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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
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3:ニンゲンたちの保護観察(下)

喉が閉まるような感覚が和らぐと、用意してもらった水を飲み干す。ラウラはようやく周りの様子が見れるほどに落ち着いた。部屋に居た人間たちの数は僅かであるが減っている。


イデアと同じく特に人間に対し恐怖を抱く者や、よく見ると少女ではなく少年である者などが主であったが、ラウラがそれに気づくのは少し後のことになる。


「あ、起きたの」

ラウラの傍に一体の人形が駆け寄ってきた。頭にはオレンジ色の魔女のような帽子をかぶり、その隙間から髪の毛代わりであろう白い毛糸のようなものが見えている。顔にはパッチワークのように様々な布地がつぎはぎにされており、ラウラは昔見た手作りの人形を思い出した。

くるみボタンに糸でバツ印が刻まれ目の代わりとなっているが、当然本物のように動くことはない。


「あなたの服を作ったの。着替えてみてくれる?」

人形は目の前に服を差し出した。ラウラはそれよりも支えている右手だけが人間のようで、肘に球体関節があることの方が気になったが、すぐに我に返り服を受け取った。


「服のことで何かあったらペリアに言ってね」

人形のペリアは明るい声でラウラに言うと、次は隣の少女に服を手渡しに行った。トコトコと響く足音から、体が木製であることが伺える。


ラウラはぼんやりと渡された服を眺めた。現在着ている服は元の形状が崩れてよく分からない代物になっているが、全く同じように見える。碧色の普段着用のドレスだった。その下には簡素な白色の寝間着もある。差をしいて言えばシルクでできているのかツルツルしていて、手から滑り落ちそうになった。


「何これ………服?」

隣の少女から感嘆の声が聞こえる。信じられないのか何度も何度も服を撫でている。ラウラにとって珍しいものではなかったが、彼女にとって一度も手にしたことがないものだろう。


「ここ、天国なのかな」

そう隣の少女が言った。ラウラも一瞬そう思ったが、すぐにイデアの顔を思い出し眉間にしわをよせた。また騒がせることはしたくないと、ぐっと我慢する。


そうしていると、周りの人間たちはほとんど着替え終わっており、ラウラも寝間着をベッドの上へ置くと普段着に着替えようとする。しかし、貴族だったラウラは着替えるどころか脱ぐことすらままならない。


服を触りようやく後ろに留め具があることに気が付くが、ラウラの手では届かなかった。すると、隣の少女がラウラに近寄り外してくれた。

「あ……ありがとう」

ラウラはお礼を言うが、少女はどこを見ているのかボーッとあらぬ方向を見るのみであった。ようやく脱ぎ終わり、今度は渡された服に手を付けた。


何とか着ようとするが腕部分に頭を通してしまったことに気づき恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。すると今度は反対側の少女が近づいてくる。ラウラの服を一気に脱がすと、びっくりするほどの速度でラウラを着替えさせた。

「ありがとう」

ラウラはまた礼を言う。目が合った少女はなぜか首をかしげていた。


着替え終わった後、何をしていいのかわからずラウラはベッドに腰かけていた。取り留めのないことを考えていると何かいいにおいがするのを感じた。


「おい、キサマたち!飯の時間だ………フフフッ、フハハハハ!これを食べて丸々と肥えるがいい」

カウンターの横に置いてある椅子の上に足を乗せ、さらに腰に手を当て偉そうにふんぞり返っているスケルトンのカルボスが居た。


「やっぱり地獄。肥えさせて食べる気……」

隣の少女がそう言った。

「最後の晩餐だ」

これは誰が言ったかわからなかった。


ふらふらと吸い寄せるられるように、カウンターの横にある大きな机へと人間たちが引き寄せられていく。ラウラもその中の一人で、気がつくといつの間にかスープを口にしていた。


「何これ………」

「なんだその反応は!………え、えっと味が薄いのは我慢してね。そんな弱った奴らに脂っこいものは出せねえです、はい」

「おいしい」


そう言ったのはラウラだけではない。人間たちは口々においしい、食べたことがない、信じられないなどつぶやき始めた。それを聞いたカルボスは瞳の炎が揺らめきさらにふんぞり返った。


「そうだろう、そうだろう!この!オレ様の特別製だからなっ!」

この言葉を聞いて、ラウラは隣の少女と同じくやはりここは地獄なのではないかと思った。しかし口にするたび、やはりこれは現実ではないかと首をかしげる。そんなことをしていると、一部の人間がおいしいとつぶやきながら涙を流し始めた。


「フハハ、ハーッハハハハハ!」

カルボスが額に手を当て、さらに高笑いを始めると、猫の獣人に小突かれた。

「おいっ!何すんだ。バラバラになったらキサマが骨を拾うんだぞ」

「はあ、ニンゲンたちをよく見ろよ」


そう言うと、彼は泣いている子にハンカチを渡し始めた。ある者はぎこちない手つきで頭を撫でている。

ここでラウラは自分と回りのずれを感じた。確かにこのスープは身に染みわたるほどおいしい。体のことを考えて作られており、優しい味だ。

パンも下町にあるようなものでなく、ラウラがいつも食べていたものと似たような、柔らかい白パンだ。


このことを考えてラウラは気づいた。周りは明らかに自分より身分が低い子ばかりだと。だからと言って、今のラウラに差別意識は全くない。むしろ貴族など滅んでしまえと考えたこともある。


ここが地獄だろうがなんだろうが少しでもここの人間たちに歩み寄らなければ。決して高慢な態度は取るまいとラウラは思った。

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