96
こちらの準備は整いました。どうやら陛下の用意もできたようです。
陛下から欽命があり、今日は王宮の謁見室に、上位、下位関係なく、貴族の方々全員集合です。
さすがに緊張のため、自分の顔が引きつっているのは自覚していますが、謁見室に到着すると、居並ぶ男性貴族に混じって、しっかり前に出ました。
周りの方々に、何を言われるかと待ち構えていたのですが、ちらっと視線を投げかけられるだけで、特に何もありません。あれ?
ああ、それもそのはずです。反対側の貴族さんの列を見やると、周りに青年貴族を引き連れたヘンリエッタ辺境伯未亡人が、堂々と最前列に立っています。
存在感で負けてるな、と考えていたら、隣の方から声がします。
「まあ、でもお母様、お父様の晴れの舞台ですよ。後ろにいたら見えるものも見えないじゃないですか。」
ジョージアちゃんの声です。
慌てて止めようとするお母様を振り切って、ジョージアちゃんも最前列。よくよく見ると、いつもなら後ろに控えている女性が、ちらほら前の方に出てきています。特に若い女性が。
振り返って先生を見ると、先生が、
「ええ。皆に声をかけてみたんです。案外集まりました。」
と、囁きました。凄い。ふと思いついて先生に尋ねます。
「ヘンリエッタ様にも声をかけたの?」
先生は動じません。
「はい。一番にリリアさんが声をかけました。どうせヘンリエッタ様は今日私たちが事を起こすことご存知ですし、ここからバレる心配はないと見ましたので。」
お嬢さんたちの度胸に感心していると、宰相による、開会の宣言がありました。
陛下はいつも通りの席に。その横の王妃の席には、エドワルド王太子が着席しています。なにせ数日前にジリアン元王妃は無事地方の修道院に送られていきましたから、王妃のポジションは現在空きです。
意図したものかどうかはわかりませんが、陛下の側に宰相が、殿下の側にユークリス財務長官が立っています。
宰相が
「ではただいまより、財務長官の方から、追徴課税の対象者とその金額を発表する。」
と、宣いました。
ユークリス伯爵は、咳払いを一つすると、感情のない声で、手元のリストを読み上げ始めます。
「アーノルド・モーガン伯爵、250万シリング。」
モーガン伯爵の肩が震えています。
「・・・ドミニク・ロイド公爵、175万シリング・・・」
リストは延々と続きます。
あたりはシーンと静まりかえり、名前を呼ばれる度に下をむく貴族が増えました。
ヘンリエッタ夫人を取り囲む青年達は、それらの貴族を冷ややかな目で見ています。
長いリストもそろそろ終わりのようです。
「・・・ジョルジュ・ランバート子爵、75万シリング、以上です。」
ユークリス伯爵はここでグッと顎を引き、発言をやめてしまいました。
伯爵が口を開くつもりがないのを見て、宰相が続きを引き受けます。
「以上の課税は、一度に支払った時の金額である。分割にして納めるつもりであれば、それぞれ一年、15%の利息が加算されることを申し渡す。」
会場にどよめきが広がりました。
「酷い!」
「そんな金額が一度に払えるものか!」
「ナイアックを放置した責任は王家にあるでしょう!王家はその責任も取らず、我々をお見捨てになるおつもりか!」
「むちゃくちゃだ!」
「そうだ!王家にも責任があるぞ!」
まあ、お怒りはごもっともです。
怒号が響くなか、エドワルド王太子が立ち上がり、
「静まれ!これより、支払い方法について、説明を始める!騒ぎ立てるのは、それを聞いてからでも遅くはなかろう!」
皆の興奮は冷めやりませんが、エドワルド殿下は話を続けます。
「では、次に支払い方法については、その発案者でもあるスタイヴァサント侯爵夫人より詳説いただこう。スタイヴァサント夫人、前へ。」
いよいよ出番でございます。