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女性の私が前に進みでると、騒いでいた方々も毒気を抜かれたのか、少し静かになりました。怒りが困惑に変わったようです。


宰相が困ったような視線を陛下に投げると、陛下は、エドワルド殿下を見やります。


殿下は、陛下の方を見もせずに、冷たい声で、


「分割支払いの利息については妥協いたしました。支払い方法については私の指示に従っていただけるとのお言葉をいただいているはずですが?」


と言い放ちました。


陛下は片手を振って、私が発言することを了承します。


私は、努めて平静を保とうと、コホンと咳払いをすると、プレゼンテーションを始めました。


「まずは、今回追徴課税の通告を受けた方々、課税は全て、エドワルド王太子が肩代わりされます。」


えっ?貴族さんたちの間に衝撃が走ります。

半数は好奇心に駆られ、残り半数は、そんな馬鹿馬鹿しい、という表情ですね。宰相など、あまりのバカバカしさに吹き出しそうにしています。


税金をごまかした貴族さんたちの顔には、かすかに希望の火が灯ります。


いやいや世の中そんなに甘くないよ。


「無論、エドワルド殿下も、貴方がたに、お金を差し上げる訳ではありません。あくまでもこれは貸し出しです。お貸しするには当然担保が必要です。貴方がたの担保は、領土と爵位です。これを元に、殿下はみなさんの負債を肩代わりされます。

つまり、あなた方は爵位を質に入れるということです。質屋はエドワルド殿下です。質屋ですから、利息はつきますし、支払いが滞れば、質流れもいたします。」


まずは、モーガン伯爵が利息に食いついてきました。


「そ、その利息とは?お、おいくらなのですか?」


私は伯爵に向かってにこりとします。


「陛下の提示されました15%の半分で、年8%です。」


まずは、陛下より殿下の利息の方が安いよ、ということをアピールします。


しかし、モーガン伯爵はためらいを隠せません。


「いや8%と言われましても、250万シリングですよ・・・到底払いきれません。」


想定内の文句ですね。


「モーガン伯爵、商会に領土を担保に貸し付けを希望していらっしゃると伺っておりますが、商会の利息は10%から12%。むしろこちらの方がまだ返済できる金額のはずですよ。」


ブツブツと呟く声がまだそこらかしこでしていますが、さて、本題に入らせていただきましょうか。


「払いきれない場合はもちろんですが、払える目算もつかない場合、殿下のお預かりする爵位、領土は、3年後には、オープンマーケット(市場)に流れます。つまり、その他の貴族の皆様により、爵位購入のための入札が可能となります。」


ここで、この案が皆に浸透するのを待ちます。


「な、なんですかそれは?!」


いの一番に、宰相閣下が声をあげました。


「つまり、エドワルド殿下は、3年後に質流れした爵位を売りにだしますので、この場にいらっしゃる貴族の方々、誰でも購入可能ということです。」


どうだね青年諸君。下克上が可能だよ?


不思議そうな顔をしていた下位貴族の方々が皆、考え込んでいます。


話を飲み込んだのでしょう。フランツ・ホロウィッツ子爵が手をあげました。


「はい、どうぞ。」


私は発言を許可します。


「スタイヴァサント夫人、それは、私がモーガン伯爵の爵位を購入することができるということですか?」


フランツ君、ちょっと私怨が入ってます?


「その通りです。もしモーガン伯爵が3年後に債務の返済が全くできていないか、もしくはその目処さえ立っていない場合、爵位は貴族の方々誰でも購入が可能です。その際、ご自分の現在の爵位を下取りに出したり、爵位を担保に事業資金を借りることもできます。」


つまりうまくやれば、子爵から一気に伯爵になることも可能ということね。

凡例に使われたモーガン伯爵が慌てています。お顔に血が上ってますわよ。


「そ、そのようなことが許されるものか!お前にそんな金が用意できるというのか?!」


私は落ち着き払って、プレゼンを続けます。


「そうですね、3年で250万シリングプラス利息のお支払いは、どなたにとっても大変困難なことだと思います。その場合、新たな事業計画、もしくは採算計画をご提出いただければ、それをもってエドワルド殿下が資産価値を査定いたします。」


はっはっは。公認会計士は、株式評価も行うのだよ。君たちの事業が将来的に見通しの良いものであれば、ちゃんと公平に評価するよ?


「つまり、貴方の現在の爵位を元に資金を借り、事業を起こして利益を上げ、その収益金で、上位の爵位を購入する、そういったことが可能となります。おわかりでしょうか。」


下位に位置する、青年貴族の方々が特に目を輝かせていらっしゃいますねぇ。ヘンリエッタ夫人の周りはもう大騒ぎです。


先ほどまで真っ赤だったモーガン伯爵の顔色が青白くなっています。


「私に爵位を捨てろというのか?平民になれと?」


いえいえ、そんな無体は申し上げませんよ。


「爵位をお捨てになる必要はありませんわ。伯爵の方でも事業計画がおありであれば、ご提出いただければよいことです。そこは殿下が公平に評価いたします。」


散財するだけで何も将来のことを考えられないのであれば別ですが。


「しかし・・・」


ここで私も畳み掛けます。


「伯爵の爵位を堅持するだけの資金が集められないようであれば、目標を現実的に設定し、子爵、男爵などのご購入を考えられてはいかがでしょう?債務の金額も比較的安いですし。」


ランバート子爵が堪りかねて声をあげます。


「いや、私の爵位は譲らんぞ!」


はい。はい。


「その意気ですわ!ランバート様であれば、3年でのご返済が可能でしょう。爵位を維持するには、一番有利な立場にいらっしゃるのです。是非とも債務の返済を頑張ってくださいませ!」


持ち上げさせていただきました。

その上で、説明を加えます。


「別段、モーガン伯爵は、ランバート様の爵位を狙われる必要はないのです。現在の爵位を担保にして上位の爵位を狙われる方のものを購入されればよいだけです。」


それがホロウィッツ子爵のものかもしれませんけど。そうなると本格的な下克上ね。


皆さん色々、頭の中で作戦を練っていらっしゃるようです。うん、動くぞ。

滞っていた経済が動く匂いがします。


出世の可能性を見出した青年貴族さんたち、不正を犯した貴族さんたちがそれぞれ将来の展望に希望を見出し、皆がエドワルド殿下案に流れたな、と、見えた時、陛下が徐に発言されました。


「エドワルド、なかなか面白かったぞ。

時間潰しとしてはご愛嬌だが、このような夢物語で、臣下をたぶらかしても仕方あるまい。」


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