわになった頭は、本来人間ならば目があるはずの部分にまで包帯がまかれていて、口はありえないほど裂けている。


獣人に比べれば余程人間に近いが、明らかに異なる姿だ。何も理解せずに暮らしていた頃のラウラであったら、悲鳴をあげていただろう。まるで恐怖の物語の中から抜け出してきたような容貌だ。しかし、今のラウラは全くそうは思わない。他の人間たちも同様だ。


なぜなら彼は怪我した人間たちを心配しているからだ。何より過去真っ先に助けを呼んだ事実がある。おちた人間たちの大半にとって、彼は最初に見つけ助けてくれた者である。今更はっきりと姿を見ただけで騒ぐものは誰もいなかった。


「うわっ、フィライン、僕の箱持ってきて」

ウサギの獣人がやってくると、ネコの獣人にそう告げる。彼は血を流している人間たちの前に跪くと、手当てを開始し始める。ちょうどその時、慌てた様子でスケルトンのカルボスがやってきた。


人間たちの近くに放り投げられているナイフを手にすると、音を立てて崩れ落ちるように膝を付く。その拍子に頭蓋骨が外れ部屋の隅に転がっていった。


ラウラはその恐怖光景に目を見開くが、ウサギの獣人は気にもしていない。頭蓋骨をどうかしたほうがいいのだろうかと考えたとき、ネコの獣人が箱を持ってやってきた。ウサギの獣人の傍にそれを置くと溜息をつく。


「何やってるんだよ、カルボス」

ネコの獣人はカルボスの頭蓋骨を拾いに行くと、残った胴体に向かって投げた。ラウラは割れてしまうと目を閉じたが何も音は聞こえない。


ゆっくりと目を開けると、頭蓋骨を両手で押さえて首の骨部分にはめ込んでいるカルボスの姿が見えた。

「ああ、キサマか。投げるんじゃな………いや、それより……このナイフを置いたのは………」

「カルボスだけのせいではない。監視してた奴らとも言えるし、片付けを担当した奴らとも言える」

「………そう、だな」


ひどく落ち込むカルボスはスケルトンらしくなく妙に人間的だ。そう思ったラウラは怪我をした人間よりも彼に目が向いてしまう。それは他の人間たちも同じだったらしく、この頃から虚ろな目を抜け出す者が少しだけ現れはじめた。


かといって、人間同士で交流を持つことはない。しかし異形や獣人たちに対しては、生者らしい表情を浮かべ、軽い交流を持つものが出てきたのだ。


もちろんラウラは、特定の誰かと仲良くすることは出来なかった。よくよく考えると、ここにおちてからお礼を言うことしかしておらず、まともに会話すらしたことがない。他の人間たちに対し、虚ろだと思っていたが自分もそうであったのだろうと自覚する。


そう気づいたラウラは今更どう話しかけていいかわからなかったのだ。

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