4:おやつ
スケルトンのカルボス家での生活は安寧に満ちていた。日々三度の食事を与えられ、部屋は暖かくベッドはふかふかだ。しいて不満を上げるのであれば何もすることがない点だろう。しかしラウラを含め人間たちは疲れ切っていたため何日も寝て過ごした。
そのおかげで、死人状態の顔色から抜け出すことに成功した。それを見て一安心したのか、依然よりも過保護に世話を焼かれることが減った。
ラウラはいまだ一人で着替えることができず、いつも誰かに手伝ってもらっている。保護監視が減ったせいか、彼らが困った時に必ず居るとは限らなくなることもある。だがその時は要請するまでもなく、いつも人間の誰かが手伝ってくれた。
「ありがとう」
しかし、返事が返ってくることはない。目が合うことはそうそうなく、どこを見ているのかわからない。
おそらく無意識の行動であって、本人は手伝っているという自覚すらないのかもしれない。
「キサマたち!おやつの時間だ」
今日もカルボスが声を張り上げて、人間たちを呼んだ。間食が増えるのは今日がはじめてだ、とラウラは思いながら立ち上がる。しかし、ラウラを含め数人の人間が動いただけで残りは動かず首をかしげている。
「おやつってなんだろう?」
「ついに罰の時間……?」
ラウラにとって、間食は当たり前のことであった。昼食の後はよくケーキや紅茶を頂いたものだ。だが、ここにいる人間にとって、そのような概念すらない。
そのことに気づいたラウラは、またもやずれを感じた。貴族であることを捨てて、やめようと思った。しかし自分には思った以上にそれらが染みついていることを自覚し、恥ずかしくなった。
「え、うっそー。知らないの?………じゃなくて、いいから!これを食べるのだ!」
カルボスが再び声を上げると、すぐ横にやってきたウサギの獣人がカウンターに何かを置いた。水色の瞳に同じ色の毛並みという、動物のウサギでは有り得ない色をしていたが、ラウラは獣人について詳しくはない。そんな容貌もあるのだろうと心の中で納得した。下町でよく見た青年のような恰好をしていることから、まだ年若いのかもしれない。
「あまり大声は出さないほうがいいと思うんだけど」
「なっ、おいキサマ!まさかそれをニンゲンたちに飲ませる気か?」
ここからでは、置いた何かがちょうど影に隠れてよく見えない。
「栄養状態をよくするために間食を入れるんだろ?だったらこっちの方が手っ取り早くない?」
「………キサマ………意外とアホだな」
「カルボスに言われたくないね」
おそらくあのスケルトンの名前だろうとラウラはようやく認識できた。
「そんなのこっちだって……じゃない、もうそれはいいから、ニンゲンたちを集めるのだ!」
「せっかく作ったのに」
「自分で飲めば問題なし!解決ぅ!さ、早く早く」
「まだたくさんあるんだけど」とウサギの獣人はつぶやき、仕方なさそうに動き出した。