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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
2/82

1:ニンゲンたちの保護観察(上)

一瞬のことだった。気がづいた時、ラウラミド・レ・ミケランジェリという名の少女は雪原に倒れこんでいた。元々は輝く黄金色であった髪の毛は、灰と煤で汚れており、エメラルド色の瞳は充血している。衣服は雑巾よりもひどい状態になっていた。


火照った体にはありがたい冷たさであったが、これは異常だとすぐに立ち上がろうとする。しかし、疲れ切った体に力は入らず、うつぶせの状態から少し顔を上げることしかできなかった。


視界に見える限り針葉樹と雪原が広がっている。ただひたすらに白く、それ以外何も目にすることがなかった。

ラウラは魔法が使われ雪で埋め尽くされた可能性を考えたが、それにしては木の種類が異なる。彼女が必死に逃げ回っていた森にこれほど背の高い木々はなく、赤く彩られた広葉樹ばかりであったからだ。


いずれにせよ、起き上がりぐるりと見渡してみない限り何も言えない。もしかしたら、後ろを向いた瞬間醜悪な表情を浮かべた狩人たちが立っている可能性もあるのだ。そう思い今度こそはと体に力を入れた時、少し先にある木の後ろで何かが動いた。何度か瞬きしてよく見てみる。


全身が白くてかなり分かりづらかったが確実にそこに生物が居る。


それは雪のように真っ白だった。六角形の頂点をカットした、面のようなものが顔に付いており、目はまるで穴でも開いているかのような丸い暗闇を映し出している。鼻部分は鼻梁のような彫りが施されており、鼻そのものやクチバシなどは付いていない。


「フクロウ……?」

ラウラは昔見たことのある生き物を思い出したが、すぐに違うと決定づけた。なぜなら面のすぐ横にある、まるで人間のような長髪が目に入ったからだ。


雪原に反射し時折キラキラと光る銀髪であった。その輝きのおかげであの生き物を見つけられたのだろう。見たところ頭身は高く、並んで立ったら少し首が痛くなってしまうだろう。背筋を伸ばして立っている姿は知性を感じさせる。


さらに頭部には牡鹿のような立派な角が生えている。

このことからあれはきっとオスなのかもしれないと、ラウラはそんなことをぼんやり考えていた。


しかし彼がほんの少し動いた瞬間、なんと矮小な思考をしていたのだろうと後悔するほどの神々しさを感じた。銀髪はきらめき、彼の着ている長衣と上に羽織ったショールのようなものがひらりと揺れた。


隙間から枯れ木のように細く灰色の体毛が生えた腕がちらりと見える。

そのことから今までをまとめると彼は人間ではないことは明らかである。

獣がそのまま人間のような骨格を持った獣人でもなく、長い耳を持ったエルフでもない。大雑把にそれ以外と称される異形だろう。それが分かっても、不思議と恐怖心はなかった。


「ここ………どこ………?」

すぐ近くで少女の声が聞こえた。それを皮切りに次々と声が上がる。

ラウラは今度こそ立ち上がると後ろを向いた。ほっと溜息が漏れた。そこに自分を追いかけて来たものなどは一切存在しなかった。


木々に囲まれ少し開けた場所に大勢の人々がラウラと同じように倒れており、なんとか起き上がろうとする者や、何もせずに倒れたままの者もいた。

大半が少女でひどくやつれて今にも死にそうな顔をしている。もちろんラウラもその中の一員であった。


「あ……うわあぁあああ!二、ニンゲンがたくさんいる!」

フクロウ面の異形が居た場所の反対方向から、唐突に声が聞こえた。つまり前方でありラウラが視界に入れていた方向であるが、今の今まで全く気付くことはなかった。それ程ラウラは疲弊していたからだ。


その人物に目を向けると、彼は既にフードのようなもので顔を覆い紐を千切れそうなくらい引っ張り隠していた。

あれでは全く前が見えないではないかと思ったが、手は病的なまでに白く、あり得ないほど裂けており鋭い爪が見えた。

きっと彼は人間ではく異形だ。前方が見えなくても支障はないのだろう。


もしかしたら、あのフクロウ面の異形とは仲間かもしれない。そう思える雰囲気が伺える。ラウラはそう思い、背後を振り返った。

しかし、すでにどこかに行ってしまったようで、影も形もない。


「待っててね、ボクよりもずっとすてきなウサギさんや、え、えっと、ネコのお兄さんを呼んでくるから」


ドンと強く踏み込むような音が聞こえ、前方に視線を戻すがフードの異形は去った後だった。どうしようかとうろたえる者や、逃げだそうとする者は誰もいない。その場に居る者すべてが動かず、唯々虚ろである。ラウラはそのことを確認すると、糸が切れたように膝から崩れ落ちた。

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