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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
3/82

2:ニンゲンたちの保護観察(中)

「やだやだやだ、助けて……お願い、殺さないで」

ラウラの怠く重い意識は聞き覚えのある声で引き戻された。

目を開くと、白く清潔なベッドに寝かされていて、すぐ近くに同じように寝ている人間たちを目にした。ラウラと同じように寝起きの顔をしている。


「おいキサマ………じゃない、えっと悪いけどそっちは危ないからね。これ以上けがしたら大変だからね。」

声の方向に目線を向けると、カウンターの奥にスケルトンが立っていた。なぜか軍服に白いエプロンをつけていて、眼窩の奥には青い炎が揺らめいていた。


「地獄だ」

誰かがそうつぶやき、ラウラも心の中で同意した。苦痛を与える者か何かだろうと、その場に居る殆どの人間たちが虚ろな目でそう考ていた。


「はい、はーい。いいから、ちょっとどこうね、ねっ」

しかしその空気を壊すかのように気の抜けた声が響く。少しかさついたようなガラガラ声であるが、嫌な気分にはならなかった。中腰になると手を伸ばし、何かを押し出そうとしている。


「それがだめなら早く殺して、お願い」

「いや、それどっちなの?」

またまた気の抜けた声響き渡る。どうやらスケルトンが発しているようだ。

「カルボス、何やってるんだね」

「うわっ」

「あ………」


カウンターから押し出され、しりもちをついた少女が見えた。声を掛けられたことに驚き、力が抜けてしまったのだろう。


死にかけ一歩手前のようにやせ細り、服の隙間から無数の裂傷とあざが見える。怪我の中で最も特徴的なのは、四肢の関節部分に入った切れ目のような線である。


栗毛色の髪は無理やり切られたのか、不揃で短く荒れ放題で艶がない。

元気だった時は小動物のように愛嬌のある、真ん丸の目であっただろうが今は落ち窪み、濃い隈は不気味さを感じさせる。


「………イデ……ア?」

ラウラは小さくつぶやいた。

「ひっ、ぶたないで。刺さないで。見ないで」

「なにっ、このオレ様はそんなことなんてしない!絶対にな!」

「よく見ないかバカタレ。あちしらでなく、これはニンゲンを怖がっているだろうに」


落ち着いた声でそう言った者は、人間のような骨格を持ち、二本足で立つクマの獣人だった。生まれてはじめて見る獣人に目を丸くする。

会話の際に開かれる口は動物のクマと同じく、大きい。ラウラのような少女など、簡単に一飲みされてしまうだろう。

真白な毛並みと口調から老齢に差し掛かっているのかもしれないと、ラウラは考えた。


「う……あ……」

イデアは短く叫ぶとクマの後ろへと回った。

「これこれ、あまり毛を引っ張るんじゃないよ」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「この子はここに置くべきでないねえ。一先ずあちしが預かろう」

「わかった。みんなには伝えておいてくれ!それと、応援を。たぶんその子と似たような子とかいるっぽくないか!?」


一番目立っていたのはイデアだが、ほかにも何人か様子がおかしい子がいるのが視界の隅に見えた。

「そのようだねえ。さあ、行こうか」

クマはイデアを守るように抱きかかえた。おそらく他の人間の視線からだろう。


彼女たちが外へ出ていくと、ラウラは気が抜けて倒れそうになるがなんとか耐えた。しかし、次には吐き気がこみ上げてくるが、手で口を押える。これも何とか耐えた。次には心臓が締め付けられるような痛みが走る。胸を押さえ、耐えきる。


「ごほっ……ひゅ……ひゅー……う……」

最後には喉から風が吹くような音が漏れ始める。一度それを自覚するとどんどん悪化し、苦しくなっていく。


「大丈夫?」

心配した声が聞こえるが誰のものか考える余裕はなかった。

それと同時に涙がこみ上げてくる。もし話す余力があれば、ラウラは何度も謝罪を口にしただろう。


なぜなら先程の少女はラウラの友達だったからだ。

確実に死ぬよりも辛い目にあっただろうことは容貌から簡単に見て取れた。


『ラ…………ミド………レミ?んー、長くて立派な名前なんだね。あたしの頭じゃ覚えられないや……そうだ、ドレミちゃんって呼んでいい?』


ラウラのことをあだ名で呼ぶはじめての友達だった。

『待ってて、ドレミちゃんのお父さんの為に魔法の書を持って帰るから』

笑顔で言い、危険な場所へと向かった。イデアの困ったような笑顔を思い出す。もうあの表情を見ることは二度とできないだろう。


ここは地獄か現実か、どちらかはまだわからない。しかし、別世界のような地に降り立っても自身の罪からは逃れられない。


そう頭の中で自嘲しながら、苦しみ続けた。

最初は嘔吐予定でしたが、早々に女の子を吐かせるのもなんだと思い、ギリギリで変更しました。

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